余った薬はどうするべき?引き取る際の注意点や薬剤師の役割について

余った薬はどうするべき?引き取る際の注意点や薬剤師の役割について

医師から薬を処方されたものの、薬が余ってしまい、対処方法が分からないという患者さんは少なくありません。中には、余った薬をそのまま、長期間保管して、後で飲んでいるといったケースもあるでしょう。

日本では、年々増え続ける医療費が大きな課題になっていますが、国民医療費全体の約2割を占めているのが薬剤費です。過去の調査によると、75歳以上の在宅高齢者だけを見ても、残薬の総額は年間475億円にも上るとされています。

残薬は医療費の膨張を招くだけでなく、患者さんの治療期間の延長や症状の悪化、保管した薬を不用意に飲んだことによる健康被害の危険性などがあり、薬剤師が関与して対策を講じることが必要といえるでしょう。

この記事では、残薬が生じる原因や薬剤師が残薬を引き取る際の注意点、薬剤師の残薬への対処方法などについて解説します。

参照元:日本薬剤師会/在宅医療における 薬剤師の役割と課題
参照元:厚生労働省/薬剤費用等の年次推移について
参照元:厚生労働省/規制改革会議 第2回公開ディスカッション 資料2-2

1.薬はなぜ余るの?その原因は?

何らかの理由で、医師から処方された薬を飲み切らず、余らせてしまった薬のことを「残薬」といいます。

厚生労働省の調査によると、残薬を持っている患者さんがいる薬局は約9割、薬が余った経験があると答えた患者さんは約5割との結果が出ており、残薬が生じてしまう原因には、次のようなことが考えられます。

参照元:厚生労働省/規制改革会議 第2回公開ディスカッション 資料2-2 p16

1-1.自己判断で飲むのをやめてしまった

残薬の大きな原因の一つが、患者さんの自己判断で薬を飲むのをやめてしまったケースです。

薬は患者さんの病状や体質に合わせ、治療に必要な分だけ、医師によって処方されますが、服薬している途中で、症状がよくなったからと自分で判断して薬の量を減らしてしまう患者さんがいます。

また、「薬が効いていない気がする」「錠剤が大きくて飲みにくい」「副作用が怖い」などの理由で、薬を飲むのをやめてしまう患者さんも一定数いるでしょう。

このように自己判断で薬を減らしたり、中止したりすることが、残薬につながってしまうのです。

1-2.薬の飲み忘れや飲み間違い

残薬の原因で最も多いのが、薬の飲み忘れです。忙しくてうっかり服薬を忘れてしまった、仕事のシフトの関係でランチタイムを取りにくく、昼の薬を飲むタイミングがないなど、薬を飲み忘れてしまう理由はさまざまですが、飲み忘れが積み重なることで、薬がたまってしまうのです。

また、服用は1日3回と指定されているのに、2回だと勘違いしていたなど、回数の飲み間違いも残薬の原因の一つです。複数の種類の薬が処方され、服薬のタイミングや回数が異なると、飲み間違いが起こりやすくなります。

1-3.別の薬を処方されたため

処方された薬を飲み切る前に、医療機関を再受診する患者さんもいますが、その際に「薬の効き目を感じない」「別の症状が出てきた」などの悩みを医師に相談すると、医師の判断で、新たに別の薬を処方されることがあります。

また、前に処方された薬が余っていても、きちんと服薬できていないことを医師に伝えるのが悪い気がして相談できない患者さんも少なくありません。前に処方された薬が余っている状態で別の薬を処方されてしまうことで、残薬が生じてしまうのです。

1-4.複数の医療機関で同じ薬をもらった

複数の医療機関で同じ薬をもらうことも残薬の大きな原因です。
例えば、かかりつけの医療機関を持たない患者さんが、同時期に複数の医療機関を受診し、結果的に同じ薬を処方されることがあります。あるいは別の症状で、別の医療機関を受診したところ、同じ薬が処方されることもあるでしょう。

患者さんが「同じ薬を持っている」と医師に伝えなかったり、お薬手帳に全ての処方薬の記録がなく、薬剤師が薬の重複に気づかなかったりすることで、残薬につながります。

参照元:厚生労働省/規制改革会議 第2回公開ディスカッション 資料2-2 p17

2.余った薬(残薬)は病院や薬局の薬剤師に相談を

処方された薬を飲み残してしまい「ため込んでしまったけれど捨てるのはもったいない」という患者さんは多いといえます。では、たまってしまった薬はどうしたらよいのでしょうか。

残薬については、まず、病院や薬剤師に相談することが大切です。薬剤師は、残薬があったら薬局に持参して相談をするように周知しましょう。

患者さんが残薬を持参してきたら、薬剤師は薬の状態や数を確認します。さらに、患者さんに、どうして薬が余ってしまったのか、薬を飲み残した明確な理由を確認することが重要です。

その理由を踏まえて、次回の診察の際に処方日数を調整したり、適切な種類の薬に変更したりするように、医師に提案することが可能になります。

3.残薬に対して薬剤師はどう対処すべき?

