遠隔(オンライン)服薬指導でどう変わる?概要からメリット、課題を紹介

遠隔(オンライン)服薬指導でどう変わる?概要からメリット、課題を紹介

令和2年9月から「遠隔(オンライン)服薬指導」が解禁されました。遠隔服薬指導とは、保険薬局での調剤時に薬剤師が電話やビデオ通話アプリなどの通信機器を利用し、患者への服薬指導を実施することです。

後期高齢者の増加や通信技術の発達に伴い、今後ますます普及していくと予想されています。

本記事では、遠隔服薬指導の概要や適用条件、期待できるメリットについてご紹介します。

また、遠隔服薬指導が抱える課題についても考えていきましょう。

1. 遠隔(オンライン)服薬指導とは

遠隔(オンライン)服薬指導とは、保険薬局が医薬品を調剤・交付を行う際、電話やビデオ通話アプリなどの通信機器を介して薬剤師による服薬指導を実施することです。

遠隔服薬指導には、「オンライン診療による処方箋に基づいた遠隔服薬指導」と、「在宅医療による処方箋に基づく遠隔服薬指導」の主に2つがあります。

これまで服薬指導は対面で行うことが原則として義務付けられていましたが、後期高齢化や地域の過疎化、人々のライフスタイルの多様性に対応すべく、令和1年12月の医薬品医療機器等法改正、次いで令和2年9月の改正法の施行を経て遠隔服薬指導がスタートしました。

実は遠隔服薬指導の試みは、令和2年9月以前にも国家戦略特別区(離島・へき地)内の一部の保険薬局でのみ実証的に行われていました。

参照:厚生労働省 国家戦略特区における離島・へき地以外での遠隔服薬指導への対応について

さらに、ごく最近ではCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)への感染対策「0410 対応」として、オンライン診療で処方された処方箋を対象に、非対面での服薬指導が時限的・特例的に行われていました。

参照:厚生労働省 新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて

改正法の施行により、国家戦略特区内に限らず、全国どこでも遠隔服薬指導が提供できるようになりました。

2. 遠隔服薬指導が導入された背景と意義

遠隔服薬指導が導入された背景には、現代社会が抱える医療に関するさまざまな問題を解決しようという目的があります。

その一つが、社会の高齢化と地方・郊外の過疎化による医療資源の地域格差の問題です。

後期高齢者が占める人口比が増加している一方で、地域によっては医療資源が不足する傾向がみられ、「受診や投薬を受けたくても、健康上の理由や地理的な理由によって医療機関へ行くことが困難」といった状況が起こり得ます。

医療過疎地に住む患者さんや、高齢なために医療機関や薬局に足を運ぶことが難しい患者さんでも、少ない負担で等しく医療を受けられるように、「対面での服薬指導を補完する」という位置づけで遠隔服薬指導が導入されました。

また、子育て世代や勤労世代を中心とした患者への薬局訪問の負担を軽減し、医療へのアクセシビリティを向上しようという目的もあります。
つまり、遠隔服薬指導によって患者の時間的負担を減らし、治療継続率を向上することで重症化を防ぐ狙いもあります。

遠隔服薬指導は、過疎地域の高齢者層や、都市部での勤労世代によるオンライン医療へのニーズを満たす要件の一つとして期待されているのです。

3. 遠隔服薬指導が認められる条件は?

遠隔服薬指導は、主に以下の条件を満たす場合に認められます。

オンライン診療による処方箋に基づいた遠隔服薬指導

  1. オンライン診療によって処方箋が発行されていること
  2. 原則3か月以内に患者に対して対面服薬指導をしていること
  3. 患者の手元に薬剤が届いた後にも、改めて必要な確認を行うこと
  4. オンライン服薬指導と対面服薬指導の組み合わせ(タイミングや頻度)や緊急時の対応等について具体的な計画書を作成し、その計画に基づいて指導を実施すること
  5. 遠隔服薬指導を行う保険薬剤師は原則として、患者への対面指導をしたことがある同一の薬剤師とすること
  6. 調剤施設が「オンライン診療の適切な実施に関する指針(平成30年3月厚生労働省)にそって情報セキュリティ対策を講じていること
  7. お薬手帳を活用し、服用歴や服用中の薬剤について確認をすること

