在宅医療における薬剤師の役割や求められることとは?チーム医療に不可欠な理由も解説
在宅医療を希望する患者さんが増加している昨今、医療を提供する側の薬剤師の働き方にも変化が訪れています。それが、在宅医療薬剤師という新しい働き方の登場です。従来、薬剤師といえば病院や薬局に勤務し、訪れる患者さんに対してサービスを提供するのが一般的でした。しかし、在宅医療薬剤師は、患者さんの自宅などを自ら訪れることによってサービスを提供するものです。ここでは在宅医療薬剤師の役割や必要性について、詳しく紹介します。
目次
1.在宅医療とは?
在宅医療とは、外来や入院ではなく、患者さんの自宅や施設で治療を行う医療のこと。「通院や入院が難しい」という場合や「自宅で最期を迎えたい」という患者さんや家族の要望により、在宅医療を希望する人が増えています。
在宅医療では、医師・看護師・薬剤師などの医療スタッフや、ケアマネジャーなどの介護スタッフがチームとなって、患者さんの自宅などを定期的に訪問。連携を取りながら、24時間365日体制で治療やケアを行っていきます。
社会の高齢化や介護の必要性の高まりに伴い、在宅医療のニーズは増加傾向です。医療・介護スタッフは地域の自治体とも連携しながら、患者さんにとってベストな在宅医療となるように、日々努めています。
参照元:全国在宅療養支援医協会/「1在宅医療の定義」部分参照
2.在宅医療薬剤師の役割や業務内容とは
在宅医療薬剤師とは、在宅医療や在宅介護を実施している患者さんの自宅や入居先に訪問し、業務を行う薬剤師のこと。社会の高齢化が進んでニーズが高まる在宅医療、薬剤師にはどんな役割が求められているのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
2-1.患者さんに薬を届ける
医師からの処方箋の内容を確認して調剤し、薬剤師自らが患者さんのご自宅へ薬をお届けします。
調剤の際には、患者さんの状態に応じて適切に実施します。嚥下(えんげ)機能や認知機能が低下した方に対して一包化・粉砕調剤などをしたり、終末期医療に対応するため麻薬調剤を行ったりすることもあるでしょう。
在宅医療は基本的に24時間365日体制のため、薬剤師は薬局の開局中だけではなく、閉局後に患者さんのご自宅へ向かうこともあります。
2-2.飲み合わせの確認
薬剤師は、処方箋を受け取った時や患者さんのご自宅へ薬を届ける時、必ず飲み合わせについて確認をします。
1種類では問題ない薬でも、ほかの薬との飲み合わせや食品との食べ合わせにより悪影響が出ることもあります。そうした相互作用の影響を受けないように「複数の病院で薬を処方してもらっていないか」「市販薬やサプリメントを利用していないか」などの確認が必要です。お薬手帳をチェックしたり、患者さんにヒアリングしたりと、薬を安心して服用できて、適切に効果が出るよう注意しています。
2-3.残薬を管理する
高齢の方や認知機能が低下した方にとって、薬の管理はとても大変です。複数の薬を服用しているならなおのこと。そこで薬剤師が患者さんの自宅に残っている薬がないかを確認することで、服薬状況を確認します。
残っている薬の量を見ながら、飲み忘れはないか、誤飲・過量服用していないかなどをチェックし、必要に応じて医師へ情報提供します。患者さんに渡す薬の量を減らす、飲みやすいタイプや飲む回数が少なくていい薬に変更することを提案することもあるでしょう。
また、自宅に余っている薬が大量にあると、患者さん本人や家族が間違って服用してしまう恐れがあります。適切な量の薬を渡すことでリスクの減少を図ると共に、医療費の節約にも貢献しているのです。
2-4.服薬指導
薬をお渡しする際には、薬を正しく服用するための情報も一緒にお伝えします。薬の服用時間や服用回数、服用量などの基本情報から、保管方法、注意したい副作用や飲み合わせなどを、患者さんやご家族にも説明が必要です。さらに薬が変更・追加になる際は、忘れないように念押しをして伝える必要があります。
また、薬剤師から説明するだけではなく、患者さんの不安や悩みを聞くことも服薬指導の一環です。薬の服用方法に関する疑問や、健康に関する相談など、ご自宅で話を伺うからこそ聞ける悩みもあるでしょう。薬剤師には、そうした声に耳を傾け、適切なアドバイスをすることが求められています。
