薬剤師の栄養指導とは?役割や指導のポイントをご紹介

薬剤師の栄養指導とは?役割や指導のポイントをご紹介

病院では栄養療法を実践する栄養サポートチームが活躍し、地域医療ではかかりつけ薬局や健康サポート薬局が増えているなか、薬剤師が患者さまの栄養指導に携わる場面が増えてきました。

これまで栄養士や管理栄養士の専門だった栄養に関する相談を薬剤師が行う意義や担うべき役割、指導の際に注意すべきポイントなどを解説します。

1. 栄養指導とは

栄養素はそれぞれが相互に影響しあって身体の恒常性を維持しており、適切な摂取量やバランスが保てないと、身体は太ったり痩せたり、不調をきたしてついには病気になってしまいます。

栄養指導とは食事から摂取する栄養素の量とバランスが適切になるようアドバイスすること、あるいは食事内容を管理することを指します。

参照元:日本栄養士会/日本栄養士会会報 2.「栄養の指導」について

1-1.薬剤師が行う栄養指導とは

薬剤師が栄養指導を行う主な目的は、薬剤による治療効果を最大限に高めることと、患者さまの栄養状態を把握してQOLの向上に活かすことにあります。

栄養素の摂取状況や特定の食品によって薬物動態が受ける影響を正しく評価するためにも、栄養指導を通じて患者さまの好き嫌いや食事の摂取状況を把握しておくことが望まれます。

栄養士や管理栄養士でなくとも栄養指導はできますが、栄養学の専門教育を受けていない無資格者が本格的な指導をすることは好ましくありません。

薬剤師が患者様に栄養指導を行う場合は、ごく一般的な食事へのアドバイスと「食品と薬の飲み合わせ」に関するものにとどめておきましょう。

1-2.栄養士との違いは

栄養士法に定める栄養士には、都道府県知事の免許を受けて主に健康な方への栄養指導を行う「栄養士」と、厚生労働大臣の免許を受けて傷病者への栄養指導を行う「管理栄養士」とがあり、栄養士や管理栄養士の栄養指導は診療報酬の対象となります。

参照元:e-Gov法令検索/栄養士法第一条

薬剤師が栄養指導を行う対象は主に加療中の患者さまですが、栄養士や管理栄養士のような踏み込んだ栄養指導を行うことはできません。

お薬をお渡しする際や服薬指導の場などを利用して、「野菜を食べてますか」など、さりげなく食事内容を確認し、魚や野菜などの摂取を促す程度にとどめ、本格的な指導が必要と思われる場合は、栄養士や管理栄養士に情報を引き継ぐことが重要です。

2.薬局での健康相談や栄養相談のニーズが高い

平成29年の厚生労働省「患者調査」によれば、患者数が最も多い傷病は「高血圧」で、2位が「歯周病」、以下「脂質異常症」「虫歯」「がん」「心疾患」と続きます。

いずれも食生活や生活習慣と関係が深く、食事・栄養指導の対象となる疾患が上位に並びます。

参照元:厚生労働省/主な傷病の総患者数

また、外来患者は人口10万人あたり5,675人となっており、入院患者1,036人の5倍以上となっています。

国の施策により、栄養指導や食事療法が必要な生活習慣病の治療の場は病院から在宅へと移行しており、昨今の薬局における栄養指導のニーズも必然的に高まっています。

参照元:厚生労働省/平成29年患者調査 受療率

しかし、栄養士・管理栄養士が勤務する薬局の数は薬局全体の10%に満たず、薬剤師が栄養相談や健康相談の受け皿とならざるを得ない現実があります。

薬剤師には、医療機関や地域の栄養ケアステーションなどと連携して患者さまの栄養相談に対応することが求められているのです。

参照元:日本静脈経腸栄養学会雑誌/在宅地域一体型NSTの現状と課題 p2図1、2参照

3.栄養指導における薬剤師の役割

栄養指導には、健康な方に対する一般的な指導と、傷病者に対する食事療法としての指導の二通りがありますが、薬剤師がより深く関わるのは後者です。

すなわち、栄養指導における薬剤師の役割とは、医薬品の専門家として栄養アセスメントを薬物療法に活かすことにあります。

薬剤師も参加し、栄養療法による治療効果とQOLの向上、合併症の予防などを実践する栄養サポートチーム(NST=Nutrition Support Team)には、近年の在宅医療の広がりを背景に、病院内にとどまらない地域一体型NSTとしての活動が求められています。

