分割調剤とは?求められる理由からメリット、注意点まで紹介
長期処方や薬剤の適正な保管・使用に際して、「薬剤師のサポートが必要」と医師が判断した場合に発行される「分割調剤」の処方箋です。
薬剤師として勤務する中で、分割調剤の処方箋に実際に目にしたという方もいるのではないでしょうか?
日常的にはあまり遭遇しない分割調剤ですが、分割調剤に関する基礎知識やその意図を十分に理解していないと、適正に対応することができません。
今回は、2016年の診療報酬改定に基づいた分割調剤の考え方や、処方の流れ、分割調剤によるメリットや注意点などについて解説します。
1. 分割調剤とは
分割調剤とは、「薬剤師のサポートが必要である」と医師が判断した場合に行われる処方のことで、最大3回分の処方箋が発行されます。
実は、従来から、長期処方に際して患者さま自身による薬剤の管理に困難がある場合や、ジェネリック医薬品初めて使用する患者さまのために、短期間お試しで処方する場合など、薬剤師の判断で分割調剤を実施することがありました。
2016年の診療報酬改定以降、医師の指示による分割調剤が実施されるようになりました。
一口に分割調剤といっても、その意図や必要性はケースによって異なるため、薬剤師は常にその意図を理解し、分割調剤を実施することが必要です。
分割調剤報酬の考え方や、基本的な流れをみてみましょう。
1.1. 分割調剤報酬の概要
現在実施している分割調剤は、主に以下3つのケースのいずれかに該当します。
- 医師の指示によって実施する分割調剤(2016年の診療報酬改定以降新たに実施)
- 長期処方に際し、患者さまが適切に薬剤を保存することが困難であると薬剤師が判断した場合に実施する分割調剤
- ジェネリック医薬品を初めて使用する患者さまへ、短期間お試しで処方するために実施する分割調剤
それぞれのケースについて、分割調剤報酬の概要をみてみましょう。
まず、(1)医師の指示による分割調剤を実施した場合の報酬に関しては、分割調剤をしなかった場合と基本的に違いはありません。
それは、分割指示自体が医師からすでに出されているため、調剤時には1回の調剤につき、調剤基本料や調剤料、薬学管理料は、投与日数や内容に応じた所定の点数を分割回数で割ったものしか算定できないからです。
ただし、2回目以降の調剤時に、医師への報告義務が発生することに伴い、その都度、服薬情報等提供料を算定することができます。
(2)長期保存困難による分割調剤を実施した場合は、1回目は通常通り調剤基本料と調剤料、薬学管理料を算定し、2回目以降については1調剤につき5点を算定します。
(3)ジェネリック医薬品のお試しによる分割調剤を実施した場合は、1回目は通常の点数を算定し、2回目のみ5点と薬剤服用歴管理指導料を算定します。
1.2. 基本的な流れ
上記で示した(1)医師の指示による分割調剤と、従来の(2)長期保存困難と(3)ジェネリック医薬品の分割調剤では、医薬品交付や管理の流れが異なるため注意が必要です。基本的な流れを、順番にみていきましょう。
(1)医師の指示による分割調剤の場合
● 2分割の指示の場合は2枚の処方箋が、3分割の指示の場合は3枚の処方箋が、「分割指示に関わる処方箋(別紙)」と共に発行されます。
↓
● 患者さまから最大3枚の処方箋と、「分割指示に関わる処方箋(別紙)」を全て一式受け取ります(全ての処方箋が揃っていないと受け付けできません)。
↓
● 分割指示に従い、1回目の調剤・交付を行い、2回目以降の処方箋に関しては、一旦患者さまへ返却し、2回目以降の調剤・交付時に毎回持参してもらいます。
↓
● 後日、2回目以降の処方箋を患者さまから受け取り、2回目以降の調剤・交付を行います。全ての交付が完了し、処方箋を全て回収します。
↓
● 2回目以降の調剤・交付では、調剤・交付後に処方医への情報提供が義務付けられているため、服薬情報等提供書などを用いて処方医へ服薬情報などを伝達します。
(2)長期保存困難、(3)ジェネリック医薬品のお試しによる分割投与の場合
● 患者さまから処方箋を受け付け、処方医に照会した後(2)長期保存困難では14日を超える分を必要に応じて、(3)は患者さまの希望に基づいて分割調剤を実施します。
↓
