薬局経営のコツとは?調剤薬局の今後や経営分析についても解説
薬局の数は年々増加傾向にあり、令和2年度末時点では全国の薬局数が6万施設を超えたと報告されました。
一方で、少子高齢化の影響を受けて医療費削減のために、診療報酬の減額や処方量の削減などがおこなわれ、経営が難しくなってきています。
年々増加する薬局の中で生き残っていくためには、薬局経営のコツを理解することが重要です。
ここでは、薬局経営のコツや調剤薬局の今後、よりよい経営に欠かせない経営分析などについて紹介します。
目次
1.薬局経営で重要なこととは
薬局では、服薬指導や服薬管理などの業務はもちろん大切ですが、経営していくうえで重要なことが2つあります。
それは、「数字を把握する」ことと「業務の見える化」です。ここでは、薬局経営で重要な2つのことについて詳しくみていきましょう。
1-1.数字を把握する
薬局を経営していくためには、売上を増やして、支出を減らすための数字の把握が大切です。
薬局が売上を増加させるには、例えば、持ち込まれる処方せんを増やして調剤の売上を増やしたり、健康食品やサプリメントを販売したりする方法が挙げられます。
一方で、支出を削減するには、人件費や家賃などの固定費や、薬剤管理を最適化して期限切れによる廃棄を防ぐことが挙げられます。
こうした個別の数値をきちんと把握して経営することが大切です。
1-2.業務の見える化
業務の見える化とは、誰がいつどのような仕事をしているのかをわかりやすく把握できるようにすることです。
見える化することによって、職員の勤務状況や適切な人員配置、業務における改善点などを把握しやすくなります。
具体的な方法としては、業務の流れをわかりやすく示す業務フローや職員の1日の予定が記載されたタイムスケジュールの作成などです。他にも、職員の仕事の進捗状況や課題をタスク状況として見える化する方法があります。
業務を見える化することで、手元にある資源を最大限活用できるようになり、利益や質の向上につながるでしょう。
2.薬局経営で把握すべき数字
薬局経営では、数字を把握することが大切ですが、具体的にはどのような数字を把握すればよいのでしょうか。
薬局経営で把握すべき数字は、経費と売上の2つです。それぞれの数字について、詳しく解説します。
2-1.経費(支出)
支出は、薬局を経営していくうえで支払う費用のことです。特に薬局における三大支出である薬剤費、人件費、家賃を中心にさまざまな経費(支出)があります。
- 薬剤費
- 不動在庫の発生原因
- 不動在庫を避けるには
- 人件費
- 家賃
- その他のさまざまな経費
薬剤費は薬剤を購入する費用であり、薬局には欠かせません。
特に薬剤は使用期限を過ぎると廃棄しなければならないため、不動在庫を発生させないことが大切です。
薬局は薬剤を提供できるようにある程度の在庫を用意しておかなければならず、不動在庫が発生しやすいです。
さらに、薬剤は販売包装単位ごとの購入が原則とされており、最低限発注しなければならない個数が定められています。つまり、本来の必要量よりも多く購入しなければならないことがあり、不動在庫を抱えてしまいやすい状況になっているのです。
不動在庫を避けるには、必要以上に過剰な在庫を保持せず、薬剤の需要に応じて発注する量を調整することが大切です。
そのためには、薬剤在庫管理システムを導入して、時期ごとに処方されやすい薬剤の需要を予測して効率的な発注や在庫管理が求められます。
また、チェーン展開している場合は、近隣の薬局やグループ薬局などと共同で薬剤を発注することで、必要な薬剤を必要な薬局に配送、在庫とすることで不動在庫を抑えるといったことも可能です。
その他、個人経営の薬局などは、不動在庫を買い取ってくれるサービスに登録することで不動在庫の解消につながるでしょう。
一般的に最適な人件費を求めるときに使われる指標が、労働分配率です。
労働分配率は、会社が生み出した付加価値のうち、どれだけ人件費が割合を占めているかを表します。
労働分配率(%)=人件費÷付加価値×100
労働分配率は低いほど利益率が高く(人件費率が低い)、労働分配率が高いほど利益率が低い(人件費率が高い)ことを意味します。
2021年の経済産業省の報告によると、薬局のような小売業の労働分配率は49.4%です。
