在宅薬剤師は大変?病院薬剤師との違いや業務内容をご紹介

在宅薬剤師は大変?病院薬剤師との違いや業務内容をご紹介

患者さまの居宅や施設で薬剤師が指導をおこなった時の「居宅療養管理指導費」を算定している薬局は年々増え、2019年には25,000店以上にのぼりました。

2015年の「患者のための薬局ビジョン」の中で、薬剤師が在宅に対応することが求められ報酬の改定につながったことも、その要因の一つです。今後ますます高齢化が進むうえで、在宅薬剤師の需要は増える一方です。

では、在宅薬剤師とは、具体的にどのような仕事をしているのか、業務内容を詳しくご紹介します。

参照元:社保審-介護給付費分科会/居宅療養管理指導

1.薬剤師における在宅とは

在宅業務を担う薬剤師について、病院薬剤師との違いや、在宅訪問で患者さまに指導を行った場合の保険請求、実際の業務内容や一日の流れなど、詳しく見ていきましょう。

1-1.病院薬剤師との違い

病院薬剤師と在宅業務を行う薬剤師との違いは、

  1. 勤務する場所
  2. 対象となる患者さま
  3. 連携する医療スタッフ
  4. 業務内容

です。それぞれ説明していきます。

病院薬剤師

病院薬剤師は病院に勤務し、基本的には入院患者さまを対象とし、入院中の薬物療法と退院後の地域医療をつなぐ仕事を担います。

また連携する医療スタッフは、病棟の医師・看護師などです。

入院時には、患者さまの持参薬の確認を行い、入院中の薬物療法に役立てます。

入院処方の調剤や服薬指導はもちろんですが、病棟において医師・看護師などの医療スタッフと連携して、患者カンファレンスに参加し、薬学的管理や処方提案、必要があれば血中濃度モニタリングなども行います。

また、退院時には患者さまが生活する地域の、かかりつけ医や訪問看護師、かかりつけ薬剤師、ケアマネージャーなどに入院中の情報を提供し、患者さまの薬物療法がスムースに継続できるようにつなぐ仕事があります。

その他、外来患者さまの院内処方、外来化学療法を受けている患者さまの注射調剤、救急や休日に対応している病院の場合には、救急患者さまの薬の調剤・服薬指導なども行います。

さらには、治験業務や院内の医薬品の管理なども業務となります。

在宅薬剤師

在宅業務を担う薬剤師の勤務先は保険薬局です。地域の調剤薬局が外来調剤と並行して在宅業務をおこないますが、最近では在宅専門薬局も増えてきています。

在宅を担当する薬剤師は、患者さまの地域包括ケアシステムに関わる多職種のスタッフと連携して、患者さまの情報共有、医師への処方提案などをおこないます。

また、患者さまが退院後に在宅医療を受ける場合には、退院時に入院中の情報提供を受けるなど病院薬剤師とも薬薬連携を行います。

在宅薬剤師の業務についての詳細は、1-3. 在宅薬剤師の役割や業務内容に続きます。

1-2.居宅療養管理指導との違い

在宅薬剤師が、在宅の患者さまに薬学的管理や指導をおこなった際、患者さまが介護認定を受けているか否かによって、請求する報酬の名称が違います。

「居宅療養管理指導」は、介護認定を受けている患者さまの場合の保険請求の名称で、介護保険に請求します。

さらに介護認定によって、要介護1〜5は「居宅療養管理指導」、要支援1〜2は「介護予防居宅療養管理指導」と言う名称になります。

一方、介護認定を持たない患者さまでは医療保険請求となり「在宅患者訪問薬剤管理指導料」を算定します。

それぞれ名称は違いますが、薬剤師が行う指導内容などの業務は同じです。

1-3.在宅薬剤師の役割や業務内容

在宅薬剤師の役割は、薬物療法や薬の専門知識をもって、患者さまにとって最も効果があり、かつ安全な薬物療法を提供することです。

また、在宅薬剤師は患者さまとの距離が近いため信頼関係を築くことで、会話の中からちょっとした情報を得たり、日常生活の中で気づく患者さまの変化を、発見したりすることがあります。

これは、調剤薬局の窓口での指導では得にくい情報と言えます。こうした情報や発見を、患者さまに関わる地域包括ケアシステムの多職種の医療スタッフと情報共有し連携して、生活の改善や薬物療法の変更につなげることも大きな役割と言えます。