2-5.医療関係者との連携・情報共有
在宅医療は、外来・入院医療以上にチームプレーで行うため、医療・介護スタッフとの連携や情報の共有が欠かせません。
在宅医療薬剤師に求められるのは、適切な薬学的管理とその情報共有です。
そのため医師からの指示・依頼で訪問するだけではなく、薬剤師の専門的な視点と患者さんのヒアリングから、処方に関して医師へ相談・提案することもあります。
医師だけでなく、患者さんと接する機会の多い看護師や介護スタッフとの連携も大切です。薬剤師からは薬の情報提供や副作用のポイント説明や薬剤師訪問指導の内容を共有し、服薬介助のお願いをすることもあります。また、看護師や介護スタッフからは薬による体への影響を相談されたり、ケアプランや介護保険に関わる情報を共有してもらったりすることもあるでしょう。
在宅医療は、あらゆる専門家が関わって成り立つチーム医療であるため、円滑なコミュニケーションで情報共有することは大切な仕事と言えます。
3.在宅医療薬剤師の必要性
在宅医療薬剤師は、なぜ必要性が高まっているのでしょうか。そこには在宅医療が求められる背景と密接に関係しており、在宅医療の患者数の傾向から国の方針まで、さまざまな理由が挙げられます。
3-1.在宅医療の患者数
在宅医療を利用する患者さんの数が増えています。令和2年の厚生労働省の調査によれば、在宅医療での外来診療患者数はおよそ17万3000人。これは平成17年と比較すると、およそ2.6倍。15年ほどで、倍以上に増えています。
また、在宅医療の外来診療患者数のうち、65歳以上での利用はおよそ16万人(令和2年の場合)。全体の約91.9%が、高齢者による利用となっています。
在宅医療を利用する患者さんが多くなれば、当然、在宅での投薬治療も増えてきます。そのため、在宅医療に対応できる薬剤師の必要性が高まっていると言えるでしょう。
参照元:厚生労働省「令和2年(2020)患者調査の概況」/1(3)在宅医療の状況
3-2.高齢化
日本は世界の中でも、特に高齢化社会。総務省「令和4年版高齢社会白書」によれば、日本の人口のおよそ28.9%が65歳以上です。2.6人に1人が65歳以上ということになり、今後も増加することが予想されています。
こうした高齢化の原因には、「平均寿命が長くなり、65歳以上人口が増加」「少子化の進行で若年人口の減少」などが挙げられるでしょう。
また、65歳以上では要介護者等の数も増加傾向で、特に75歳以上での割合が高まっています。こうした高齢化を伴い自宅や施設での介護が増えると、在宅医療を利用するケースも増加。在宅医療薬剤師はますます必要性は高まっていくはずです。
参照元:総務省/令和4年版高齢社会白書 第1節高齢化の状況・5高齢化の要因
参照元:総務省/令和4年版高齢社会白書 第2節高齢期の暮らし動向・2健康・福祉・(2)65歳以上の者の介護
3-3.社会のニーズの変化
病気の治療は外来や入院でという考え方から、自宅で療養したいと考える人が増えています。「治療が必要になっても、住み慣れた環境で過ごしたい」「家族と一緒に過ごしたい」「自宅で最期を迎えたい」「要介護状態になっても、自宅や親戚の家での介護を希望している」という人がいるのです。
そのため、在宅医療を必要とする人も増加しています。在宅医療は、慢性期・回復期の患者さんや終末期ケアを望む患者さんの、生活の質を重視した医療でもあります。療養しながらも、自分の生活をなるべく維持したい。そんなニーズに応えるべく、在宅医療の必要性も高まっています。
3-4.病床の削減
厚生労働省の調査によれば、病院の病床数は平成5年をピークに減少を続けています。こうした病床の減少は、国の「療養病床の再編」という方針によるもので、ふくらむ医療費の削減と適切な医療の提供を目指しています。
そのため、慢性疾患の治療や介護療養が必要な場合は、自宅や施設での療養が推奨され始めています。それに伴い、介護施設などの定員数は増加傾向にあります。同じく在宅医療を必要とする数もどんどん増えていくと言えるでしょう。
参照元:厚生労働省/「医療提供体制の現状」 〜病院数の推移〜
4.在宅医療薬剤師の現状と課題