● 調剤済みにならなかった分を分割理由等と共に処方箋に記載し、処方箋を一旦患者さまに返却すると共に、調剤録または薬歴に必要事項を記載します。
↓
● 全て調剤済みになった時点で処方箋を回収します。
※分割調剤を実施する場合は、同一の薬局で実施することが望ましいことを患者さまに説明しましょう。
患者さまの希望により、やむなく2回目以降の薬局を変更する際は、変更先の薬局に情報提供を行う必要があります。
2. 分割調剤が始まった理由
これまでは薬剤師が主に担ってきた分割調剤ですが、2016年の診療報酬改定により、医師の指示によって分割調剤できるようになりました。
医師が分割調剤を指示できるようになった明確な理由は示されてはいないのですが、主に以下のような意図があると考えられます。
2.1. ポリファーマシーの予防
現在、医療サービスを受ける機会の多い高齢者を中心に、「ポリファーマシー」の問題が注目されるようになりました。
ポリファーマシーとは、必要量以上の、あるいは不必要な薬が処方されている状況のことです。
処方薬が増えると、飲み合わせが良くなかったり、薬の飲み忘れや飲み違いが発生したりするリスクが高まります。
また、国民医療費の高騰にもつながることから問題視されています。
分割調剤を行うことで、薬剤師による服薬指導の機会が増え、飲み違いや飲み忘れを防ぎ、処方医自身が患者の服用状況を把握することで、ポリファーマシーの発生を未然に防ぐことが可能になります。
ポリファーマシーについてはこちらで詳しく紹介していますので、参考にしてみてください。
2.2. 残薬・医療費の削減
年々膨らみ続けている国民医療費が社会的な問題になっています。
なかでも、飲み忘れや健康不安からの必要以上の処方によって、服用されないまま家庭に眠っている残薬の問題は、すぐに解決しなければならない課題です。
日本薬剤師会の試算では、75歳以上の在宅患者だけでも年間約475億円相当の残薬が発生していることがわかっています。
分割調剤の実施は飲み忘れや中止による残薬を防ぎ、医療費の削減に繋がるのです。
2.3. 服薬の管理
お薬の種類によっては、患者さまの状態や服薬状況を薬剤師が定期的に管理するほうが良いものがあります。
また、吸入薬など、投薬デバイスを要する剤形の場合は、投薬デバイスが正しく使えているか、確認したほうが良いというケースもあります。
医師が分割調剤の指示を出しておけば、指示に基づいて薬剤師が服
管理・指導を行うことができるため、医薬品の適正使用に繋がります。
3. 分割調剤のメリット
分割調剤を実施すると、どのようなメリットが期待できるでしょうか?
分割調剤のメリットを3つの視点から考えてみましょう。
3.1. 患者さま側からアクションが起こせる
分割調剤では、複数回にわたる調剤・交付の際に、薬剤師による服薬指導やカウンセリングを受けることができます。
そのため、患者さま自身の健康状態の変化や、お薬の使用感、困りごとなどについて薬剤師を通じて処方医にフィードバックすることができるので、次回以降の処方に反映されやすくなります。
現在では、「服薬アドヒアランス」といって、患者さま自身が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受ける姿勢が求められるようになってきています。患者側からのアクションを可能にする分割調剤は、服薬アドヒアランスの向上にも関係しているのです。
3.2. より丁寧な服薬管理ができる
長期間飲み慣れた薬であっても、ライフスタイルの変化や体調変化、季節によって飲みづらくなったり、症状に合わなくなったりすることもあります。
また、急に風邪をひいたり、けがをしたりして、イレギュラーな処方が発生した際も、分割調剤を受けていれば、適宜処方を変更するなど、フレキシブルな服薬管理が可能になります。
調剤のたびに薬剤師に相談ができるので、今現在の患者さまの状況に応じた、より丁寧な服薬管理が期待できます。
3.3. 副作用などのアクシデントにいち早く気付ける
分割調剤では、調剤のたびに薬剤師が患者さまの健康状態について尋ね、患者さまの状態を処方医へ連絡します。
新薬を服用する際など、副作用などの発生が予想しづらい状況でも、分割調剤を選択しておけば、詳細な経過観察ができるので、さまざまなアクシデントにいち早く気付き、対処することができます。
