地域フォーミュラリーとは?その目的やメリットについて詳しく解説

地域フォーミュラリーとは?その目的やメリットについて詳しく解説
「地域フォーミュラリー」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?

薬剤師の方の中には、「名称は聞いたことがあるけれど、詳しい内容や目的まではわからない」という方も少なくありません。

「フォーミュラリー」というのは、有効性や安全性、経済性を踏まえて作成された医薬品の使用方針のことで、欧米では医薬品マネジメント手法の一つとして普及が進んでいます。

つまり、地域フォーミュラリーは、地域の医療機関における標準的な薬剤選択の使用方針を指す言葉であり、それを地域全体で共有・運用することが、医療の質の向上や患者さまへの適切な医療につながるとされています。

ここでは、薬剤師が知っておくべき、地域フォーミュラリーの具体的な内容や目的、メリットなどについて解説します。

1.地域フォーミュラリーとは

地域フォーミュラリーとは、地域で医療を必要とする患者さまが、高い治療効果と安全性、費用対効果を得られることを目的に、作成・運用される処方推奨薬リストのことです。

リストには、医薬品それぞれの特徴や用法用量、薬価、有効性、安全性、推奨理由などが記載されており、そうした評価には医師、薬剤師などが臨床的に判断したデータが活用されます。

そこに地域の疾病率や医薬品の使用状況などを加味し、それぞれの地域に最適化した処方のガイドラインとして運用することで、医学的に有用性の高い医薬品の使用促進や治療の均一化、有効・安全で経済的な医療の提供といった効果が期待できるでしょう。

地域フォーミュラリーを共有・運用することは、地域医療の効率化や、膨らみ続ける医療費の抑制もつながります。

参照元:厚生労働省/フォーミュラリの運用について

1-1.フォーミュラリーとは

フォーミュラリーについて、日本には厳密な定義がありませんが、一般的には「医薬品の医学的妥当性や経済性等などを総合的に評価して、医療機関や地域ごとに作成する医薬品の使用指針」とされています。

フォーミュラリーは共有するコミュニティによって呼び名が変わり、地域の医療機関で共有・運用する場合は地域フォーミュラリー、病院やクリニックなどの医療機関で作成する場合は「院内フォーミュラリー」と呼ばれます。

ちなみに欧米では、医薬品の適正使用と経済効率の向上を目的に、1980〜1990年頃から医療機関ごと、あるいは地域の状況に合ったフォーミュラリーの作成がはじまり、定着が進んでいます。

日本では、欧米より遅れてフォーミュラリーが導入され、院内フォーミュラリーに関しては、首都圏の大学病院を中心に運用が広がっている状況です。

一方の地域フォーミュラリーは、2018年に山形県酒田市で導入され、それを皮切りに、北海道札幌市手稲区、茨城県つくば市、大阪府八尾市などの地域でも運用されるようになりました。

参照元:厚生労働省/個別事項(その1)医薬品の適切な使用の推進
参照元:一般社団法人日本フォーミュラリ学会/地域フォーミュラリの実施ガイドライン

1-2.院内フォーミュラリーとの違い

院内フォーミュラリーは、それぞれの医療機関で処方頻度の高い薬剤がリストの対象となり、作成にあたっては、院内の医師、薬剤師などが理事長・オーナーと協議し、決定します。管理・運営は各病院の薬剤部が担うのが一般的です。

一方、地域フォーミュラリーを作成するためには、地域の医師、薬剤師、医師会、薬剤師会、中核病院などが中心となり、他の医療機関や薬局、地域保険者、自治体といった意思決定者との協議・検討を重ねる必要があります。また、管理・運営も地域の医師会や薬剤師会が担います。地域医療経済への影響度も大きいため、地域フォーミュラリーの導入に際しては、慎重な判断と各意思決定者の同意が求められます。

