お薬手帳の必要性とは?電子版お薬手帳のメリット・デメリットも紹介

お薬手帳の必要性とは?電子版お薬手帳のメリット・デメリットも紹介

近年、薬局窓口での処方の際、持参を確認するのが定着化しつつある「お薬手帳」

最近の例では、新型コロナワクチンを接種する時に、持っている方は「お薬手帳」をお持ちくださいという案内があるなど、患者さんの生活にもとても身近なものになっています。
アレルギー歴、抗血栓薬や普段処方されている薬などを確認するのに、お薬手帳の有用性が示された良い例と言えます。

しかし、患者さんの中には、「お薬手帳は、薬局に持参すると、薬品名や用法用量、投与日数などが記載されたシールを貼ってくれる、単なる記録」と思っている方もおり、複数のお薬手帳を持っている方も少なくありません。

お薬手帳は継続的に使用することで、薬の相互作用や重複処方のチェックをはじめ、適切な薬物療法を行うために必要な情報が積み重ねられていきます。
そのようなお薬手帳の本来の目的を、患者さんに分かりやすく説明するのも薬剤師としての役割になります。

ここでは、お薬手帳の必要性や、増えてきた電子版お薬手帳について、それぞれのメリットやデメリットを、詳しく紹介します。

1.お薬手帳とは?

「お薬手帳」とは、いつ、どこで、どのような薬を処方されたか、医薬品名とその用法・用量、投与日数などが、経時的に記載された手帳です。

紙版の手帳だけでなく、スマートフォンのアプリを使用した「電子版お薬手帳」の導入もすすめられています。
お薬手帳には、どのような目的や意義があるのでしょうか。お薬手帳が生まれた経緯から紐解きます。

参照元:公益社団法人 日本薬剤師会/電子版お薬手帳の現状と課題

1-1.お薬手帳の導入

お薬手帳導入のきっかけは、1993年「ソリブジン事件」です。
抗がん剤を服用している患者さんが、別の病院から処方された新薬の抗ウイルス薬を併用し、相互作用により15名の死者が出た事件です。

両薬剤の相互作用は、不十分ではあったものの添付文書に明記されており、処方が確認できていれば未然に防げた可能性がありました。

これをきっかけに、処方医、薬局、患者さん自身が、処方された薬の履歴を管理することの重要性が認識され「お薬手帳」が導入されることになりました。

参照元:医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団/行政担当者から見たソリブジン事件

また、1995年阪神・淡路大震災では、お薬手帳に基づいて慢性疾患の薬を処方してもらえるなど、必要性が認知され普及するようになり、2000年には診療報酬上で評価されいっそう活用がすすめられるようになりました。

1-2.お薬手帳の二つの意義

お薬手帳は、「患者さん」と「医療関係者」の双方が、それぞれの立場で活用して、患者さんの薬物療法を管理するためにあります。

1-2-1.患者さんが活用する意義

お薬手帳は、患者さんが、自分の使用している医薬品について、いつ、どこで、何のために、何を処方されたか把握するためにあります。

ただ、薬局で記載(貼付)する処方の記録にとどまらず、患者さんが服用した時に気づいた効果や副作用、服用したかどうかなどをご本人に記入いただいたり、市販薬やサプリメントなどの使用も記録いただくと、医療関係者への情報提供になり、薬物療法に役立つことがあります。

1-2-2.処方医や薬局が活用する意義

複数の医療機関の医師や薬局の薬剤師が、患者さんのお薬手帳を見ることで、各医療機関の処方を一元的かつ経時的に管理することができ、薬の相互作用のチェックや重複投与の防止残薬調整など、医薬品のより安全で有効な薬物療法につなげることができます。

1-3.お薬手帳の記載事項

お薬手帳には、患者さんがご自身の基本情報普段利用する薬局名・薬剤師名を記載するようになっています。

もし記載していなければ、記入をご案内しましょう。

調剤する薬局では、処方箋に従い薬物療法の情報を時系列に貼付または記載します。

また、市販薬やサプリメントなどは、できるだけ患者さんに記載いただけるようご案内しましょう。

記載する項目は以下の通りです。

記載事項① 患者さんの基本情報
  • 患者さんのお名前
  • 性別
  • 生年月日
  • 住所
  • 電話番号
  • 血液型
  • 主な既往歴
  • 副作用歴(薬品名)
  • アレルギー(薬、花粉症、食べ物など)
記載事項② お薬に関する情報
  • 調剤日
  • 処方箋発行機関
  • 処方医師名
  • 医薬品名(規格)
  • 用法・用量
  • 投与日数
  • 調剤した薬局名、薬剤師名

参照元:厚生労働省/剤報酬点数表に関する事項

2.お薬手帳はなぜ必要?メリットは?