患者さんから残薬について相談があったとき、薬剤師はどのように対処するべきでしょうか。

ここでは、薬剤師が残薬対策としてできることや患者さんに伝えるべきこと、薬を処分する際の注意点などについて解説します。

3-1.薬代の返金や譲渡・売却ができないことを伝える

余った薬を持ってきた患者さんには、まずは薬を処理する際の注意点を伝えましょう。基本的には残薬は薬剤師が確認して再利用できるか、または処分するべきかを判断します。

万が一、患者さんから余った分の薬代の返金を求められても、処方薬の代金の返金はできないことを伝えましょう。

また、自分と似た症状で困っている家族や知人に薬を譲渡したり、売却したりすることは、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」や麻薬および向精神薬取締法などの違反になります。

処方薬は医師が一人ひとりの体質や病状、症状の経過などを踏まえて、適切な薬を処方しているため、同じような症状であっても、その人以外の人が服薬することはできません。他人に譲渡した場合は、病状の改善の効果がない可能性があるだけでなく、重大な健康被害を及ぼすリスクがあります。

患者さんには、残薬の譲渡や売却はできないことをはっきりと伝えた上で、残薬の対処方法について、詳しく説明することが重要です。

参照元:麻薬及び向精神薬取締法
参照元:兵庫県警察/医師が処方した薬はあなただけの薬です

3-2.薬局で処分が可能な薬か確認する

患者さんから、残薬の処分について相談があったら、まず、薬局で処分が可能かどうかを確認します。可能な場合はそのまま引き取り処分しましょう。もし、薬の再利用が可能であれば、残薬調整を行う場合もあります。

患者さん自身で処分できる場合は、処理方法を丁寧に説明しましょう。
薬剤の処分方法は自治体によって異なるので、お住まいの地域で決められた区分に従うことも伝えます。一般的な処分方法は次のようになっていますので、参考にしてください。

  • 錠剤や軟膏:容器や包装から出し、封筒や紙に包んで捨てます。
  • 目薬やシロップなどの液剤:紙や布などに吸収させてから捨てます。
  • 注射針:注射針は家庭では処分できないため、薬局で回収します。

容器や包装、空き瓶などは自治体のごみ分別・収集方法に従って破棄しましょう。

3-3.一包化や減薬ができないか検討してみる

患者さんから残薬の相談があったら、どうして薬を飲み残してしまったのか、理由を丁寧にヒアリングし、原因を明らかにしましょう。

「薬の量が多すぎる」「薬の種類が多くて、飲み方が複雑」「複数の医療機関を受診していて、同じような薬が重複してしまった」といった理由の場合、一包化や減薬ができないかを医師に提案し、患者さんが安心して薬を飲める状態に改善するのも、薬剤師の大切な役割です。

3-4.ブラウンバッグ運動の取り組みを周知する

ブラウンバッグ運動とは、アメリカで始まった適正な薬剤管理を行う取り組みのこと。薬剤師は、患者さんが薬局に持ってきた薬を確認し、服薬や飲み合わせの状況をチェックして、薬の処方の調整を行います。
薬局のブラウンバッグ運動の取り組みについて、積極的に周知することが大切です。

厚生労働省の資料によると、薬剤師が患者さんやその家族に残薬対策について説明するとともに、ブラウンバッグを活用することで、患者アドヒアランス(患者さんが治療の方針に賛同して、積極的に薬物治療を受けること)が向上し、残薬の解消につながったとしています。このことから、残薬問題の解消には薬剤師の介入が重要であることが分かるでしょう。

ブラウンバッグ運動については、こちらの記事をご覧ください。

参照元:東京都福祉保健局/令和3年度東京都重複多剤服薬管理指導事業 実施結果
参照元:厚生労働省/テーマ③に関する現状と課題について

4.今後も薬剤師の残薬調整が重要

これまで解説してきたように、残薬については、さまざまな課題があります。今後、薬剤師は医師と連携して、患者さんの残薬を確認し、処方薬の種類や量などの調整をする働きかけが重要になるでしょう。

年々増加する医療費の2割を占める薬剤費を削減するためには、残薬の解消に向けた対策が不可欠であり、国も整備を進めています。

例えば、2016年の診療報酬改定では、処方箋様式が改訂され、残薬の有無を確認して記載する欄が設けられました。
残薬がある場合は、薬局の対応として、「医療機関へ疑義照会をした上で調剤する」、あるいは「医療機関に情報提供をする」のいずれかを選択するようになっています。この欄があることで、医療機関と薬局がスムーズに残薬を確認でき、残薬を考慮した対応が期待されます。

また、処方の段階で、医師が分割調剤の指示を出せるようになり、薬剤師においても、長期処方で、患者さんが適切に薬剤を管理するのが難しいと判断した場合などに、分割調剤が可能です。

患者さんの安心・安全を守るためにも、薬の専門家である薬剤師は日頃から患者さんとコミュニケーションを図ることが重要となります。治療の様子や服薬の悩みだけでなく、残薬の状況についても把握するように努め、残薬調整のために介入していくことが求められるでしょう。

参照元:厚生労働省/平成28年度診療報酬改定の概要

5.まとめ

残薬が生じる原因は、飲み忘れや飲み間違い、服用時間と生活習慣が合っていないなどさまざまです。薬剤師が患者さんにヒアリングし、根本的な原因を探ると「薬の量が多すぎる」「薬の形状が飲みにくい」「医師に薬が余っていることを伝えにくい」といった理由も把握できるかもしれません。

本来、飲むべき薬を飲み切らずにいると、治療効果を十分に得られないだけでなく、後日、似たような症状だからと安易に飲み残しの薬を飲んだり、家族や知人に服用させたりするなどして、思わぬ健康被害を招くリスクも考えられます。

薬剤師は患者さんの健康を守る存在として、薬が余ったら薬局に持参して相談するように促し、残薬の処理の仕方を周知する他、医療機関と連携を取り、残薬解消に向けて対応していくことが重要です。

この記事の著者

メディカルライター

山原 佳代

大学卒業後、医療機器メーカーに就職。その後、介護企業、広告代理店等を経てライターとして独立。
医療、ヘルスケア関連の広告物やメディアの記事執筆、ドクターへの取材、薬機法を考慮したコピーライティングを中心に活動している。

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