薬剤官の仕事とは?薬剤師が自衛隊で働くために必要なこと

薬剤官の仕事とは?薬剤師が自衛隊で働くために必要なこと

薬剤師が働く場はたくさんありますが、一般的には病院の薬剤部や調剤薬局で働くことが多いでしょう。もちろん薬剤師の国家資格を持っていても直接的には使わずに、製薬会社の研究開発などで活躍している方もいます。

薬剤官という職種はあまり知られていないかもしれません。非常に人数が少ないこともその理由のひとつでしょう。薬剤官は薬剤師の資格を発揮しつつ、かつ自衛官としても国の平和や、国民の健康に寄与する二刀流の職業です。

ここでは、薬剤官の仕事内容や、薬剤官になるための道のりなどについてご紹介します。

1.薬剤官とは?主な仕事内容

「薬剤官」という職種について、その役割と仕事の内容を説明していきましょう。

1-1.薬剤官とは

薬剤官とは自衛隊に所属する薬剤師のことをいいます。つまり薬剤官は自衛官でもあるのです。そのため、薬剤師であるということに加え、災害派遣や国際平和協力活動など自衛隊の一員としての役割も担っています。

しかも、薬剤官は「薬剤科幹部候補生」として自衛隊に入隊し、1年間幹部候補生として教育を受けたのち、陸・海・空のいずれかの自衛隊の衛生分野の幹部自衛官になります。そのため、部隊を指揮したり、指揮官を補佐する幕僚としての任務も求められます。

薬剤官の職場としては、自衛隊病院や駐屯地の薬剤科、自衛隊病院や駐屯地などへの医薬品・衛生材料などの補給をおこなう組織、衛生学校の教官、野外での病院開設に携わる衛生部隊などさまざまな配属先があります。

参照元:防衛省・自衛隊/幹部候補生等採用案内
防衛省・自衛隊/自衛隊幹部候補生とは

1-2.薬剤官の仕事内容

薬剤官の仕事には、大きく分けていわゆる薬剤師の仕事と、自衛隊の一員としての仕事や、衛生分野の幹部自衛官としての仕事があります。

  • 薬剤師の仕事
  • 薬剤師としての仕事は、配属された自衛隊病院の薬局や駐屯地の医務室で、調剤や服薬指導、医薬品や衛生資材の調達・管理など、一般の病院の薬剤師と同じ業務をおこなうと考えて良いでしょう。自衛隊員が任務を遂行するための健康診断や身体検査を含め、健康管理全般を担っています。

    自衛隊病院には、自衛隊中央病院および15の自衛隊地区病院がありますが、患者さまは、通常は自衛隊員とその家族であり、一部の自衛隊病院では一般の患者さまの診療もおこなっています。

    また、例えば海上自衛隊の薬剤官は、航海中の自衛隊員の健康管理や医薬品の調達など、船内や寄港地など異なる現場での仕事もあります。

  • 衛生隊員としての仕事
  • 薬剤官には、衛生隊員として自衛隊の医薬品の管理、調達、補給をする任務があります。

    平時から有事や災害時を見据えた訓練を受け、こうした事態において自衛隊員が必要とする防護衣やマスク、医薬品や衛生資材など必要な物資を滞りなく調達し補給する仕事は、被災地を裏側から支援する大切な仕事です。

