処方権とは?薬剤師に処方権が求められる背景やメリットについて解説

処方権とは?薬剤師に処方権が求められる背景やメリットについて解説

近年、世界各国をはじめ、日本でも「処方権」の在り方について検討がなされています。現在に至るまで、日本では医薬分業の考えに基づき、患者さんにどの治療薬を使用するかを決め、処方箋を発行できるのは、処方権を持つ医師・歯科医師・獣医に限られております。
薬剤師は、処方箋の内容に間違いがないか、安全に使用できているかをチェックした上で、調剤・交付を行う義務を担ってきました。

しかし、社会の高齢化が進み、医療を必要とする方が増える一方、医師不足や社会保障費負担の増加などの社会問題が浮き彫りになり、医療体制の見直しが求められるようになりなっています。
その1つとして、薬剤師にも処方権を拡大する議論が持ち上がりました。
そもそも処方権とはどのような権限なのか、調剤権との違いについても確認しながら、薬剤師に処方権が求められている背景や、期待できるメリットについて詳しく見ていきましょう。

1.処方権とは

処方権とは、処方箋を書く権利のことです。患者さんが薬物治療を受ける際には、医療機関を受診し、処方箋を発行してもらうことで、治療に必要な薬剤の交付を受けることができます。

ここからは、日本国内において処方権は誰が持っているのか、薬剤師の調剤権との違いなどについて、詳しく解説していきます。

1-1.処方権は誰が持っているもの?

前述のとおり、処方権とは処方箋を書く権利のことで、日本では医師法(第22条)・歯科医師法(第21条)・獣医師法(第18条)の定めによって、医師・歯科医師・獣医師免許を保有するものだけに与えられている権利です。

日本では現在のところ、それ以外の看護師や薬剤師などの有資格者には、処方権がないため、患者さんに対して処方箋を発行することはできません。

参照元:厚生労働省/処方箋の交付等に関連する法令の規定
参照元:e-Gov法令検索/獣医師法(第18条)

1-2.調剤権との違い

処方権と調剤権は、どちらも医薬品の使用に際して必要な権利ですが、その権限はまったく異なります。

処方権は、医師・歯科医師・獣医師のみが行使でき、処方箋を交付できる権限であるのに対し、調剤権は、薬剤師法(第19条)の定めにより、薬剤師が行使できる権限で、医療用医薬品から一般用医薬品までの全てを調剤し、販売できる権限です。
ただし、薬剤師法(第23条)では、一般医薬品を除いて、「薬剤師は、医師、歯科医師または獣医師の処方箋によらなければ、販売または授与の目的で調剤してはならない」と定められています。

したがって、医師・歯科医師・獣医師による処方箋の指示なしには、薬剤師が薬剤を選んで患者さんに販売したり、使用したり、処方箋の内容を変更したりすることは認められていないのが現状です(一般医薬品を除く)。

参照元:厚生労働省/薬剤師法

2.薬剤師に処方権を求められるようになった背景

薬剤師には調剤権はあるものの、処方権はありません。日本では医薬分業の考えに基づき、医師・歯科医師・獣医師が薬剤の選択と処方を行い、薬剤師がその安全かつ適正な使用をダブルチェックするという役割をそれぞれが担うことで、医療業務の質的向上に取り組んできました。

しかし、高齢化に伴う医療需要の増加、医師不足、社会保障費負担の増加などの社会的な課題が背景となり、現代社会では医療制度を見直す動きが出ています。

例えば、糖尿病などの慢性の疾患の治療は、基本的に同じ医薬品を長期間継続して処方しますが、現状では処方を受けるたびに、医師による診察と処方箋の発行が求められます。
処方箋を反復利用できるリフィル処方箋という仕組みもありますが、あまり普及していないこともあり、医師、そして医療を受ける患者さんの負担の増加が懸念されているのです。

また、薬剤師側としても、調剤権のみが認められている現状の医療制度では、専門性の発揮に限界があることや、処方の変更が必要になった際に、軽微な変更であっても処方医への疑義が発生するため、手続き上の負担が大きいことが指摘されています。

3.処方権は大きく2つに分けられる

日本では薬剤師に処方権は与えられていませんが、欧米では薬剤師に処方権が与えられているところもあり、その権限の幅に応じて「独立型処方権」と「依存型処方権」という2つに大別されています。
薬剤師の処方権について、海外の事例を参考にしながら詳しく見ていきましょう。

3-1.独立型処方権

独立型処方権とは、薬剤師が患者さんの診断、治療方針の選択に責任を持って、自ら処方箋を発行する権限のことです。英国では、英国王立薬剤師会(Royal Pharmaceutical Society of Great Britain:RPSGB)が認める8カ月のトレーニングプログラムを修了した薬剤師に対し、独立型処方権が与えられ、医療現場で活躍しています。

3-2.依存型処方権

依存型処方権は、ある一定の条件下で、薬剤師が制限付きで処方箋を発行できる権限です。制度の詳細は国や州、医療機関などによって違いはあるものの、基本的には医師と薬剤師がチームを組んで、医師の診断を基に、薬剤師がその後の薬剤治療や処置を決定し、必要に応じて処方箋を発行する権限のことをいいます。
米国の薬剤師が持つのは依存型処方権です。
医療機関によっては、当該医療機関のガイドラインなどに基づき、医師からの指示(権限の委託)を受けて薬剤師が処方箋を発行する仕組みを取り入れています。

