薬剤師ボランティアについて-国内・海外それぞれの活動内容を解説
薬剤師の職能を活かしたボランティアには、災害支援、スポーツ大会のサポート、地域医療イベントや市民への講演・勉強会、近年では新型コロナウイルスワクチン接種会場などがあります。
また、海外であれば新興国や途上国での医療支援が主なボランティア活動となります。
いずれも薬剤師として社会に貢献できる点は同じですが、必要とされるスキルや心構えはそれぞれ異なります。
各活動に応じた薬剤師ボランティアの内容と活動のポイントについて解説いたします。
目次
1.薬剤師の能力をボランティアで活かすには
薬剤師の職能を活かせる代表的なボランティア活動として、国内では災害支援、海外なら途上国での医療サポートがあげられます。
はじめに、こうしたボランティア活動の概要を理解しておきましょう。
1-1.国内ボランティア
日本で薬剤師が災害支援ボランティアに初めて参加したのは、1995年に発生した阪神・淡路大震災でした。
災害発生当初に組織された医療ボランティアチームに薬剤師は含まれていませんでしたが、日本薬剤師会が行政に協力を申し入れたことから薬剤師による被災地でのボランティア活動が始まりました。
被災地では保健所など医薬品の中継基地における医薬品の仕分け、救護所での医薬品の整理と管理、調剤に加えて、限られた薬種のなかでの医師への処方提案、看護師や患者さまに対しては、使用している薬剤との併用についてアドバイスをするなど、医薬品の専門家として幅広い活動に携わります。
また、2021年には新型コロナワクチン接種の補助業務や、東京で開催されたオリンピック・パラリンピックでのアンチドーピング検査のサポートなど、新たなボランティア活動が加わりました。
これらの経験は今後の薬剤師ボランティア活動の範囲を大きく広げるきっかけとなりました。
1-2.海外ボランティア
海外での代表的な薬剤師ボランティア活動は新興国や途上国での医療支援です。
薬剤師ボランティアを派遣する団体には日本赤十字やJICA(青年海外協力隊)、国境なき医師団、ジャパンハートなどがあるほか、大手製薬企業も海外での医療ボランティアを支援しています。
医療支援を受け入れている国の多くは貧困問題を抱えており、水や電気、輸送路などのインフラが整備されていないことや、教育水準が低いために医薬品の正しい使い方や治療法が理解されないなど、数々の障壁が医療の普及を妨げています。
なにより慢性的な医師や医療スタッフの人手不足があり、そこへ医薬品不足が重なって十分な治療を受けられない国や地域が多く存在しています。
こうした劣悪な環境のなかで、限られた医薬品を整理・管理して有効に活用するための工夫を凝らし、医薬品や医療の知識に乏しい患者さまに正しく服用を続けてもらうための指導をおこなうのが、薬剤師ボランティアの大切な役目です。
海外でのボランティア活動でおこなう業務自体は、基本的に日本での薬局業務と変わりません。
しかし、価値観や倫理観の違い、言葉や宗教の違いから、日本では考えられない行動や考え方に直面することがあります。
海外でボランティア活動に従事することは、日本での薬剤師業務とは異なることも理解しておきましょう。
参照元:日本赤十字社/国際活動に参加したい
JICA/キルギスに日本型薬剤師教育を導入
NPOジャパンハート/海外医療・国際協力ボランティア
2. 薬剤師ボランティアに必要なスキルや能力は?
