薬剤師はいらないといわれる理由は?薬剤師に求められるスキルやポイントを紹介
薬のスペシャリストとして、患者さんの生命と健康を守るため日々奮闘している薬剤師ですが、残念なことに「薬剤師はいらないのでは?」といった意見もあるようです。
「薬剤師はいらない」といわれるさまざまな理由から、薬剤師の存在意義を再認識し、これから薬剤師としてどのように歩むべきか、求められるスキルやポイントについて解説します。
目次
薬剤師はいらないといわれる理由
薬剤師はいらないといわれる背景には、テクノロジーの進化や社会情勢の変化、政府の医療政策などがありますが、まず具体的な理由をいくつか挙げてみましょう。
1-1.自動化が進んでいる
薬剤師の主な仕事が調剤だったのはすでに過去のことといえるくらい調剤業務は自動化されており、取りそろえから一包化、水剤の分注、残薬の仕分けまで自動機の導入が進んでいます。特に散剤・錠剤の一包化普及率は8~9割まで高まっており、薬剤をセットするだけであとは機械任せという環境が整いつつあるのです。
参照元:厚生労働省/薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ資料
また、インターネットやクラウドシステムの発達によって、クリニックから処方箋情報をオンラインで送り、ロボットが自動で調剤を行う「ロボット薬局」もすでに実用化されており、普及が進む自動化が「薬剤師はいらない」といわれる大きな理由となっています。
1-2.調剤業務や管理はAIの方がミスなくできる
調剤の自動化・機械化には業務そのものを省力化するだけでなく、ミスをなくすというメリットもあります。さらに各分野で導入が進むAIを活用すれば、調剤以外の業務も省力化と同時に人的ミスを防ぐことが可能です。
例えば、すでに実用化され導入が進む調剤監査システムでは、ピッキング時に医薬品のバーコードを読み取って数量を入力するだけで画像認識AIが取り間違いをチェックし、人によるミスを防止してくれます。
他にも薬歴管理や処方監査、在庫管理システムなど、管理業務にAIを使用することでヒューマンエラーがなくなることから、多くの薬剤師が、こうした業務はAIの方が向いていると感じるほどです。AIの方が薬剤師よりもミスがなく安心だという考えが、薬剤師はいらないといわれる理由につながっているのでしょう。
1-3.薬剤師の仕事内容がイメージできない
厚生労働省が行った調査によると、一般の患者さんから見た薬局とは、「医師から処方された薬を受け取るところ」という回答が最多のようです。また、薬剤師といえば「薬を出してくれる人」というイメージの方も多いのではないでしょうか。
参照元:厚生労働省/患者のための薬局ビジョン実現のための実態調査報告
医師や看護師は患者さんと直接触れ合い、診察や処置を行うため、どんな仕事かが分かります。一方、薬剤師は処方箋を渡す、薬の説明を受ける、薬を渡されて会計をする、というカウンター越しのやりとりが多く、薬局の奥にある調剤室で何をしているか分からないことも「薬剤師はいらないのでは?」と思われる理由の一つかもしれません。
1-4.医師がいればいいと思われている
日本で薬剤師が誕生したのは、医師が処方箋を書き、薬剤師が調剤を担当することで、薬の安全性を担保するためであり、これが医薬分業の趣旨です。そのため、医薬分業により院外の調剤薬局で薬を受け取る場合、病院から直接お薬をもらうよりも少し料金が加算されます。
医薬分業は国民のためにつくられた制度で、薬剤師が調剤と薬の交付を担当することにより、以下のようなメリットがあります。
- 薬を適正に使用するために必要な「服薬指導」を受けることができる。
- 患者さんの薬歴を管理することで、相互作用や重複投与による副作用を未然に防ぎ、薬を安全に、安心して使用することができる。
- 自宅や職場の近くなど、薬を受け取る薬局を患者さんが自由に選べる。
また、薬を受け取る際にちょっとした不調など、健康について気軽に相談することができるという大きなメリットがあります。
