ロボット調剤とは?導入メリットや薬剤師の今後について解説
調剤の自動化が始まったのは1960年代で、最初に開発されたのは散剤の分包機でした。
その後、錠剤の分包機やカプセル剤の自動払い出し機が登場し、現在ではほとんどの調剤業務を自動化することができます。
このように長い歴史を持つ自動調剤機器が「ロボット」と呼ばれ始めたのは今から10年ほど前のこと。AIが実用化され始め、さまざまな仕事がロボットやAIに取って代わられると危惧する声が上がり始める少し前のことです。
そもそもロボット調剤とは何なのか、導入することによるメリットは?薬剤師の仕事への影響は?薬剤師にとって、いま気になるロボット調剤について解説します。
目次
1.ロボット調剤とは
処方データを入力するだけで、コンピュータが薬品を選択し、秤量をおこない、配分、分割、分包まで、ロボットが人に代わってすべてをおこなう、人の手を介さない調剤業務のことを指します。調剤業務から多忙な薬剤師を開放するとともに、ヒューマンエラーに起因する調剤過誤を未然に防ぐことを目的としています。
調剤ロボットの始まりは1960年に開発された散剤分包機で、技術の進歩とともに多機能化してきました。
1970年代になると錠剤やカプセル剤の割合が増えたことから、錠剤の分包機やPTPの払い出し機が次々と市場に投入されました。
これらは省力化を目的として開発されたものですが、やがて調剤過誤をインシデントレベルから防ぐという目的も併せ持つようになりました。
調剤ロボットは大手調剤薬局チェーンを中心に導入が進められており、ある首都圏のドラッグストアでは7種類9台もの自動機を導入し、全調剤業務の9割を自動化するという実験をおこなっています。
この店舗では毎月5,500枚の処方せんを受け付けるといい、有効性を見極めたうえで導入店舗を拡大していく方針だそうです。
大型店舗以外でも、調剤ロボットを導入することによって薬剤師3人で3.5人分の業務こなせるようになったという事例や、調剤業務の約半分程度をロボットにまかせることができるようになった、という導入事例もあります。
参照元:日本包装学会/医薬品包装の変遷
2.ロボット調剤を導入するメリット
ロボット調剤を導入することで、薬剤師が対物業務から解放され、対人業務や調剤設計、処方の分析などに専念できるようになること、ヒューマンエラーの防止、薬局全体の効率化、待ち時間の短縮などのメリットがあります。
2-1.作業負担の軽減
厚生労働省の調査によると、薬剤師一人当たりの1日における処方せん調剤業務のうち、錠剤、散剤、水剤の計数調剤に充てられる時間は約2時間28分とされています。
調剤業務を支援する自動機は、散薬調剤ロボット以外にも錠剤の全自動分包機やPTPの自動払い出し機、水剤分注機などがあり、こうした自動化機器も含めたロボット調剤を導入することで、薬剤師の作業負担を大幅に軽減することが可能となります。
計数調剤の作業負担を軽減することで、薬剤師の勤務シフトにも余裕ができ、対人業務に集中できる職場環境を整えやすくなります。
参照元:厚生労働省/薬剤師の需給動向把握事業における調査結果概要
2-2.ヒューマンエラーの抑止
これまでにも薬の配分、分割、分包をおこなう分包機はありましたが、もっとも調剤過誤の起こりやすい薬品の選択と秤量については、人の手でおこなわれてきました。調剤過誤の多くは、個人のパーソナリティやスキル、作業環境や労働時間などが影響を及ぼすヒューマンエラーによって引き起こされています。
人間である薬剤師が調剤業務に介在する限りヒューマンエラーを完全に防ぐことはできませんが、ミスが起こりやすい薬品選択と秤量を含めて、すべての作業をロボットがおこなえばヒューマンエラーを排除することができます。これは薬剤師だけのメリットではなく、薬局と患者さまにとっても大きなメリットとなります。
参照元:J-STAGE/保険薬局における薬剤師の調剤エラー頻度と性格特性に関するアンケート調査の解析
2-3.調剤業務の効率化
ロボット調剤を導入することで、調剤業務にかかる時間が短縮されるだけでなく、予測・管理することが可能となり、調剤業務の効率化が図れます。
現在、薬局・薬剤師は「かかりつけ」への転換を求められていますが、調剤業務の効率が改善され、患者さまと向き合う時間が増えなければ、「かかりつけ」として機能することは困難です。
複数の病院やクリニックに通う患者さまが、それぞれの門前薬局から別々に薬の交付を受けることで、多剤・重複投与によるリスクが高まりますが、こうした問題を防ぐためには、かかりつけ薬剤師が一元的に服薬の管理をおこなう必要があります。
ロボット調剤を導入することによる調剤業務の効率化は、服薬管理により多くの時間を必要とする薬剤師にとって大きなメリットになるはずです。