4.薬剤師が処方権を持つことで得られるメリット

薬剤師が処方権を持つと、どのようなメリットが期待できるのでしょうか。医療機関や患者さんの視点から期待できるメリットについて見ていきましょう。

4-1.病院に行かなくても薬を処方できる

薬剤師に処方権が与えられれば、患者さんの治療に必要な医薬品を迅速に処方することができるようになるでしょう。

慢性疾患の治療に使う常用薬や、急な発熱・頭痛を和らげる鎮痛剤などを医師の診断なしに処方できるようになり、医療機関の混雑の緩和や、患者さんが病院に通院するための時間の節約、交通費負担の軽減が期待できます。

4-2.ドラッグストアで予防接種を行える

薬剤師も予防接種を実施できるようになる可能性があります。カナダの一部の州では高齢化や医療従事者の不足によって、薬剤師の職能が拡大しており、その一例として、特別な研修を受けた薬剤師に対して、予防接種を実施できる権限が与えられています。

日本でも同様の認可が下りれば、研修を受けた薬剤師がいる薬局やドラッグストアの店頭で、予防接種を実施できる可能性が高まるでしょう。

5.日本と世界の薬剤師の処方権は

薬剤師の処方権について、世界各国ではどのように導入されているのでしょうか。日本の現状と世界の事例について比較してみましょう。

薬剤師の処方権
日本 処方権は認められていない
米国
(アメリカ)
依存型処方権が認められている
※「ある一定の条件下」において、処方箋を発行できる権限
依存型処方権の中でも「プロトコル型処方権」と呼ばれるものが主流
英国
(イギリス)
独立型処方権が認められている
※薬剤師が患者さんの治療方針の選択に責任を持って、自ら処方箋を発行する権限
英国王立薬剤師会が認めるトレーニングプログラムを修了することで、独立型処方権を取得できる

5-1.処方権は日本ではまだ認められていない

現在日本では、薬剤師の処方権は認められていません。これまでのように、医薬分業の理念に基づき、診断や治療方針の決定、薬剤の選択と処方は、医師・歯科医師・獣医師に権限があり、薬剤師にできることは限られているのが現状です。

薬剤師が処方権を持つことによって、医師や患者さんの負担軽減、薬剤師の職域拡大など、さまざまなメリットが期待できる一方で、責任の所在や安全性の確保をどうするかといった議論や、薬剤師法の改正、研修制度や認定機関の設置など、多くの課題を解決していく必要があります。

5-2.米国(アメリカ)では依存型処方権

米国の薬剤師には、依存型処方権が与えられています。依存型処方権は、薬剤師が「ある一定の条件下」において、処方箋を発行できる権限です。

医療現場における依存型処方権の行使には、権限の程度によっていくつかのパターンがあります。米国で主流なのは、依存型処方権の中でも「プロトコル型処方権」と呼ばれるものです。
医療機関ごとに、医師や薬剤師のワーキンググループが医薬品適正使用ガイドラインを基に、あらかじめ治療プロトコルを作成し、P&T委員会(薬事審議会)の審査を経て策定します。

薬剤師は、医師や歯科医師から権限の委託を受けて、必要に応じて処方箋を発行しますが、その後の評価、モニタリングも担い、安全確認や医療事故の防止に努めます。

5-3.英国(イギリス)では独立型処方権

英国では、2006年から薬剤師に独立型処方権が認められています。独立型処方権とは、薬剤師が患者さんの治療方針の選択に責任を持って、自ら処方箋を発行する権限のことです。

英国王立薬剤師会(Royal Pharmaceutical Society of Great Britain:PSGB)が認める8カ月のトレーニングプログラムを修了すると、独立型処方権を取得できます。

英国薬局規制機関である General Pharmaceutical Council(GPhC)の調査によると、2020年時点で病院薬剤師で処方権を保持しているのは、32%です。さらにウェールズ地方では、2016年からは処方権を持つ薬剤師がクリニックを開業し始め、2021年6月には33件のクリニックが診療を行うなど、薬剤師が活躍しています。

6.まとめ

薬剤師への処方権の拡大は、社会の高齢化に伴う医療需要の増加、医師不足、社会保障費の増加などの課題解決の糸口として導入の声が挙がっています。病院に行かずに薬剤師から直接処方が受けられるようになれば、患者さんにとっても、通院にかかる時間の節約や交通費の負担が軽減できるなどのメリットが期待できるでしょう。

しかしながら、実際に導入するにあたっては、責任の所在や安全性の確保に関する議論や薬剤師法の改正、研修制度や認定機関の設置など、多くの課題があり、一つずつ慎重に解決していく必要があります。

この記事の著者

医学博士、医学研究者

榎本 蒼子

最終学歴は京都府立医科大学大学院医学研究科博士課程卒業。2011~2015年 京都府立医科大学にて助教を勤め、医学研究および医学教育に従事。

毎日更新!新着薬剤師求人・転職情報

薬剤師の職場のことに関するその他の記事

薬剤師の職場のことに関する記事一覧

※在庫状況により、キャンペーンは予告なく変更・終了する場合がございます。ご了承ください。
※本ウェブサイトからご登録いただき、ご来社またはお電話にてキャリアアドバイザーと面談をさせていただいた方に限ります。

「マイナビ薬剤師」は厚生労働大臣認可の転職支援サービス。完全無料にてご利用いただけます。
厚生労働大臣許可番号 紹介13 - ユ - 080554