必要性が高まる在宅医療薬剤師。しかし、スムーズに在宅医療に関わっていくには、薬剤師のスキルや経験から薬局の体制の問題まで、さまざまな課題があるといわれています。
4-1.在宅医療を担う薬剤師の不足
在宅医療における薬剤師業務は、近年普及してきた働き方です。十分な経験とスキルが必要なこともあり、在宅訪問業務の経験が豊富な薬剤師は決して多いとは言えないでしょう。
在宅医療は、地域医療を支える柱の一つです。しかし、都会よりも地方の方が薬剤師の数自体が少ない傾向にあります。薬剤師が1〜2人しかいない小規模の薬局では訪問業務の負担が大きく、在宅医療に対応できる体制を取れないところもあるでしょう。在宅医療を担う薬剤師の不足を解消するには、「薬剤師の経験・スキル」「薬局の体制」の両方を整えていく必要がありそうです。
4-2.24時間365日体制を構築しきれていない
在宅医療では、薬剤師でも24時間365日対応できる体制を求められることが多くあります。しかし、勤務する薬剤師の数が少ない小規模の薬局が在宅医療の訪問業務に対応するには、一定の負担が生じており、十分な体制を整えられていない薬局があるのも事実です。「早朝や夜間などの開局時間外に訪問する」「他業務の空いた時間帯に随時実施」「訪問業務をする際には閉局せざるを得ない」「訪問の際の移動時間が長く効率が悪い」などの現状もあります。
薬剤師の人数や経営上の効率の問題が、24時間365日体制の構築の壁となっているケースが多いと言えるでしょう。
4-3.薬局や薬剤師の養成が必要
薬剤師として在宅医療に関わっていくには、十分な経験と知識、スキルが求められます。そのため、今後ますます在宅医療のニーズが増加することを考えると、研修会への参加や資格取得の推奨などを通して、薬局や薬剤師の養成が必要といえるでしょう。
在宅医療では高齢者の利用が多いことから、高齢者の薬物療法に対する知見が求められます。認知症や身体機能の低下に伴う困難への理解や、終末期ケアに対応した麻薬調剤が必要になることも。こうした知見や経験を積み重ねながら、薬剤師のスキルアップや薬局としての体制強化が求められているのです。
4-4.在宅医療に関する薬局情報の周知
どこの薬局が在宅医療に対応できるのか。どこまで対応できるのか。どんな薬剤師がいるのか。そうした薬局の情報が、地域や医療機関に伝わっていないというケースが少なくありません。薬局として届出をしていても、実際の対応可否にずれが生じていることも。そもそも周知していないという薬局もあるようです。
情報が伝わっていなければ、せっかく在宅医療薬剤師がいても、薬局として十分な体制を取っていても、在宅医療に存分に生かすことができません。薬局ホームページへの掲載や薬局内でのポスター掲示、地域薬剤師会を通じての情報提供はもちろん、地域医師会や医療機関などへ直接情報提供していくことも大切です。
5.在宅医療薬剤師に求められること
在宅医療薬剤師に求められることは何でしょうか? 病院や薬局ではなく「患者さんの自宅で薬剤師業務を行う」「高齢の患者さんの対応が多い」からこそ必要な業務内容について見ていきましょう。
5-1.患者さんに合わせた薬の提案
在宅医療薬剤師に求められている業務の代表的な業務の一つが、患者さんの状況や状態に合わせた薬の提案です。自宅や入居先を訪問し、患者さんはもちろん、そのケアを行う家族やスタッフと密なコミュニケーションを取れる立場だからこそ、患者さんの状況や状態を詳細に把握できるのが、在宅医療薬剤師ならではの強みと言えます。
その強みを活かしながら、医師と連携することによって、より効果的な投薬の実施をサポートすることができるようになります。医師の指示通りに調薬を行ない、それを患者さんに届けるだけでなく、患者さん側にしかない情報をしっかりと拾って医師に届けるのも、在宅医療薬剤師に求められる重要な役割なのです。
5-2.副作用や飲み合わせの確認
患者さんやその周りの人たちとの接点が多いからこそ、在宅医療薬剤師は薬の副作用や飲み合わせの確認といった業務も行なっていかなければなりません。患者さんによっては、症状に合わせて複数の病院にかかっていることも多く、それぞれの病院でもらう薬の種類によっては相互作用が出てしまい、かえって体調を悪化させてしまうこともあります。
