MS(マーケティング・スペシャリスト)とは?MRとの違いや仕事内容、必要なスキルを紹介

MS(マーケティング・スペシャリスト)とは?MRとの違いや仕事内容、必要なスキルを紹介

MS(マーケティング・スペシャリスト)とは、医薬品卸会社の社員として、医薬品、医用材料、医療機器などの販売に従事する営業職です。ただし、取り扱うのは医薬品など生命にかかわる商材であり、一般的な営業職とは異なる面が多くあります。

この記事では、MSの仕事内容とともに、製薬会社の営業職であるMRとの違いやMSとして必要なスキルなどをご紹介します。

1.MS(マーケティング・スペシャリスト)とは

MSとは、医薬品卸のスペシャリストとして、医薬品をはじめとする医用商材の営業活動と流通の管理、医療機関への情報提供から製薬会社へのフィードバックまで、医薬品マーケティングの全てを担う重要な存在です。

日本で流通する医薬品のほとんどは、製薬メーカーから医薬品卸会社を経由して薬局や医療機関に販売されますが、この点だけを見ると他の産業の商流と大きく異なるところはありません。

営業職であるMSは、医療機関や薬局に対して販売価格の交渉を含めた営業活動を行いますが、一般的にイメージされるような営業活動だけでなく、MRとの連携による医薬品の情報収集や医療機関への情報提供、販売後の医薬品情報の収集など、医療や医薬品に関する幅広い知識と情報の集約が求められます。

1-1.MS業界の現状

かつて医療機関への医薬品販売価格は医薬品メーカーが決定し、医薬品卸会社は決められた販売価格で医療機関に商品を納入するだけでした。

しかし、メーカー同士の競争が激しくなるにつれ、医薬品の選定をする医師への行き過ぎた接待や無償サンプルの供与などが常態化したため、1991年に現在の仕切価制度が導入され、医薬品卸会社が医療機関への納入価格交渉を行うように改められたのです。

一方で、この法制改革が引き金となって医薬品卸会社間の値引き合戦が激化し、スケールメリットを出そうと業界内の統廃合が一気に進みました。業界団体である「日本医薬品卸売業連合会」の構成企業数は、1992年の351社から2018年には72社まで減少し、2023年には70社となっています。

また、MSの数も減少傾向にあり、2008年までは2万人台を保っていましたが、2023年の6月1日時点では「日本医薬品卸売業連合会」会員企業のMSは1万3,605人となっているのが現状です。

参照元:日本医薬品卸売業連合会/日本医薬品卸売業連合会会員構成員数・本社数推移
参照元:日本医薬品卸売業連合会/卸会員会社の従業員数・MS数の推移

1-2.MSの年収

気になるMSの年収ですが、MSだけを対象にした公式データは存在しないため、求人情報や企業のサイトなどを参考にまとめてみました。

新卒の場合は、200万~300万円台からスタートし、5年目で400万円前後に到達、中途採用の場合は経験にもよりますが400万円くらいが年収の相場です。いずれも40歳代で500万~600万円程度となるのが平均的な年収になります。

日本の医薬品卸業界において「4大卸」と呼ばれる大手卸会社の平均年収は400万円台半ばくらいで、昇進次第では600万~700万円台も視野に入るようです。

2.MR(医薬情報担当者)との違い

MSとよく似た名称ですが、MR(メディカル・リプレゼンタティブ、医薬情報担当者)は製薬会社の営業職であり、原則として自社の医薬品のみを取り扱います。
MSのMはマーケティング、MRのMはメディカルを意味します。異なる点は、MSは医薬品をマーケティングの視点から、MRは医療の視点から扱うという点です。
医薬品メーカーは医療機関との価格交渉には関与できないため、価格交渉についてはMSが行います。

いずれも医薬品についての知識が必要とされる仕事ですが、MRは一般的名称としての医薬品情報も含め、自社製品の効果や安全性について詳細な専門知識が必要です。一方、MSはさまざまなメーカーの医薬品について、特性だけでなく、供給性やコスト、包装など、流通に関する広範な知識が要求されます。

MSとMRは車の両輪のように密接な関係にあり、お互いの仕事に欠かせない重要なパートナーです。

2-1.働く場所の違い

MSもMRも営業先は病院、クリニック、調剤薬局などであり、小規模病院やクリニック、薬局などでは同行訪問をするなど、お互いに情報交換を密に行います。

大規模病院の場合、MRは疾患領域ごとに担当が分かれていることが多く、MRのコンタクト先は担当する医科の医師が中心です。一方、MSのコンタクト先は医薬品の納入先である薬剤部など、医薬品の購買を担当する部門が主となります。

