薬剤師にもノルマはある?職場別のノルマについても解説

薬剤師にもノルマはある?職場別のノルマについても解説
厚生労働省の発表によると、令和5年度における全国の薬局数は6万2,828施設。前年度よりも453施設増加しており、人口10万人あたりに換算すると47.7施設となっています。ちなみに、同年1月の全国のコンビニエンスストア数は5万6,705件。実は薬局のほうが数は多いのです。

これほど多くの薬局の経営を支えているのは、いうまでもなく薬剤師で、全国に32万3,690人いる薬剤師の約58%にあたる18万8,982人が、薬局で働いています。

ところで、薬局で働く薬剤師には、一般の販売職や営業職にあるような「ノルマ」は存在するのでしょうか。ここでは、薬剤師のノルマの実態について、詳しく解説します。

参照元:厚生労働省/令和4年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況

1. 薬剤師にノルマはあるの?

「薬剤師のノルマ」と聞いても、ピンとこない方が多いかもしれません。専門性の高い職種であることから、一般の方のほとんどは「薬剤師にノルマなどないのでは?」と思っているのではないでしょうか。しかし、調剤薬局やドラッグストアで働く薬剤師にも、ノルマが課されるケースはあります。中でも多くの薬剤師を悩ませているのが、「かかりつけ薬剤師」同意書の取得ノルマです。

かかりつけ薬剤師とは、「薬物療法だけでなく、健康や介護に関することなどに豊富な知識と経験を持ち、適切な指導や患者さんの相談に応じることができる薬剤師」のことです。

患者さんにかかりつけ薬剤師として指名されると、専属のパートナーとして服薬情報を一元的かつ継続的に把握し、適切な薬学的管理や指導を行うことができます。また、かかりつけ薬剤師指導料は、処方箋受付1回に対して76点と高く、その活動は薬局の収益に大きくかかわってきます。

ただし、患者さんからかかりつけ薬剤師の指名を得るには、同意書に患者さんの署名が必要です。そのため薬剤師には、同意書の取得ノルマが課されることが多いのです。

とはいえ、すべての薬局やドラッグストアのノルマが厳しいわけではありません。中には薬剤師の働きやすさを考慮して、あえて厳しいノルマを課さない薬局もあります。

参照元:厚生労働省/診療報酬の算定方法の一部を改正する告示 厚生労働省告示第57号 別表第三調剤報酬点数表

2. 薬剤師にノルマがある理由

薬剤師にノルマがある理由は、薬局の収益を確保し、経営を安定させるためです。

薬局の主な利益は、全国一律で定められている薬価差益(薬価と仕入れ値との差額)と、調剤技術料です。調剤技術料は、処方箋に基づいて調剤する基本料と調剤料で構成されており、薬局の収益を上げるためには、できるだけ多くの調剤技術料を獲得する必要があります。

そうした中、厚生労働省は2018年度の診療報酬改定で「地域支援体制加算」を新設。地域医療への貢献を評価された薬局には、調剤基本料に点数が加算されることになりました。現在の加算点数は以下のとおりです。

  • 地域支援体制加算1…32点
  • 地域支援体制加算2…40点
  • 地域支援体制加算3…10点
  • 地域支援体制加算4…32点

薬局が収益を増やすには、こうした加算算定にも力を入れることが大事です。しかし、地域支援体制加算を得るためには、常勤薬剤師に対して時間外、夜間・休日等の算定回数が年400回以上、かかりつけ薬剤師指導料の算定回数が年40回以上などの厳しい条件をクリアしなければなりません。この点もまた、薬剤師のノルマが厳しくなっている要因の一つといえるでしょう。

参照元:厚生労働省/令和6年度診療報酬改定の概要【調剤】

3. ノルマがある職種・職場は?

