薬剤師外来とは?病院の取り組みや今後の薬剤師について
平成30年2月に日本病院薬剤師会から外来患者への薬剤師業務の進め方と具体的実践事例が提言されました。
この内容としては、外来患者への薬剤師としての関わり方、その実践事例の報告が記載されています。地域の中核病院では薬剤師外来の導入がなされているところもありますが、世間的な認知度で言うとまだまだ低いでしょう。
ここでは、薬剤師外来の概要や業務内容、今後についてなどを解説します。
目次
1.薬剤師外来とは
薬剤師外来とは、医療機関において外来患者に対し、薬剤師が薬学的管理をおこなうことを指します。
薬剤師が薬の副作用や服薬状況などを確認・指導することによって、外来診療の質を向上させるのが目的でおこなわれています。
ここでは薬剤師が外来診療に加わる重要性を解説します。
参照元:一般社団法人 日本病院薬剤師会/外来患者への薬剤師業務の進め方と具体的実践事例
1-1.薬剤師外来の重要性
超高齢社会を迎え、日本の外来患者の抱えるさまざまな問題に対して薬剤師の参画が期待されています。
まず1つは外来患者の多くの割合を占める高齢者に対する薬物治療についてです。
高齢者の薬物治療では、ポリファーマシー(多剤併用)の問題について近年よく耳にするようになりました。
外来薬剤師の参画で、医師への処方整理の提案や患者さまへの指導のさらなる充実により、高齢者に対する薬物治療を適切かつ安全にすることが期待されています。
2つ目は、アドヒアランスの向上です。
外来薬剤師の参画により、アドヒアランス向上の支援を期待されています。特に抗がん剤、吸入薬、自己注射など、使用する上で注意や手技の確認が必要な薬剤に関して薬剤師の参画は効果的です。
地域包括ケアシステム推進が示すように、今後ますます在宅での治療が求められていきます。その流れのなかで、患者さまのアドヒアランス向上は治療上、そして限りある医療資源を大切にする意味で重要です。
3つ目は医師の負担軽減、タスクシフトです。
2022年度の診療報酬改定でも提言されているように、医師の負担を多職種協働によって解消していかなければいけません。
参照元:厚生労働省/令和4年度診療報酬改定について
全国保険医療団体連合会/2022年度診療報酬改定特集
特に外来診療は医師1人が問診、診断、処方をおこなう場合がほとんどで、1日に何人もの患者さまを診察しなければならず、負担が大きいです。
薬剤師外来を導入することで、これら医師の業務のうち、薬物治療に関することを薬剤師にタスクシフトすることが期待されています。
4つ目は入院、外来のシームレスな薬学管理です。
地域包括ケアシステムにおいて、地域の薬局や診療所と病院の連携は必須です。薬剤師外来は病院と地域を結ぶ窓口の役割があります。
特に、手術前の内服薬確認、休薬指示は、安全な周術期管理において大変重要です。
2.薬剤師外来のメリット・デメリット
薬剤師が外来患者に関わることが重要であることはご理解いただけたかと思います。
それでは薬剤師外来をおこなうことで、薬剤師としてどういったメリットがあるのでしょうか。デメリットも合わせて考察しました。
2-1.メリット
- 入院前から患者情報が分かる
- 患者さまと長く関わることができる
特に術前の診察に当てはまることですが、入院前に患者情報を把握することで、入院後のスムーズな指導につながります。
事前に患者情報が全くない状態での入院は、持参薬・既往歴・副作用歴・アドヒアランス状況など、さまざまな情報を把握するところからはじまります。
そこから入院中に禁忌薬が使われる恐れがないか、病態に応じた特殊な対応は必要かなどを検討していると多くの時間がかかってしまいます。
しかし、事前に患者さまの情報が把握できていると、何か問題がある場合でも、入院するまでに薬剤部内や他職種間で協議して方針を決めておくことができます。
イレギュラーなことは、医療ミスや他の業務の圧迫の原因となりますので、前もって準備ができることは薬剤師にとってメリットです。
病院薬剤師は今までは入院患者さまの対応がメインで、入院という短い期間しかその患者さまと関わることができませんでした。
しかし薬剤師外来ができることで、より長く深く患者さまと関わることができます。特にがん化学療法を受ける患者さまとは長く濃い時間を共にします。
それは薬剤師として死生観や存在意義を問われる貴重な体験です。そういった経験を積みたいと考える薬剤師にとって、薬剤師外来でおこなう業務は間違いなく大きな財産となります。
2-2.デメリット
- インセンティブが少ない
- 人員がとられる
薬剤師外来に対する診療報酬によるインセンティブはまだ少なく、抗がん剤治療や自己注射の導入時などに限定されているのが現状です。
外来薬剤師によるアドヒアランス確認や医師のタスクシフトは今後重要となってくる項目ですが、診療報酬で算定できない以上、サービスでおこなう業務となってしまいます。
病院経営として、収入が得られない仕事に時間や人員を割くことは難しいのが現状でしょう。
病院薬剤師の業務は年々多様化しており、人員が充足しているという病院は、まれです。