かつてMRが医師の診察終わりを待つ姿は当たり前の光景でした。しかし、コンプライアンスの強化に加えてコロナ禍で進んだ面会規制から、MRが医師と直接会う機会は減少しており、市販後の医薬品情報を効率よく収集するためにも、MSとMRによる、よりいっそうの連携強化が求められています。

2-2.取り扱う商材の違い

医薬品卸会社に勤めているMSの場合、医薬品や試薬、機器をはじめとした、医療に関わるさまざまな商品を取り扱っており、MRとは違い医薬品の価格交渉権があります。

一方、製薬会社に勤めているMRの場合は自社の製品を扱っており、情報の「伝達」「収集」を主な役割としています。そのため、医薬品の価格交渉などは行えません。MRが価格交渉できない理由は、患者さんに適切な医療が提供できない可能性があるからです。

例えば「自社の薬の値段を低価格にするので処方頻度を増やしてください」とお願いした場合、治療効果を二の次にして、価格重視の治療となってしまうことが考えられます。そのため、MSには価格交渉権があり、医療機関と製薬企業の仲介役として機能しているのです。

2-3.必要な知識や資格の違い

MSもMRも仕事に就くための特別な資格は必要とされませんが、医学や薬学の知識が要求されるため、薬学部など医療系大学の卒業者が多数を占めています。

MRは自社の医薬品しか取り扱わないため、主に必要となるのは医薬品についての知識です。臨床データや海外での安全情報など、特定の医薬品に特化した知識が中心となります。

一方、MSの場合は、複数の医薬品メーカーの多種多様な医薬品を取り扱うことから、医薬品の効果や安全性はもちろんのこと、コストや適正在庫のための販売予測、包装や保管、物流など、より広範な知識が必要です。

  取引先(訪問先) 取り扱う商材 必要な知識
MS(マーケティング・スペシャリスト) ●病院(薬剤部)
●クリニック
●調剤薬局
●医療用医薬品
(複数メーカー)
●一般用医薬品
●医用材料
●医療機器
●医薬品(複数商品)
●コスト
●在庫管理
●物流
MR(医薬情報担当者) ●病院(医科、医局)
●クリニック
●調剤薬局
●医療用医薬品
(自社製品のみ)
●医薬品
(自社製品、一般名称)

MRについての詳しい解説や情報についてはこちらの記事をご参照ください。

3.MSの主な業務内容

MSは、普段どういった業務を行っているのでしょうか。
ここでは、MSの主な業務内容をご紹介します。

3-1.医薬品の販売・営業活動

自社の医薬品のみを販売する医薬品メーカーと異なり、MSが勤務する医薬品卸会社はさまざまなメーカーの医薬品、医用材料、医療機器、医事システム、医療食などを取り扱っています。一般的な薬局や大規模病院で扱う医薬品の在庫は1,000種類を超えており、MSは医療機関に対し、非常に多くの医薬品について営業活動を行う必要があるのです。

そのため、製薬会社からいち早く新製品の情報を入手して、得意先である医療機関にプロモーションを行い、採用・販売に結び付けるのと同時に、複数の商品の中から最も適切な商品を提案するための薬学的知識とコスト感覚、公平性も併せ持つ必要があります。

3-2.医薬品の情報収集・情報提供

MSは、さまざまな製薬会社のMRから、新薬などの情報を収集することも仕事の一つです。
また、集めた情報は、社内に蓄積している知見と合わせて医療機関や薬局などの取引先に公正な情報として提供します。
医薬品を卸した後は、実際に処方された医薬品の効果や副作用について、医師や薬剤師からヒアリングを行い、MRへフィードバックします。
そのため、各メーカーの商品特徴だけでなく、医療制度や疾患に関わる知識も必要です。

3-3.医療機関や薬局などの経営サポート・コンサルタント

MSが働く医薬品卸業界は再編が進み、現在は上位4社で約90%の売り上げを占めるといわれていますが、再編が進む医薬品卸業界では収益改善のために医薬品のみならず、最先端の医療機器や試薬の取り扱いを増やし、医事システムの開発まで手掛け始めています。

多様な商材を扱う医薬品卸のMSは一般の医薬品の営業にとどまりません。開業医や薬局に対して、経営を最適化するための提案も行う場合があります。
現在では医事システムや医療機器、体外診断薬などの導入による効率化や、コストの削減などについてのコンサルティングを行うこともMSの業務に含まれています。

