薬剤師の調剤ミスを防ぐには-ミスが多い時の対処法についても紹介

薬剤師の調剤ミスを防ぐには-ミスが多い時の対処法についても紹介

医療安全の意識が高まり、日本薬剤師会は「調剤行為に起因する問題・事態が発生した際の対応マニュアル」を作成し、薬剤師の医療安全の確保をすすめています。

ここでは、薬剤師が調剤ミスをする原因と、調剤ミスを防ぐための対処法について紹介します。

1.調剤ミスとは?

「調剤ミス」は、2001年4月に日本薬剤師会が作成した「薬局・薬剤師のための調剤事故防止マニュアル」において、「調剤過誤」、「調剤事故」に並び定義された言葉です。

その後、2005年11月より、調剤行為をきっかけとして生じた問題や事態を、「調剤事故」、「調剤過誤」、「ヒヤリ・ハット事例(インシデント事例)」の3つに分けて定義しました。それぞれの定義について説明します。

参照元:日本薬剤師会/薬剤師会における用語定義について

1-1.調剤事故

日本薬剤師会による調剤事故の定義は、「医療事故の一類型。調剤に関するすべての事故に関連して、患者に健康被害が発生したもの。薬剤師の過失の有無を問わない。」

つまり、すべての医療事故のうち、

  1. 調剤行為が関わっている事故
  2. 薬剤師の過失の有無に関わらない
  3. 患者さまに健康被害が生じている場合

ということです。医療安全の分野では、医療事故はアクシデント事例と同義のため、調剤事故もアクシデント事例と呼ぶこともあるようです。

1-2.調剤過誤

調剤過誤とは、「調剤事故の中で、薬剤師の過失により起こったもの。調剤の間違いだけでなく、薬剤師の説明不足や指導内容の間違いなどにより健康被害が発生した場合も、「薬剤師に過失がある」と考えられ、「調剤過誤」となる。」

つまり調剤過誤とは、

  1. 調剤事故と同様患者さまに健康被害がある
  2. 薬剤師に過失がある

ポイントとしては、調剤行為の間違いだけでなく、服薬指導の際の間違いや説明不足なども問われる点です。

1-3.ヒヤリ・ハット事例(インシデント事例)

ヒヤリ・ハット事例とは、インシデント事例と同義で、「患者に健康被害が発生することはなかったが、“ヒヤリ”としたり、“ハッ”とした出来事。患者への薬剤交付前か交付後か、患者が服用に至る前か後かは問わない。」と定義されています。

ヒヤリ・ハット事例(インシデント事例)と、「調剤事故」「調剤過誤」との大きな違いの一つは、ヒヤリ・ハット事例では「患者さまには健康被害が生じていない」という点です。

2.薬剤師がミスを起こす原因

ここでは、薬剤師の行為に関わるすべての間違いを「薬剤師のミス」とします。ミスが起こった原因を追究することが、再発予防につながります。

薬剤師がミスをする原因を、①人的な原因、②機器・物・表示等の原因、③連携に関わる原因、④組織や管理の原因に分けて考えていきましょう。

参照元:日本薬剤師会/調剤行為に起因する問題・事態が発生した際の対応マニュアル

2-1.人的な原因

人的な原因について、①身体的・心理的問題、②作業の慣れ、③薬剤師知識不足に分けて考えていきます。

2-1-1.身体的・心理的な問題

調剤は、処方箋を読み取る頭脳労働と、計数や散剤の調剤など肉体労働が要求されます。

そのため、過労や睡眠不足などの身体的な問題や、処方箋や患者さま対応に集中して焦ったり、ストレスがかかったりするなどの心理的な問題が、原因となりミスが生じることがあります。

また、調剤ミスと性格特性の関連性の調査から、集中力が長く続かない方や、逆に細かい部分まで気になりすぎてしまう方などは、ミスしやすい傾向にあります。

参照元:J-STAGE/薬剤師における調剤エラー要因と行動特性の関連

2-1-2.作業に慣れてしまっている

「処方箋の向こうに患者さまがいる」ことを忘れて、調剤業務自体が作業となり、慣れが生じることで、基本的な業務マニュアルを遵守しない、業務への怠慢などがミスの原因となります。