お薬手帳はなぜ必要?メリットは?お薬手帳は、患者さんにとっても医師や薬剤師にとっても必要な、大事な薬物療法の管理ツールとなりました。

活用すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。
既にご存知の方も多いと思いますが、患者さん目線のメリットも伝えられるように、もう一度おさらいしてみましょう。

2.1.薬剤師・病院間の連携がスムーズになる

お薬手帳を見れば、患者さんの薬物療法の履歴が分かります。

薬物療法の履歴は、処方薬から推察される患者さんの既往歴でもあります。

患者さんが、ご自分の病気や薬のことを必ずしも理解しているとは限らず、お薬手帳から推測されることと食い違いがある場合には、お薬手帳を元に処方医や調剤薬局に問い合わせをすることが可能です。

患者さんの薬物療法の管理には、病薬連携、薬薬連携が重要であり、お薬手帳はその仲介役としての使命があります。

2.2.薬の重複やアレルギー反応の防止につながる

① 薬の重複防止

薬の重複には、まったく同じ成分の場合と、薬自体は違うものの作用が同じ場合とがあります。

いずれも重複して服用すれば過量になり副作用発現の可能性が高くなるため、どちらかを中止、あるいは切り替える必要があります。

また、降圧剤などの場合には、効果が不十分で同じ薬が追加される場合もあります。

いずれにせよ、患者さんに適切に服用してもらうために、お薬手帳は重要な役割があります。

②薬の相互作用のチェック

前出の「ソリブジン事件」にあるように、薬の相互作用チェックはお薬手帳の存在価値の多くの部分を占めています。

併用禁止はもちろん、併用すると副作用発現や効果減弱の可能性がある薬が処方されていれば、中止あるいは服用時間をずらすなど、患者さんへの説明が必要です。

お薬手帳は相互作用のチェックのために、医師・薬剤師にとって重要なツールです。

③アレルギー反応のチェック

アレルギー反応には、アナフィラキシーなど命にかかわる重篤な状態になる症状もあります。

お薬手帳に、過去にアレルギーが起こった薬品名や食品の記載があれば、処方中止や薬の変更でアレルギー反応を未然に防ぐことができます。

2-3.患者さんご自身の負担金額が安くなる場合も

「薬剤服用歴管理指導料」の算定条件には、薬剤服用歴(薬歴)の記録、薬歴による相互作用や重複のチェック、処方箋受付時に、患者さんの体質や疾患、併用薬、体調などの聴き取りをしたうえでの調剤、薬剤情報提供書を使用した服薬指導などの他にも多くの条件があります。

そのうえで、患者さんがお薬手帳を持参しているか否か、同じ薬局に3ヵ月以内に処方箋を持参しているか否かで、算定される点数が異なります。
お薬手帳にかかる点数(1点10円、保険診療では3割等で計算)を照会します。

下記の場合、保険薬局の処方箋では57点が算定されます。

  1. 始めて持参した場合
  2. 一つの薬局に対し3ヵ月を超えて持参した場合
  3. 3ヵ月以内でも手帳を持参しない場合

最も安くなるのは、一つの薬局に3ヵ月以内にお薬手帳を持って処方箋を持参した場合で、43点の算定になります(下表)。14点の差があるので、3割負担の場合、お薬手帳の持参で42円安くなります。

来局の状況 手帳 点数
3ヵ月以内に再度 あり 43点
なし 57点
初めて または 3ヵ月を超えた場合 あり
なし

参照元:厚生労働省保険局医療課/令和2年度診療報酬改定の概要(調剤)

もし保険薬局の窓口で聞かれた場合は、診療明細の「薬剤服用歴管理指導料」の項目をお見せしながら、診療報酬の点数に加算についてご説明しても良いかもしれません。

3.病院・薬局ごとにお薬手帳がある場合の対処法

病院・薬局ごとにお薬手帳がある場合の対処法

お薬手帳は、「患者の薬剤服用歴その他の情報を一元的かつ経時的に管理できる手帳」と定義されています。

医療機関や薬局ごとに、別々のお薬手帳を使っていると、重複や相互作用のチェックができず、一元的な管理とはいえませんし、病気や薬物療法の流れが見えず、時系列の管理とはいえません。

もし、患者さんが複数冊のお薬手帳を使っている場合には、一冊にする必要性を説明し、患者さんに一冊お薬手帳を決めていただき、常に携帯するように伝えましょう。

2020年の診療報酬改定に伴い、2021年4月より、お薬手帳にいつも利用する薬局の名前を、患者さんに記載してもらうことになりました。

これは、患者さんが、かかりつけの薬局を決めることで、薬局は一元的な管理につなげることができ、また薬局間や医療機関と薬局で、患者さんの情報共有や問い合わせをする上で、スムーズな連携が築けることを期待した取り組みです。

4.電子版おくすり手帳のメリット

電子版お薬手帳は、スマーフォンのアプリを利用し、お薬の情報をクラウドで保管し、患者さん本人だけでなく、どこの薬局や医療機関でも閲覧できるものです。

ほとんどの方が肌身離さず携帯するスマートフォンに、薬の情報が入っていれば利用できるのではないか、ということから誕生したといわれています。電子版にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

