診療報酬改定は何年ごとにあるの?診療報酬の目的や薬剤師の今後について解説

診療報酬改定は何年ごとにあるの?診療報酬の目的や薬剤師の今後について解説

診療報酬は、保険医療機関や保険薬局が、患者さんに提供した保険診療全てについて、日本全国同一の基準で支払われる報酬です。医療機関を受診したときに発行される診療明細書を見ると、受けた診療の全ての項目に対し、それぞれ点数がつけられています。診療報酬の点数を積算し、1点10円で換算され、自己負担分を医療機関の窓口で支払い、残りは保険者が支払っています。

診療報酬は、医学の進歩や新薬の登場、社会情勢や医療経済状況などを踏まえて、診療報酬が適正であるか検討を重ね、改定されています。

この記事では、診療報酬の改定と診療報酬改定による薬局や薬剤師の業務や在り方の変化について紹介します。

1.診療報酬とは

診療報酬とは、保険医療機関や保険薬局が患者さんに実施した保険診療に対して、受け取る報酬のことです。診療報酬は、全ての保険診療の一つひとつに対し国が決めた点数に基づいて、1点10円で計算されます。診療報酬には、技術やサービスである医科、歯科、調剤の3種類の「診療報酬点数」と、薬や医療材料など物の値段である「薬価基準」「材料価格基準」があり、厚生労働大臣が各調剤報酬点数表や薬価表として告示しています。

つまり、診療報酬点数表や薬価表には、保険診療として認められる範囲や内容を定めた品目表としての役割と、各診療行為の価格表としての役割があります。

では、医療機関や薬局は、どのように診療報酬を受け取るのでしょうか。診療報酬は、患者さんの負担割合によって異なりますが、診療報酬のうちの1~3割は、患者さんから自費負担分として受け取ります。残りの7~9割は、医療機関や薬局が審査支払機関に診療報酬明細書(レセプト)を提出し、審査支払機関を通じて、患者さんが健康保険料を支払って加入している国民健康保険や各健康保険組合などの保険者から支払われます。

ただし、医療機関や薬局は、審査支払機関がレセプトに対して、検査や治療が不適切、あるいは保険診療の範囲外など、公正な請求でないと判断すれば、請求した診療報酬が保険者から支払われない可能性もあります。

参照元:J-STAGE/診療報酬の仕組みと改定(1.1 診療報酬とは)
参照元:全日本病院協会/医療費の仕組み

2.診療報酬改定は何年ごと?

診療報酬は、原則として2年ごとに改定されます。これを診療報酬改定といい、健康保険法第82条で定められているとおり、厚生労働大臣の諮問を受けて、中央社会保険医療協議会(中医協)が改定について協議し答申を行い、厚生労働大臣が決定します。

令和6年度の診療報酬改定は、3年ごとに改定されている介護報酬と障害福祉サービス等報酬の同時改定が予定されています。ここでは診療報酬の改定について、その目的や意味、改定のプロセスについて説明します。

参照元:法令検索/国民健康保険法
参照元:厚生労働省/中央社会保険医療協議会の所掌事務について

2-1.診療報酬を改定する目的や意味は?

診療報酬を改定する目的は、日々進歩し続ける医療に対応して、新しい技術や新薬を含めた保険診療の範囲や価格を見直す必要があるためです。

また、現在の日本における少子高齢化の影響や医療を取り巻く環境の整備、医療現場におけるさまざまな課題に対処するには、改定にあたってどのような医療行為について評価すべきかという、保険診療の総点検という意味もあります。

参照元:J-STAGE/診療報酬の仕組みと改定(2 診療報酬の見直し)

2-2.診療報酬はどのようにして決定されるのか

診療報酬がどのようにして決定されるのか、そのプロセスのうち、次の3つについて説明します。

改定率の決定

中央社会保険医療協議会は、改定前年の1年をかけて、前回の改定の影響や医療の在り方に関する議論を含め、医療の進歩、日本の経済状況、医療経済実態調査の結果などを踏まえて、翌年の改定に向けた議論を重ねます。それを受けて内閣は、改定前年の年末までに、予算の編成過程で決まった医療費の総額から、診療報酬改定の改定率を決定します。