職場によって最適な人件費は異なりますが、薬剤師などの専門性の高いスタッフを雇用する薬局は人件費も高まる傾向にあります。そのため労働分配率は約60%を目安に、職場の経営状況に基づいて決定するとよいでしょう。
薬局で人件費を削減したいときには、安易にスタッフ数を減らすのではなく、業務内容の棚卸をして、最適な人材配置や業務効率化をおこなうことが大切です。
例えば、医薬品のピッキングや数の確認など薬剤師でなくてもできる業務を調剤補助員や事務員などが担うことで、人件費の高い薬剤師の稼働を必要最低限に抑えて、全体の業務が回るようにすることが、無理のない人件費削減につながります。
家賃は店舗を借りて経営している場合、必ずかかってくる費用です。基本的に家賃は契約したときの金額を継続して支払い続けますが、価格については交渉しても問題ありません。
しかし、突然値下げを要求しても受け入れてもらえない可能性が高いです。長期間の契約意思を示したり、土地の価格の低下を理由にしたりして交渉するとよいでしょう。
自身で交渉するのが難しい場合は、不動産鑑定士などが見定めた相場を踏まえて、成果報酬で家賃交渉を代行してくれるサービスを利用するのもおすすめです。
その他の経費には、水道光熱費や通信費、保険費用などがあります。水道光熱費は節水や節電を意識したり、電気・ガス代は会社を比較して安い会社と契約したりすると費用を抑えることが可能です。また、保険は特に大きな金額がかかる項目です。
火災保険や賠償責任保険など必要な補償を見定めて、必要な保険を契約しましょう。
2-2.売上
薬局経営における売上には、処方された薬を調剤することによる売上とOTC医薬品の売上があります。各々の売上について解説します。
- 調剤の売上
調剤の売上を構成する要素は、処方せんの枚数と処方せん単価の2つです。処方せん単価とは、処方せん一枚あたりの報酬のことで、調剤基本料や薬学管理料、薬剤料などで構成されています。調剤の売上は、大まかに以下の式で表すことが可能です。
調剤の売上=処方せんの枚数×処方せん単価
具体的に調剤の売上を増やす方法には、以下の3つがあります。
- 処方せんの枚数を増やす
処方せんの枚数を増やすには、患者さんが訪れたくなる薬局にする必要があります。親切な対応を心がけたり、薬剤を素早く提供したりして、患者さんがその薬局を選んで訪れるようにすることが重要です。そのためには、患者層や薬剤の需要などを調査・分析しておきましょう。また、新たに処方せん元を増やしたいときには、近隣の医療機関や福祉施設などに営業するのも一つの手段です。
- 調剤基本料を増やす
調剤基本料は、立地や薬局の設備、1ヶ月あたりの処方せんの受付回数などによって、定められています。そのため、努力では調剤基本料を増やすことが難しいように感じるかもしれません。
しかし調剤基本料には、地域医療の貢献に関わる地域支援体制加算や後発品置換率に関わる後発医薬品調剤体制加算などの加算制度があります。そのため、調剤基本料を増やすためには、加算を増やすことがポイントです。
- 薬学管理料を増やす
薬学管理料は、患者さんに薬剤の指導をしたり、記録・管理をしたりしたときに加算されます。
例えば、服薬管理指導料は、薬剤の用法用量や効能、効果、副作用などの情報を患者さんに提供したときに加算される項目です。薬学管理料は薬剤師の行動によって算定できる項目であるため、必要な方には適切に対応しましょう。
また、薬学管理料には担当医や家族などに情報を提供することが必要となる項目があります。そのため、普段から情報のやりとりがしやすい環境にしておくことが大切です。
- 処方せんの枚数を増やす
- OTCの売上
OTCによる売上は、調剤による売上と比べると収益性は大きくはありません。
しかし、調剤以外に売上を確保できることや、患者さんとコミュニケーションをとるきっかけとなり、患者さんには、服用中の薬剤とOTCとの飲み合わせのチェックなど、未病者さまには受診勧奨やOTCの選択・推奨など薬局薬剤師の信頼性を活用した売上向上につなげることができるでしょう。
3.薬局経営の成功には経営分析が必要
薬局経営を成功させるには、経営分析をおこなうことが欠かせません。ここでは、経営分析とはどのようなものなのか、経営分析をおこなうメリットについて解説します。
- 経営分析とは
- 薬局経営で経営分析をおこなうメリット
経営分析とは、財務諸表の数値をもとに、さまざまな視点から経営状況を分析することです。自社の強みや弱みを把握したり、お金の流れが適正であるか確認したりして、得られた分析結果をもとに経営を改善します。