2-4.コミュニケーションの増加
ロボット調剤の導入によって調剤に費やす作業時間が短縮されれば、患者さまや医師とコミュニケーションをとる時間を増やすことができます。
薬剤師には、患者さまとのコミュニケーションを通じて、服薬の状況だけでなく健康状態や食事の内容、生活の様子などを読み解いていくことが求められます。
また一方では、医師との緊密なコミュニケーションによって適切な処方設計、服薬指導をおこなっていかなければなりません。ロボット調剤の導入による調剤業務の省力化を図ることで、薬剤師にコミュニケーションの時間をより多くもたらしてくれるでしょう。
3.ロボット調剤導入のデメリットや懸念点
調剤ロボットを導入するにあたって最大のデメリットは導入コストの高さにあります。従来の分包機は数10万円台から機能に応じて価格を選べますが、調剤ロボットとなるとほぼ1,000万円超となります。
また、機種によっては大型の自動販売機くらいのサイズになり、設置場所の確保も必要となります。故障を未然に防ぐためには定期的なメンテナンスも欠かせないため、導入後のランニングコストも予算化しておく必要があるでしょう。
導入に莫大なコストがかかるというデメリット以外に、ロボットによる調剤が普及することで調剤料が引き下げられ、薬局や薬剤師の収入減につながりかねない、という根強い懸念があります。事実、2022年度の診療報酬改定により、対物業務の点数は事実上の引き下げとなっています。
しかし、この点についてはロボット調剤の存在が原因というわけではなく、調剤業務の規制緩和をすることで、薬剤師業務の軸足を対物から対人へと移行するための措置といえるでしょう。
こうした流れに対応していくためには、むしろロボット調剤やICTの積極的な導入、ファーマシーテクニシャンの採用など、業務の省力化を推進していく必要があります。
参照元:厚生労働省/薬剤部門システムが調剤ロボットや服薬リアルを通じて薬剤師をDXする未来
4.ロボット調剤の導入による薬剤師の役割に変化はある?
2022年度の診療報酬改定では、これまでの「調剤料」は廃止、一律24点の「薬剤調整料」と処方日数に応じた「調剤管理料」に分割されました。
さらに「調剤管理加算」が新設されたことで、薬剤師の評価は対人業務に重きが置かれ、対物業務は実質大幅な点数引き下げとなっています。
すでに政府から周知されているように、薬局・薬剤師には地域医療への積極的な支援が求められており、「かかりつけ」の職責を負うべく、その役割はこれまでにないほど変化しています。
しかし、こうした変化は調剤ロボットの登場によって起こったものではなく、逆に薬剤師業務の変革が調剤ロボットの登場を促したといえるでしょう。
ロボット調剤と同様、AIを利用した鑑査システムが普及しつつありますが、こちらも薬剤師業務の省力化に貢献する重要なサポート役となります。
また、音声入力によって電子薬歴の入力時間が短縮されたり、経験によって培われた薬剤師個人のスキルをデータベース化することで、新人薬剤師による服薬指導にも一定の水準を確保できるようになったりなど、デジタル技術が広く取り入れられています。
参照元:厚生労働省/患者のための薬局ビジョン
厚生労働省/令和4年度診療報酬改定について
このように、AIやコンピュータが導入されることで薬剤師の業務に大きな影響を及ぼすようになっています。詳しくはこちらの記事をご参照ください。
5.まとめ
ロボット調剤を導入することによって、薬剤師の作業負担が減るだけでなく、調剤過誤の原因となるヒューマンエラーを排除することが可能となります。
調剤業務は効率化され、薬剤師にとって重要な患者さまや医師とのコミュニケーションに多くの時間が使えるようにもなるでしょう。もっとも、導入には多額の投資が必要で、短期間で広く普及することは難しいかもしれません。
また、本格的な調剤ロボットが登場するまでは、ロボット化されると調剤業務の評価が下がり、薬局や薬剤師の収入が減るのではないかという懸念がありました。
しかし、導入された薬局での評価はおおむね良好で、どうやらこの点についての心配はいらないようです。
デジタル技術の進歩によりロボットやAIが導入され、薬剤師の業務は変化していきます。しかし患者さまの利益を中心に考える「ファーマシューティカルケア」という薬剤師の使命に変わるところはありません。
さらに今後は、かかりつけとなった薬剤師が患者さまにとって唯一無二の存在になることが求められます。こればかりは、どんなに優れたロボットにもAIにも決して代わることのできない、薬剤師にしか果たせない役割であり、責務であるといえます。
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