女性のMR職はどのようなキャリアプランを描く?よくある悩みや転職について
日本のMR制度は明治時代に始まり、長らく男性の職業とされてきましたが、2000年代に入ってからは女性MRが増加しています。とはいえ、まだまだ女性MRは少数派で、男性MRとは違うさまざまな悩みを抱えつつ、将来に向けてキャリアプランを設計していかなければなりません。
これからの女性MR職はどのようにキャリアアップしていくべきか、そこにある課題や進路について、さらには転職も含めて考えてみます。
目次
1.女性MRの数は男性よりも少ない?
1990年代以前、MRは医薬品販売価格の決定権を持っており、プロパーと呼ばれていました。製薬企業間の激しい競争に勝つため、各社のプロパーが休日や深夜を問わず医師の接待に明け暮れていた時代、プロパーは完全に男性中心の仕事でした。
しかし、1991年に日本製薬工業協会がガイドラインを制定し、プロパーをMRの呼称に変更して以降、徐々にですが女性のMRが増え始めました。
MR認定センターが2011年に公開した統計によれば、2000年の男性MRは47,136名であるのに対して、女性MRはわずか2,076名でした。
2018MR白書によると、男性MRは2013年の56,663名をピークに年々減少していますが、女性MRは2013年から2018年まで9,000人程度を維持しています。
参照元:公益財団法人MR認定センター/平成22年版 MR白書-MRの実態および教育研修の本調査- 調査概要 集計結果 Ⅰ.医薬情報担当者(MR)の概要 P1~P16
2019年以降は男女比が公表されていませんが、2007年に行われた日本製薬工業協会の調査では女性MRは採用数こそ増えているものの、継続している割合が低く定着率に課題があるとしています。製薬各社の動向からこの傾向は最近まで続いているようで、今でも現役の女性MRは男性に比べて少数にとどまるものと推測されます。
2.MR職の平均年収
厚生労働省の統計によれば、医療・福祉産業に従事する女性の平均賃金(2020年度、月額)は20~24歳で222,600円、これは情報通信業の229,200円に次いで高い水準です。一方、MR全体の平均年収は約545万円とされており、ハローワークでのMRの求人月額は全国平均で245,000円となっています。
参照元:厚生労働省/職業情報提供サイト 医薬情報担当者(MR)
一般的に、MRには営業手当やMR手当と呼ばれる手当のほか、非課税の”日当”があり、これらの諸手当がMRは他業種に比べて高収入といわれる理由の一つでもあります。MRの年収は600万円から1000万円と個人差が大きく、一概にはいくらとはいえませんが、600~700万円くらいが一つの目安といえるでしょう。
3.女性MRが抱えるよくある悩み
女性MRがかかえる悩みでかつて多くみられたのは「長時間労働による家庭との両立」と「セクハラ問題」でした。しかし、2012年に業界内の申し合わせによってMRによる過剰接待が禁止されて休日や深夜におよぶ接待がなくなり、他方、企業のコンプライアンス強化によってセクシャルハラスメントへの罰則が厳しくなった結果、「家庭との両立」「セクハラ」という女性MR特有の悩みは解消に向かうものと思われました。しかし、まだまだ女性MRがかかえる悩みは多いようです。
3-1. 体力が追いつかない
平均的なMRの1日は朝8時ごろから医薬卸をまわったあと、午前午後あわせて3~5軒のクリニック・病院を訪問し、1か月にのべ100人くらいの医師と面会します。都市部であれば電車で、地方なら営業車での営業周りとなります。このほかに顧客の医師らを招いての勉強会や商品説明会を主催し、資料作りや懇親会を取り仕切るのもMRの仕事です。
かつてはこうした仕事に加え、休日はゴルフや観劇・スポーツ観戦、平日の夜は食事や宴席など多くの接待があり、男性MRでも体力的にきつい職業でした。しかし、現在は過度な接待が禁止され、医師との面会もいわゆる「出待ち」ではなくアポイントを取るのが当たり前になりつつあります。体力的には楽になったように見えますが、仕事としては逆にきつくなったととらえる向きも少なくありません。
なぜかというと、薬価の引き下げが年々厳しさを増す一方、新薬が生まれにくい状況のなか、MRの成果であり会社からの評価に直結する売り上げを確保することが難しくなっているからです。顧客訪問など日常の業務に加えて、いかにして医師に自社の医薬品を処方してもらうか、社内外の情報収集と医師への情報伝達に工夫を凝らすための時間をいかにつくり出すかが、現代のMRには求められます。
より多くの医師と面会することはもちろん、医師へのアプローチをスムーズにするために医薬品卸のMS(マーケティング担当)との良好な関係を維持し、自社のDI(学術職)やMSL(医学、医薬品の情報支援)との情報交換も怠らないようにするとなると、かなりの気力と体力を要求されることになるでしょう。
3-2. プライベートな時間が確保しづらい