在宅医療による処方箋に基づく遠隔服薬指導

  1. 在宅訪問診療により処方箋が発行されていること
  2. 患者宅にて対面服薬指導を行ったことがあること(月1回の在宅患者訪問薬剤管理指導料の算定実績がある)
  3. 担当医師に対して、在宅患者オンライン服薬指導結果について文書で情報提供すること
  4. オンライン服薬指導と対面による在宅服薬指導の組み合わせ(タイミングや頻度)や緊急時の対応等について具体的な計画書を作成し、その計画に基づいて指導を実施すること
  5. 遠隔服薬指導を行う保険薬剤師は原則として、患者への対面指導をしたことがある同一の薬剤師であること
  6. 調剤施設が在宅患者服薬指導に係る届出済であり、かつ「オンライン診療の適切な実施に関する指針(平成30年3月厚生労働省)にそって情報セキュリティ対策を講じていること
  7. お薬手帳を活用し、服用歴や服用中の薬剤について確認をすること

※上記は厚生労働省が定めるオンライン服薬指導の要件を要約したものです。詳細については厚生労働省の通知等を参照してください

引用元:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律の一部の施行について(オンライン服薬指導関係)

4. 遠隔服薬指導のメリット

保険薬剤師による服薬指導に、遠隔服薬指導が導入されることによってどのようなメリットが期待できるのでしょうか。
指導を受ける患者側、そして指導を提供する薬剤師側が得られるそれぞれのメリットを中心に、詳しく見てきましょう。

4.1. 患者の時間的負担の軽減

従来の服薬指導では、薬剤の交付を受ける患者が保険調剤薬局へ直接足を運び、処方箋を提出するとともに、対面指導を受けることが義務付けられていましたが、遠隔服薬指導の導入により、離れた場所でも、通信機器を使って服薬指導を受けられるようになりました。

これによって、患者の時間的負担が大きく軽減され、仕事や育児、介護などの作業を妨げることなく、必要な処方を受けることができます。

4.2. 在宅医療による薬剤師の負担軽減

今回解禁された遠隔服薬指導には、通院が困難なために、自宅で療養せざるを得ない患者さんのための「在宅オンライン服薬指導」も含まれています。

これまでは往診などの在宅医療を受けた患者であっても、医薬品を調剤・交付する際には薬剤師による対面指導が義務付けられていました。

従って、患者さんが高齢で通院が困難な場合は、薬剤師が自宅を訪れる必要があったのですが、遠隔服薬指導を組み合わせることにより、訪問に伴う薬剤師の負担を軽減することができます。

4.3. 病院における感染予防

遠隔服薬指導は、オンライン診療あるいは在宅医療と組み合わせて実施するものです。

医師による診断から薬剤の交付までをオンラインで完結させる、あるいは在宅医療と遠隔服薬指導で完結させることにより、医療機関で発生する感染症への感染リスクを、患者側、医療者側共に大幅に減らすことができます。

5. 遠隔服薬指導の課題

遠隔服薬指導には、患者側、薬剤師側にとって大きなメリットがある一方で、実施にあたってはいくつかの課題が想定されます。遠隔服薬指導が抱える主な課題についてみていきましょう。

5.1. 医薬品の配送

遠隔で服薬指導をした結果、処方・医薬品の交付に問題がないと判断した場合は、保険調剤薬局から患者の自宅へと医薬品を配送することになります。

医薬品の配送手段に関しては、特に定められていませんが、患者さんの大切なお薬を扱うため、利便性と安全性が確保できる配送方法をとる必要があります。

調剤薬局によっては、配送可能エリアを設定し、薬局スタッフが配送するケースや、代金引換の宅配を利用しているケースもあります。

その際、配送に係る費用に関しても、薬局が負担する場合、患者が負担する場合などさまざまです。

新型コロナウイルス感染症対策「0410対応」として医薬品を配送する際の料金については、国から「電話や情報通信機器による服薬指導等を行った患者に対して、薬局が薬剤を配送等する費用を支援する」という通達が出ています。