どの病院も、限られた人数でできる手一杯の業務をこなし、診療報酬改定の算定要件を満たせるように業務改善に追われているのではないでしょうか。
そういったなかで、外来担当薬剤師を新たに置くと人員がとられ、さらに業務が忙しくなります。薬剤師外来をやりたくても、人員的に難しい病院もあるでしょう。
3.薬剤師外来の業務内容や流れ
ここからは薬剤師外来の業務内容や流れの一例を解説します。
薬剤師外来の業務は、治療の開始前・開始時と開始後に分けられ、さらに医師の診察前と診察後にわけられます。それぞれについてポイントを解説します。
参照元:一般社団法人 日本病院薬剤師会/外来患者への薬剤師業務の進め方と具体的実践事例
3-1.治療開始前の診察
3-1-1.診察前・診察時
- 事前情報を収集・評価
- 診察前面談による情報の収集・評価
- 患者さまへの指導
- 医師などへの情報提供と対応策の協議・立案
服薬状況やアレルギー・副作用歴などを確認します。また、チームカンファレンスがあれば参加し、他職種と治療方針や情報を共有します。
事前情報を踏まえたうえで、服薬状況やアレルギー・副作用歴などを聞き取ります。そしてそれらの情報を元に、薬学的に評価したうえで患者さまに最適な処方設計を医師に提案します。
さらに、吸入薬や自己注射を導入予定であれば、患者さまの状態に適した薬剤を医師に提案します。
必要に応じて服薬指導をおこないます。
特に周術期の対応を目的とした術前外来では、周術期に影響のある薬剤について評価し、対応方法を指導します。
診察時に必要な情報は診察前に速やかに医師などへ情報提供します。
開始予定の薬剤について検討すべき点がある場合は、その旨と代替案も医師へ報告します。
またPBPM(プロトコルに基づく薬物治療管理)が適応可能な場合には、院内ルールに従って実践します。
3-1-2.診察後
- 診察内容の確認
- 処方内容の確認
- 指導の実施
- 薬学的評価計画の立案
- 医師などへの情報提供と対応策の協議
- 他の保険医療機関や保険薬局などとの連携
医師による治療方針や処方薬に関する説明に対する患者さまの理解度を確認します。
事前情報や検査結果、診察内容などを総合的に判断し、処方内容の妥当性を判断します。もし問題があれば医師へ疑義照会をおこないます。
診察などの情報を踏まえ、服薬指導をおこないます。吸入薬や自己注射の薬剤が処方された場合は手技指導もおこないます。また、必要に応じて生活習慣指導も必要となります。
薬学的評価に必要な臨床検査値については、次回診察時の採血項目から漏れないように医師と協議します。また、患者さまの帰宅後のフォローアップをおこなう場合もあります。
面談内容を他職種と共有し、次回診察時の対応を協議します。
事前情報の確認や患者面談によっても、患者さまが使用中の医薬品などの情報が不明確な場合、調剤を行った他の保険医療機関や保険薬局から情報を収集します。
術前外来の場合は、周術期管理に影響を及ぼす可能性のある薬剤の対応を他の保険医療機関や薬局、病棟の担当薬剤師へ情報提供します。
また、こういった連携がスムーズにおこなえるように、指導手順や情報伝達ツールについて他の医療機関や薬局と研修会などをおこなうこともあります。
3-2.治療開始後の診察
3-2-1.診察前
- 事前情報を収集・内容確認
- 診察前面談の実施
- 診察前面談により抽出された問題への対応
- 医師などへの情報提供と対応策の協議・立案
前回までで抽出された問題点、対応法を確認します。当日の検査値などがわかれば確認します。
診察前に患者面談をおこない、効果や副作用、アドヒアランス、治療開始後のQOLを確認します。
処方薬の服用方法や手技に問題がある場合は再度指導します。指導後も継続が困難と判断した場合は医師などと協議します。
必要な情報を医師などと共有します。副作用の支持療法、確認が必要な検査値があればオーダーを依頼します。
アドヒアランスや副作用状況の場合によっては処方薬の変更を立案します。PBPMが適応可能な場合には、院内ルールに従って実践します。
3-2-2.診察後
- 診察内容の確認
- 処方内容の確認
- 服薬指導の実施
- 薬学的評価計画の立案
- 医師などへの情報提供と対応策の協議
- 他の保険医療機関や保険薬局などとの連携
医師による治療方針や処方薬に関する説明に対する患者さまの理解度を確認します。
医師との協議内容が処方に反映されているか確認します。
患者さまの理解不足による服薬アドヒアランス不良が疑われる場合、服薬の意義を含め、再度服薬指導を実施します。
薬学的評価に必要な臨床検査値については、次回診察時の採血項目から漏れないように医師と協議します。また、患者さまの帰宅後のフォローアップや次回以降の診察前面談が必要かどうかの判断を行います。
必要な情報や処方内容に影響する可能性のある場合、医師などに情報を共有します。また、治療薬選択の代替え案や事前に作成し、合意したPBPMが適応可能な場合には、院内ルールに従って実践します。
お薬手帳や薬剤情報提供書やトレーシングレポートを活用し薬局の薬剤師と情報を共有します。そして切れ目なく患者さまの薬物治療を支援します。
4.薬剤師外来にはどんなものがある?