こうした状況をしっかりと把握することで、正しい薬の飲み方を指導したり、医師に対して薬の変更を進言したりするのは、在宅医療薬剤師だからこそ担うことができる役割です。
5-3.薬の保管、管理についての指導
認知機能や身体的機能が衰えた高齢者は、薬の保管や管理が正しく行えていないケースも出てきます。中には、薬を飲み忘れてしまったり、正しくない飲み方をしてしまっていたりすることもあるでしょう。
在宅医療薬剤師は、こうした状況を把握し、薬の保管や管理についてもしっかり指導をしていかなければなりません。
6.在宅医療薬剤師で大変なこととは
在宅医療薬剤師の業務で大変なことといえば、やはりスタッフ間の連携です。
在宅医療では医療や介護をスムーズに行うため、医師や看護師などの医療スタッフやケアマネージャーなどの介護スタッフとの密な連携・情報共有が欠かせません。
その連携のためには、患者さんやスタッフとのコミュニケーションが大切です。人と話すのが苦手な薬剤師にとっては、少し大変な仕事かもしれません。また、スタッフと常に顔を合わせるわけではないため、薬剤師が訪問した際の報告書の作成が必要になります。患者さんの薬歴や各種証明書などの書類作りはそれなりに時間がかかる作業。そのため、業務時間が長時間に及ぶ可能性もあります。
在宅医療薬剤師の業務内容について、ぜひこちらもご覧ください。
7.在宅医療薬剤師に必要な資格
在宅医療薬剤師になるためには、一般社団法人日本在宅薬学会が認定する「在宅療養支援認定薬剤師」という資格の取得が推奨されます。これは居住および居住系施設での薬物療法において、適切な知識や技能、態度を備えた薬剤師であることを証明する資格です。
以下の申請条件を全て満たした上で日本在宅薬学会に申請し、書類選考・筆記試験・面接に通過すると認定されます。
- 日本の薬剤師資格を有し、3年以上の実務経験があること
- 認定薬剤師、日本病院薬剤師会障害研修認定薬剤師、日本医療薬学会認定薬剤師のうちいずれかの資格を有していること
- 在宅業務の実践による5事例の報告を提出すること
- 日本在宅薬学会主催の学術大会に参加していること
- バイタルサイン講習会を受講していること
また、日本在宅薬学会の指定講演または講義(シンポジウム、ワークショップ、e-ラーニング)と学術大会への参加証、バイタルサイン講習会修了証、在宅業務の実践報告で合計40単位以上を取得する必要があります。(2021年3月現在)
在宅療養支援認定薬剤師の認定機関や必要な認定審査料など、詳しくは以下の記事にて紹介しているので、併せて参考にしてください。
8.在宅医療薬剤師がチーム医療には必要不可欠
在宅医療を受ける患者さんが増加する中で、チーム医療の必要性がますます高まっています。チーム医療とは医師や歯科医師、看護師、ケアマネジャーなどが連携して、在宅医療を受ける患者さんに安全で安心かつシームレスな医療を提供することを指し、その中で在宅医療薬剤師は重要な役割を果たすのです。
患者さんの情報を共有して適切な医療を提供するためにも、在宅医療薬剤師は他職種のスタッフとの連携が必要です。例えば訪問看護ステーションと、副作用管理に関する情報を連携する場合、薬剤師は看護師に医薬品情報や薬剤訪問指導内容、重篤副作用、副作用チェックポイントなどを共有します。
一方、看護師は訪問時の副作用の状態や症状変化について報告し、状況によって薬の影響について相談します。安全なチーム医療を実現するためにも、それぞれの専門分野に関する情報を抜け漏れなく共有し合い、適切な判断を行わなければなりません。
チーム医療に欠かせない多職種連携における薬剤師の役割については、詳しくはこちらをご覧ください。
9.まとめ
在宅医療薬剤師は、地域の在宅医療を支える存在として欠かせない職種となります。高齢者の数が増加し、在宅医療がますます求められるようになれば、在宅医療薬剤師のニーズがますます高まることが予測されます。
「薬剤師としてより専門性を高めていきたい」「地域に役立つ薬剤師としてスキルアップしたい」「患者さんにより添った医療を提供したい」と考える薬剤師の方がいらっしゃるなら、ぜひ在宅医療薬剤師を目指してみてはいかがでしょうか。
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