院内フォーミュラリー 地域フォーミュラリー
作成者 院内の医師や薬剤師 地域の医師(会)、薬剤師(会)、中核病院
ステークフォルダー 少ない(理事長・オーナー、薬剤部長など)多い(診療所、薬局、中核病院、地域保険者、自治体など) 多い
(診療所、薬局、中核病院、地域保険者、自治体など)
管理運営 病院薬剤部 薬剤師会(医師会)
難易度
地域の医療経済への影響度 小さい 大きい

参照元:地域フォーミュラリ作成運営委員会/地域フォーミュラリについて
参照元:厚生労働省/個別事項(その1)医薬品の適切な使用の推進

2.地域フォーミュラリーの目的や必要性

地域フォーミュラリーの目的は、主に2つあります。1つ目は、医療を必要とする地域の患者さまに、治療効果と安全性、費用対効果に優れた医薬品を提供し、地域医療の質を向上させることです。

医薬品は、患者さまの状態に応じて医師が選択するのが原則ですが、国内の処方薬には新薬を含め多種多様な品目があり、その効果、副作用の頻度、薬価などもさまざまです。

そこで、地域の疾病率や医薬品の使用状況から、各地域に最適化した処方のガイドライン=地域フォーミュラリーを作成・運用し、患者さまへの最善の医療提供につなげていくわけです。

2つ目の目的は、医薬品や医療費の効率的な活用です。たとえば、効果や安全性が同等の医薬品がある場合、より薬価の安い後発医薬品を処方推奨薬の第一選択として共有し、膨らみ続ける地域医療費の抑制を促します。

現在、日本のあらゆる地域で高齢化が進み、慢性疾患などに対する継続的な薬物治療を必要とする患者さまが増えています。そうした中、地域フォーミュラリーが「医療費の抑制対策」としての役割を果たすことは、医療の安全性や患者さまへの経済的負担、社会が抱える医療費の増大などの課題解消につながるでしょう。

3.地域フォーミュラリーのメリット

地域フォーミュラリーを作成・運用することは、患者さま、医療機関側、地域社会へのさまざまなメリットにつながります。地域フォーミュラリーの主なメリットについて詳しく見ていきましょう。

3-1.医薬品の標準化

治療効果、安全性、経済効果の高い医薬品を地域全体で共有することで、医薬品の標準化(選択基準の明確化)を推進できます。

これまでは、一つの疾患に対して医療機関ごと、医師ごとに異なる医薬品が処方されていましたが、地域フォーミュラリーに基づいて標準化を促すことで、地域における医療の質の向上や均質化が実現できるでしょう。

3-2.医療費の削減

処方頻度の高い医薬品や、継続投与になることが多い慢性疾患治療薬を地域フォーミュラリーに適用し、より薬価の安い後発品を第一選択として共有することで、地域の医療費を中長期的に削減できます。

特に、先発品と後発品とで薬価の差が大きい医薬品の場合、医療費の削減効果が高いでしょう。

3-3.医療事故の防止

処方薬の品目を減らし、処方を簡略化することで、医療機関における処方ミスを低減できる可能性が高まります。

調剤薬局においても、医薬品の標準化によって取り扱い品目を絞れるため、在庫管理の負担が軽減でき、処方ミスを防ぎやすくなるでしょう。また、処方を受けた患者さまの医薬品管理もシンプルになるため、服用ミスや残薬発生の防止につながります。

3-4.医師との連携強化

地域フォーミュラリーは、地域の医師(会)や薬剤師(会)が、それぞれの知見を持ち寄り、協議や意見交換を重ねながら、作成・運用・管理を進めるものです。薬剤師と医師が協議を重ねたり、地域フォーミュラリーという共通認識を持って医療に従事したりすることで、地域の医療機関や医師、薬剤師の連携はいっそう強化されるでしょう。