    参照元:陸上自衛 隊関東補給処用賀支処長兼用賀駐屯地司令 渡邉好章/自衛隊薬剤官と国際貢献活動 3.薬剤官の勤務 補給 統制本部・補給処

  • 幹部自衛官としての仕事
  • 災害派遣や国際貢献活動において、医療支援の中心となる衛生部隊の指揮官や指揮官を補佐する幕僚の任務があります。

    参照元:陸上自衛 隊関東補給処用賀支処長兼用賀駐屯地司令 渡邉好章/自衛隊薬剤官と国際貢献活動 3.薬剤官の勤務 衛生科部隊

  • その他
  • 衛生行政機関における薬務行政、陸上自衛隊学校の教官や研究員なども薬剤官の仕事です。

参照元:陸上自衛 隊関東補給処用賀支処長兼用賀駐屯地司令 渡邉好章/自衛隊薬剤官と国際貢献活動 3.薬剤官の勤務 衛生行政機関、陸上自衛隊衛生学校

2.薬剤官の年収や福利厚生

薬剤官の年収や福利厚生について紹介します。

  • 薬剤官の年収
  • 薬剤官の年収は公表されていませんが、自衛隊幹部候補生の募集要項の俸給によると、

    その他、住居手当、扶養手当、通勤手当、各所属自衛隊により航空手当、乗組手当、航海手当や、勤務地によって地域手当などが支給されます。

    俸給の月額は、防衛省の職員等に関する法律で定められていて、変更になる場合もありますが、薬剤官は特別職国家公務員として安定した身分が保障されていると考えて良いでしょう。

  • 福利厚生
  • 薬剤官の福利厚生は、団体保険制度や防衛省生活協同組合などの保険制度、市中銀行よりも有利な貯金制度や貸付事業、年金制度、住居などが完備されています。また、有給休暇や、夏季・年末年始・育児などの休暇も取得できます。

    その他、宿泊やスポーツ施設のある防衛省共済組合施設や、提携した各種リゾートなどの優待も受けられるなど、充実した福利厚生が受けられます。

参照元:防衛省・自衛隊/自衛隊幹部候補生とは
e-Gov法令検索/防衛省の職員の給与等に関する法律
防衛省・自衛隊/自衛隊総合採用案内

3.薬剤官に必要なスキル

薬剤官は自衛官と薬剤師の二つの顔をもった、いわゆる二刀流ということになります。

二刀流を使いこなすために、薬剤師の顔としては、医薬品や薬物療法の専門知識と、患者さまや他の職種とのコミュニケーション能力が要求されることはもちろんです。一方、幹部自衛官としての顔には、どのようなスキルが必要でしょうか。

3-1.的確な判断力

薬剤官は衛生分野の幹部自衛官という身分であるため、どのような状況においても、指揮官や幕僚として部隊を指揮する上で冷静かつ的確な判断力が必要です。

また、平時においても、医薬品や医療材料などを調達し全国の自衛隊病院や駐屯地に配布する衛生分野の任務では、災害の季節性や感染症の世界的な発生状況などを把握しつつ、使用期限を考慮し適切かつ無駄が出ない量を判断する能力が必要です。

3-2.臨機応変な対応力

薬剤官は自衛隊員の健康を守り、切れ目のない医療を提供するための医療資源の確保や備蓄、配布する衛生機能を、滞りなく遂行できる臨機応変な対応力が必要です。

その理由は、災害大国である日本では、台風や水害、大地震のなどの大規模災害の発生頻度が増し、国際平和協力活動のニーズも増えており、自衛隊に求められる任務が多様化しています。

例えば、新型コロナウイルス感染症の流行に対しても、自衛隊の活躍は記憶に新しいところです。令和3年の防衛白書でも、今後衛生機能の強化と充実に言及されており、薬剤官の臨機応変な対応力が期待されるところです。

参照元:防衛省・自衛隊/各種事態における衛生機能の強化

4.薬剤官になるメリット

薬剤師と自衛官の二刀流の薬剤官ですが、薬剤官という職業を選ぶことにはどのようなメリットがあるのでしょうか。

4-1.さまざまな経験が積める

薬剤官は、薬剤師としての知識や技術を活かしながら、自衛官でなければできないさまざまな経験が積めることがメリットです。

  • 災害派遣
  • 自衛官の使命の一つに災害派遣がありますが、自然災害や有事の際には被災地で、人命救助や被災者の生活支援、復興支援に携わることができます。

    こうした事態には、日本赤十字病院を含め一般の病院やボランティアの薬剤師が赴くこともありますが、薬剤官は常に災害派遣計画に基づいた訓練や準備をおこなっているため、組織の中で災害への迅速な対応を経験することができます。

  • 海外平和協力活動への参加
  • 自衛隊のもう一つの使命である、海外平和協力活動などでは、自衛隊員と共に海外に派遣されることがあります。薬剤官は派遣先において隊員の健康管理を担い、必要な衛生資材の供給など、特別な環境で経験を積むことができます。