基本方針の策定

内閣が決定した診療報酬改定の改定率を前提として、社会保障審議会の医療保険部会および医療部会が、医療政策について審議し、診療報酬改定の基本方針を策定します。

具体的な点数と算定条件の設定

診療報酬の改定の基本方針に基づき、中央社会保険医療協議会において、具体的な診療行為の点数や算定要件などが審議されます。
診療報酬は、支払側委員(保険者や被保険者の代表)7名と診療側委員(医師、歯科医師、薬剤師の代表)7名で協議が行われ、国会が同意した6名の公益代表が調整し決定されます。決定した診療報酬案を厚生労働大臣に答申し、診療報酬改定が告示・通知されるという流れです。

参照元:厚生労働省/診療報酬改定の流れ

2-3.診療報酬改定率とは?

診療報酬改定率とは、診療報酬の価格の変化率のことです。診療報酬点数が上がれば、基本的には診療報酬の総額が上がりますが、実際には高齢化による医療費の増大や医療の高度化、疾病構造によって変化するため、医療費の総額の変化率と診療報酬改定率とは一致しません。

2008年以降、医科、歯科、調剤の診療報酬本体の改定率はプラス改定ですが、薬価改定率は1990年以降マイナス改定が続いており、全体としては2016年以降マイナス改定が続いています。

参照元:財務省/社会保障

3.これまでの診療報酬改定の変化

診療報酬改定では、改定の基本方針に沿って、薬局や薬剤師の在り方も変化が求められます。特に、薬剤師の専門性を発揮して医薬分業のあるべき姿を実現させるために、2015年に厚生労働省が「患者のための薬局ビジョン」を策定したことにより、医療保険制度の対応を含めた施策が進められました。
診療報酬改定では、薬剤師の業務に対する評価が見直され、薬局経営や薬剤師に大きな変化がもたらされました。どのような変化があったのか、見ていきましょう。

参照元:厚生労働省/「患者のための薬局ビジョン」の策定について
参照元:厚生労働省/「患者のための薬局ビジョン」~「門前」から「かかりつけ」、そして「地域」へ~ を策定しました
参照元:厚生労働省/患者のための薬局ビジョン 概要

3-1.薬局経営の変化

それまで6点であった院外処方箋料が、1974年の診療報酬改定において急速に50点まで引き上げられました(令和5年現在68点)。また薬価差益の解消などにより、医薬分業率は2015年に70%を超え、保険薬局が乱立しました。しかし、薬を渡すだけという対物業務に変化は乏しく、この時点では患者さんにとって医薬分業のメリットは少ないことが問題視されていました。

患者のための薬局ビジョンでは、薬剤師の業務は大きく対物から対人へのシフトチェンジが迫られ、薬局経営も変化する必要がありました。主な特徴的変化について紹介します。

2016年度改定

地域包括システムの強化を進めるために、かかりつけ薬剤師の評価が見直されました。それにともない、薬局には、かかりつけ薬剤師が役割を発揮できる体制づくりが求められました。例えば、在宅訪問をするための薬剤師の雇用、開局時間の変更、相談時にプライバシーが確保できる場所の確保などです。

2018年度改定

さらに地域包括システムを進めるにあたり、医療資源の乏しい地域の薬局には地域支援体制加算が新設され、地域医療に貢献する薬局に対する評価や、大型門前薬局に対する評価の引き下げなどが盛り込まれました。

2020年度改定

処方箋集中率など、調剤基本料の算定要件が見直されたことで、調剤基本料が高い調剤基本料1を算定できる薬局は減少傾向となり、経営が悪化する薬局も少なくありませんでした。

