疑義照会はなぜ重要?具体的な注意点から書き方までを紹介

疑義照会はなぜ重要?具体的な注意点から書き方までを紹介

医師が発行した処方箋は、処方医に確認が取れるまで、内容を一切変更することはできません。

ただし、処方箋に不備があったり、薬学的知識によって処方内容に疑わしい点や不明な点を発見したりすることがあります。

疑義照会は薬剤師の義務であり、疑義照会を怠って調剤することは認められていません。
患者さんに適切かつ安全な薬物療法を提供するためには、医師の処方に対して薬剤師がダブルチェックすることは、医薬分業の本質といえますが、そこには高いハードルを感じる方もいると思います。

今回は、疑義照会をむずかしいと感じている方に、疑義照会の重要性疑義照会の方法について詳しく説明します。

1.疑義照会とは?

疑義照会は、患者さんから応需した処方箋の内容に、疑わしい点や不明な点がある場合に、処方した医師に問い合わせをして確認する業務をいいます。

医薬分業において薬剤師が専門的な知識と能力を生かし、安全かつ適切な薬物療法のために、処方の内容をダブルチェックするという重要な業務の一つです。

疑義照会は、基本的に2つに分類されます。それぞれ説明しましょう。

1-1.形式的疑義照会

形式的疑義照会とは、処方箋の記載不備がある場合の疑義照会です。記載漏れや記載内容の間違い、判読不能など不明な点がある場合、薬価基準に収載されていない薬剤の処方や投与制限のある薬剤の超過などは、疑義照会を行います。

特に、医師の押印は、偽造処方箋を防ぐ目的もあり、必ず確認しなければなりません。

1-2.薬学的疑義照会

薬学的疑義照会とは、処方箋に記載されている内容に対して、薬剤師が薬学的観点で確認を行い、疑問点があれば処方した医師に問い合わせを行う業務です。

疑義の発見には処方箋のみならず、薬歴や患者情報、服薬指導時に得た情報などを活用して、総合的に判断する必要があります。

薬学的疑義照会の一例を挙げてみましょう。

  • 患者さんの疾患や病態に対して、禁忌薬剤や慎重投与の薬剤が処方されている
  • 併用禁止や相互作用のある薬剤が、ほかの医療機関を含めて処方されている
  • 同じ成分あるいは同じ薬効の薬剤が、重複して処方されている
  • 処方薬またはその同じ系統の薬に対して薬物アレルギーの既往がある
  • 副作用が発現した可能性のある薬剤が処方されている
  • 妊婦・授乳婦に対する不適当な薬剤が処方されている
  • 用法・用量、分量、投与日数が不適当に処方されている

1-3.疑義を発見するタイミング

疑義照会を行ううえで、薬剤師はどのタイミングで疑義を発見するのでしょうか。
日本薬剤師会委託事業の「平成27年度全国薬局疑義照会調査報告書」によると、処方箋の内容から発見したものが56%、患者さん・ご家族への服薬指導時や聴き取りなどが42%、その他、薬歴や患者情報、お薬手帳から発見する場合もあります。

形式的および薬学的疑義照会のいずれも、処方箋を受け付けた時点からさまざまなタイミングで、疑義を発見する可能性があるため、アンテナをいつも張っている必要があります。

2.なぜ疑義照会が重視されるのか

医薬分業が進み、薬剤師の業務は対物から対人へと移行し、患者さんの適切かつ安全な薬物療法のために薬剤師が担う役割が大きくなっています。

その中で、特に疑義照会が重視される理由について考えてみましょう。

2-1.法律上の義務であるため

疑義照会は、薬剤師法により薬剤師の義務として定められています。

薬剤師法 第24条
「薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによって調剤してはならない」

薬剤師法 第23条2
「薬剤師は、処方せんに記載された医薬品につき、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師の同意を得た場合を除くほか、これを変更して調剤してはならない。」

参照元:厚生労働省/処方箋の交付等に関連する法令の規定

法律で義務付けられているため、疑義照会せずに調剤して、患者さんに健康被害が生じた場合には、責任が問われることもあります。

薬剤師は、その業務が人の生命や健康にかかわる可能性があるということを、常に考えて努めなければいけません。

2-2.健康被害のリスクを軽減するため

健康被害のリスクを軽減するため

間違った処方に対して、必要な疑義照会をしないで調剤を行った場合、重篤度に違いはあっても健康被害の可能性は否定できません。

たとえば、糖尿病でない方に、本来処方されるべき薬と似た名前の糖尿病薬が処方されて低血糖になった、1日1回の薬を1日3回処方して過量投与になった、同じ効果の薬を重複して処方され副作用が発現した、併用禁忌の薬が処方され副作用が発現した等々、健康被害の事例は数多く報告されています。