4-1.一括で管理ができる

スマートフォンにダウンロードした電子版お薬手帳のアプリに、薬の情報をすべて登録することで、どこの薬局や医療機関でも一括して管理することができます。

紙の手帳の場合には、あまり古い情報は見ることができませんが、電子版お薬手帳の容量は大きいため、何年分も保存閲覧することができ、患者さんに寄り添った服薬指導を継続して行うことができます。

4-2.手帳の紛失や持ち忘れを防止できる

紙のお薬手帳は、久しぶりの受診で紛失したり、持ってくるのを忘れたという患者さんも少なくないでしょう。

一方、スマートフォンにダウンロードした電子版お薬手帳であれば、紛失や持ってくるのを忘れたという状況は少なくなることでしょう。

紙のお薬手帳と同様の機能があるアプリであれば、薬局でも「お薬手帳の持参」として算定出来るようになります。

4-3.情報の管理がしやすくなる

電子版お薬手帳のアプリでは、家族全員のデータを登録することができます。

また、検索機能を使うことで患者さんご自身が服用している薬や最近の薬のデータをまとめて見ることなどもできます。

手入力で、市販薬やサプリメントを入力することができ、情報の管理が簡単にできるメリットがあります。

電子版お薬手帳のアプリには、飲み忘れ防止や受診予約のスケジューラーなど便利な機能も搭載されているものもあるため、医療に関する情報の管理が一つにまとめられます。

4-4.救急などの緊急事態にも安心できる

救急や災害などにも、活用が期待されるのが電子版お薬手帳です。

外出先での事故や病気、避難所生活などでも、電子版お薬手帳であれば、いつも使用している薬の確認や、アレルギー情報、副作用歴なども、医療従事者が確認することができます。

5.電子版お薬手帳のデメリット

電子版お薬手帳のデメリットについて考えていきましょう。

5-1.電子機器が苦手な方には利用しづらい

高齢者など、スマートフォンが苦手な方には操作が難しく、薬の情報の登録や呼び出しは、自分ではできないかもしれません。

紙の手帳であれば、一目瞭然で分かりやすく、また自由に書き込めるのも便利でしょう。

そういう方の場合には、家族の方が登録しておくこともできますが、患者さんが使いやすい方を選んでいただくのが一番です。

5-2.セキュリティの確保や災害時の対応に課題がある

電子版お薬手帳では、薬局から薬の情報の入ったQRコードをもらい、自分のスマートフォンのアプリに登録します。

このデータをクラウドに預けることで、薬局や医療機関とも同期して閲覧することができます。

その際、誰にでも見られてしまうのではと心配される患者さんもいるかもしれません。

たとえば、日本薬剤師会の「eお薬手帳」では、患者さんが発行したワンタイムパスワードを薬局が入力することで閲覧できるなど、セキュリティ対策を講じているアプリもあります。

また、災害時には、スマートフォンを含め閲覧するデバイスの電源の確保、お薬の情報を預かっているインターネットサーバーの被害などが課題となっています。

今後、2023年を目処に電子処方箋の導入も決まっており、更なる対応が期待されます。

5.3.アプリによって機能や仕様が異なる

電子版お薬手帳は、多くの会社が参入しており、その仕様やフォーマットも異なるものがあります。

そのため、患者さんのお薬のデータを閲覧できず、一括管理できないこともありえます。

その対策として、保健医療福祉情報システム工業(JAHIS)による「JAHIS電子版お薬手帳データフォーマット仕様書」(2022年4月現在Ver.2.4)が、2012年に標準として公開されました。

その後、診療報酬上算定できるような仕様や、患者さんのスマートフォンの画面を見ずとも、薬局のパソコン画面で共有できるようになるなど、バージョンアップが続けられています。

すべての医療機関や薬局で、必要な情報が得られる機能や、統一した仕様のシステム構築が今後の課題となっています。

6.まとめ

お薬手帳は、患者さんご自身と医師・薬剤師が、患者さんの薬物療法を把握し、一元的かつ継続的に管理するためのツールとして重要な役割があります。

一冊のお薬手帳から、過去を含め現在の薬の重複処方や相互作用のチェック、アレルギーや副作用予防など、適切な薬物療法を行うためのさまざまな情報を得ることができます。

常に携帯する必要性や、災害時や緊急時の活用、一元的な管理を目的として、スマートフォンアプリを利用した電子版お薬手帳も普及しつつあります。

従来の紙版のお薬手帳と電子版お薬手帳には、それぞれメリットとデメリットがあることを踏まえたうえで、患者さんが使いやすいことを第一に、お薬手帳について説明が出来るようにしておきましょう。

この記事の著者

薬剤師・ライター

小谷 敦子

病院・調剤薬局薬剤師を経て、医療用医薬品専門の広告代理店・制作会社に所属し、販促資材やMR教育資材、患者向け冊子などの執筆に従事。
専門医インタビューによる疾患や治療の解説などを、クリニックHP上に掲載するなどの執筆活動も行っている。

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