在宅薬剤師の役割について詳しくは以下の記事に紹介しているので、あわせて参考にしてください。

では、具体的な在宅薬剤師の業務と、在宅を担当する薬剤師の1日の流れを見ていきましょう。

在宅薬剤師の業務

居宅での薬の管理だけでなく、薬物療法や薬剤に関する専門的な知識に基づく薬学的な管理、薬物療法に影響を与える患者さまの日常生活の変化、地域の医療連携スタッフとの連携、情報共有のための書類作成などがあります。

在宅薬剤師の業務一覧(例)

薬の管理
  • 処方せんに基づいた調剤(患者の状態に応じて 一包化、粉砕、懸濁法(けんだくほう)など)
  • 患者宅への医薬品や衛生材料の供給
  • 服薬の説明 (服用方法や効果などの説明、服薬指導と支援)
  • 服薬状況を確認し、服薬方法の改善や、飲み忘れ防止のための服薬カレンダーの利用などにつなげる。
  • 薬の保管状況の確認 (温度管理など)
  • 残薬の管理(投与日数調整、一包化のすすめなど)
  • 麻薬の服薬管理と廃棄
  • 抗がん剤や高カロリー輸液などの無菌調剤と居宅での管理
薬学的管理
  • 薬歴管理 (薬の飲み合わせ、重複、多剤の確認)
  • 副作用などのモニタリング(初期症状や長期投与による副作用の発現など)
体調変化のチェック
  • 薬物療法に影響を与える体調変化(食事、排せつ、睡眠、運動・日常生活動作、認知機能など)
医療スタッフとの連携
  • 在宅担当医への処方支援 (患者に最適な処方(剤型・服用時期などを含む)提案)
  • ケアマネージャーなどの医療福祉関係者との連携・情報共有
薬剤に関する教育
  • 医療福祉関係者に、薬物療法や薬剤に関する教育を担当
書類作成
  • 在宅訪問開始にともなう書類
  • 医師への情報提供書
  • 多職種連携に必要な報告書
  • 薬歴など

在宅薬剤師の業務の流れ(例)

薬剤師が行う業務について、1日の流れを紹介します。

8:45 出勤 薬局の掃除
9:00 本日の訪問予定と各患者さまの状態をチェック
患者さまの情報を記載したファイルの準備
お届けする調剤薬や医療材料などの確認
10:00 1件目の居宅へ出発
到着後、患者さまの服薬状況についてお話を伺い、実際に飲み間違いや飲み忘れなどないか残薬を確認(お薬カレンダーのセットなど)
体調変化や日常生活などのお話を伺い、生活状況を確認する。
症状によっては副作用の発見などを処方医に連絡する。
受診や訪問診療の日程の確認、次回訪問の予定をお伝えして終了。

2件目の居宅へ出発
病状の変化により追加になった薬をセットし、さらに不要になった薬を一包化の中から抜き、服薬指導。副作用の初期症状などを説明。

12:00 薬局に戻り昼食と休憩
13:00 午後の訪問に出発
居宅にて、担当者会議。認知症の進行度、リハビリの状況などの情報提供を受ける。それにともない服薬方法の変更についての提案。訪問時の患者さまの訴えから処方変更を医師に相談することを提案など。
15:00 薬局に戻り、本日の訪問に関する薬歴、報告書などの書類作成。
必要があれば訪問時に得た情報を医師に共有。
次回定期薬の調剤、監査など。
18:00~19:00 業務終了