また、今後は地域包括ケアシステムの推進により、医療と介護の連携が加速すると予想され、医薬品卸がMSを講師に介護職への勉強会を開くなど、コンサルタントとしてMSが活躍する領域はさらに広がるでしょう。

4.MSに求められるスキル

多くの人を相手に仕事を進めるMSには、以下のスキルが求められます。

  1. MRや取引先との人間関係を築くためのコミュニケーション能力
  2. 薬局や医療機関が抱える課題を聞き出し、解決に導くためのヒアリング力
  3. 商品やコンサルティングに伴う提案内容を明確にして相手を納得させるトーク力

これらのスキルとMSの仕事との関わりについてご説明します。

4-1.コミュニケーションスキル

人と接する仕事であるMSにとって、まず身に付けたいのがコミュニケーションスキルです。「コミュニケーション」とは意思の疎通であり、お互いの意識が同じ方向を向くように「通じ合う」ことをいいます。

「コミュニケーションをとる」と「話す」ことは同義のように感じがちですが、実際には非言語コミュニケーションがとても大事です。ファッションは人それぞれですが、身だしなみには気をつけて、少なくとも第一印象で相手に不快感を与えないように気を配りましょう。

また、「話しすぎず、黙りすぎない」ことも大切です。「会話はキャッチボール」といわれるように、相手と自分の話す時間が同じくらいになるように気を配ると好印象を持たれます。商品の説明などで熱が入り過ぎて一方的に話し続けるようなことは避けましょう。

4-2.ヒアリングスキル

「傾聴力」という言葉がありますが、文字通り相手の話に「耳を傾ける」ヒアリングスキルも重要です。相手を理解しようとしている姿勢を見せることや、「あなたを尊重しています」という意思表示は、コミュニケーションに不可欠な要素となります。

カウンセリングやコーチングでも傾聴は活用されますが、特にコーチングでは相手に質問したり、こちらから提案したりするのをきっかけにして、相手の課題を引き出すために使われます。MSのスキルとしても重要なポイントなので、「聞き出す」ためのヒアリングを心がけてください。

一般的な営業職ではなく、コンサルティングも兼ねるMSにとって、相手の課題を聞き出し、ソリューションの提案につなげるためのヒアリング力は、不可欠なスキルといえます。

4-3.トークスキル

MSに限らず、営業職にとってトークスキルは重要課題といえるでしょう。とはいえ、「立て板に水」のように流ちょうに話すことがトーク力の全てではありません。むしろ実直な話し方の方が好感を持たれる場合もあります。

トークスキルで重要なポイントは、自分の考えを明確に、かつ端的に伝えることです。そのためには、普段から読書をして語彙力を高めたり、話の要点を短くまとめたりする練習をしておくことが大切です。SNSへの短文投稿を利用して要約力を養うのもよいでしょう。

5.MSとして働くメリットやデメリット

通常の営業職と違ってMSは多くの人と関わることが仕事であり、広範な知識やスキルを求められる仕事でもあります。MSとして働くことのメリットとデメリットはあるものの、他にはない経験を積めることは結果的に自分自身の成長につながるでしょう。

MSとして働く中で得るものを活用して、さらなるキャリアアップを目指すためにも、メリットやデメリットを知っておくことが大切です。

5-1.メリット

取引先のさまざまな医療機関を訪問して仕事を行うMSには、多くのメリットがあります。ここでは、MSのメリットを見ていきましょう。

5-1-1.訪問先の多さによる人脈の形成

MSはさまざまな医療機関を訪問するため、人脈を形成しやすいというメリットがあります。

医療品卸会社に勤めるMSの顧客となり得るのは、大病院やクリニック、診療所、薬局などさまざまな医療機関です。

MSは普段の業務でも多くの医療機関を訪問することになるため、自然と医療機関に勤めている医師などの医療従事者とコネクションを形成することができます。

5-1-2.比較的高待遇

薬剤師の免許を持っているMSの場合、その分給料も優遇されるケースが多いようです。
優遇される理由には「医薬品全般を取り扱うから」「医療従事者とのコミュニケーションを図るから」が挙げられます。

また、薬学部をはじめとした医療系学部の人は重宝される傾向にあります。マイナビ薬剤師に掲載している求人によると、MSの基本的な給与は、日本の平均年収よりも比較的高い水準にあります。