また、地域フォーミュラリーで構築した連携体制は、地域医療における多職種連携にも活用できるため、地域全体の医療サービスの向上も期待できます。

急速な高齢化が進む日本では、薬物治療に加え、訪問看護や介護サービス、リハビリなどの医療サービスを同時に必要とする患者さまが増加しています。

地域フォーミュラリーを起点として、地域医療に関わる多職種連携が強化されれば、患者さまにより適切な包括的医療を提供できるでしょう。

多職種連携について、詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

4.地域フォーミュラリーを実施するまでの流れ

地域フォーミュラリーは、公正性や平等性、透明性を確保する必要があるため、導入・実施にあたっては、地域の医療従事者やその他関係者が協働し、十分な議論をおこなうことが求められます。

ここからは、地域フォーミュラリーを実施するまでの大まかな流れを紹介します。

4-1.地域フォーミュラリーの作成・運用の組織をつくる

厚生労働省が公表した「地域フォーミュラリの実施ガイドライン(試案)」によると、地域フォーミュラリーを導入・実施するにあたっては、原案を作成する「作成メンバー」と、地域のステークホルダー(意思決定者)を含めた「委員会などのメンバー」。さらに薬剤師会、医師会などの「管理・運営メンバー」で組織をつくる必要があるとされています。

  • 地域フォーミュラリーの原案を作成する「作成メンバー」
    処方する地域の医師会、薬剤師会、中核病院や主要な病院の医師、薬剤師、内科系部長、薬剤部科長などを中心に、地域フォーミュラリー委員会を組織し、ベースとなる案を決めます。ここでは、地域における地域の疾病率や住人の年齢構成、医薬品の使用状況などを調査し、医学的根拠に基づいて検討することが大事です。なお、詳細な薬剤の比較や具体的な作業などは、専門的な担当薬剤師、担当医師が実施します。
  • 意思決定をする「委員会などのメンバー」
    意思決定においては、地域医療を担うステークホルダーの考え方を広く反映させる必要があります。そのため、地域フォーミュラリー委員会の原案をもとに、地域の医師会や薬剤師会の主要メンバー、行政、地域の保険者などを含めて意見をすり合わせ、公正性、平等性、透明性を可能な限り反映させた意思決定をおこないます。
  • 薬剤師会または医師会を中心とした「管理・運営のメンバー」
    薬剤師会または医師会が中心となって、地域フォーミュラリーを安全に管理・運営するための組織を構成します。地域フォーミュラリーは、一度作成して終わるものではなく常に更新されるため、継続的な組織運営をおこなうための役割分担が重要になります。

    たとえば、地域フォーミュラリーの医薬品に関わる更新資料や比較表の準備は薬剤師(会)、運営の評価は医師(会)といったように役割分担を決め、定期的な会合を通じて円滑な組織運営をおこなうことが望まれます。

参照元:厚生労働省/地域フォーミュラリの実施ガイドライン(試案)
参照元:地域フォーミュラリ作成運営委員会/地域フォーミュラリについて

4-2.対象となる医薬品を選定する

地域フォーミュラリーのリストに、どの医薬品を入れるかを検討します。対象医薬品としては、「慢性疾患をはじめとする日常的疾患に処方される医薬品」が選ばれるのが一般的で、国内の事例ではプロトンポンプ阻害薬(PPI)、α-グルコシダーゼ阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬 (ARB)、スタチンなどが対象となっています。

なお、疾患の罹患率や医薬品の使用状況は地域ごとに異なるため、それぞれの地域で罹患率、使用頻度の傾向などを調査したうえで、適切な対象医薬品を選定することになります。

参照元:厚生労働省/地域フォーミュラリの実施ガイドライン(試案)
参照元:厚生労働省/フォーミュラリの運用について

4-3.地域フォーミュラリーの作成手順

地域フォーミュラリーの作成手順について、厳密な決まりはありません。

しかし、すでに地域フォーミュラリーの普及が進んでいる海外の事例を見ると、①まず同種同効の後発品についての有効性・安全性、価格などの情報収集力に長けた薬剤師が中心となって、ベースとなる資料を作成。②次に検討会や意見交換会を開いて、医師による臨床的な見解を交えながら議論を進める、というのが一般的な流れとなっています。