国民を対象とした平成27年の内閣府のアンケートによると、「医薬分業を行わない医療機関と比較して価格差は妥当だと思うか」という質問に対して58.5%が「高すぎると思う」と回答しています。一方で「医薬分業のメリットは何か?」という質問では最も多い回答が「特にない・分からない」でした。
このアンケートの回答は、医薬分業のメリットが多くの国民に知られていないことを表しており、結果として「医師がいればいい」という認識につながっていると考えられます。
1-5.薬剤師の数が飽和状態になっている
薬剤師の数は年々増加しており、2012年には28万人を突破、10年後の2022年には約32.3万人に増えています。しかし、増加率を見ると2020年の3.4%から2022年は0.5%まで低下しており、薬剤師の増加に急ブレーキがかかった印象です。
一方、医師・薬剤師の有効求人倍率は2012年3月には6.59倍でしたが、10年後の2022年3月には2.03倍まで下がっています。
薬剤師の数はすでに飽和状態にあると考えられ、都市部と地方の偏在はありますが、2045年にはおよそ5万~10万人の薬剤師が需要を上回ると予測されており、このような状況が「薬剤師はこれ以上いらない」という理由の背景にあるとみられます。
参照元:厚生労働省/医師・歯科医師・薬剤師統計
参照元:厚生労働省/職業安定業務統計
参照元:厚生労働省/薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会参考資料
2.薬剤師にはどんなスキルや知識が求められる?
これまで薬剤師の仕事に大きなウエートを占めてきた調剤業務は自動化やデジタル化によって減少し、その代わり在宅医療や地域連携など、薬局内外を問わず対人業務が増えていくと予想されます。変わりゆく環境の中で、薬剤師にはどんなスキルや知識が求められるのでしょうか。
2-1.ITスキルやDXに関する知識
2024年度の診療報酬改定では、医療DX体制を確保する薬局に対して「医療DX推進体制整備加算」が新設されており、電子カルテや電子処方箋など、厚生労働省が定める「医療DX」の各施策に対応することで月に1回4点加算されることになりました。
薬局業務では、電子お薬手帳やオンライン服薬指導などのいっそうの普及が要求されており、薬剤師には、モバイルデバイスやコンピューターを使いこなすことが求められるでしょう。
また、個人情報保護やセキュリティーに関する知識・対応力も必要となるため、薬剤師にとってITスキルを磨きDXに関する知識を身に付けることは急務となっています。
参照元:厚生労働省/令和6年度診療報酬改定の概要
参照元:厚生労働省/医療DXについて
2-2.在宅医療に関するスキルや知識
2025年には団塊の世代が75歳以上となり、2040年には85歳以上人口が急増、医療・介護の負担が大幅に増えることが予想されます。そのような状況から薬局・薬剤師は、2025年問題を見据えて推進されてきた地域包括ケアシステムの中核を担う存在として期待されているのです。
地域包括ケアの在宅医療において薬局・薬剤師に求められる役割は、患者さんの状態に応じた医薬品の提供、服薬指導や薬歴管理はもちろんのこと、病院との連携や在宅医への処方提案、24時間体制の構築とターミナルケアへの関与まで、非常に広範囲に及びます。
2020年9月の時点で全国約6.1万店の薬局のうち在宅向けの訪問サービスを行うのは、わずか8,230店舗ですが、薬局・薬剤師に大きな期待が寄せられる中、今後増えると予測される在宅医療に関するスキルや知識の習得は必須といえるでしょう。
2-3.コミュニケーション能力
厚生労働省は2022年に「薬剤師が地域で活躍するためのアクションプラン」という行動指針を取りまとめ、基本的な考え方として「①対人業務のさらなる充実」「②ICT化への対応」「③地域における役割」の3つを掲げています。
この中で、調剤後のフォローアップ強化やリフィル処方箋への対応、他の医療職や病院薬剤師との連携などが示されており、対人業務に必要なスキル習得をアクションプランとしています。
これからの薬剤師には、患者さんの表情や話し方、何げない会話の中にあるヒントをすくい上げ、生活状況や健康への影響を推し量るコミュニケーション力が求められるでしょう。
参照元:厚生労働省/薬剤師が地域で活躍するためのアクションプランについて
