無菌調剤とは?必要性や条件、薬剤師に必要な知識について紹介

無菌調剤とは?必要性や条件、薬剤師に必要な知識について紹介

中心静脈栄養や抗がん剤の点滴などに使用する注射剤の混合は、主に大学病院などの施設の薬剤部が中心となり、感染対策や安全管理が十分になされた無菌調剤室でおこなわれてきました。

しかし、超高齢社会を迎え在宅医療が進む中、在宅療養中にこうした治療を受ける方も増えてきました。地域において切れ目のない医療提供を目指すなかで、地域の薬局にも、無菌調剤への対応が求められています。

ここでは、地域の薬局に求められている無菌調剤について、無菌調剤室の共同利用を含めて詳しく解説します。

参照元:e-GOV法令検索/医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則
兵庫県庁/薬局に設置された無菌調剤室等に係る指導指針(概要)
日本薬剤師会/薬局における無菌製剤(注射剤)の調製について

1.無菌調剤とは

注射剤の無菌調剤とは、無菌調剤室やクリーンベンチ、安全キャビネットなどの無菌的環境において、無菌的に注射薬を混合することです。

高カロリー輸液による静脈栄養では、基本輸液に患者さんの病態に合わせた薬剤の混合が必要ですが、微生物や微粒子による汚染を避けることが重要です。

また、細胞障害性のある抗悪性腫瘍薬の曝露やヒューマンエラーを防ぐためにも適切な管理が必要です。

こうした注射剤調剤では、感染予防、衛生管理などの観点から、無菌調剤に適した設備において、無菌調剤に習熟した薬剤師の管理の下に混合されることが望まれています。

参照元:日本薬剤師会/薬局における無菌製剤(注射剤)の調製について
一般社団法人 日本環境感染学会/感染管理の視点に基づく注射剤調製

1-1.地域連携薬局の基準の一つ

無菌製剤処理を実施できる体制は、地域連携薬局の認定基準の一つです。

地域連携薬局は、「外来受診時だけではなく、在宅医療への対応や入退院時を含め、他の医療提供施設との服薬情報の一元的・継続的な情報連携に対応できる薬局」として、「患者のための薬局ビジョン」において、その果たすべき機能が明確に示されています。

在宅の患者さんに対して、無菌製剤処理が必要な処方があった場合に、自分の薬局で応需できる体制もしくは、あらかじめ他の薬局の無菌調剤室を共同利用できる体制を確保しておくことが求められています。

地域連携薬局について詳しくはこちらの記事をご覧ください。

参照元:厚生労働省/医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律の一部の施行について(認定薬局関係)
厚生労働省/患者のための薬局ビジョン概要

2.在宅患者への無菌調剤の必要性

超高齢社会となり、終末期医療を含めた在宅医療では、中心静脈栄養や抗がん剤、がん性疼痛に対する麻薬などが、治療の選択肢の一つとして処方されることが予測されます。

在宅の患者さんに対する無菌調剤の必要性は、今後ますます高まることが見込まれます。

患者さん本人や患者さん家族が在宅医療を希望された場合、在宅を支援する薬局として、無菌調剤の体制を整えておく、あるいは共同利用ができる薬局との連携が必要です。

また、薬剤師もいつでも無菌調剤が応需できるスキルを磨いておくことが重要になってきます。

3.無菌製剤処理の診療報酬点数

令和4年4月告示の無菌製剤処理に関する診療報酬点数は、以下の通りです。

●無菌製剤処理加算
中心静脈栄養法用輸液、抗悪性腫瘍剤、麻薬について無菌製剤処理をおこなった場合、1日分の診療報酬点数は、以下の通りです。

無菌製剤処理 診療報酬点数
6歳以上 6歳未満
中心静脈栄養法用輸液 69点 137点
悪性腫瘍剤 79点 147点
麻薬 69点 137点

参照元:厚生労働省/調剤報酬点数表

●無菌製剤処理料

診療報酬点数
無菌製剤処理料1 イ:閉鎖式接続器具を使用した場合:180点
ロ:イ以外の場合:45点
無菌製剤処理料2 無菌製剤処理料1以外のもの:40点

参照元:厚生労働省/医科診療報酬点数表

3-1.無菌製剤処理加算の算定要件

無菌製剤処理加算の算定要件は、以下の施設基準を満たし、「中心静脈栄養法用輸液」「抗悪性腫瘍剤」「麻薬」の3つの注射薬について、無菌製剤をした場合に算定できます。無菌製剤処理加算を算定するために必要な施設基準は、以下の通りです。