薬局経営で経営分析をおこなうメリットは、客観的に経営状況を確認し、企業戦略の適切な改善や方針変更が可能となるからです。
薬局の強みと弱みを理解して、利益を生み出すには、経費を減らし、売上を増やす必要があります。
そのためには、経費を減らせるポイントと売上を増やせるポイントを理解しなければなりません。経営分析はこのポイントを理解するうえで、役立ちます。
例えば、経費を減らすためには、廃棄率や人件費、固定費が適切か確認することが重要です。
一方で、売上増加には、来客数や客単価、リピート率などを確認し、対策をとることが求められるでしょう。このように経営分析をすることで薬局を最適な経営状態へと改善させることができるのがメリットといえるでしょう。
4.薬局経営の課題
薬局の数が年々増加していることから、薬局業界は順調に成長していく業界だと感じている方もいるかもしれません。しかし、薬局業界全体に取り巻く課題があることに注意が必要です。ここでは、薬局経営の課題について詳しくみていきましょう。
4-1.診療報酬改定
高齢化社会による医療費の増大にともなって、医療業界全体が医療費削減の影響を受けています。
事実、2年に1度おこなわれる調剤における診療報酬の改定では、引き下げられている傾向です。そのため、ますます薬局経営は難しくなっているといえるでしょう。
参照元:厚生労働省/調剤医療費(電算処理分)の動向~令和2年度版~
4-2.人材の不足
薬局の数は増加傾向にありますが、対してそこで働く薬剤師が足りていないという人材不足が起きています。
都市部では勤務を希望する方が多いため、まだ人材を確保できていますが、郊外や地方の薬局では人材不足が顕著です。
人材不足により、業務が回らなかったり、一人あたりの負担が大きくなったりといった課題が生まれています。
参照元:厚生労働省/一般職業紹介状況
4-3.AIやICTの活用
AIやICTの進化とともに、薬局をはじめとした医療業界にもAIやICTを活用する波が訪れています。
薬局でのAIやICTの活用方法としては、処方せんのチェックや薬歴管理をおこなうことにより、業務の効率化が期待できるでしょう。
人材不足が課題となっている薬局において、AIやICTの活用は活路を見出す手段といえるかもしれません。
しかし、AIやICTを活用するためには、決して安くはない導入費用がかかります。AIやICTは活用できれば業務を助けてくれる手段となりますが、導入が容易ではないといえるでしょう。
5.調剤薬局の現状や今後について
調剤薬局は、これまで持ち込まれた処方せんの薬剤を渡すだけでも成り立っていました。
しかし、薬局の増加や診療報酬の改定などによって、薬剤を渡すだけの対物業務だけでは経営が難しくなっていることが現状です。
調剤薬局の今後としては、厚生労働省が2015年に公表した「患者のための薬局ビジョン」が参考になるでしょう。
「患者のための薬局ビジョン」では、かかりつけの病院のように、薬局もかかりつけの薬局として在ることを推奨しています。
かかりつけ薬局となることで、薬に関して気軽に相談できるようになり、適切な使用や医療費の適正化につながると考えられているのです。
また、2019年4月に厚生労働省から公表された「調剤業務のあり方について」では、薬剤師の指示にもとづいて薬剤師以外の者が調剤業務の一部をおこなってもよいとされました。
これにより、薬剤師が負担する対物業務を減らすことが可能となっています。調剤薬局は今後、調剤といった対物業務は減少していき、相談や服薬指導などの対人業務が増加していくでしょう。
参照元:厚生労働省/患者のための薬局ビジョン
厚生労働省/調剤業務のあり方について
6.まとめ
薬局は令和2年度末時点で6万施設を超え、その数はなんとコンビニエンスストアよりも多い数字です。
数が多ければ、その分、競争が激しくなるため、薬局経営は困難になるでしょう。薬局経営にたずさわる方は、今回紹介した薬局経営のコツを理解しておくことが重要です。
また、薬局経営のコツ以外にも経営を成功させるためには、経営分析をおこなうことが欠かせません。薬局業界の動向に注目しながら、経営分析をおこない、業界にあわせた成長が求められます。
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