3.今後も薬剤師として働くためのポイント
薬剤師の数が飽和し、DXの推進によって「薬剤師はいらない」といわれる薬局業務において、今後も薬剤師として活躍していくためにはどうすればよいのでしょうか。
ここからは、押さえておきたいポイントをご紹介します。
3-1.新たな資格の取得や情報収集を行う
これからの薬剤師のキャリアプランには多くの選択肢があります。自分の進むべき方向性にあった各分野の資格を取得したり、医療業界だけでなく社会の変化に対して常にアンテナを張り巡らせたり、新しい情報の収集を怠らないことが重要なポイントとなるでしょう。
- 専門性を高めてワンランク上の薬剤師を目指す
研修認定薬剤師、認定・専門薬剤師、認定実務実習指導薬剤師など - コミュニケーション力を磨いてチーム医療や地域医療に生かす
医療コミュニケーションアドバイザー、コミュニケーション能力認定講座など - デジタル技術を身に付けIT薬剤師を目指す
医療情報技師、診療情報管理士、医療情報基礎知識検定など - その他
日本糖尿病療養指導士、ケアマネージャーなど
3-2.語学力を磨いておく
2023年6月末現在の在留外国人数は約322万人で過去最高を更新しました。2023年に就労できる産業分野が拡大されたため、今後も在留外国人は増えていくことが予想されます。
医療機関や薬局を訪れる外国人が増えることから、英語をはじめとする外国語を習得しておくことは薬剤師にとって大きな強みとなります。また、日本のOTC医薬品は外国人旅行者に人気が高く、ドラッグストアで買い物をする訪日観光客が増加する中で、語学力を磨くことは大いに役立つでしょう。
参照元:出入国管理庁/令和5年6月末現在における在留外国人数について
参照元:経済産業省/ドラッグストアにおける外国人観光客の消費インパクト
3-3.患者さんの立場に立って目線を合わせることが大事
2022年4月より、医師の診察がなくとも一定期間繰り返し処方が受けられるリフィル処方箋が解禁となりました。リフィル処方箋は1枚の処方箋を3回までくり返し使用できるので、例えば最長90日のリフィル処方箋を3回使用すると、270日間(9カ月)にわたり医師の診察を受けないことになります。
リフィル処方箋で薬の交付を受ける場合、2回目以降は医師に代わって薬剤師が患者さんを観察し、異常がないか確認しなければなりません。患者さんは生活上の不健康な行動をなかなか明かしてくれませんので、アドヒアランス向上のためにも、かかりつけ薬剤師として患者さんの立場に立ち、目線の高さを合わせて接することが大切です。
3-4.人材の育成も重要
日本薬剤師会による「薬剤師行動規範8.生涯研鑽」の項に、「先人の業績に敬意を払い、また後進の育成に努める」とあり、薬剤師は日々進歩していく医療や薬学という核心部分を向上させながら、自分自身の知識や経験を次の世代に継承していくことが重要だとしています。
日々の業務に従事しながら後進の育成に努めるのは大変ですが、後輩や部下への指導の中に、必ず自分自身が成長するための気づきがあるはずです。
また、認定薬剤師の資格を取得して一定の条件を満たした場合、自ら申請することで「指導薬剤師」に任命され、後進の指導を行うことが求められます。人材育成が自身のキャリアアップにもつながり、大きなモチベーションとなることでしょう。
4.まとめ
「薬剤師はいらない」という意見の背景には、調剤の自動化や薬剤師の仕事に対する認識不足があるようです。現在、薬剤師の役割は大きく変わりつつあり、地域における高齢者医療と介護の連携、医師不足への対応など、従来の調剤を中心とする業務からの方向転換を迫られています。
参照元:厚生労働省/令和4年度 調剤医療費(電算処理分)の動向
高齢社会の進行により、対物業務から対人業務にシフトしていく薬剤師の仕事が「患者さんファースト」に向かうことは間違いありません。これからは国民にとって「いらない薬剤師」から「最も頼れる医療者」となるべく、デジタルリテラシーを高め、患者さんに寄り添うためのスキルを身に付けることが求められるでしょう。
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