ブラウンバッグ運動とは?取り組み内容やメリットについて詳しく解説

ブラウンバッグ運動とは?取り組み内容やメリットについて詳しく解説

昔にアメリカで始まったブラウンバッグ運動をご存じでしょうか?

ブラウンバッグ運動は、服薬中の薬や所有している残薬を薬局に持ってきてもらうことで、薬剤管理を適正化する取り組みです。

日本ではまだまだ知られていませんが、徐々に日本でも推進されています。

ここでは、ブラウンバッグ運動の内容や日本でおこなわれている取り組み、メリットなどについて解説します。

ブラウンバッグ運動における薬剤師の役割や気を付けるポイントについても、解説しているのでぜひご覧ください。

参照元:日本薬学会 機関誌「ファルマシア」Vol.50 No.8/薬薬連携 つながる病院・薬局「第6回 福岡 節薬バッグ運動
岡山県 医療推進課/ブラウンバッグ運動について

1.ブラウンバッグ運動とは?

ブラウンバッグ運動とは、アメリカで始まった薬剤管理を適正化する取り組みのことです。

患者さまが持っている薬剤を薬局に持参して、薬剤師が服薬状況を確認したり、薬剤同士の相互作用を確認したりします。

ブラウンバッグ運動をおこなうことにより、薬剤の飲み忘れや複数の医療機関を受診することによる重複投与などを防ぐことが可能です。

ブラウンバッグという名前は、アメリカで運動が始まった当初、茶色い紙袋に薬を入れて薬局に持ってきていたことに由来しています。

2.どのような取り組みがおこなわれている?

日本では、まだまだブラウンバッグ運動は浸透していません。一方で、ブラウンバッグ運動を推進するために、さまざまな取り組みがおこなわれています。

岡山県では2019年にブラウンバッグ運動の普及に向けて、県薬剤師会や県医師会などと連携して、実証実験を実施されました。

実証実験では、47箇所の薬局でブラウンバッグを1,800枚配布し、残薬や市販薬、サプリメントなどを薬局に持ってくるよう呼びかけています。

その結果、参加した薬局の約6割が「残薬整理を積極的に進めることにつながった」と評価したとのことです。

さらに、岡山県では2019年の実証実験の成果を受けて、令和2年11月から令和3年3月まで、追加で実証実験をおこないました。

また、岡山県以外にも茨城県や福岡県などさまざまな地域で、ブラウンバッグ運動が推進されています。

このように日本でも徐々に、ブラウンバッグ運動を推進するための取り組みがおこなわれており、身近になる日は近いかもしれません。

参照元:山陽新聞/残薬解消へブラウンバッグ運動 岡山県内薬局で取り組み拡大
岡山県 医療推進課/ブラウンバッグ運動について
公益財団法人 一般用医薬品セルフメディケーション振興財団/処方薬とOTC薬の併用に関する実態調査

3.ブラウンバッグ運動が推奨された背景

ブラウンバッグ運動が推奨された背景には、残薬問題があります。残薬とは、処方された薬剤を飲み忘れたり、途中で飲むのをやめたりして残った薬剤のことです。

残薬問題は大きく、2008年に発表された日本薬剤師会の資料によると、75歳以上の在宅患者における残薬は年間約500億円に達すると報告されています。

高齢化が進み、医療費の増加が問題となっている日本において、残薬による医療費の圧迫は大きな問題です。このような背景を改善する策として、ブラウンバッグ運動が推奨されています。

実際に、1997年にアメリカでおこなわれた研究によると、ブラウンバッグ運動により、医療費の抑制につながりました。

参照元:日本薬学会 機関誌「ファルマシア」Vol.50 No.8/薬薬連携 つながる病院・薬局「第6回 福岡 節薬バッグ運動
日本薬剤師会/進化する”街の科学者”薬剤師

4.ブラウンバッグ運動のメリット

ブラウンバッグ運動には、大きく3つのメリットがあります。各メリットについて詳しく見ていきましょう。

4-1.医療費の削減効果がある

日本では医療費の増加が問題となっていますが、ブラウンバッグ運動により医療費の削減効果が期待できます。

ブラウンバッグ運動では、患者さまに自宅にある残薬を持ってきてもらい、残薬を調整したり、服薬を整理したりすることが可能です。

薬剤管理が適正化されるため、残薬の解消や複数の医療機関を受診したことによる重複処方の改善などにつながり、医療費の削減になります。

2012年に福岡県でおこなわれたブラウンバッグ運動の調査では、3ヶ月間で702,694円の削減効果があったと報告されています。

この結果を全国レベルに反映すると、削減効果は約3,300億円以上になるとのことです。上記の調査結果から、ブラウンバッグ運動は日本の医療費を削減する効果が期待できます。

参照元:日本薬学会 機関誌「ファルマシア」Vol.50 No.8/薬薬連携 つながる病院・薬局「第6回 福岡 節薬バッグ運動

4-2.適正処方につながる

ブラウンバッグ運動は、薬剤の適正処方につながります。高齢になると比較的、処方される薬剤が多くなり、多剤服用や多剤併用による薬物の有害事象につながる可能性が懸念されます。