無菌製剤処理加算の施設基準

1 2名以上の保険薬剤師(うち1名以上が常勤の保険薬剤師)がいること。
2 無菌製剤処理をおこなうための無菌室、クリーンベンチ又は安全キャビネットを備えていること。ただし、無菌調剤室を共同利用する場合は、この限りでない。

参照元:厚生労働省/特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて

3-2.無菌製剤処理料の算定要件

無菌製剤処理料は、以下の施設基準を満たし、対象となる患者さんに対して無菌製剤処理をおこなった場合に、無菌製剤処理料が算定できます。

無菌製剤処理加算よりも、算定の対象範囲が広くなっています。

施設基準と対象となる患者さんは以下の通りです。

●無菌製剤処理料の施設基準

1 2名以上の常勤の薬剤師がいること。
2 無菌製剤処理をおこなうための専用の部屋(内法による測定で5平方メートル以上)を有していること。なお、平成26年3月31日において、現に当該処理料の届出をおこなっている保険医療機関については、当該専用の部屋の増築又は全面的な改築をおこなうまでの間は、内法の規定を満たしているものとする。
3 無菌製剤処理をおこなうための無菌室、クリーンベンチ又は安全キャビネットを備えていること。

参照元:厚生労働省/特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて

●無菌製剤処理料の対象患者

無菌製剤処理料1 悪性腫瘍に対して用いる薬剤であって細胞毒性を有するもの*に関し、皮内注射、皮下注射 、筋肉内注射、動脈注射、抗悪性腫瘍剤局所持続注入、肝動脈塞栓をともなう抗悪性腫瘍剤肝動脈内注入又は点滴注射がおこなわれる患者
無菌製剤処理料2 動脈注射又は点滴注射がおこなわれる入院中の患者のうち

①白血病、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、重症複合型免疫不全症等の患者で無菌治療室管理加算を算定する患者

②後天性免疫不全症候群の病原体に感染し抗体の陽性反応がある患者であって、HIV感染者療養環境特別加算を算定する患者

③①または②と同等の状態にある患者

中心静脈注射又は植込型カテーテルによる中心静脈注射がおこなわれる患者

*医薬品等副作用被害救済制度の対象とならない医薬品等(平成 16 年厚生労働省告示第 185 号)に掲げる医薬品のうち、悪性腫瘍に対して用いる注射剤

4.無菌調剤室の管理や入退室の基本的な流れ

無菌調剤室の管理や入退室の基本的な流れは、各薬局の施設や人員などの状況により異なりますが、基本的な流れの一例を紹介します。

4-1.無菌調剤室の管理

無菌調剤室を適切に使用し、管理を維持するためには、無菌調剤室の衛生管理を規定した「無菌調剤管理手順書」を作成する必要があります。

日本薬剤師会の「薬局における無菌製剤(注射剤)の調製についてー無菌室管理マニュアル(モデル)」などを参考に、各薬局で作成しておきます。

以下に、無菌調剤管理手順書に記載する項目の一例を紹介します。

参照元:兵庫県庁/薬局に設置された無菌調剤室等に係る指導指針(概要)

記載項目 内容
1 日常管理の留意点 ・使用時間や入室者の記録
・無菌調剤した製剤の記録(調製日、患者名、使用した薬剤の名称・ロット番号、使用量など)
・無菌室内の温度、風量などの空調管理
・殺菌灯の交換、使い捨てでない無塵衣、無塵帽、靴カバーの定期的交換など
2 入退室、無菌調剤室内の調製準備に関する手順 ・入室手順
・調整準備手順
・退出手順など
3 薬剤の搬入、保管に関する留意事項 ・無菌調剤室で使用する薬剤の搬入に係る留意事項
・無菌調剤室で使用する薬剤の種類など
・薬剤の保管方法、保管場所など