疑義照会によって変更になる処方の内容は、主に「薬剤変更」「用法変更」「用量変更」「分量変更」「薬剤削除」などであり、疑義照会を行うことで、患者さんを健康被害から守ることができるのです。

2-3.医療費削減のため

前出の「平成27年度全国薬局疑義照会調査報告書」によると、処方箋発行枚数に対する疑義照会は約2.6%、そのうち処方変更になった割合は約75%でした。

処方変更のうち、残薬による処方日数の調整、相互作用、同種同効薬の重複などは医療費削減につながることが明らかになりました。

また、疑義照会により重篤な副作用の発現が回避できることもあり、直接的ではないものの疑義照会が医療費削減に対して有用であるといえます。

2016年の診療報酬改定では、重複投与や相互作用を防止することができた疑義照会に対して、診療報酬の評価が高くなりました。

3.疑義照会がむずかしい言われる理由とは?

疑義照会がむずかしいと感じている薬剤師の方は多いようです。その理由と対策について考えてみましょう。

3-1.薬剤師としての知識と能力が必要なため

応需した処方箋を疑いもせず漫然と調剤しているだけでは、薬学的疑義照会を行うことはできません。

疑義照会を的確に行うためには、薬剤師としての知識と能力と、それを得るための経験が必要です。
たとえば乳幼児の処方では薬剤ごとに体重当たりの用量の知識が必要です。

処方薬剤について、併用禁忌の薬剤はないか、腎機能低下の患者さんには慎重投与や用量変更の必要性はないかなど、すべての薬剤について専門的な知識が必要とされるのです。

また、患者さんや家族から疑義照会につながる情報を取得するためのコミュニケーション能力も必要です。

薬学的な知識やコミュニケーション能力は、一朝一夕に培われるものではないため、苦手意識を持つことも多いですが、疑義照会を念頭に薬剤師としての知識と経験を積むことが大切です。

3-2.疑義はすべて照会しないと調剤ができないため

疑義照会がむずかしい理由として、疑義照会が困難な状況があげられます。どのような状況があるでしょうか。

理由その1.医師からすぐに回答が得られない

処方医が診療中や不在で、すぐに回答がもらえないケースがあります。

回答までに時間がかかるため、患者さんにその旨を伝え、お待ちいただくか、一度帰宅し再来局してもらうなどの対応が必要です。

患者さんとのコミュニケーション能力を鍛えましょう。

理由その2. 薬学的知識や経験不足で疑義に自信がない

薬学的疑義照会では、疑義照会すべき内容なのか判断する必要がありますが、知識や経験不足で判断に自信がないことも、むずかしいと感じる理由の一つです。

日本医療機能評価機構」の「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」では、ほかの薬剤師が」行った疑義照会や共有すべき事例などが報告されています。

どのような時に疑義照会が行われたか、どのような点に注意して処方箋に向き合えば疑義を発見できるのかなどの参考になるので利用しましょう。

理由その3. 疑義発生の見逃し

薬剤師側も忙しい中で処方監査や調剤を行います。その中で、患者さんとのコミュニケーションを取る時間が足りなかったり、お薬手帳や薬歴の確認を怠ってしまったりすることで、疑義の見逃しにつながります。