休日や深夜におよぶ接待はほとんど姿を消しましたが、そのかわり勉強会や商品説明会が増えている傾向にあります。招待した医師が診療後に会場入りすることを考えると開始時間は遅めに設定しなければならず、終了後は親睦会があるためMRは深夜まで拘束されます。また、泊りがけで催される勉強会も多く、当然ながらMRは開催の前後をフォローしなければなりません。
平日の通常業務でも出待ちを禁止とする病院が増えたため、医師と面会できるのは診療後の限られた時間だけとなることも多く、空き時間が多くなりがちです。結果として、MRがプライベートな時間を確保しづらいのは、昔も今も変わりがないようです。
3-3. ライフステージの想定に合わない
社会一般で考えるとき、結婚や出産は女性が離職する理由の第一にあげられます。これはMRにもいえることで、女性MRの定着率改善は各製薬企業の課題とされてきました。接待こそ減ったとはいえ、プライベートな時間を確保しづらいのは現在もあまり変わらず、ある程度は家庭のことを後回しにせざるを得ない雰囲気が残ります。
また、MRは担当する医療機関が決まっており、原則として医師と1対1の関係性を深めることが売り上げの向上につながると考えられてきました。そのため、自分以外に仕事の代わりを頼める人材がおらず、休みを取りにくい傾向にもあります。
人生には結婚や出産というライフイベントがあり、子どもの成長に合わせて暮らしも変化していきますが、生活スタイルの変化は仕事とは別次元で進行していくため、仕事と家庭の両立は今でも女性MRがかかえる大きな悩みの一つといえます。こうした悩みは、決して女性だけの問題ではないのですが、やはり女性のほうが影響を受けやすく、特に自分の代わりがいないMR職では離職につながることも少なくないようです。
3-4. 全国的な転勤の可能性がある
他の職種でもいえることですが、MRにも転勤はあります。特にキャリアアップを求めるのであれば、空いたポストに転勤して就く、ということは避けがたいものです。キャリアアップか転職か、これは女性MRにとって大きな悩みの種です。
しかし、もともと女性MRの定着率の悪さが課題となっていたことと、製薬企業も地域包括ケアに新たな可能性が見出されることを想定して、勤務地限定MR の採用を始めている企業もあります。
また、大手外資系企業は働き方改革の一端と称して営業所や支店の統廃合を進めています。こうした流れが加速、拡大していくと、近い将来MRにとって”転勤”という言葉は死語になるかもしれません。いずれにしても、現状では女性MRにとって転勤がやっかいな悩みの種であることは間違いありません。
4.女性MRが働きやすい環境を得るには?
これまで見てきたように、MRの仕事には特有の悩みがあります。特に女性MRにとって、長時間の拘束や転勤などキャリアアップとのトレードオフを迫られる職場は、お世辞にも働きやすい環境とはいえません。こうした課題や悩みを解決し、働きやすい環境を得るためには、やはり「働く企業を選ぶ」ということに尽きるでしょう。
日本では2015年に「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」、通称「女性活躍推進法」が施行されました。また、経済界からはダイバーシティ&インクルージョン社会の推進が提唱され、性別だけでなく国籍、年齢、障がいなどによらず、すべてのひとが能力を発揮できる社会を目指す、としています。
こうした社会の流れを受けて、製薬企業も女性管理職の割合を増やすなど、女性がより活躍できる職場づくりを推進し始めています。しかし、そうした女性に優しい職場づくりを進めている企業を探すなかで、より自分の希望に沿う会社選びや詳細な条件に関する情報を収集するのは容易ではありません。MRとしてよりよい転職を希望するのであれば、確かな情報を持つ転職エージェントに相談してみることをおすすめします。
5.キャリアプランを描く際のポイント
女性MRの採用は増えているものの、MR総数としての減少傾向に歯止めがかからず職業としてピークアウトした感があり、さらに近い将来AIに取って代わられるのではないかとささやかれるMR。また、製薬企業と医師との癒着や行き過ぎた情報提供などの不祥事から、MRとは一線を画すMSLやファーマコビジランスといった新たな職種も生まれてきました。製薬業界が大きな変革期を迎えている今、女性MRが将来に向けて描くべきキャリアプランを考えます。
5-1. 目標となる人物像を考える
毎日の業務に追われるなかでキャリアプランとひと口にいっても、どう計画すればいいのかわからないし時間もない、という方も少なくないでしょう。そんなときはまず自分のまわりを見渡してみましょう。身近な先輩や上司のなかに「こうなりたい」と思える人がいるなら、まずはそこを目指してみるといいでしょう。