このNSTの中心となり活躍する専門職の資格として、医療系国家資格保有者のみが受験できる「栄養サポートチーム(NST)専門療法士」があります。

すでに多くの薬剤師がこの資格を取得して患者さまに対する栄養処方計画策定のキーパーソンとして活躍しており、薬剤師が取得すべき資格の一つとして注目を集めています。

参照元:岩国医療センター/NST専門療法士とは

「栄養サポートチーム(NST)専門療法士」についての詳しい解説、仕事内容や受験の方法などは関連記事をご覧ください。

> 栄養サポートチーム(NST)専門療法士

3-1.NSTにおける薬剤師の役割について

NSTには医師、看護師、薬剤師のほか、栄養士、管理栄養士、臨床検査技師、理学療法士、歯科衛生士など多種に及ぶ医療従事者がメンバーとして参加します。

1968年にアメリカで中心静脈栄養法が開発され、この治療をサポートするために最初のNSTが結成されましたが、NST誕生の初期から薬剤師は栄養士と共にNSTの中心的な役割を担っています。

参照元:日本消化器科学会雑誌/わが国におけるNSTの現状と未来

3-1-1.栄養状態の確認

NSTの仕事は、食欲不振や咀嚼・嚥下機能の低下などにより、経口での食事や栄養摂取が困難な患者さまの栄養状態を確認し、評価することから始まります。

栄養状態は看護師や栄養士を中心として、体重の変化、食事量や摂取状況の変化、下痢や食欲不振など主観的指標(SGA)を用いて評価されますが、薬剤師にも服薬指導などで得た気づきや所見をチーム内で情報共有することが求められます。

参照元:大分大学医学部付属病院栄養サポートチーム勉強会資料/栄養アセスメントと栄養スクリーニング

3-1-2.投与経路の検討

栄養療法の投与経路は経口、経管(経鼻、消化管)、静脈(末梢、中心)などがありますが、いずれの場合にも薬剤との併用が前提となりますので、薬剤師は投与経路の検討において中心的な役割を果たすことになります。

3-1-3.服薬指導

経口投与の場合にはOD錠や散剤が口腔内に残らないよう服薬時には必ず飲水するなど、服薬指導の内容についてもチーム内で共有します。また、患者さまが常用されている薬やサプリメントについても情報共有しておく必要があります。

3-1-4.モニタリング

投薬のモニタリングは当然ですが、薬剤の効果や副作用だけでなく体重の変化や食欲などの主観的指標、あるいは傷や床ずれなどの有無、治癒状態なども含めてモニタリングすることが求められます。

また、患者さまの病識やアドヒアランスは治療に多大な影響を及ぼすので、チーム全体でサポートすることが求められます。

4.薬剤師が栄養指導する際のポイント

薬剤師は栄養学の専門家ではないので、薬局やドラッグストアで栄養指導を行う際は個々の栄養素に関するアドバイスは避けたほうが無難です。まずは患者さまの食生活全体を把握していきながら、食事以外のことも正直にお話しいただける関係を構築することから始めましょう。

4-1.家族構成や食生活の状況をヒアリングする

患者さまの家族構成と家庭の状況を確認することで食生活のあり様がおおよそ把握できます。

たとえば、一人暮らしの方なら外食や加工食品など偏った食事が多くなりがちです。さらに、一人で食べる食事は味気なく食欲がでない、買い物や家事の支援者がいないために食事をとるのが面倒、などの理由から食事の回数や量が減ってしまうこともあります。