ミスの予防対策は、業務に不慣れな新人だけでなく、経験者に対してもおこなうべきです。

参照元:J-STAGE/薬剤師における調剤エラー要因と行動特性の関連

2-1-3.薬剤師の知識不足

薬剤師の知識や経験の不足がミスの原因となります。薬物療法は日々進歩し、扱う薬の数は膨大になる中で、日々新しい情報の収集や知識・技術の習得が求められます。

2-2.機器・物・表示などの原因

薬剤の包装が似ていたり、調剤に使用する機械の操作に不慣れで使い方を間違いやすいこともミスの原因と考えられます。

また、間違いやすい調剤棚の配置や薬剤の表示などが、ミスにつながる場合もあります。

2-3.連携に関わる原因

医師と薬剤師間における疑義照会、薬剤師と患者さまにおける服薬指導、薬剤師同士の業務の引継ぎや申し送りなど、連携する上でミスが生じることがあります。コミュニケーション能力は、薬剤師として必要な能力といえます。

2-4.組織や管理が原因

組織や管理の原因について、①職場の教育体制、②人材不足、フォロー体制の不備に分けて考えていきます。

2-4-1.職場の教育体制が整っていない

教育に必要な業務マニュアルや研修制度など、職場の教育体制が整っていないと、業務の遂行に支障をきたし、薬剤師のレベルが保てずにミスにつながることがあります。

2-4-2.人材不足やフォロー体制の不備

業務量に見合った薬剤師の人数が確保されていなかったり、フォロー体制が整っていなかったりすると、繁忙を極め、普段と異なる業務体制になることがミスを招く原因となります。

3.ミスが多いと感じたらすべきこと

人間はミスをする動物ということを肝に銘じて、ミスが多いと感じた時に、最初にするべきことを紹介します。

3-1.何が原因でミスをしたのか見直してみる

ミスが多いと感じたら、ミスの原因を見直すことが必要です。そのためには、いつ、誰に、どのような状況で、どのようなミスが生じたのか、状況を整理します。

そしてミスが発生した時の環境やかかわった人などを洗い出し、ミスの原因を分析します。原因を分析することで、ミスを未然に防ぐ対策を練ることができます。

参照元:日本医療機能評価機構/ヒヤリ・ハット事例収集・分析・提供事業

3-2.わからないと思ったことはすぐに調べる・聞く

わからないと思ったことは、やり過ごしたり、思いこみで調剤せず、すぐに最新の情報を調べて確認したり、他の薬剤師に相談したりすることが大切です。

薬局全体として、わからないことはすぐ調べたり、聞いたりできる環境が整っていることが必要です。

3-3.業務の流れ・手順書を見直す

薬局全体でミスが多い状況であれば、業務の流れや業務マニュアルの見直しが必要な可能性があります。

実際にミスが生じている業務を分析し、問題点の改善対策をまとめて全体に共有すると効果的です。

4.薬剤師が調剤ミスを未然に防ぐには

薬剤師が調剤ミスを未然に防ぐには、前述のミスが生じる原因を踏まえて、それぞれに対する対策をおこないます。

4-1.徹底した疑義照会

疑義照会は、薬剤師法に基づく薬剤師の重要な任務であり、ミスを防ぐためには徹底した疑義照会が必要です。

疑義照会の必要があるにもかかわらず、疑義照会せずに調剤して起こった調剤事故では、薬剤師の責任が問われたこともあります。

疑義照会の必要がないか、常に念頭にいれて処方監査や調剤をおこなうことが必要です。

4-2.報告を徹底する

調剤ミスが起こった時は、報告書の作成を徹底し、ミスの原因や所在を明確にします。こうした事例を収集し、他の薬剤師が同じ間違いをしないように、定期的に薬局内で周知することが、再発予防につながります。

報告書は薬局内でとどめるのではなく、ヒヤリ・ハット事例は日本医療機能評価機構の「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」に共有することが重要です。