参照元:日本薬剤師会/居在宅医療における薬剤師の役割p7
大阪府薬剤師会/薬剤師による在宅訪問P11 5.具体的に薬剤師ができること

2.在宅薬剤師の大変なところ

在宅薬剤師の仕事はやりがいがある反面、大変なところもあります。ここでは具体的に仕事で苦労する面について紹介します。

2-1.書類・文書作成などの作業が多い

在宅薬剤師にとって、在宅を始める際の同意書や重要事項証明書、情報共有のための報告書や薬歴などの作成は、種類も多く時間がかかり、大変と感じる作業の一つです。

在宅薬剤師は、地域包括ケアシステムの医療スタッフの一人として、大きい役割を持っています。

そのため、医師・看護師、ケアマネージャー、介護スタッフなど多くの職種の方と情報共有をするためのツールとして、訪問時の報告書の作成が必須となります。

また、患者さまの薬歴の作成は、在宅患者訪問薬剤管理指導料などの保険請求をするために義務付けられています。

患者さまの服薬状況や体調変化、それにともなう処方変更や提案、次回訪問時の質問事項などを、要領よく端的にまとめる必要があり、時間がかかる作業です。

2-2.連携がうまく取れない

在宅薬剤師の悩みの一つに、他の職種のスタッフと連携がうまく取れないということがあります。

在宅薬剤師には、医師などの医療スタッフとの連携や患者さまと会話する上で、高いコミュニケーション能力が要求されます。

他人と話すのが苦手と思っている方は、特に大変だと感じてしまうかもしれません。

しかし、薬剤師としての知識や、患者さまの薬物療法を支えたいという気持ちがあれば、少しずつ患者さまとも医療スタッフとも、話ができるようになるのではないでしょうか。

コミュニケーションと言う言葉にとらわれず、誠意を持って在宅薬剤師としての業務を果たすことで、コミュニケーション能力も育っていくでしょう。

2-3.業務時間が長時間になる恐れも

在宅薬剤師は、患者さまを訪問している時間の他にも、薬局での調剤や監査、文書の作成などもあり、業務時間が長時間に及ぶ可能性があります。

また、外来調剤を並行している薬局では、在宅で不在になる薬剤師の分をフォローする薬剤師も、業務が過重になり、長時間になることもあります。

こうした薬剤師の長時間業務を解消し、質の高い服薬指導を患者さまに提供するとともに、地域包括ケアシステムで役割を果たすためには、薬剤師の人数の確保、調剤機器や情報通信技術を活用した効率化などを図ることが、在宅訪問を進めるためには重要です。

参照元:中医協/在宅医療における薬剤師業務について P5薬局が在宅医療・介護に関わる上での課題

3.在宅薬剤師にはコスト面での課題もある

地域包括ケアシステムが推進され在宅訪問に対応する薬局や、在宅専門薬局も増えていますが、経営する薬局側にはコスト面での課題もあるようです。

薬剤師の在宅業務を進めるためには、薬剤師の確保、業務の効率化や無菌室の整備などの設備投資などが必要だからです。

ただ、報酬面で見ると、厚労省では2015年に策定した「患者のための薬局ビジョン」において、薬剤師に積極的に在宅対応を行うよう示されており、在宅訪問に関わる報酬が改訂されました。今後もさらに上積みされていくことが期待できます。

現状はコスト面での課題もありますが、在宅薬剤師の需要が増すことを見据えた薬局がますます増えていくことでしょう。

4.在宅薬剤師は高齢化の進む社会に求められる仕事

団塊の世代が75歳以上になる2025年以降は、さらに居宅や施設で暮らす高齢者の数は増加の一途であり、高齢者の薬物治療の特徴から、在宅薬剤師に求められる仕事は数多くあります。

高齢者の薬物療法の特徴として、「合併症が多く多剤併用や重複投与の可能性がある」、「認知機能や身体機能の低下にともなう嚥下困難や服薬困難がある」、「腎・肝機能低下による用量調節の必要性」などが挙げられます。

多剤併用や重複投与は副作用の発現のリスクになり、早期発見は薬剤師の役割とも言えます。

また、嚥下困難や服薬困難などを回避するための一包化やカレンダーの利用、肝・腎機能低下による用量調節の提案など、薬剤師としての知識や技術、薬学的観点をもって介入する場面は非常に多くあり、高齢化社会が進むうえでますます需要が高まることが期待できます。

参照元:日本薬剤師会/在宅医療における薬剤師の役割 P9高齢者が多い在宅医療 ~薬物治療の特徴と問題点~

5.まとめ

在宅医療は医師や看護師が中心となってすすめられていましたが、薬物療法が高度化していることから、薬の専門家としての薬剤師の介入が医療安全の面で求められています。

また、超高齢化社会を迎え、居宅や施設で生活する高齢者が増え、地域包括ケアシステムを利用した在宅医療がすすめられ、その中で薬剤師も在宅に対応することが求められています。

在宅における薬剤師の役割は、患者さまに最適で安全な薬物療法を安心して提供する事で、そのためには地域包括ケアシステムでの情報共有が必須です。

現状ではコスト面の課題もありますが、報酬の改定なども見込まれ、在宅薬剤師は、今後ますます活躍の場が広がり、需要の増加が見込まれる仕事です。

在宅に対応している調剤薬局の増加にともない、マイナビ薬剤師でも、在宅薬剤師の求人が増えています。在宅薬剤師への転職をお考えの際には、マイナビ薬剤師に登録して、薬剤師専任のキャリアアドバイザーの無料相談を受けることをおすすめします。

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この記事の著者

薬剤師・ライター

小谷 敦子

病院・調剤薬局薬剤師を経て、医療用医薬品専門の広告代理店・制作会社に所属し、販促資材やMR教育資材、患者向け冊子などの執筆に従事。
専門医インタビューによる疾患や治療の解説などを、クリニックHP上に掲載するなどの執筆活動も行っている。

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