臨床薬剤師とは?主な業務内容や今後の展望について
医療先進国として知られるアメリカで生まれ、日本でも増え始めている臨床薬剤師。新しい医薬品が次々と生まれ、高度化・複雑化する薬物療法のスペシャリストとして、臨床の現場で患者さんに直接関与するのが、臨床薬剤師の大きな特徴です。
ここでは、チーム医療に欠かせない、「新しい薬剤師像」である臨床薬剤師の主な業務内容を紹介し、今後の展望について考察します。
目次
1. 臨床薬剤師とは
調剤を中心とした従来の業務をこなしつつ、病棟における医療チームの一員として、患者さんの治療に直接関わるのが臨床薬剤師の役割です。つまり、「疾病を対象とする薬剤の専門家」であると同時に、「個々の患者さんを対象とする薬物療法の専門家」でもあるわけです。
1-1. 臨床薬剤師の概要
臨床薬剤師はもともとアメリカで生まれた医療職で、日本では2000年代に入ってから普及し始めました。アメリカには調剤を専門に行うファーマシー・テクニシャンという職種があり、薬剤師は調剤よりも患者さんと向き合うことに重きが置かれます。ドラッグストアや薬局では医薬品に関することだけでなく、健康上の相談に乗ったり予防接種を行ったりもします。
一方、病院においては、医師の処方が適正かどうかを判断し、服薬を一元的に管理する役割を担います。患者さんに対して薬歴管理や服薬指導を行うだけでなく、回診に同行し、医師による疾患の診断をもとに、処方提案や投薬設計のアドバイスを行うのも薬剤師の役割です。こうしたアメリカの働き方(服薬を一元的に管理することから、クリニカル・ファーマシストと呼ばれます)をモデルに、病棟における医療チームの一員として、患者さんに対する薬物治療を担うべく、日本でも臨床薬剤師が誕生しました。
臨床薬剤師は、患者さんに薬剤や治療についての説明・指導を実施するとともに、医師に対しては処方提案・投薬設計のサポートなどを行います。投薬設計にあたっては、患者さんの薬歴や臨床データを収集したうえで、体格や年齢など個人の特性に応じた薬物動態の計算を行います。
1-2. 病院薬剤師との関係性
臨床薬剤師は「薬剤管理指導業務」を担う医薬品のスペシャリストです。薬剤管理指導業務は、「100点業務」と呼ばれた入院調剤技術基本料から発展してきたもので、病院における医薬分業を推進し、臨床薬剤師を生み出すきっかけにもなりました。
具体的には薬歴管理や服薬指導を行って、患者さんの薬物療法への認識を向上させる業務を指し、薬剤師は患者さんから得られた情報を医師にフィードバックし、チーム医療をサポートします。また、病院における医薬品情報管理室(DI室)の担当薬剤師とも連携、協働して業務を進めます。
2. 臨床薬剤師の主な業務内容
直接服薬指導、服薬支援のほか、処方された薬剤の投与量、投与方法、投与速度、相互作用、重複投薬、配合変化、配合禁忌などに関する確認も、臨床薬剤師が担うべき役割です。あわせて、患者さんの状態から投薬の効果、副作用の発現などを把握し、医師にフィードバックやアドバイスを行います。
2-1. 服用する医薬品のデータ取得・情報管理
臨床薬剤師は患者さんの薬歴だけでなく、投薬の効果や副作用についてのデータも記録し、医師、医療チーム、DI室とのカンファレンスやコミュニケーションを通じて、薬物療法が適切に行われるよう情報を共有します。治療効果や副作用発現は患者さんによって異なるため、投薬に際しては添付文書や院内のデータベース、国内外の臨床データなど、さまざまな情報を収集・解析し、治療に生かします。
2-2. 医薬品の服用方法の指導
一般的な薬剤師と同様、医薬品の専門家として服用する薬の量やタイミング、なぜ服用する必要があるのかなどについて説明するのも、臨床薬剤師の業務の一つです。患者さんの年齢は子どもから高齢者まで幅広いため、患者さん本人だけでなく、ご家族の理解も得られるような服薬指導が求められるでしょう。また、臨床の現場では、医薬品添付文書とは異なる投与量や投薬方法がとられることもあります。そうした場合は、処方の目的と処方薬の情報を十分に把握し、患者さんにわかりやすく伝えることが大切です。