参照元:防衛省・自衛隊/幹部候補生等採用案内

4-2.福利厚生が充実している

薬剤官にとって、福利厚生が充実していることは、自衛官としてのメリットです。薬剤官にも自衛隊員の一人として、特別職国家公務員という身分を与えられ、給与だけでなく、防衛省独自の保険制度や共済制度、その他の住居手当や扶養手当など各種の手当てや福利厚生が充実しています。

参照元:防衛省・自衛隊/自衛隊総合採用案内

5.薬剤官のデメリット

薬剤官は、薬物療法のスペシャリストとして日々研鑽を積むことが必要であり、かつ自衛官としての意識と体力が要求されるため、人によってはデメリットと感じる部分があるでしょう。

では、どんなことがデメリットになりうるでしょうか。

  • 体力面や精神面のデメリット
  • 自衛官でもあるため、例えば被災地では他の自衛隊員と一緒に被災者の生活支援や復興支援の活動に参加する必要があります。災害派遣の経験を積めるメリット以上に、体力的にも精神的にも厳しい状況での活動になることは、体力に自信がない方にはデメリットと言えるでしょう。ただ、入隊直後の幹部候補生学校では体力錬成があり、最初はつらいものの、徐々に体力がついてくることが期待できます。

  • 勤務地のデメリット
  • 薬剤官にも、全国各地の自衛隊病院や駐屯地への転勤があります。また、被災地への派遣や所属する自衛隊によっては海外派遣もあります。こうした自分が望まない形での転勤や派遣は、人によってはデメリットと言えます。

  • プライベートの過ごし方のデメリット
  • プライベートの過ごし方に対して、デメリットを感じることがあるかもしれません。自衛隊病院や駐屯地では、当直や休日出勤があり、完全な週休二日は望めないことや、発災にともない緊急に被災地へ派遣されることで、予定の変更を余儀なくされることがあります。

    また、海外旅行は申請が必要で、災害や有事に備えて休日でも連絡が取れるようにしておかなければならないため、プライベートを制限されていると感じる方もいるでしょう。

    ただ、自衛隊においても働き方改革がすすめられ、ワーク・ライフ・バランスが重視されるようになり、休暇や福利厚生、家族支援などが充実してきています。

参照元:防衛省・自衛隊/自衛隊総合採用案内

6.薬剤官になるには

薬剤官になるためにはどのような準備が必要なのでしょうか。受験までの流れや応募資格、受験内容そして入隊後の流れについて説明します。

6-1.薬剤官になるまでの流れ

薬剤官になるまでのステップの大きな流れは次の通りです。

  1. 自衛隊や陸・海・空の種目について知る
  2. 受験するためには、陸・海・空の中から一つ選んで応募します。入隊後の変更はできないため、日本全国各地のカレッジリクルーターに相談して話を聞いたり、募集案内・採用要項を調べて十分に検討します。

  3. 志願票・受験票の提出
  4. 薬剤科幹部候補生の募集は毎年3~5月に出ます。「自衛隊歯科・薬剤科幹部候補生採用要項」をよく読み、志願票と自衛隊受験票を受付期間内に、希望する自衛隊に提出します。インターネットを利用して送信する方法と、最寄りの自衛隊地方協力本部に持参又は送付する方法があります。

  5. 受験および合格発表
  6. 受験機会は2回ありますが、1回目と2回目は同一区分(陸・海・空)の自衛隊を受験することはできません。
    受験は、1次試験と2次試験があります。最終的な合格発表は第1回受験者が7月ごろ、第2回受験者が9月ごろです。

  7. 入隊、入校と薬剤師国家試験
  8. 受験翌年の3月下旬〜4月上旬に入隊します。入隊後、薬剤科幹部候補生学校に入校するまでに、大学の薬学部を卒業し薬剤師国家試験に合格しておく必要があります。