薬剤師にノルマがあるといっても、その内容は職場や職種によって違いがあります。

ここでは、調剤薬局、ドラッグストア、かかりつけの薬剤師、MR(医療情報担当者)を例に挙げて、ノルマ内容の違いを説明します。

3-1. 調剤薬局

調剤薬局の薬剤師が抱えるノルマの中で最も大きいのは、かかりつけ薬剤師の指名です。かかりつけ薬剤師指導料は処方箋の受付1回につき76点と高いため、薬剤師は患者さんに声かけをして、かかりつけ薬剤師の同意書を獲得するように求められがちです。そのほか、ジェネリック医薬品の使用や薬剤服用歴管理指導料の加算などがノルマになることもあります。

3-2.ドラッグストア

ドラッグストアでも薬剤師にノルマが課されるケースがあります。よく見られるのが、店舗にとって利益率の高い「販売強化品」売り上げに対するノルマです。販売強化商品は、OTC医薬品や自社ブランド、栄養ドリンク、化粧品などさまざまで、「キャンペーン」や「コンクール」などの名目で、数字目標を設定する場合もあります。調剤併設型の店舗では、処方箋の受付回数のノルマや、かかりつけ薬剤師同意書の取得ノルマが求められることもあります。

3-3.かかりつけ薬剤師

先に紹介したように、かかりつけ薬剤師に対して、同意書の取得ノルマを設定している薬局は少なくありません。かかりつけ薬剤師は薬局を訪れた患者さんに、「かかりつけ薬剤師制度をご存じですか?」などと声かけをしなければならず、ノルマが厳しい薬局ほど負担が大きくなります。なお、かかりつけ薬剤師になると、特定の患者さんに24時間体制での対応を求められるため、気が休まらない働き方にストレスを覚える薬剤師も多く見られます。

3-4.MR(医療情報担当者)

MRは、製薬会社などに所属し、医師や薬剤師などの医療関係者に対して自社製品の情報を提供するのが主な役割です。多くの場合、MRにも営業ノルマがあり、一般的には製品ごとに管轄地域での「売り上げ前年度比○○%アップ」といった目標が立てられます。また、売り上げ目標の達成が個人の評価基準になるところもあります。

ただし、一般の営業職と違って、MRは自社製品の価格交渉に一切関与できません。1991年の独占禁止法の改正以来、医療機関と価格交渉ができるのは医薬品卸業者のみに限定されたからです。そのため、MRの営業には特有の難しさがあるといえるでしょう。

4. 薬剤師のノルマは店舗ごとに異なる

薬剤師にノルマが課されるのは、収益確保のために避けられないことですが、その厳しさの度合は店舗ごとに異なります。ここでは、ノルマが厳しい店舗と緩い店舗の違いについて見ていきましょう。

4-1. ノルマが厳しい店舗の特徴

「ノルマが厳しいかどうか」には、調剤基本料が大きくかかわってきます。

調剤基本料は次のように決められています。

①調剤基本料1…45点 ②~⑤以外、または医療資源の少ない地域に所在する保険薬局
②調剤基本料2…29点 処方箋受付回数および集中率が、次のいずれかに該当する保険薬局
イ)月4,000回超かつ集中率70%超
ロ)月2,000回超かつ集中率85%超
ハ)月1,800回超かつ集中率95%超
二)特定の保険医療機関の処方箋が月4,000回超
③調剤基本料3
イ)24点
ロ)19点
ハ)35点
同一グループの保険薬局の処方箋受付回数(または店舗数)の合計および当該薬局の集中率が、次のいずれかに該当する保険薬局
イ)・月3.5万回超~4万回以下かつ集中率95%超
  ・月4万回超~40万回以下かつ集中率85%超
  ・月3.5万回超&特定の保険医療機関と不動産の賃貸借  
   取引
ロ)・月40万回超(または 300店舗以上)かつ集中率
   85%超
  ・月40万回超(または 300店舗以上)かつ特定の保
   険医療機関と不動産の賃貸借取引
ハ)・ 月40万回超(または 300店舗以上)かつ集中率 
   85%以下
④特別調剤基本料A 5点 保険医療機関と特別な関係(同一敷地内)かつ集中率50%超
⑤特別調剤基本料B 3点 調剤基本料に係る届出を行っていない保険薬局