患者さんにお薬を渡した後で気づいた場合でも対応することが大切です。早急に対応が必要な場合には、医師と患者さんに連絡します。

また、次回の診療時に反映できるように、トレーシングレポートを利用するのも良いでしょう。

4.疑義照会の際に気を付けたいポイント

疑義照会の際に気を付けたいポイント

では、実際に疑義照会する時に気を付けるポイントを紹介します。

4-1.要点をまとめてから医師に伝える

疑義照会は、処方した医師に直接確認する必要があります。

そのため、疑義照会する内容を前もって整理し、1回の電話で済むように要点をまとめておくようにしましょう。

4-2.あらかじめ代替案や必要な情報を準備しておく

処方変更の必要がある場合には、代替の薬剤や分量など、必要な内容の提案を用意します。

そのために必要な情報は記憶に頼るのではなく、添付文書などで必ず確認することが大切です。

また、疑義照会の必要性や代替の提案について、ほかに薬剤師がいれば相談するようにしましょう。

4-3.医師との信頼関係を築いておく

疑義照会は、患者さんへの適切な薬物療法を行うための薬剤師の義務とはいえ、医師が作成した処方箋の不備や間違いを指摘するものです。

医師との良好な関係がなければ、疑義照会はスムーズには進みません。

医師に疑義照会の有用性を認識していただき、薬剤師を信頼してもらえる関係性を作りましょう。

4-4.医師・患者さんへの配慮をする

疑義照会は、医師に時間を割いてもらったり、患者さんをお待たせしたりすることがあり、心証を悪くしてはスムーズに進みません。

相手の身になり親身に説明することが疑義照会を上手に進めるコツです。

上手に進めるコツ その1.医師への配慮

医師に直接問い合わせする時には、言い回しに気を付けましょう。間違いを指摘するのではなく、「内容についての確認」や「患者情報からの相談」などで問い合わせをします。

もちろん、電話では基本的な礼儀も必要です。自分の所属や名前を名乗り、医師の都合を伺うことからはじめます。

問い合わせ内容や代替案があれば提示し、回答はメモして復唱するようにしましょう。

また、最後には必ず「お忙しいところありがとうございました」といったお礼の言葉で締めくくるようにするとよいでしょう。

上手に進めるコツ その2.患者さんへの配慮

疑義照会をする前に、まず患者さんに疑義照会の必要性について説明し、了承を得ましょう。

その際、患者さんと医師との信頼関係を損なうような「医師が間違った」という説明は避けます。

また、回答までに時間がかかることを伝え、対処について患者さんの都合に合わせて親身になって相談することが大切です。

5.疑義照会の書き方や注意点

疑義照会を行った後は、必ず処方箋と薬歴への記録が必要です。書き方や注意点について説明します。

5-1.疑義照会の書き方

処方箋への記録

疑義照会の記録は、処方の変更の有無に関わらず、照会内容を処方箋の備考欄(または処方欄)に手書きで記載します。

処方内容の変更は、変更前の処方が判別できるように二本線で末梢します。

赤ペンを使用するところもあるようですが、行政によって違うので気を付けましょう。

疑義照会の記録事項
  • 疑義照会をした年月日と時刻
  • 疑義照会をした医師名と薬剤師の押印
  • 疑義照会発生の理由と内容、その回答

参照元:厚生労働省/新任薬剤師のための調剤事故防止テキスト

薬歴への記録

疑義照会後には、処方箋に記入した同様の疑義照会内容を、「薬歴」に記載する必要があります。

「調剤録(裏打ちが多い)」にも記載が必要とされていましたが、薬機法改定による薬歴の義務化に伴い、薬歴に記載されていれば調剤録への記載は不要となりました。

電子薬歴では、患者情報や時系列での処方が過去に遡って見ることができ、処方の流れを把握することができます。

電子薬歴では疑義照会を記入する欄がある場合もありますが、SOAPで記入している場合には服薬指導欄を利用し、次回の服薬指導時に処方変更後の患者さんの状態の確認につなげると良いでしょう。

5-2.形式的疑義照会

形式的疑義照会は、処方箋の不備による疑義照会です。前出の「処方箋の記載事項」を参考に、不備があれば処方箋と薬歴に記載します。

5-2-1.形式的疑義照会で記載するポイント

  1. 疑義照会の理由と照会結果はすべて記載
  2. 記載漏れは、直接処方欄に書き足すのではなく、備考欄に処方内容を記載
  3. 名称変更や販売中止による薬剤変更、処方制限や投薬制限超過による分量や投与日数の変更なども記載

5-3.薬学的疑義照会

薬学的疑義照会では、薬剤師が患者情報を踏まえた薬学的観点から発見した疑義に対して行った問い合わせです。

発見の経緯と情報、回答すべてについて記載します。

5-3-1.薬学的疑義照会で記載するポイント

  1. 疑義照会に至るための情報(処方内容、患者聴き取り、お薬手帳、薬歴など)を記載
  2. 可能であれば疾患名や検査値などの情報を記載
  3. 当該薬品の用法・用量、禁忌、慎重投与、重大な副作用、アレルギー、重複投与、併用薬、残薬など、疑義が生じた理由を記載

6.まとめ

疑義照会は薬剤師の義務として定められており、患者さんに適切かつ安全な薬物療法を提供するうえで非常に重要な業務です。

医師の処方せんをただ漫然と調剤するのではなく、薬剤師としての職能を発揮して疑義を発見し正しい薬物療法に導くことは、医薬分業の本質ともいえます。

疑義照会は、患者さんの健康被害のリスクを減らすだけでなく、重複投与や相互作用防止、副作用重篤化予防により医療費削減のメリットもあることが明らかとなり、診療報酬の評価も高くなっています。

適切で有用な疑義照会をするには、薬物療法の知識を蓄え、患者さんや医師とのコミュニケーションスキルを磨き、経験を積む必要があります。

疑義照会の事例を学び、常にアンテナを張り巡らせて処方箋と向き合い、適切で安全な薬物療法を支えましょう。

この記事の著者

薬剤師・ライター

小谷 敦子

病院・調剤薬局薬剤師を経て、医療用医薬品専門の広告代理店・制作会社に所属し、販促資材やMR教育資材、患者向け冊子などの執筆に従事。
専門医インタビューによる疾患や治療の解説などを、クリニックHP上に掲載するなどの執筆活動も行っている。

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