参照元:防衛省・自衛隊/自衛隊幹部候補生
防衛省/自衛隊歯科・薬剤科幹部候補生採用要項

6-2.自衛隊歯科・薬剤科幹部候補生採用要項

入隊予定年の4月1日現在、20歳以上28歳未満で、次の①〜③のいずれかに該当することが応募資格です。

6年制の薬学課程を修めて卒業(入隊予定年3月卒業見込みを含む。) 入校日までに薬剤師国家試験に合格
外国の薬学校を卒業又は外国の薬剤師免許を受けた者 厚生労働大臣が①に掲げる者と同等以上の学力及び技能を有すると認定
平成18年度~29年度までの間に4年制の薬学課程を修めて卒業
かつ、大学院において薬学の修士又は博士課程を修了

参照元:防衛省/自衛隊歯科・薬剤科幹部候補生採用要項

6-3.受験内容

薬剤科幹部候補生試験は、異なる自衛隊について2回受験する機会があります。それぞれに1次試験と2次試験があります。それぞれの試験科目について説明していきましょう。

6-3-1.一次試験

一次試験は筆記試験です。一般教養と専門分野の試験があります。一般教養には、第Ⅰ分野(人文科学、社会科学、自然科学及び英語)と、第Ⅱ分野(文章理解、数的推理、判断推理及び資料解釈)があり、質問に対する答えを選択する択一式です。

専門分野は、薬学に関する問題で択一式と記述式があります。過去問題が発表されているので、利用するのも良いでしょう。

一次試験に合格した方は、大学又は大学院の卒業等(いずれも見込みを含む。)証明書及び同成績証明書を提出しておきます。

参照元:防衛省/自衛隊歯科・薬剤科幹部候補生採用要項

6-3-2.二次試験

二次試験は、小論文試験と口述試験、身体検査があります。小論文試験の過去問題も発表されているので、利用するのも良いでしょう。

身体検査は身長、体重、視力、聴力、色覚、歯でそれぞれ合格基準があります。また、身体健全であること、慢性疾患や感染症に罹患していない、四肢関節などに異常がない、開腹手術の既往がない、刺青や自殺企図の既往がない、妊娠していない、精神疾患に罹患していないなどの条件が必要です。

参照元:防衛省/自衛隊歯科・薬剤科幹部候補生採用要項

6-3-3.入隊後の流れ

受験翌年の3月末〜4月上旬が入隊の時期です。入隊後、各自衛隊の薬剤科幹部候補生学校に入校し初級教育がおこなわれます。入校期間は自衛隊ごとに異なり、陸上自衛隊は約39週間、海上自衛隊は約1年間、航空自衛隊は約34週間です。

ここでは、初級幹部としての必要な知識と技能を学び、自衛隊員と同じ行軍訓練などの体力錬成もあり、幹部としての資質を養います。海上自衛隊では、さらに約6ヵ月間の海上実習で、船乗りの基本訓練がおこなわれます。

薬剤科幹部候補生学校を修了後、原則として自衛隊中央病院で約1年間、陸海空合同で薬剤実務研修があり、臨床薬学に関する実習及び講義を受けます。
その後、各自衛隊の衛生分野の薬剤官としての勤務がはじまります。

参照元:防衛省/自衛隊歯科・薬剤科幹部候補生採用要項
星薬科大学/国家公務員・地方公務員
防衛庁/薬剤実務研修に関する訓令

7.まとめ

薬剤官という職種について、薬剤官でなければできない経験や充実した福利厚生があることなどを解説してきました。しかし、薬剤官は募集期間が短く、年齢制限や応募資格も限られており、一般的な転職先とは異なるかもしれません。

ただ、自衛官との二刀流で活躍する薬剤師がいるということは、これから転職を考える時の、一つの道しるべになるのではないでしょうか。例えば薬剤官でなくても、ボランティアなどで災害協力ができるかもしれません。薬剤師にもいろいろな活躍の場があることを知ることは、自分がどんな職場で働きたいのか見つめ直すことにつながります。転職先に迷った時には薬剤師専任のキャリアアドバイザーとの面談で、いろいろな自分の可能性に気づき、一歩踏み出すきっかけを作ることができるでしょう。

この記事の著者

薬剤師・ライター

小谷 敦子

病院・調剤薬局薬剤師を経て、医療用医薬品専門の広告代理店・制作会社に所属し、販促資材やMR教育資材、患者向け冊子などの執筆に従事。
専門医インタビューによる疾患や治療の解説などを、クリニックHP上に掲載するなどの執筆活動も行っている。

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