薬剤師としてボランティアに参加するには薬局での業務とは異なるスキルが求められます。
薬剤師ボランティアに必要とされるスキルや能力について解説します。
2-1.薬剤師としての知識は必須
ボランティアに参加するにあたっては、まず薬剤師としての幅広い知識が必須となります。
被災地の避難所では、備蓄している医薬品に限りがあるため、本来の処方とは異なる類似薬やOTCでの代用提案、患者さまが服用している薬の特定や副作用の聞き取り、薬剤リストの作成など、薬剤師としての知識を駆使して現場に則した対応をしなければなりません。
一方、オリンピックなどでアスリートのサポートをおこなうには、日本で入手できる医薬品や医薬部外品のうち、ドーピングに該当するものを識別できる知識が必要です。
ボランティア活動では、どのような場面においても薬剤師としての知識に基づいた行動や助言が求められます。
2-2.臨機応変に柔軟に対応できる
決まったルーティンで仕事をする薬局業務とは異なり、ボランティアの現場では常に変化する状況に対して柔軟な対応が求められます。
災害時の救護センターや避難所では、お薬手帳もなく薬歴のわからない患者さまから聞き取りをおこない、不十分な在庫のなかから患者さまの状態に合う薬剤を選択する必要があります。
また、アンチドーピング検査のサポートにおいては、さまざまな国の外国人選手に外国語で聞き取りをおこない、OTCや食品に含まれる禁止薬物の説明をおこないます。
また、外国選手が持ち込む国内未承認薬のチェックなど、その場に応じて臨機応変に対応しなければなりません。
公認スポーツファーマシストについて詳しくは下記ページをご覧ください。
2-3.迅速な判断力が必要
ボランティア活動の現場で刻一刻と変化する状況に適切に対処するためには、迅速かつ正確な判断が求められます。
特に災害現場では、医師の指示のもと薬剤師がトリアージに協力する場面も想定されます。
トリアージの実施にあたっては迅速な判定とタグへの正確な情報の記載が求められます。
災害支援の薬剤師ボランティアを志すのであれば、日本災害医療薬剤師学会のカリキュラムを受講したり、所属する医療機関の講習や訓練などに参加しておきましょう。
落ち着いて迅速な判断が下せるように、日ごろからの準備を怠らないことが大切です。
2-4.応用する力が大事
多くのボランティア活動の現場では物資や人手が不足しており、限られた資源や手に入る物資をうまく応用することが重要です。
海外であれば、まず水資源の不足が考えられ、使用期限切れの生理食塩水を洗浄用として再利用するなどの応用力が試されます。
また、類似薬を使用した処方のアドバイスなど代替案を考える力は大切です。
国内の災害現場においてもライフラインの崩壊から深刻な水不足が懸念され、洗浄剤・芳香剤などを手洗いや器材洗浄に代用するなどの応用力が必要とされます。
各地から届けられる薬剤は銘柄もさまざまで、どのように管理し使用するかなど、薬剤師ボランティアにとって応用する力は必要ともいえるでしょう。
3. 国内における薬剤師ボランティアの役割とは
国内での薬剤師ボランティアにはいくつかの選択肢がありますが、ここでは最もニーズの多い災害支援ボランティアについて解説します。
初めて災害ボランティアに参加するのであれば、所属する医療機関の災害医療チームに志願するか、各都道府県薬剤師会のボランティアに申し込むことをおすすめします。
また、所属する事業所の許可を得て日本災害医療薬剤師会に登録する方法もあります。
参照元:日本薬剤師会/薬剤師のための災害対策マニュアル
日本災害医療薬剤師学会/災害医療支援薬剤師とは
3-1.医薬品の管理
被災地ではいろいろなルートを通じて医薬品が届けられるため、必ずしも求めている医薬品が入手できるとは限りません。
異なる品名の同種同効薬や医療用医薬品とOTC薬の仕分け、各医薬品の数量、使用期限などをリスト化し、保存場所を明確に区分できるよう注意を払います。
また、向精神薬や劇薬の保管場所と払い出しにも細心の注意を払い、厳格に管理するよう努めます。
3-2.衛生管理