2-3. 医薬品の投与設計提案
患者さんの特性や病態、医師の処方の目的を理解したうえで医薬品の投与設計を行い、医師に確認・提案するのも、臨床薬剤師の大事な業務です。先に紹介したように、投与設計では患者さんの体格や年齢、生理機能の状態などから薬物動態を計算し、薬学的に適切な投与設計を提案します。
臨床薬剤師が薬剤の管理や服薬指導から、投与設計まで総合的に担うことは、医師、看護師をはじめとする医療従事者の負担を減らすことにもつながります。
3. 臨床薬剤師を目指すには
1992年に入院調剤技術基本料の報酬が400点に引き上げられ、1994年には最大で月600点を請求できるようになったことで(名称も薬剤管理指導料に変更)、臨床薬剤師が活躍する土壌がつくられました。しかし、臨床薬剤師であることを明確に示す資格は、まだ存在していません。2006年度に薬学部が6年制となって以降、「臨床薬学」が重視されるようになりましたが、臨床薬剤師の専門学科があるわけではないので、臨床薬剤師を目指すには薬剤師レジデント制度を利用するのが最短コースといえるでしょう。
3-1. 薬剤師レジデント制度
1989年に、アメリカで提唱されたファーマシューティカル・ケア(PC=Pharmaceutical Care)は、薬物療法による患者さんのQOLの改善を薬剤師の役割としてとらえたもので、1990年代前半にはEUへと拡がり、WHOでも定義されました。PCを薬剤師の行動原理とする米国では、日本の薬剤師資格にあたるPharm.D.(Doctor of Pharmacy)を取得した後に、1年目のPGY1(Post-Graduate year 1)、2年目のPGY2というレジデント制度が用意されています。
日本では、米国のPGYをモデルとして、2002年に北里大学北里研究所病院が国内初のレジデント制度を導入しましたが、多くの病院に広がりを見せ始めたのは2010-2011年ごろのことです。なお、研修生が研修費を収める旧来の薬剤師研修制度と違って、レジデント制度ではレジデントになんらかの給与が支払われます。
レジデントの多くは大学や大学院の新卒者ですが、中には他の病院職員や薬局薬剤師、製薬企業職員などもみられます。日本薬剤師レジデント制度研究会の調査によると、薬剤師レジデント制度を実施する医療施設は、2024年現在で44ヵ所となっていました。
参照元:日本薬剤師レジデント制度研究会/薬剤師レジデント実施施設一覧
4. 臨床薬剤師に必要な能力
臨床薬剤師には、医薬品に関する幅広い知識を適切な治療に結び付ける能力だけでなく、患者さんやご家族から治療に有用な情報を引き出す能力や、医師や看護師らと情報を共有するためのコミュニケーションスキルも求められます。
ここでは、臨床薬剤師に必要な能力について詳しく解説します。
4-1. 医薬品に対する幅広い知識
臨床薬剤師には、医薬品添付文書の内容だけでなく、他の医薬品や食品との相互作用、重複投与、年齢、性別、体格、体質、病態などに関する幅広い知識が求められます。また、同じ疾患であっても、患者さんの身体状況や病態は一人ひとり異なるため、薬物動態を計算したうえで、最適な投与方法を設計できるスキルも必要です。
4-2. 患者さんから話を聞く傾聴力
個々の患者さんに適した薬物治療を行うには、症状だけでなく心のありようも含めて、患者さんの状態を正しく把握しなければなりません。そのためには、患者さんの信頼が得られるような傾聴力を身に付けることが大事です。
パーソン・センタード・アプローチ(クライエント中心療法)と呼ばれる心理療法では、話し手が自由に安心して話せるようにするには、「相手の話」を「相手の立場」に立って「相手の気持ち」に共感しながら理解しようとする、共感的理解が大切だと説いています。薬剤師は、一方的な医薬品の説明に終始しがちな職業であるため、意識して傾聴力を磨く必要があるでしょう。