また、処方されている薬剤に加えて、市販の薬剤やサプリメントを個人の判断で服用している方も少なくありません。

ブラウンバッグ運動では、薬剤師が服用中の薬剤をすべて確認するため、薬物による副作用や相互作用などの危険性の早期発見につながります。

患者さまの服薬状況を把握して、有害事象の早期発見ができるようになるため、医師と情報を共有し、適正な処方の実現が可能です。

4-3.服薬アドヒアランスの向上につながる

ブラウンバッグ運動は、服薬アドヒアランスの向上につながります。

服薬アドヒアランスとは、患者さまが病気を受け入れて、積極的に薬剤を用いた治療を受けることを意味する言葉です。

治療に有効な薬剤が処方されていても、患者さまが納得しておらず、処方どおりに服用していなければ、十分な効果は得られません。

そのため、服薬アドヒアランスの向上は適切な薬物治療をおこなう上で、欠かせないといえるでしょう。

ブラウンバッグ運動では、薬剤師が服薬状況の確認や薬剤の説明、飲み忘れを防ぐ工夫などを説明します。

これにより服薬アドヒアランスが向上して、適切な薬物治療の実現につながるわけです。

参照元:厚生労働省/薬局・薬剤師のあり方、医薬品の安全な入手

5.ブラウンバッグ運動の薬剤師の役割は?

ブラウンバッグ運動では、薬剤師の存在が大きな鍵となります。ブラウンバッグ運動における薬剤師の役割は、大きく4つです。

それぞれの役割について、詳しく紹介します。

5-1.残薬数の確認

患者さまが薬局に持ち込んだ残薬数を確認します。

飲み忘れていたり、患者さまの独断で服用を中止していたりする場合には、指導や説明をおこなうことも薬剤師の役割の一つです。

残薬数の確認をおこなう際に、必要に応じて処方せんを交付した医師に照会をおこなう場合もあります。

照会して処方せんに変更がおこなわれた場合には、調剤管理料の重複投薬・相互作用等防止加算を算定可能です。

5-2.薬の仕分け作業・一包化

「処方される薬剤が多い」、「服用方法が複雑である」といった理由で、飲み忘れや服薬ができていない場合には、薬の仕分けや一包化をおこないます。

薬剤の数が多くなると、ついつい飲み忘れてしまうことや、飲まなければならないタイミングを間違えてしまうことなどがあるでしょう。

薬剤師が複数の薬剤を一包化することで、飲み間違いや飲み忘れを防ぐことにつながります。

また、処方されている薬剤に加えて、市販薬やサプリメントを服用している患者さまもいることでしょう。

その場合には、飲み合わせを確認して、使用できる薬と使用できない薬を仕分けることも薬剤師の役割です。

5-3.医師への一包化の提案

飲み忘れや誤用が多い患者さまの場合には、担当の医師へ一包化の提案をおこないます。薬物治療を適切におこなうためには、処方されたとおりに薬剤を服用することが大切です。

そのため、薬剤が持ち込まれた時に、残薬があったり、患者さまから一包化の相談をされたりした時には、医師へ一包化の提案をおこないます。

5-4.トレーシングレポートの作成

患者さまから聞き取った情報をもとに、トレーシングレポートを作成します。

トレーシングレポートとは、患者さまから聴取した残薬の状況や服薬アドヒアランス、副作用などの情報を記載した報告書です。

別名、服薬情報提供書ともいわれるもので、担当する医師に提供します。トレーシングレポートの作成は、服薬に関する情報をフィードバックできるため、残薬調整や副作用の早期発見などにつながる重要な業務です。

トレーシングレポートについて詳しくは下記記事をご覧ください。

参照元:独立医療法人国立病院機構 東京医療センター/服薬情報提供書(トレーシングレポート)の運用開始に際して

6.ブラウンバッグ運動で薬剤師が気を付けるポイント

ブラウンバッグ運動は薬剤師が活躍する業務である一方で、気を付けなければならないポイントがあります。

ここでは、ブラウンバッグ運動で薬剤師が気を付けるポイントについて詳しく見ていきましょう。

6-1.患者さまとのコミュニケーションが大切

ブラウンバッグ運動では、患者さまとのコミュニケーションが大切です。

薬剤管理の適正化を目的とするブラウンバッグ運動ですが、ただ残薬数や服薬状況を確認すればよいわけではありません。

丁寧に患者さまとコミュニケーションをおこなうことで、処方されている薬剤の効果や副作用の早期発見などにつながります。

また、患者さまが医師に聞きづらいことも、薬剤師になら気軽に聞けることもあるため、服薬アドヒアランスの向上にもなるでしょう。

そのため、ブラウンバッグ運動で薬剤師は、患者さまとのコミュニケーションを密におこなうことが大切です。

6-2.症状や環境の変わりやすい患者さまの場合は注意が必要

薬剤師がブラウンバッグ運動で患者さまに指導する時には、症状や環境の変わりやすい患者さまの場合は注意が必要です。

症状や環境が変わりやすい患者さまは、処方される薬剤の変更が多い場合や、通院する病院が変更されて重複投薬されていたりする可能性があります。

そのため、薬剤師は状態が安定している患者さまよりも、特に注意を向けて対応することが求められるでしょう。

7.まとめ

ブラウンバッグ運動は、残薬を減らしたり、適切な薬剤の服用をしたりするために重要な取り組みです。

日本ではまだ十分に浸透していませんが、多くのメリットがあります。薬剤師が重要な役割を担う取り組みであるため、薬剤師ならばよく理解しておきたいところです。

今回の記事を参考に、ブラウンバッグ運動に関する知識をぜひ身につけてください。

この記事の著者

理学療法士、Webライター

平井 一真

理学療法士として総合病院や訪問看護ステーションでリハビリテーション業務に携わった後、資格を活かした医療・介護系のWebライターとして活動。根拠に基づいた記事執筆を得意としており、様々なWebコンテンツで執筆実績多数。

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