引用元:厚生労働省 電話や情報通信機器を用いた服薬指導等の実施に伴う薬局における薬剤交付支援事業について

2021年3月現在、患者自身の自己負担額の上限などの規定はなく、各都道府県の薬剤師会ごとに解釈が異なるため、全国一律での対応には至っていません。

遠隔服薬指導という医療提供サービスの一部として、医薬品の配送手配やそれによって発生する実費をどのように取り扱うのかを十分検討する必要があります。

また、受診から医薬品の受け取りまでにはどうしてもタイムラグが発生してしまうことも考慮しなくてはなりません。配送に係る費用負担やタイムラグに関しては、事前に患者さんに説明をし、同意を得ることも重要です。

5.2. ITリテラシーの程度の違い

遠隔服薬指導では、患者さん自身のITリテラシー、つまり通信機器の操作に関する知識や通信環境が求められます。

その点において、ITリテラシーが不足しがちな高齢者や通信機器に慣れていない人には、遠隔服薬指導がスムーズに導入できないということも起こり得ます。

普段の対面服薬指導の際に、患者さんの通信機器の使用経験などをヒアリングし、リテラシーの程度に合わせた対応を工夫することが大切です。

5.3. 電子処方箋・電子お薬手帳の活用

オンライン診療や遠隔服薬指導の普及に伴い、処方箋やお薬手帳の様式も遠隔に対応したものに移行していく必要があります。

現在、処方箋については、オンライン診療で発行される場合でも紙媒体に限られています。
そのため、調剤を受け付ける際は、医療機関または患者さんから紙の処方箋を郵送してもらう必要があるのが現状です。

厚生労働省は、処方箋の電子化の運用に向けた取り組みに着手し始めたところで、早ければ2022年にも電子処方箋を解禁する見込みです。(2021年3月現在)

参照:厚生労働省 電子処方せんの運用ガイドラインの策定について

紙媒体のやり取りによって発生するタイムラグや処方箋の紛失などのトラブルを少なくするためにも、電子処方箋を効果的に組み合わせていくことが必要です。

お薬手帳に関しては、従来の媒体のものと、アプリ上のデジタル媒体のものが混在しているのが現状です。

対面服薬指導を行う際は、薬剤師が患者のお薬手帳を手に取って閲覧し、処方内容を記録することができますが、遠隔服薬指導では、紙媒体・デジタル媒体共に患者自身が記録しなくてはなりません。

記入漏れや紛失などのトラブルを防ぐためにも、電子お薬手帳を活用し、医師や薬剤師と患者さんが薬歴を共有できるような仕組みが求められています。

6. まとめ

遠隔服薬指導は、医療資源の乏しい地域に住む患者さんに必要な医薬品を届けるだけでなく、忙しい毎日を送る勤労・子育て世代の受診に係る時間的負担を軽減し、受診継続率を向上させるなど、さまざまなメリットをもたらすことが期待されています。

在宅患者に対しても遠隔服薬指導を組み合わせることで、訪問に伴う薬剤師の負担を軽減することができます。

遠隔服薬指導は、対面での服薬指導を補完するものですが、デジタル化が進む現在、遠隔服薬指導を行う機会は今後ますます増えそうです。

通信機器や電子媒体を活用し、遠隔でも質の高い指導が提供できるようにしましょう。

この記事の著者

医学博士、医学研究者

榎本 蒼子

最終学歴は京都府立医科大学大学院医学研究科博士課程卒業。2011~2015年 京都府立医科大学にて助教を勤め、医学研究および医学教育に従事。

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