5-1-3.開業支援など学習材料の多さ

MSは取引先である病院や診療所、薬局などのさまざまな医療機関を訪問することになるため、調剤薬局などの開業支援のノウハウを学べるというメリットもあります。

例えば、新しく薬局を開業する場合、まずは取り扱う医薬品の選定がとても重要です。特定のエリア内の病院や診療所など、医薬品を処方する医師情報が必須となります。

また、卸会社によって医薬品の価格差があるため、医薬品の選定は経営に影響すると言っても過言ではありません。

将来的に調剤薬局などの開業を視野に入れている方の場合、開業に関わる機会も多いため、ノウハウを身に付けることができます。

5-2.デメリット

MSは、さまざまなメリットを持つ職業である半面、いくつかのデメリットもあります。
MSを目指す場合は、メリットだけでなくデメリットについても把握しておきましょう。

5-2-1.営業職としてノルマが存在する

MSは営業職のため、ノルマが設定されている企業もあります。取り扱っている医薬品や医療に関わる機器の販売数など、会社から設定されたノルマ・目標を達成することが求められるため、プレッシャーがかかる仕事だといえるでしょう。

5-2-2.勤務形態の不安定さ

MSは、勤め先である医療品卸会社の営業支店間で異動するケースも多く、人事異動で配属が変わることも多いことから、頻繁に転勤や引っ越しが発生しやすい職業です。

そのため、勤務形態が不安定で一つの場所に落ち着くことができない点はデメリットだといえるでしょう。

6.MSになるために資格は必要?

MSになるために特別な資格は必要ありませんが、業務を遂行する上で医薬品と医療に関する知識は必要です。新卒採用の場合は社会人研修からスタートし、専門知識はOJTでじっくり身に付けることになりますが、キャリア採用では、医療業界での経験を問われることが多いでしょう。

現在の職業が薬剤師など医療系の仕事であれば、MS認定試験など、専門資格に備えておくと転職の際の良いアピールポイントとなります。大手の医薬品卸ではMSに対してMRの資格取得をすすめている企業もあるので、MSとMR両方の資格対策をしておくのもいいでしょう。

6-1.資格の有無

MSになるために特別な資格は必要ありません。企業の定めた条件を満たしていれば MSとして働くことができます。企業により内容は異なるため、事前に情報を収集しておくことが大切です。

MSの仕事は、製薬会社から仕入れた薬品を販売することで、医療や薬学の知識が必要とされるため、薬剤師の資格があると役に立つでしょう。また、医薬品を扱う企業では、薬剤師の在籍が必須となるため、重宝される場合があります。
さらに、MS認定者資格試験を取得しておけば、MSとしてのスキルを持っていることの証明になるためおすすめです。

6-2.MS認定資格制度

MS認定資格制度とは、MSとしての情報提供に関するスキル向上を目的とした資格です。
一般社団法人日本ジェネリック医薬品販社協会が認定している資格で、情報提供のスキルアップやモチベーションの向上、ジェネリック医薬品の普及、医療機関や調剤薬局がジェネリック医薬品の情報を得やすい環境づくりを目的としています。
受験資格は以下のとおりです。

  • 所属企業に2年以上勤務実績があること。また、所属企業において代表取締役および役員が特別に推薦したとき。
  • 入社以来メーカー等による商品説明50時間以上完了の事。

MSとして働く際の目標にしてみてはいかがでしょうか?

7.転職先の見つけ方

MSとしての転職を目指すのであれば、まずは求人情報を見つける必要がありますが、情報サイトではMSだけではなく、MRやその他の営業職も含めた「医療系の営業」としてまとめられている場合がほとんどです。

また、MSの求人情報そのものがあまり多くはないため、医療系求人情報サイトの中でも薬剤師の転職サービスの「マイナビ薬剤師」を利用をおすすめします。

マイナビ薬剤師のMS求人情報はこちら
> 営業(MR・MS・その他)の薬剤師求人一覧

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> 薬剤師の転職におすすめの「非公開求人」とは?

8.まとめ

医薬品流通のスペシャリストであるMSについて、MRとの違いや業務内容、必要とされるスキルなどを中心にご紹介しました。

日本の医薬品市場はこの数年頭打ち状態が続いていましたが、2022年度の国内医療用医薬品は過去最高の10兆9,688億円を記録し、米国のコンサルティング会社によれば、特許期間にある医薬品の市場は2022年からの5年間で6.5~7.5%の成長が見込まれると予測されています。

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この記事の著者

ライター

朝倉 哲也

資格の知見を活かして、サプリメントや健康食品に関する記事など、書籍や雑誌で執筆を行っている。

この記事の監修者

薬剤師専任キャリアアドバイザー

中村 貴大

薬剤師の転職サポート歴7年。
調剤薬局、病院、ドラッグストアなどの法人担当だけでなく、多くの求職者様の転職活動を成功に導いた経験と知識を活かし、転職活動を開始される皆さまを全力でサポートさせていただきます。

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