参照元:日本薬剤師会/調剤報酬点数表

大学病院や総合病院などの付近にある門前薬局や大手の調剤薬局は、「処方箋受付回数」と「特定の医療機関の処方箋」の集中率が高くなる傾向があります。

そのため、調剤基本料3が算定されるケースが多く、収益の高い調剤基本料1の割合を上げるには、特定の医療機関の処方箋集中率を下げるなどの対策が必要です。

例えば、かかりつけ薬剤師が増えれば、患者さんは門前病院だけでなく、さまざまな医療機関の処方箋を持ってきてくれますし、特定医療機関の処方箋の集中率を下げることにもつながります。さらに、かかりつけ薬剤師指導料を算定できるメリットもあります。

こうした理由から、門前薬局や大手の調剤薬局では、かかりつけ薬剤師のノルマが厳しくなりがちです。

4-2. ノルマが緩い店舗の特徴

一方で、中小調剤薬局や調剤併設型のドラッグストアは、薬剤師のノルマが緩い傾向にあります。処方箋受付回数が少ない、特定の医療機関の処方箋集中率が低いなどの理由から、調剤基本料1を算定しやすく、厳しいノルマを課す必要がないためです

ただし、中小調剤薬局だからといって、どの店舗もノルマが緩いとは限りません。緩い傾向があるというだけで、厳しいところもあるでしょう。

5. ノルマがきついと感じたら転職を考えてみよう

どれだけ薬剤師の仕事にやりがいを感じていたとしても、ノルマが厳しいと心身ともに疲弊してしまいます。また、ストレスの少ない環境で仕事をすることは、気持ちよく患者さんと接するためにも大切です。

もし、「ノルマがきつくてつらい」「ノルマのある働き方になじめない」と感じているようなら、転職して環境を変えてみるのも一つの方法でしょう。

薬剤師の知識や経験を生かして、転職を有利に進めたいのであれば、製薬業界や医薬品業界全般に精通した専門の転職エージェントを活用するのがおすすめです。例えば、製薬・医薬品業界の専門職に特化した「マイナビ薬剤師」もその一つ。数多くの薬剤師の転職をサポートしてきた経験豊かなキャリアアドバイザーが、あなたの気持ちや転職への希望をヒアリングし、的確なアドバイスをしてくれます。

また、「マイナビ薬剤師」では、豊富な求人から自分に合った職場を探せるほか、採用担当者に直接ヒアリングした生の情報を知ることもできます。ノルマの有無など気になることも事前に確認できるので、初めての転職活動でも安心して進められるでしょう。

さらに、転職後の心配ごと、困りごとなどを相談できるのも「マイナビ薬剤師」の魅力です。まずは無料登録して、キャリアアドバイザーへの相談からはじめてみてはいかがでしょうか。

6. まとめ

薬剤師であっても、収益確保のためにノルマを課せられるケースがあります。調剤薬局であれば、かかりつけ薬剤師の指名獲得や調剤基本料の獲得、ドラッグストアなら販売強化品の売り上げ向上と、ノルマの種類は職種や職場によってさまざまですが、それをストレスに感じている薬剤師がいることも事実です。

もし、ノルマが厳しいと感じたら、思い切って転職を考えてみるのも一つの方法です。薬剤師の転職に強い転職エージェントに登録すれば、さまざまな職場の情報が得られ、転職活動をスムーズに進められるでしょう。

この記事の著者

メディカルライター

山原 佳代

大学卒業後、医療機器メーカーに就職。その後、介護企業、広告代理店等を経てライターとして独立。
医療、ヘルスケア関連の広告物やメディアの記事執筆、ドクターへの取材、薬機法を考慮したコピーライティングを中心に活動している。

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