2022年度改定

300店舗以上のグループ薬局が調剤基本料1の対象外、敷地内薬局の特定調剤基本料の引き下げなど、薬局経営の基盤である調剤基本料の引き下げが続きました。一方、地域医療に貢献する薬局の算定要件の緩和などが行われ、地域に密着して医療貢献の役割を果たす薬局への変容が期待されます。

参照元:日本総研/薬剤給付制度の薬価偏重からの脱却を
参照元:日本医事新報社/医師・薬局のかかりつけ機能を評価 – 2016年度診療報酬改定の基本方針
参照元:厚生労働省/かかりつけ薬剤師・薬局の評価(p89)
参照元:厚生労働省/地域医療に貢献する薬局の評価(p79)
参照元:厚生労働省/同一薬局の利用推進(p63)
参照元:厚生労働省/令和4年度診療報酬改定について

3-2.薬剤師の変化

診療報酬改定により薬剤師の業務や在り方には、どのような変化があったのでしょうか。

3-2-1.対物業務から対人業務へ

診療報酬改定にともなう薬剤師のもっとも大きい変化は、薬剤師の業務が、「対物」から「対人」へのシフトが推進されたことです。
昔は内服薬や外用薬の調剤業務にしか点数が与えられていませんでしたが、1983年に投薬特別指導料が新設されて以降、薬剤服用歴管理指導料、在宅薬剤管理指導料、居宅療養管理指導料などが次々と新設されるようになり、患者さんへの服薬指導や薬学的管理、お薬手帳の利用の推進による情報収集など、対人業務に対して診療報酬が算定されるようになりました。
しかしながら、患者本位の医薬分業は実現されない状況が問題視されていました。

参照元:J-STAGE/医薬分業と二つの政策目標
参照元:J-STAGE/診療報酬の変化から見える医療における薬剤師の役割に関する検討

3-2-2.「患者のための薬局ビジョン」策定後

2015年に「患者のための薬局ビジョン」が策定され、診療報酬改定にともなう薬剤師の評価が大きく見直されるようになりました。

●2016年度改定

2016年度改定は、「患者のための薬局ビジョン」を受けて初の改定となり、地域包括システムにおける薬剤師の評価、他職種との連携の強化を目的とした薬剤師の配置、切れ目のない地域医療をすすめるための、かかりつけ薬剤師・薬局による在宅療養管理指導業務などに関する評価、つまり診療報酬の点数が見直されました。

●2018年度改定

薬剤の適正使用と地域の連携に対する評価の重点ポイントとなった改定です。医師への情報提供や、重複投薬・相互作用等防止加算料、ポリファーマシーに対する薬剤総合評価調整管理料などが評価され、さらに地域における対人業務への評価が高められるようになりました。

●2020年度改定

地域包括ケアの推進のために、かかりつけ薬剤師機能が強化され、さらに在宅業務における薬剤師の緊急対応やオンライン服薬指導などが評価されるようになりました。
また、対人業務の評価が拡充され、がん患者に対する医療情報提供、糖尿病患者に対するフォローアップ、ぜんそく患者に対する服薬指導が評価、算定されるようになり、対人業務を推進するために、ますます専門的な知識と技術が要求されるようになっています。

診療報酬改定による薬局・薬剤師の変化について、詳しくは以下のページも参考にしてください。

4.令和4年度の診療報酬改定や薬剤師の今後について

令和4年(2022年度)の診療報酬改定で特筆すべきは、調剤管理料・薬剤調整料・服薬管理指導料の新設、リフィル処方箋の導入、服薬指導におけるICTの活用などですが、薬剤師の将来への影響はあるのでしょうか。

調剤管理料・薬剤調整料・服薬管理指導料の新設

対人業務と対物業務を明確に分けて適正に評価するために、薬剤師の業務の評価体系が見直されました。

まず、調剤料は従来対物業務と捉え減点傾向でしたが、調剤料と評価されている業務の中でも、患者さんに応じた処方の分析や調剤設計などは対人業務として評価されることとなり、調剤管理料が新設されました。調剤管理料は、患者さんからの服薬状況の聴き取りや薬歴の記録と管理を行った場合に算定することができます。

