【パターン別】薬剤師が独立する方法-独立メリットや失敗例についても紹介
薬剤師にとって、「独立」というと開業資金や各種手続きなど、すべてを自力で準備しなくてはならず、とにかく大変でハードルが高いと感じてしまいがちです。
しかし実は独立開業には、完全に自力で開業を目指すものから、さまざまな制度を利用して独立する方法など、さまざまなパターンがあります。
今回は、将来的に独立に興味があり、その方法を知りたい薬剤師のために、独立の方法をパターン別にご紹介します。
また、薬剤師が独立するメリットや失敗例についてもご紹介しますので、参考にしてください。
目次
1.【パターン別】薬剤師が独立する方法
一口に「独立」といっても、その方法はさまざまです。
資金準備や申請準備などをすべて自力でこなし、独立開業するパターンだけでなく、M&Aやフランチャイズ制度、独立支援制度などを利用して独立する方法もあります。
そのほか、病院やクリニックの開業に合わせての開業や、クリニックが院外処方に切り替えるタイミングに合わせて開業する方法もあります。
それぞれ詳しくみていきましょう。
1-1.M&Aを利用する
M&A(エムアンドエー)とは「Mergers and Acquisitions(合併&買収)」の略で、最近では、これを利用して新たに起業するケースが増えています。
後継者不足や経営上の理由により、経営を続けることが難しくなった薬局を買収して、新たなオーナーとして起業します。
M&Aを利用した独立開業では、すでにある設備や運営体制、従業員などを活用することもできるため、自分でゼロから開業するよりも、比較的短期間で開業が可能というメリットがあります。
しかし、自分で一から新しく開業するというわけではないので、自分が思い描くような店舗像になるまでに時間がかかるといったデメリットがあります。
1-2.フランチャイズ制度を活用する
フランチャイズ制度とは、既存の薬局グループやドラッグストアのフランチャイズ本部に加盟して、新店舗のオーナーとして開業する方法です。
フランチャイズ制度を活用すれば、店舗の看板、すでに確立されたブランド力や、フランチャイズ本部が持つ流通・販売・人材・教育・集客・薬剤管理システムなどのノウハウを一括して享受することができるので、初期費用も節約でき、はじめて独立する人でも開業しやすいというメリットがあります。
ただ、当然ながら、フランチャイズ制度を利用した開業では、自分の「屋号」で営業することはできません。
また、売上に応じて一定の対価を支払うロイヤリティが発生するというデメリットもあります。
フランチャイズ制度について詳しく知りたい方はこちらの記事もどうぞ。
1-3.独立支援制度を活用する
最近では、「将来は独立したい」という独立開業を目標にしている薬剤師に対し、独立までの準備や手続き、物件探しなどを総合的にサポートする「独立支援制度」というサービスが増えています。
この制度を活用すれば、開業までのスケジュール確認や申請書類作成、物件探しまでサポートしてくれるので、独立開業の経験がなくても、自分のお店が持てるようになります。
ただし、独立支援制度を受けるためには、別途費用が掛かるといったデメリットもあります。
1-4.クリニック開業のタイミング
知り合いに勤務医がいる場合は、医師が総合病院などから独立してクリニックを開業するのと同じタイミングで、薬剤師も近隣に薬局を開業するというパターンは意外に多いものです。
近々独立してクリニックをはじめる医師がいないか、つねにアンテナを張っておくと、思わぬ開業のチャンスが訪れることがあります。
しかし、気を付けなくてはならないのは、たった一つのクリニックに依存してしまうと、万が一クリニックが休診になったり、廃業してしまった場合に、経営上大きな打撃を受けてしまうリスクがあることです。
リスクを分散できるように、しっかりと計画を立てることが大切です。
1-5.院外への切り替えタイミング
厚生労働省が進める医薬分業の方針にともなって、「院内処方」から「院外処方」へと切り替える医療機関が増えています。
そのような場合、これまで院内処方でお薬を受け取っていた患者さんの受け皿として、新たな薬局開設のニーズが発生します。
知っているクリニックなどで、院外処方へと切り替えるタイミングをキャッチして薬局を開業するのも良いでしょう。
しかし、この方法のデメリットとしては、院外への切り替えのタイミングがいつやってくるか読めないところです。
薬局の開業には、資金面や土地建物の確保にかなりの時間が必要ですが、それらすべてのタイミングを合わせなくてはならないからです。
院外処方に切り替えた後も、既にある近隣の薬局とどれぐらいの競争力を持って集客できるか、入念なリサーチが必要です。
参照元:厚生労働省/薬局・薬剤師のあり方、医薬分業のあり方(その2)
厚生労働省/薬局・薬剤師のあり方、医薬分業のあり方(その3)
厚生労働省/令和2(2020)年社会医療診療行為別統計の概況