4薬剤調製時の留意事項・抗がん剤の調製時の留意事項
・高カロリー輸液(TPN)調製時の留意事項
・麻薬の持続点滴薬剤調製時の留意事項など

5無菌調剤室内の清掃・消毒に関する手順・無菌調剤室の清掃及び記録総論
・クリーンベンチ、安全キャビネットの清掃手順
・床の清掃手順
・無菌調剤室の壁面の清掃手順
・流し、保管庫、ロッカー等の清掃手順など6無菌製剤処理に必要な器具、機材等の管理・無菌製剤処理に必要な器具、機材等の管理
・器具、機材の清掃手順
・器具、機材のメンテナンス等 など7無菌調剤室内の空気清浄度の確認手順・確認時期
・確認方法8その他ごみ箱についての規定(一般ごみと医療廃棄物(耐貫通性容器を使用)に分別する) など

参照元:兵庫県庁/薬局に設置された無菌調剤室等に係る指導指針(概要)
熊谷薬剤師会/無菌調剤室共同利用マニュアル
日本薬剤師会/薬局における無菌製剤(注射剤)の調製について

4-2.無菌調剤室の入退室の流れ

無菌調剤室の入退室の流れの一例を紹介します。施設ごとの環境に合わせて、無菌室の入退室の方法について、無菌調剤管理手順書に記載しておくことが必要です。

(1)前室入室前(あれば準備室にて) ①無菌室内の空調やクリーンベンチの送風開始。殺菌灯などの点灯
②混合調整前の監査、必要な薬品、器具などを用意
③腕時計、指輪などはあらかじめはずす
④アルコール含有速乾性擦り込み式消毒薬で手指を消毒
(2)前室 ①前室専用の履物に履き替える(または靴カバーを装着)
②手指から腕にかけて石鹸と流水で洗浄。爪はブラシを使用して丁寧に洗浄。ふき取りはペーパータオル使用
③アルコール含有速乾性擦り込み式消毒薬で手指を消毒
④無塵帽、マスク、無塵衣の順に着用
⑤滅菌済手袋(パウダー付きでないもの)を着用
⑥エアーシャワーで無塵衣に付着した塵、細菌を除去し、無菌調剤室に入室
(3)無菌調剤室 混合調剤前 ①手指の消毒
②クリーンベンチの消毒
③アルコール含有速乾性擦り込み式消毒薬で手指を消毒
④消毒用エタノールを噴霧して消毒した物品をクリーンベンチ内に入れる
⑤手袋を消毒する
混合調剤 アンプル、プラスティックボトル、バイアルなどからの薬液の採取および、輸液バッグへの薬液の注入を手順通りにおこなう
混合調剤後 ①ラベルの確認
②注射剤のから容器、残液量などを確認
③混合調剤後の薬液の状態を確認
④混合調剤後の秤量し、メモをしておく
(4)調剤後 クリーンベンチ、クリーンルーム内の清掃
(5)退出 ①無菌室の空調を消し、クリーンベンチの殺菌灯をつける
②帳簿の作成など

参照元:太田市薬剤師会/無菌調剤室共同利用 無菌調剤マニュアル
熊谷薬剤師会/無菌調剤室共同利用マニュアル

5.無菌調剤室の共同利用

在宅医療をさらに推進するために、薬局の無菌調剤室の共同利用が進められています。ここでは、無菌調剤室の共同利用について詳しく解説します。

参照元:e-GOV法令検索/医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則

5-1.無菌調剤室の共同利用とは

無菌調剤室の共同利用とは、「薬事法施行規則の一部を改正する省令」(平成 24 年厚生労働省令第 118号)により、無菌調剤室を持たない薬局が、無菌製剤処理が必要な薬剤を含む処方箋を受け付けた場合に、他の薬局の無菌調剤室を利用して無菌製剤処理をおこなえるというものです。

参照元:厚生労働省/薬局、薬剤師の地域医療への貢献

5-2.無菌調剤室を共同利用する必要性

無菌調剤室の共同利用は、無菌調剤室を持たない薬局でも、無菌製剤処理が必要な薬剤が処方された場合に、処方箋の応需を可能にするために必要な施策といえます。

超高齢社会が進み、終末期を含めた在宅医療が推進され、住み慣れた地域の居宅や施設で療養を受ける方は、今後ますます増えると同時に、無菌製剤処理が必要な薬剤の処方も増えることが見込まれます。