4-3. 関係者とのコミュニケーション能力
医薬分業やチーム医療推進の視点から、現代の臨床現場では多職種連携が欠かせない要素となっています。多職種連携では、医師を中心として看護師や検査技師、管理栄養士などがチームとなり、そこに臨床薬剤師をはじめとする病院薬剤師が加わります。そうしたなかで、それぞれが円滑にコミュニケーションをはかり、情報を共有することは治療の成果を左右するといっても過言ではありません。
医師は患者さんの疾患について診断し、看護師は医師の指示のもとで患者さんのケアにあたります。一方、薬剤師は患者さんの薬歴を調べ、医師と協働して処方や投薬にあたりますが、治療効果の確認や有害事象の発現に対する気付きなどは看護師が担う部分が大きく、薬剤師と看護師との連携も非常に大事です。
そのため、臨床薬剤師は薬剤の効果や副作用の所見、予防法、対処法などの情報を看護師に提供し、患者さんの状態の変化にいち早く気付いてもらえるよう配慮する必要があります。そうやって看護師の気付きを生かすことは、医師に対する処方の提案や投薬設計の支援を行い、適切な薬物療法を実施することにつながるでしょう。
そうした点を踏まえるなら、臨床薬剤師には、医師や看護師との間に良好な人間関係を築くためのコミュニケーション能力が不可欠だといえます。
5. 臨床薬剤師の今後の展望
米国をモデルとした臨床薬剤師が日本で根付き、増えつつある理由はいくつかあります。一つは、本来の薬剤師の業務であった調剤が自動化され、多くを製薬企業が担うようになったことです。つまり、調剤業務が減ったことで、病院薬剤師の職務領域が服薬指導などの病棟業務にシフトしたのです。そうした変化には、前述した薬剤管理指導業務に関する報酬の引き上げも、大きく影響しています。
もう一つの理由は、チーム医療への参加です。薬剤師の存在はチーム医療に欠かせないものとなっており、海外の調査では臨床薬剤師が回診に加わることで、不適切な薬物治療が是正されたという報告もあります。調査を行った精神科病棟では、大量の多剤処方や不適切な処方が是正され、退院後も服薬の遵守率が高かったとしており、チーム医療に医薬品の専門家が加わることは非常に大きな意義を持つと示唆しています。
そして、臨床薬剤師が根付いた最大の理由は、超高齢社会の到来です。日本人の死因は1981年以来がんがトップを占めていますが、この40年の間に治療法や治療薬が大きく進歩し、分子標的薬などの新薬が次々と登場しました。また、高齢化にともなって生活習慣病が増加し、その多様な症状に対応するため、多剤併用が日常的に行われています。このように、高度化・複雑化する薬物治療を適切に行うには、臨床薬剤師の専門知識が欠かせなくなっているのです。
医薬分業や地域包括ケアが推し進められる現在、臨床薬剤師を含めたすべての薬剤師の仕事は、モノ(薬剤)からヒト(患者さん)へと変化しています。その点からみても、患者さんのQOLを改善する薬物治療のスペシャリスト=臨床薬剤師の活躍のフィールドが、さらに拡がっていくことは間違いないでしょう。
参照元:厚生労働省/がん対策について
6. まとめ
1989年に臨床薬剤師の原型となるファーマシューティカル・ケアの概念がアメリカで提唱され、それをもとに日本でも臨床薬剤師に対する取り組みが始まりました。そして現在は、調剤の自動化やチーム医療の推進、超高齢社会への対応などが影響して、臨床薬剤師への注目度が一段と高まっています。また、それにともなって、薬剤師レジデント制度も活発化してきました。
臨床薬剤師を育成する薬剤師レジデント制度が本格化してきているのは、多職種連携であるチーム医療において、薬剤師が不可欠なポジションであることを示しており、臨床薬剤師の需要が増えている証といえます。興味のある方は、将来性のある新しいキャリアアップの選択肢として、臨床薬剤師を検討してみてはいかがでしょうか。
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