2.薬剤師が独立するメリット・デメリット
薬剤師が独立するとどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。労働環境面、モチベーション、将来性などに関するメリット・デメリットについてみていきましょう。
2-1.メリット
薬剤師が独立することによって得られるメリットとして、もっともわかりやすいのは自由度が高いことです。
勤務薬剤師の場合、勤務シフトや出勤時間、仕事内容などは上司が決めるので、それに従うケースがほとんどです。
転勤などを命じられることもあるでしょう。しかし独立すれば、自分に合った働き方や仕事内容を選べるようになります。
また、自分のお店を成長させていくという大きなやりがいを持って働けるところも大きなメリットです。
ひとり立ちしてお店を経営していく中で、一人の人間として、そして薬剤師として大きく成長できることもメリットといえるでしょう。
2-2.デメリット
デメリットとしては、オーナーとして経営上のリスクを負わなくてはならないことが上げられます。
また、最終責任者として店舗を運営していかなくてはならないため、責任が重く、精神面への負担も大きくなります。
自身の収入も、お店の売上によって直接左右されるので、万が一軌道に乗らなかった際は、勤務時代よりも収入が減ってしまうリスクもあります。
そのほかにも、国民年金や健康保険などの福利厚生も自前で用意しなくてはならないというデメリットもあります。
3.薬剤師が独立するための流れ
薬剤師が独立するためには、開業前の準備からリサーチ、資金の確保や各種申請書類の提出など、さまざまな準備が必要です。
実際に、独立までにどのような準備が必要なのか、流れを一つずつみていきましょう。
3-1.開業前に必要な準備
独立開業を成功させるためには、実際に開業に向けて動き出す段階までに、開業に関する基礎知識を備えることが大切です。
また、自分が開業しようとする地域において、どのような店舗やサービスが求められているのか、市場ニーズをリサーチしておくことも大切です。
例えば、高齢者が多い地方都市や過疎地域では、在宅医療や訪問介護など、地域のコミュニティに密着した店舗のニーズが高く、逆に若い世帯が多い都会では、効率の良いスピーディーな対応やオンライン対応ができる店舗のニーズが高いなど、地域によって求められる店舗の傾向はさまざまです。
地域に求められる店舗の開業を目指して、必要な準備を進めていきましょう。
開業するには、業務形態の計画や雇用計画、資金運用から、各種申請手続きなどたくさんのプロセスをクリアしなくてはいけません。
また意外に見落としがちなのが、自身の健康保険の切り替えや国民年金への加入手続きです。
これまで勤めていた職場を退職すると、各種社会保険組合と厚生年金から脱退することになります。居住する自治体窓口で、国民健康保険と国民年金の加入手続きを行いましょう。
3-2.事業形態・方針の決定、計画書の作成
薬剤師が独立開業する場合、よくある業務形態としては「薬局」か「ドラッグストア」のどちらかです。
しかし、「薬局」を経営したいのか、「ドラッグストア」を経営したいのかによって、開業に必要な条件や提出書類が変わってきます。
薬局とは、薬剤師が常駐して医薬品の販売や調剤を行う店舗のことで、医療用医薬品・要指導医薬品・一般用医薬品のすべてを取り扱うことができます。
薬局の中でも、健康保険法の認可を取得し、医師が発行する処方箋に基づいて調剤を行う薬局を「保険薬局」と言います。
一方、ドラッグストアは「店舗販売業」に位置付けられ、化粧品、日用生活用品を販売しつつ、薬剤師または登録販売者を店舗管理者として配置して一般医薬品を販売します。
開業に向けて動き出す前に、どのような業務形態で事業を進めるのか、まず方針を決定しましょう。
そして、実際に開業した際に、どれほどの経費が必要で、どれぐらいの収益が見込めそうか、中・長期的な計画書を作成し、ビジネスプランを明確にしましょう。
参照元:厚生労働省/保険医療機関及び保険薬局の指定並びに保険医及び保険薬剤師の登録に関する省令
兵庫県/はじめて店舗販売業をされる方へ
一般社団法人 島根県薬剤師会/保険薬局について
厚生労働省/薬局・薬剤師に関する情報
3-3.開業場所の選定
薬局やドラッグストアにとって、開業場所の選定は重要です。
基本的に、薬局の場合は総合病院やクリニックの近くに開業すると良く、一方、ドラッグストアの場合は、人通りが多くアクセスしやすい立地に開業すると良いと言われています。
実際に開業を検討している候補地について、平日・土日の交通量や周辺病院・クリニックとの距離や人の導線から、一日の客数や売上をシミュレーションしてみましょう。
また、周辺の病院・クリニック、すでに開業している薬局などと良好な協力関係が築けそうかどうかもリサーチしましょう。