被災地では建物の倒壊、ライフラインの断絶による汚染水の流出など衛生環境の悪化が懸念されます。
また、避難所の食糧備蓄場所でのネズミやハエの発生、仮設トイレでのノロウイルスなどの感染リスク、口腔ケアができないことなどが重なって衛生状態が悪化します。
こうした劣悪な環境下において、薬剤師は医療チームの一員として避難所の環境評価を確実におこない、収集した情報に基づいた改善と衛生管理に努めます。
3-3.薬局の復旧支援
2011年の東日本大震災では多くの病院、薬局が被害を受け機能停止に陥りました。こうした状況下ではお薬を待つ患者さまのために、早急な薬局機能の復旧が求められます。
臨時の薬品棚を設置して使用できる医薬品の仕分けと保管をおこない、不足している薬剤の種類と量を把握し、自治体や薬剤師会に情報を伝達します。
また、仮設での薬局業務を余儀なくされる現場では、患者さまに対応しながら、薬歴の管理や処方データのバックアップなどを機器に頼らずおこなわなければなりません。
こうした復旧支援にもボランティアとして積極的に携わる心構えが必要です。
4.海外における薬剤師ボランティアの役割とは
海外における薬剤師ボランティアの主な役割は途上国での医療支援です。
東南アジアやアフリカで支援活動をしている主なボランティア団体には日本赤十字、青年海外協力隊、国境なき医師団(MSF)、ジャパンハートなどがあります。
ボランティアとして参加するには各団体の募集要項を確認した上で応募することになりますが、薬剤師の資格はもちろん、どの団体でも英語力は必須条件であり、MSFのように病院勤務やマネジメントの経験を条件にしている団体もあります。
詳しくは各団体のホームページを確認してください。
参照元:日本赤十字社/国際要員の活動紹介
青年海外協力隊/要請情報概要
国境なき医師団/募集職種 薬剤師
ジャパンハート/短期 その他医療者ボランティア
4-1.医薬品の管理
途上国の多くは慢性的な医薬品不足が課題となっており、薬剤を必要とする患者さまに適切に配分することが困難な状況にあります。
加えて、現地スタッフは日本と違い、正確な在庫管理という概念を持たないことも多く、医薬品や包帯、ガーゼなど医療資材の管理は非常に重要です。
また、医師や検査技師の人出不足や交通インフラが整備されていないなどの理由から、来院・来局の間隔が長いため1回の処方量が多くなりがちです。
途上国での医薬品管理はその国の社会情勢や医療事情によって大きく異なることを理解しておきましょう。
4-2.医薬品に関する教育支援
新興国や途上国のなかには、教育が行き届かないために識字率の低い国や地域が多く存在します。
そのため、字が読めずに薬を正しく扱えなかったり、根拠のない噂を信じて薬を飲まなくなったりという事態が発生しがちです。
また、薬物依存の恐ろしさを正しく理解できず、安易に乱用に走るというケースも少なくありません。
他国で母国語ではない言語を使用して、倫理観や価値観の違う相手に医薬品の知識や取り扱いについて指導するのはとても大変なことです。
その反面、医薬品に関する教育支援は、薬剤師ボランティアとして非常に重要でやりがいのある仕事といえるでしょう。
5.まとめ
薬剤師は災害医療チームの一員として、またオリンピック・パラリンピックやワクチン接種など、アスリートや公衆衛生のサポート役としてその職能をボランティア活動に活かすことができます。
ボランティアの仕事は、薬剤の仕分けや管理、調剤、服薬や医薬品に関する指導など、一見すると通常業務と変わりがないようにも思えます。
しかし、ボランティアが活動する災害現場や海外の途上国では、業務を支えるインフラが破綻しているうえに医薬品や医療資材が不足しています。
こうした悪条件を乗り越えて、災害現場では患者さまに寄り添い、海外では医療支援と医療リテラシーの向上に貢献することが、薬剤師ボランティアには求められます。
ボランティアとしての経験は、薬剤師としてのキャリアアップはもちろんのこと、人としての大きな成長をももたらしてくれることでしょう。
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