一方、従来の調剤料のうち、内服や外用薬などの調剤や監査は対物業務のため、薬剤調整料という名称で区別して評価され、内服薬の薬剤調整料は日数にかかわらず診療報酬点数は一律24点となり、結果として引き下げとなりました。

次に、従来の薬剤服⽤歴管理指導料のうち、薬歴の管理は前述のとおり、調剤管理料として評価、服薬指導については服薬管理指導料という名称で新設・評価されることになりました。継続指導や医療的ケア児に対する薬学的管理なども評価されるようになりました。

薬剤師の業務の中で、対人業務を充実させるという観点から、2019年には薬剤師でない方でも、薬剤師の監督下で錠剤などの計数調剤ができるようになったことからも分かるように、薬剤師の本質的業務である対人業務を高く評価し、対物業務の評価の引き下げが顕著になりました。

リフィル処方箋の導入

リフィル処方箋の発行・活用促進により、医療費の削減が0.1%見込まれています。リフィル処方箋は、症状の安定している患者さんに発行され、3回まで調剤可能ですが、2回目以降は薬剤師が服薬状況などから調剤が適切か判断し、必要があれば受診をすすめたり、処方医への情報提供を行ったりします。リフィル処方箋の普及は、薬剤師の対人業務の中でも医師との連携が重要であり、責任ある業務となるでしょう。

服薬指導のICT利用

服薬指導のICT利用は、マイナンバーカードの電子資格確認により、本人の同意を得た上で、患者さんの薬剤情報または特定健診情報などを取得して調剤などを行う場合に、調剤管理料に加算できるものです。

その他、継続的な薬剤情報の把握や医療的ケア児に対する小児特定加算などを含め、患者さんの薬学的管理と服薬指導の評価が新設、引き上げられています。

診療報酬改定では、対人業務、特に服薬指導や地域における医療貢献の面で評価が引き上げられている傾向に変わりありません。団塊の世代が後期高齢者となる2025年を見据えて、地域包括ケアを進める上で、薬剤師の専門性を生かして医療に貢献することが、今後も期待されるでしょう。

令和4年度の診療報酬改定や薬剤師の今後について、以下のページも参考にしてください。

5.まとめ

診療報酬改定は、医科、歯科、調剤の診療について、医療経済や医学の進歩に応じて適切に評価されているかを検証し、将来の社会構造を見据えた上で、基本方針にのっとり、2年ごとに実施されています。薬剤師にかかる診療報酬として、調剤報酬がありますが、その改定により、薬剤師の業務や在り方も変化を余儀なくされます。

薬剤師の業務は、患者本位の医薬分業のために、対物から対人へシフトチェンジが迫られたものの、なかなか進まないのが現状でしたが、2015年の「患者のための薬局ビジョン」を契機に、薬剤師の対人業務について評価が新設、見直されるようになり、診療報酬の点数の引き上げられたのは、対人業務や地域における医療貢献が薬剤師の役割として期待されていることに違いありません。それに応えられるように、薬剤師も日々研さんし、知識や技術の習得と向上に努めましょう。

この記事の著者

薬剤師・ライター

小谷 敦子

病院・調剤薬局薬剤師を経て、医療用医薬品専門の広告代理店・制作会社に所属し、販促資材やMR教育資材、患者向け冊子などの執筆に従事。
専門医インタビューによる疾患や治療の解説などを、クリニックHP上に掲載するなどの執筆活動も行っている。

毎日更新!新着薬剤師求人・転職情報

薬剤師の職場のことに関するその他の記事

薬剤師の職場のことに関する記事一覧

※在庫状況により、キャンペーンは予告なく変更・終了する場合がございます。ご了承ください。
※本ウェブサイトからご登録いただき、ご来社またはお電話にてキャリアアドバイザーと面談をさせていただいた方に限ります。

「マイナビ薬剤師」は厚生労働大臣認可の転職支援サービス。完全無料にてご利用いただけます。
厚生労働大臣許可番号 紹介13 - ユ - 080554