5.地域フォーミュラリーを継続するためのポイント

地域フォーミュラリーは、一度作成すればそれで良いというわけではなく、常に地域の動向やニーズの変化に対応する必要があります。

地域フォーミュラリーをスムーズに継続していくためのポイントについても、見ていきましょう。

5-1.定期的な見直しと報告が必要

地域医療の状況は、人口構成の変化や新薬の登場、薬価の変動、医療費の改正などによって変化します。

地域フォーミュラリーを安全かつスムーズに継続していくには、地域フォーミュラリーの内容が現場のニーズに合致したものか、実現可能なものかなどについて、随時確認する必要があるでしょう。

また、地域フォーミュラリーに基づいて特定の医薬品に処方を絞ったことで、有害事象の発生率が変化していないか、患者さまからのフィードバックに問題はないかなどにも配慮しなければなりません。問題や今後の課題に気づいたときは、迅速に運営側に報告し、見直しをおこなうことが大切です。

5-2.組織体制の構築

地域フォーミュラリーを実施する際の管理・運営機関は、地元の医師会や薬剤師会が担うのが望ましいとされます。

ただし、地域の医療事情や患者さまからのフィードバックをきめ細かく反映させるためには、地域医療の現場で働く医師、薬剤師の意見を管理・運営機関に報告する体制作りも欠かせません。

そのためには、管理・運営機関を中心に定期的な連絡会、検討会を開催し、地域全体で意見や課題を共有できる組織体制を構築する必要があるでしょう。

5-3.医師と薬剤師間での連携

地域医療に携わる医師と薬剤師間の連携も大切です。医師と薬剤師は、疑義照会などを介したやりとりだけでなく、地域フォーミュラリー関連の連絡会、検討会などを通じて積極的に意見交換をおこない、協力関係を結んでおく必要があります。

地域フォーミュラリーの共通認識のもとで、医師と薬剤師が協力体制を構築すれば、地域医療の質を向上させるだけでなく、有害事象や医療事故の発生防止にも役立つはずです。

6.地域フォーミュラリーでの薬剤師の役割とは

地域フォーミュラリーの作成・運営において、薬剤師が担う役割は非常に大きいといえます。

なぜなら、薬剤師は医薬品の販売状況や特許切れ、薬価改正、新薬に関する情報などの最新情報に精通しているからです。また、薬局窓口での服薬指導やフォローアップなどを介して、患者さまと接する機会も多く、患者さまの生の声を聞ける立場でもあります。

薬剤師には、薬剤師ならではの知見や臨床経験を生かして、地域フォーミュラリーの作成・見直しに、積極的に関わっていくことが求められるでしょう。

参照元:地域フォーミュラリ作成運営委員会/地域フォーミュラリについて

7.まとめ

地域フォーミュラリーとは、医療を必要とする地域の患者さまに、治療効果と安全性かつ費用対効果に優れた医薬品を提供し、地域医療の質を向上することを目指した医薬品の使用方針です。

地域フォーミュラリーは、地域医療に関わる医師(会)や薬剤師(会)などが、地域の疾病率、医薬品の使用状況などを加味して作成し、選定した処方推奨薬を地域全体で共有・活用します。

効果や安全性が同等の医薬品がある場合、原則として後発医薬品が採用されるため、地域フォーミュラリーは、地域における医療費の削減に貢献する施策としても期待されています。

地域フォーミュラリーの作成や適切な運用にあたっては、医薬品の専門家である薬剤師の積極的な関わりが必要不可欠です。薬剤師ならではの専門的な知見と臨床経験を生かして、地域フォーミュラリーの普及に貢献しましょう。

この記事の著者

医学博士、医学研究者

榎本 蒼子

最終学歴は京都府立医科大学大学院医学研究科博士課程卒業。2011~2015年 京都府立医科大学にて助教を勤め、医学研究および医学教育に従事。

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