調剤事故は所属の薬剤師会を通して日本薬剤師会へ報告し、医療安全の推進に役立てます。

参照元:日本医療機能評価機構/ヒヤリ・ハット事例収集・分析・提供事業

4-3.ダブルチェックをおこなう

ダブルチェックをすることで、ヒューマンエラーを予防することができます。

すべての処方や調剤行為に対してする必要はなく、ハイリスク薬や、複数の剤型や規格がある薬剤など、各薬局でマニュアル化して徹底することが大切です。

4-4.ロボット調剤の導入を検討する

ロボット調剤を導入することで、人的なミスの減少につながることがわかっています。

薬剤師の業務が対物から対人に移行する中で、ロボット調剤を導入すると薬剤師の時間を有効活用することができます。

また、調剤監査システムの導入により調剤ミスの減少が報告されている一方、監査システムで発見できない事例もあり、使い方を十分に理解し、適切な管理と運用が必要です。

参照元:日本医療機能評価機構/薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業

ロボット調剤について詳しく知りたい方は以下をご覧ください。

4-5.情報のアップデートをこまめにおこなう

相互作用、新規薬剤の用法用量など、薬学的管理上のミスを防ぐためには、知識や情報のアップデートをこまめにおこなう必要があります。

認定薬剤師を取得するための研修や薬局内でおこなわれる勉強会などで知識を共有することも大事です。常日頃から添付文書などを確認し、知識として身に付けるようにしましょう。

5.調剤ミスの事例を紹介

では、実際に「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」に収集された調剤ミスの事例をご紹介します。

  • 薬剤の取違い
  • 事例
    • テルミサルタン40mg・ヒドロクロロチアジド配合錠が処方
    • 後発医薬品希望によりテルチア配合錠AP「DSEP」を調剤するところ、テラムロ配合錠AP「DSEP」をピッキングした
    • 鑑査者が薬剤の取り違えに気付き正しい薬剤と交換した
    事例の改善策
    • 配合剤の一般名と販売名の一覧表を作成
    • 薬剤師と事務員に周知した
    ポイント
    • 配合薬処方時は、有効成分・含量を確認
    • 報告が多い事例の対策として、薬剤師への周知、調剤棚の工夫、注意喚起の張り紙など
  • 投与量に関する疑義照会
  • 事例
    • 小児にリスペリドンとして0.5mg(リスパダール細粒1%0.05g)を処方するつもりのところ間違って0.5gと入力し処方箋を発行
    • 処方箋通りに調剤し家族に交付
    • 2回服用後に傾眠の症状がみられ医療機関を受診し緊急入院
    背景・要因
    • 一人薬剤師
    • 処方医が専門医
    • リスパダールの在庫不足で発注・納品など慌ただしく、疑義に気づかず調剤
    • 服薬指導に終始し、処方内容を確認せずに交付
    改善策
    • 医師の専門性や経験にかかわらず処方監査を徹底する
    • 在庫不足時について、後日配送か来局など対応を見直し
    ポイント
    • ハイリスク薬、小児患者における処方監査の重要性
    • 在庫不足時の手順を見直し

参照元:日本医療機能評価機構/薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業

6.まとめ

薬剤師は、調剤ミスを原因とする医療事故を防止しなければならない立場ですが、その過程でミスを生じる要因や種類が多く、完全になくすことは難しいといえます。

しかし、限りなくミスをゼロにする努力をするためには、原因を分析し、対策を講じる必要があります。ミスを減らし未然に防ぐために、薬剤師としての研鑽や体調管理など、個人でできることもあります。

一方、ミスの原因が人数や配置、ミスが起こりやすい環境、業務の手順や教育体制などにある場合には、その改善には限界があるかもしれません。

ミスが多い、あるいはその対策が講じられていない職場にストレスを感じている場合には、医療安全に意識の高い職場への転職も選択肢の一つです。

マイナビ薬剤師であれば、薬剤師専任のキャリアアドバイザーが薬局、ドラッグストア、病院・クリニック、企業に直接足を運び、採用担当者や現場の薬剤師にヒアリングした生の情報を元に、医療安全に意識の高い職場のご提案が可能です。

まずはマイナビ薬剤師の無料登録をおこない、情報収集やキャリアアドバイザーに相談することをおすすめします。

この記事の著者

薬剤師・ライター

小谷 敦子

病院・調剤薬局薬剤師を経て、医療用医薬品専門の広告代理店・制作会社に所属し、販促資材やMR教育資材、患者向け冊子などの執筆に従事。
専門医インタビューによる疾患や治療の解説などを、クリニックHP上に掲載するなどの執筆活動も行っている。

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