開業するテナントの広さや構造、駐車場・駐輪場の有無、家賃(敷金・礼金、初期費用含む)などの条件を精査し、条件に合うものが見つかれば、店舗候補地を確保します。
3-4.開業資金の準備
薬局やドラッグストアの開業前後には多くの初期費用がかかります。
開業にあたり、自己物件を利用するのか、それとも新たにテナントに入るのかによって、店舗設営にかかる初期費用は大きく変わってきます。
薬局の場合は、一定の広さのある調剤室と調剤設備を完備するよう規定があるため、規定を満たすための内装工事・調剤機器導入のための費用が少なくとも数百万円は必要となる可能性があります。
さらに医薬品の在庫購入費用、備品や通信機器の購入費用、薬剤師や事務員を雇うための人件費や教育研修費など、開業に際して必要になる費用を計算し、準備しましょう。
自己資金だけでまかなえない場合は、金融機関に相談し、融資を受けて開業資金を確保するケースが多いようです。
3-5.申請書類の提出
薬局あるいはドラッグストアを開業するためには、所轄の保健所に開業申請に関わる書類を提出し、立ち入り調査などを経て、許可を得なくてはなりません。
申請時には、店舗の営業時間や営業日、店舗内設備の正確なレイアウト表や図面、求積表の他、薬剤師や登録販売者などの勤務状態がわかる書類(シフト表)などを添付し、提出する必要があります。
申請時に慌てることのないよう、早めの準備を心がけましょう。
また、保険薬局として開業する場合は、薬局開設許可を受けた後、厚生局に保険薬局指定のための申請書を提出し、審査を受けて健康保険法の認可を取得します。
必要書類の内容についてわからないことがあれば、事前に管轄の保健所または厚生局に確認しましょう。
4.薬剤師が独立に失敗する理由
独立した薬剤師の中には、開業したものの軌道に乗らず、失敗してしまうケースがあります。薬剤師が独立に失敗する、よくある理由についてみてみましょう。
4-1.見通しが甘い
薬剤師業界に限らず、どの業界にもいえることですが、将来の見通しが甘いと経営は上手くいきません。
1日にどれぐらいの客数と処方箋枚数が見込めるか、5年後、10年後には店の売上はどの程度伸びることが予想できるか、といった具体的な見通しを立てずに、漠然と店舗を運営していると、地域で生き残っていくことができません。
また、独立開業前の事前調査が甘く、地域におけるニーズや客層の特徴などを充分に掴むことなく開業してしまい、失敗するケースもあります。
独立開業する時は、事前に地域のニーズを把握し、中長期的な見通しを持って、できるだけ具体的な計画を立てておくことが重要です。
4-2.資金や税金に関する知識が浅い
経営資金や税金に関する「お金の知識」が浅いために、独立開業に失敗するケースも少なくありません。
開業資金を銀行から融資してもらう場合も、現実的で無理のない返済計画を立てる必要があります。
また個人事業主あるいは法人の代表者としての「税金に関する知識」についても、勤務時代には知り得ないことがほとんどなので、思わぬ盲点になります。
税金に関する知識がないと、経営が上手くいっているように思えても、その後の税金の支払いに追われて経営が圧迫されてしまうことにもなりかねません。
このような失敗をしないためにも、独立開業を目指す薬剤師のための経営セミナーや税務署が開催する説明会に参加するなどして、経営に必要なお金の知識を身に付けましょう。
4-3.独立の目的が曖昧になっている
「自分は何のために独立したいのか」という独立の目的が曖昧になることも、失敗する原因になります。
例えば、もともと多忙な門前薬局に勤務するのが辛くなり、地域コミュニティに根差したアットホームな薬局を作りたくて、独立を計画していたのに、「安い物件が見つかったから」、「処方箋枚数が多そうだから」といった目先の利益を追求し、漠然と開業してしまうと、モチベーションを維持することができなくなり、経営も長続きしなくなってしまいます。
独立することによって、自分は何を得たいのか、あるいはどのような店舗を持ちたいのか、という目的意識をしっかりと持ち、経営方針を決定することが非常に重要です。
5.まとめ
薬剤師が独立する方法としては、M&Aやフランチャイズ制度、独立支援制度を利用する、あるいはクリニックの開業や院外処方への切り替えのタイミングに合わせるなど、さまざまなパターンがあることがわかりました。
しかし、いずれのケースでも、独立開業する薬剤師自身が、中長期的な経営ビジョンをしっかりと持ち、入念な準備のもと開業することが成功のカギになります。
また、経営資金や税金に関する知識についても積極的に学ぶ姿勢がとても大切です。
薬剤師が独立するということは、メリットもあれば当然デメリットもあります。
現在勤めている職場の状況をもう一度見直し、「独立によって自分は何を得たいのか」という目的意識を明確にし、その目的に向かって準備を進めていきましょう。
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