まずは家族構成と食事で困っていることはないかなどを聞くことから始めましょう。

参照元:厚生労働省/介護予防活動普及展開事業 専門職向け手引き p30管理栄養士による助言

4-2.病歴、生活歴、医師からの指導内容を確認する

薬歴管理と同時に疾患の原因やこれまでの経過、生活習慣の変化などをヒアリングし、これまでにどのような問題が生じてきたかを確認しましょう。

合わせて医師からどのような生活指導が出されているか、患者さま本人が治療に対してどのような考えをお持ちなのかも確認してみましょう。栄養状態が悪いと薬の効果が十分に現れないこともお伝えします。

参照元:厚生労働省/介護予防活動普及展開事業 専門職向け手引き p26薬剤師による助言

4-3.食事で気をつけるべきポイント

食事をとるうえで大切なポイントは、病気の方も健康な方も基本的には同じです。

  • 在宅訪問開始にともなう書類
  • 主食は、塩分や糖類が添加されているパンや麺よりごはん(玄米、麦ごはんならなお可)を選び、腹八分目を心がける
  • 主食は、塩分や糖類が添加されているパンや麺よりごはん(玄米、麦ごはんならなお可)を選び、腹八分目を心がける
  • 副菜には野菜、海藻、きのこやイモ類を使用する
  • デザート、おやつには果物を食べる
  • 味付けは薄味で塩分を控えめに

加えて、1日3食、規則正しい食事時間によく噛んで食べること、となります。しかし、簡単そうにみえてなかなか難しいことは誰もが知るところです。ですので、一度にすべてを実践するのではなく、病態や疾患に応じた優先順位をつけて一つずつアドバイスをしていくのが良いでしょう。

たとえば、
「高血圧の患者さまなら減塩に加えてカリウムを多く含む食材の割合を増やす」
であれば、「いも類や切り干し大根をとりましょう。」

「脂質異常症なら青魚や食物繊維を意識してとる」
なら、「サンマやイワシ・サバ、キノコ・海藻などをとりましょう。」
といったように、具体的な食材や料理名をあげてアドバイスするように心がけます。

4-4.結果を急がない

生活習慣病の多くは患者さまの嗜好が原因となっているため、なかなか改善しないのが実情です。

高血圧の方は濃い味付けが好き、脂質異常症の方は肉や揚げ物が好物、といったように、このような方に行動変容を促すのは容易ではありません。

まずはどのように食生活を改善すべきか、患者さまご自身に認識してもらいましょう。

「塩分を減らす」「糖質を避ける」「アルコールを控える」などの課題に対して、「麺類の汁は飲み干さない」「缶コーヒーは週に2本まで」「毎週○曜日と○曜日はお酒を飲まない」など、手の届きそうなゴールをご自分で設定してもらい、次回の来局時に経過を振り返っていただきます。

大切なことは課題がクリアできたかどうかよりも、自分で決めたゴールに対して主体的に取り組めたかどうかです。思うような結果が出なくとも、継続して取り組んだことを賞賛されれば患者さまのモチベーションは上がります。

「がんばったんですね。私もうれしいです。」といった具合に、きちんと言葉に出して伝えましょう。まずは現状維持を前提に少しずつ改善の道を進むことが大切です。

参照元:第 58 回日本心身医学会総会ならびに学術講演会/プライマリケアでの生活習慣病診療と行動療法の活かし方
日本保健医療行動科学会雑誌/心の健康と生活習慣

4-5. 医療機関や地域医療と情報共有する

医療機関を受診している患者さまの場合は、状況に応じて医療機関と情報を共有し、薬局での対応について協議しましょう。

また、高齢者の場合は地域包括ケアシステムや栄養ケアステーションとの連携も必要です。本格的な栄養指導となると薬剤師だけで答えを見出すことは困難であり、他業種連係が欠かせないことを認識しておきましょう。