実際に病院で行われている薬剤師外来には以下のようなものがあります。
- がん化学療法外来
- 吸入指導外来
- 自己注射指導
- 術前外来
抗がん剤治療患者を対象に抗がん剤の説明をはじめ、副作用マネジメントやアドヒアランス確認をおこないます。
気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患などの吸入薬が必要な患者さまに対して手技を含めた指導をおこないます。患者さまの状態に適したデバイスや補助具の選定もおこない、医師と協議します。
インスリン・骨粗しょう症治療薬・生物学的製剤などの、自己注射が必要な患者さまに対して手技指導をおこないます。
自己注射の手技は煩雑なものが多く、患者さまによっては導入が難しいケースもあります。そういった評価も含めて薬剤師が評価し、安心して治療を継続できるようにサポートします。
周術期の安全な治療において、現在の服用薬剤、アレルギー・副作用歴、既往歴を確認します。そして使用できない薬剤はないか、術前に休薬が必要な薬剤がないかを確認し、患者さまに指導します。
参照元:社会医療法人 誠光会 淡海医療センター/薬剤部長あいさつ
一般財団法人神奈川県警友会 けいゆう病院/薬剤師外来
名城大学薬学部病態解析学Ⅰ 教授 野田幸裕/医薬連携における薬剤師外来:吸入指導
5.病院での取り組みや事例を紹介
今まで薬剤師外来の流れや業務内容、薬剤師外来の種類をご説明しました。ここからは実際の薬剤師外来の取り組み内容を、がん化学療法外来の事例を用いて解説いたします。
参照元:一般社団法人 日本病院薬剤師会/外来患者への薬剤師業務の進め方と具体的実践事例
5-1.治療開始前・開始時におこなうこと
他職種とカンファレンスなどで治療方針の確認をします。医師が処方した内容について、患者情報を元にレジメン・投与量のダブルチェックをおこないます。
治療に先立ち、薬の効果・スケジュール・起こりえる副作用などについて患者さまに説明します。薬薬連携として、かかりつけの薬局に診療情報提供書を発行し、治療内容を通知します。
必要に応じてテレフォンフォローアップなど、帰宅後の支援もおこないます。診察内容を踏まえた次回からのケアプランを策定し、カンファレンスなどで共有しておきます。
5-2.治療開始後におこなうこと
前回の診察後からの情報(かかりつけ薬局からのトレーシングレポート、テレフォンフォローアップの内容)を確認します。
診察前面談として、副作用発現状況、アドヒアランスの確認をします。その情報を診察前に医師やがん化学療法担当の看護師などに共有します。
そして再度かかりつけ薬局へお薬手帳などを用いて情報を共有し、治療を継続していきます。
このように、外来薬剤師は院内の他職種はもちろん、かかりつけ薬局との連携も欠かすことはできません。現在は内服の抗がん剤も増え、薬薬連携の意義はさらに大きくなっていくでしょう。
6.薬剤師外来の現状や今後について
人材不足などの理由から、薬剤師外来に取り組めていない病院が多くあるのも現状です。しかし、医療情勢の流れとして入院期間は短く、治療の場は外来へと移行していきます。そういった背景から、薬剤師外来のニーズはさらに高まっていくでしょう。
2022年度の診療報酬改定において、薬局薬剤師が患者さまの入院時の持参薬整理や情報提供をおこなった際に「服薬情報提供料」が算定できるようになりました。今後入院前からの薬薬連携がより注目されていくことが予想されます。 入院前の院外薬局との連携は、外来担当薬剤師が窓口となることがほとんどです。確かに薬薬連携の運営に際して、院外薬局と事前の取り決めを協議するなど、課題は多くあります。しかし、シームレスな薬物治療実現の一環として、大きく期待される分野でもあります。 治療の場が病院から地域へと移行していく以上、病院薬剤師も院外へと目を向けていく必要があります。薬剤師外来は、外来と入院の架け橋となり、患者さまへ安全な薬物治療を提供する、今後ますます注目される仕事です。 参照元:国立病院総合医学会/拡大する病院薬剤師業務 ―外来における薬剤師業務の現状と今後への課題― 薬剤師外来でおこなう業務内容や、具体的な事例をご紹介いたしました。 薬剤師外来は、超高齢社会を迎える日本が抱える外来診療に関する問題を解決する糸口として重要な役割を担っています。 今後、地域包括ケアシステムを推進し、治療の場が病院から地域へと移り変わっていきます。そういった背景からも、外来薬剤師は病院と地域の架け橋となる主要な役割となる必要があります。
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