しかし、すべての薬局が無菌調剤室を持つことは、場所や費用の面で難しい状況ですが、無菌調剤室の共同利用によって無菌調剤室を持たない薬局でも、地域包括システムの一員として、終末期を含めた在宅の患者さんを切れ目なく支えることができます。

5-3.無菌調製室を共同利用する際の注意点

無菌調剤室を共同利用する際の注意点として、あらかじめ無菌調剤室を提供する薬局と処方箋を受け付けた無菌調剤室を持たない薬局の間で、次の点を取り決めておくことが必要です。

●契約に関する事柄
無菌調剤室を提供する薬局と処方箋を受け付けた薬局(無菌調剤室を持たない薬局)の間で、共同利用に関して、次の2点を盛り込んだ契約書をとりかわすこと。

①処方箋を受け付けた薬局は、無菌調剤室を提供する薬局の協力を得て、無菌調剤管理マニュアルの策定、薬剤師に対する研修の実施など具体的な内容を定めておくこと。

②無菌調剤室を利用した薬剤師は、無菌製剤処理に関わる事故などが発生した場合に、双方の薬局開設者に報告する体制を決めておくこと。

●無菌調剤室に関する事柄
以下の要件を満たす無菌調剤室に限り、共同利用することができます。

  1. 薬局内に設置された、他と仕切られた専用の部屋であること。
  2. 無菌調剤室の室内の空気清浄度が担保されていること。
    <l無菌製剤処理をおこなうための器具、機材などを備えていること。

●共同利用できる設備について
共同利用できるのは、無菌調剤室、無菌調剤室内でおこなう無菌製剤処理に必要な器具、機材などに限られること。

参照元:枚方市/無菌調剤室を共同利用する場合の手続きについて

6.薬剤師が無菌製剤処理をおこなうには十分な知識が必要

無菌調剤ができる施設が必要な無菌調剤は、主に次の4つがあります。
①中心静脈栄養の基本液とその他注射剤の混合

②抗がん剤の混合

③粉末アミノ酸製剤等を生食に溶解させる等の注射剤の作成

④バルーン式持続皮下注入器への薬液充填

末期を含めた在宅療養を受けている患者さんには、こうした無菌調剤が必要とされる薬剤が処方される機会が多くあり、ますます増えることでしょう。

無菌調剤室の共同利用が可能となった今、薬局の薬剤師も無菌調剤に関する知識と技術が求められるようになります。

例えば、無菌調剤室を提供する薬局が定める研修を受けるほか、無菌製剤処理をおこなっている大学病院などで実習や研修を受けることがすすめられます。また、研鑽を積んで技術と知識を保持することを心掛ける必要があります。

参照元:兵庫県庁/薬局に設置された無菌調剤室等に係る指導指針(概要)
厚生労働省/薬事法等の一部を改正する法律について
日本薬剤師会/薬局における無菌製剤(注射剤)の調製について

7.まとめ

無菌調剤室の共同利用について、地域の薬局が無菌調剤を必要とする薬剤の処方箋を応需する必要性や、無菌製剤処理の診療報酬、無菌調剤の流れについて詳しく解説してきました。

超高齢社会が進み、地域包括システムが推進され、終末期も含めた在宅療養を受ける方が、今後ますます増える状況にあります。

従来入院でしか対応できなかった中心静脈栄養や抗悪性腫瘍薬の点滴、麻薬なども居宅で受ける方もいます。

こうした無菌調剤が必要な薬剤が処方された場合でも、無菌調剤室の共同利用によって、地域の薬局が切れ目なく患者さんを支えることができるようになりました。

薬剤師もまた無菌調剤に対応できる知識と技術を身に付けておくことが大切です。

この記事の著者

薬剤師・ライター

小谷 敦子

病院・調剤薬局薬剤師を経て、医療用医薬品専門の広告代理店・制作会社に所属し、販促資材やMR教育資材、患者向け冊子などの執筆に従事。
専門医インタビューによる疾患や治療の解説などを、クリニックHP上に掲載するなどの執筆活動も行っている。

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