女性の活躍が求められている昨今、社内外で行われるMR向けの研修に参加するなどして、自身のロールモデルとなる人物を探すことも将来に向けての刺激やヒントにつながります。MRとしてのスキルを徹底的に磨いて拠点長や本社の管理職を目指す、というのももちろんありですが、ワークライフバランスを上手にとりながら可能な範囲で上を目指す、というのも素晴らしいことではないでしょうか。
医師との1対1が大前提だったMRの仕事も徐々にグループワークに変わりつつあります。さらに2020年以降はオンラインやデジタル化を取り入れることでMRの働き方そのものが大きく変化してきました。チームとして効率的に仕事を進めることで、時短勤務でもチームリーダーや課長職を務めることが可能な時代になってきたといえます。キャリアップの第一歩として、まずは「なりたい自分」を具体的にイメージするところから始めてみましょう。
5-2. 段階ごとに目標を作る
なりたい自分をイメージすることができたら、ゴールに向けてのマイルストーンを考えます。こうなりたい、と漠然と思い描くだけでは道は開けません。どのようにすればゴールに到達できるのか、そこに至るまでの時間はどれくらいかかるのか、具体的にシミュレーションをしてみましょう。
段階的な目標をつくるにあたり参考となるのは、やはり自身がロールモデルとする人物です。上司や先輩なら直接本人から話を聞いたり、相談したりすることでマイルストーンのイメージがわくでしょう。また、製薬企業のウェブサイトに掲載されている社員インタビューや座談会の記事から、リーダーたちがどのようなステップを経てきたのか確認してみるのも参考になります。
ひたすらMRとしての技能を磨くのか、管理職やリーダーを目指して総合的なスキルを研鑽するのか、あるいはワークライフバランスを考えたグループワークを活かして新しい働き方を目指すのか、いずれもそこに至る道筋は一つではありません。山を登るように、通るべきルートを段階ごとに区切って目標を設定しましょう。
5-3. 関連する職種について入念に調べる
自身の所属は製薬企業であっても、医療機関を現場とするMRには関連する医療職が非常に多く存在しています。身近なところでは製薬企業のMSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)があります。医師に医薬品情報を提供するという点ではMRと同じですが、MSLは販売が目的はなく、医薬品の効果や有害事象などに関する情報を中立的な立場で提供します。MSLの詳しい情報はこちらの記事をご参照ください。
同じく製薬企業内のMSLとよく似た職種としてファーマコビジランスがあります。ファーマ=医薬品と、ビジランス=監視を組み合わせた呼称で、医薬品の安全性を監視する活動を行う仕事です。この活動は製薬企業の責任であり良心でもあるといわれます。ファーマコビジランスについてはこちらの記事をご参照ください。
ほかにも治験に関わるCRCやCRA、医薬品卸のMSなどMRと関りを持つ職種は多く存在しています。こうした関連職種について理解を深めることは、MRとしてのキャリアップに必ず役に立つ重要なポイントです。
6.キャリアプランにあわせた転職を考えることも大切
女性MRが注目を集める一方、MR不要論がくすぶっていることも事実で、自身のキャリアアップを考えるときMR以外の医療職も選択肢に含めておくことをおすすめします。
MRの経験を活かした多職種への転職としては、先にあげたMSLやファーマコビジランスを始めとして、MRのような外勤を希望するならCRC(治験コーディネーター)や、同じく治験をサポートするCRA(臨床開発モニター)があります。MRとは違ってどちらも転勤はほとんどありません。CRCの詳細はこちらをご参照ください。
薬剤師の資格をお持ちでプライベートの時間を大切にしたい方なら、内勤で残業もほとんどないDI(学術職)や調剤薬局への転職も可能です。
DIの業務内容についてはこちらの記事をご参照ください。
また、調剤未経験で薬局への転職に不安を感じる方は、ぜひこちらの記事を参考としてください。
7.まとめ
日本のMRの歴史は2012年に100年周年を迎えましたが、そこからの約10年間でMRを取り巻く環境は過去に例をみないほど大きく変わりつつあります。変化を引き起こした要因の大部分を占めるのは、残念ながら製薬と医療の癒着や厳しい競争から起きた不正など、ネガティブな出来事によるものです。また、本来はMRをサポートすべき存在であるはずのAIやデジタル技術の進化によって、MR不要論までささやかれ始めています。
女性MRが時代の脚光を浴びつつあるのと裏腹に、MR全体としては人員数が減少しており、女性MRが描くキャリアプランにも大きな影響を与え始めています。
現在、女性MRがかかえている悩みは社会の変革と共に解決されていくものと思われますが、見据えるべき将来像はMRだけでなく製薬業界から医療業界まで幅広い視野が必要となることでしょう。
ぜひ、キャリアアップ転職や多職種への転職も含めて、今後のキャリアプランを考えてみてください。
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