5.栄養指導では栄養士や管理栄養士との連携が重要

薬剤師による栄養指導はあくまでも患者さまへのアドバイスであり、本格的な栄養指導は栄養士や管理栄養士にまかせることとなります。

しかし、栄養指導が治療の一環である限り、薬剤師も栄養士や管理栄養士と連携して患者さまの栄養状態とQOLの改善に努めなければなりません。栄養状態の改善と薬物治療は連携してこそ両輪として機能することを忘れずに取り組みたいものです。

5-1.栄養士は栄養指導の専門家

1985年には管理栄養士の制度が始まり現在に至りますが、栄養士の仕事はその成り立ちから一貫して国民の栄養状態を改善することであり、栄養面から国民の健康を支えるのが栄養士の役割といえます。栄養士・管理栄養士はまさに栄養指導の専門家なのです。

5-2.食生活と薬物療法の両面からアプローチできる

嚥下障害や摂食障害を副作用にもつ医薬品は少なくありません。これらの薬剤が低栄養を引き起こし、副作用を助長してさらに低栄養を招いてしまう悪循環に陥るリスクがあります。

多剤投与では低栄養のリスクがさらに高まるとされており、薬物療法と栄養状態は非常に密接な関係にあります。

実際に、投与する薬剤の種類を減らしたところ、寝たきりだった患者さまの食欲が増して歩けるようになるまで回復した例も報告されています。

薬剤師が栄養士や管理栄養士と連携して栄養ケアを行いながら薬物療法を行うことで、患者さまのQOLを高めるアプローチが可能となるのです。

参照元:日本薬学教育学会/地域包括ケアシステムにおける栄養薬学の重要性について p3栄養ケアと薬物療法

6.食生活も含めた健康サポートが求められている

厚生労働省では健康サポート薬局のあり方について次のように定義しています。

  • 健康の維持・増進に関する相談を幅広く受け付け、必要に応じ、かかりつけ医を始め適切な専門職種や関係機関に紹介すること
  • 地域の薬局の中で率先して地域住民の健康サポートを積極的かつ具体的に実施すること 

参照元:厚生労働省/健康サポート薬局のあり方について p8健康サポート機能を有する薬局の機能について

健康サポート薬局は2021年12月末現在、全国で2,842店が登録されていますが、ここに勤務する薬剤師は「かかりつけ薬剤師」として、医薬品だけではない、幅広い健康サポートを担います。しかし、薬剤師や薬局のみで健康に関する課題を解決するわけではなく、目的は地域医療の各専門職につなぐことにあります。

参照元:厚生労働省/健康サポート薬局数

薬剤師に求められる役割が多面的に増えていることは事実ですが、その本質はあくまでも専門職への橋渡しであり、患者さまや地域住民のみなさまの最初の窓口として相談を受け止めてあげることです。

薬剤師が患者さまや地域の方々にとって、信頼できる健康相談の相手であることが最も重要なポイントです。

7.まとめ

超高齢社会に突入した日本では、健康寿命を延伸するための予防医療が重要な課題となっています。また、医療体制の負担を軽減するため国によって在宅医療が推進されるなかで、薬剤師の役割も大きく変わろうとしています。

近年、栄養学の世界では臨床栄養学が、薬学の世界では栄養薬学が注目を集めており、薬学と栄養学は互いに接近しつつあります。

今後、薬剤師と栄養士がより密接な関係となることが予想されるなか、薬剤師が栄養指導のスキルを向上させ、栄養士との連携を強化することは非常に重要なテーマといえるでしょう。

「栄養サポートチーム(NST)専門療法士」などの専門職も誕生し、薬剤師の皆さんが栄養指導の分野で活躍する場面は、ますます増えていくものと予想されます。

薬や病気のことだけでなく、食事や健康についても相談のできる薬剤師は、患者さまにとって最も頼りになる存在といえるのではないでしょうか。

この記事の著者

ライター

朝倉 哲也

資格の知見を活かして、サプリメントや健康食品に関する記事など、書籍や雑誌で執筆を行っている。

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