4. 分割調剤の注意点
このように、患者さまにとってメリットの多い分割調剤ではありますが、実施する際の注意点も存在します。分割調剤の落とし穴についてみていきましょう。
4.1. 無闇に長期処方を推進しない
2016年の診療報酬改定以降、処方医が処方の段階で分割調剤を指示できるようになました。
これによって、処方医は長期処方であっても、薬剤師による調剤1回ごとの服薬指導や健康状態の観察を通して患者さまの状態を知り、処方することができるようになりました。
ただ、この仕組みが利用できるからといって、無闇に長期処方を推進することのないよう、注意する必要があります。
4.2. 業務量が増える可能性がある
薬剤師の立場からすると、分割調剤を実施することで、業務量が増える可能性があります。
通常の調剤であれば、調剤業務、服薬指導は1回で完了しますが、分割と調剤の場合は、分割回数分をこなさなくてはならないということです。
また、処方医への照会や服薬情報等の報告義務も発生しますので、デスクワークも増えます。
そのほか、イレギュラーな業務が発生することもあります。
たとえば分割調剤では基本的に1回目から終了時まで同一の薬局で調剤を受ける必要がありますが、2回目以降に患者さまが来局しなかった場合です。
患者さまへ連絡をして来局を促したり、患者さまから薬局を変更したい旨の申し出があった場合は、変更先の薬局への情報提供をしなくてはならなかったりします。
しかし、このように業務が増えても、調剤報酬はそれほどつきません。
5. 分割調剤の調剤報酬点数
分割調剤を実施した場合、どのくらい報酬点数がつくのでしょうか。
医師の指示による分割調剤を行った場合をみてみましょう。
医師の指示による分割調剤では、調剤基本料、調剤料、薬学管理料の合計を、分割回数で割り、1回調剤・交付ごとに算定します。
<分割調剤の算定例> ※90日分の処方を30日ごとに3回分割調剤するよう指示があった場合。
計算式は、以下のようになります。
[調剤基本料+調剤料+薬学管理料] ÷ 3(回) = 1回調剤あたりの調剤報酬点数
そのほか、「薬剤料」に関しては、この場合、30日ごとに調剤・交付するので、30日分で算定します。
※2回分割指示の場合は、[調剤基本料+調剤料+薬学管理料]の合計を2で割った点数を1回調剤ごとに算定します。
そのほか、医師の指示による分割調剤では、2回目以降の調剤・交付時に、処方医への服薬情報等提供義務が発生するため、2回目以降は1回ごとに服薬情報等提供料1(30点)を算定します。
参照元:厚生労働省/保険調剤の理解のために(平成30年度) 「分割調剤の算定例」
2020年度診療報酬改定についてより詳しく知りたい方はこちらの記事がおすすめです。
分割調剤による「残薬への対応の推進」の他にも、「在宅業務の推進」など様々な取り組みにも解説しております。
診療報酬についての記事をまとめたページもありますので、こちらも是非ご覧ください。
▶薬剤師と診療報酬改定
6.患者さまファーストな薬剤師が求められている
分割調剤では、患者さまの安全・安心を第一に、相談業務や指導業務を行うことが薬剤師に求められます。
また、調剤ごとの患者さまからのフィードバックを処方医に報告したり、疑義照会を行ったりする際には、処方医の意図を汲みながら円滑にコミュニケーションを取る能力も必要です。
しかしこれは分割調剤に限ったことではなく、これからの時代の薬剤師に求められる資質だといえるでしょう。
高齢化や医療の多様化が進む今、薬剤師の業務はこれまでの「対物業務」から「対人業務」中心へと移り変わっています。
7. まとめ
ポリファーマシーの予防、残薬・医療費の削減、服薬の管理のための分割調剤。2016年の診療報酬改定からは、処方医の指示による分割調剤が開始されました。
分割調剤を実施する際は、分割指示の意図を汲み取り、一人ひとりの患者さまのために丁寧な服薬管理・指導を行うことが大切です。
分割調剤は、まだ一般的ではありませんが、今後は増加が見込まれます。
分割指示に遭遇した時、慌てないためにも、基本的な流れや注意点に関する知識を身に着けておきましょう。
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