医師の働き方改革「タスクシフティング」薬剤師に求められる事とは?

医師の働き方改革「タスクシフティング」薬剤師に求められる事とは?

令和に入ってから、ますます加速する「働き方改革」の流れは医療現場にも広がりつつあります。その大きな取り組みの一つが「医師から他職種へのタスクシフティング(業務移管)」です。

タスクシフティングは、これまで医師が担当していた業務の一部を、コメディカルの医療従事者が実施することにより、医師の長時間労働や業務上の負担増を軽減しようという動きです。

タスクシフティングによって何が変わるのか。これからの薬剤師に期待される役割についてみていきましょう。

1. タスクシフティング(タスクシェアリング)とは

世間の幅広い業種で「働き方改革」が叫ばれる今、「医師の働き方改革」もまた、その実現に向けてはじめの一歩を踏み出そうとしています。

その大きな足掛かりになるのが「タスクシフティング(タスクシェアリング)」です。タスクシフティングとは、医師が担う業務を、病院勤務の薬剤師・看護師などのコメディカルスタッフへ業務移管・共同化し、医師への業務集中を軽減しようという働きかけのことです。

厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会(2019年3月)」が、2024年4月には、「医師の時間外労働上限」を適用するなど、医師の働き方に関する方針を打ち出したことにより、この数年間は「タスクシフティング」の流れが各医療現場において急速に普及していくことになります。

2. タスクシフティングが注目される理由

医療技術の進歩に伴う医療の高度化や新薬の登場、そして地域での医師不足の影響によって、医師への業務負担が増加し、医師の長時間労働などがかねてより問題となっています。

そんな日本の医療現場において、業務効率をアップさせるタスクシフティングは、人手不足や労働環境を改善する切り札として注目されています。
また、タスクシフティングは、医師の労働環境を改善するだけでなく、患者さんに対してもよりスピーディーできめ細やかな医療提供を実現する試みとして期待できます。

例えば入院時に「薬の副作用が出た」あるいは「床ずれが出来た」などのアクシデントが起きた場合、従来であれば医師の診察と指示ののち、処方変更や床ずれへの対応を開始していたため、患者はその間待っている必要がありました。

しかしタスクシフティングによって、各領域のコメディカルスタッフの職務が広がれば、各コメディカルの裁量によって、迅速に対処できることが増えると考えられます。

3.タスクシフティングで薬剤師が担う業務とは

タスクシフティングの運用に際して、さらなる活躍が期待されているのは主に病院勤務の薬剤師です。実際にタスクシフティングが運用された場合、薬剤師が担う業務はどのように変化するのでしょうか?

厚生労働省が進める「医師の働き方改革を進めるためのタスクシフト/シェアの推進に関する検討会」において、医師から薬剤師へのタスクシフトが検討されている項目を中心に、詳しく見ていきましょう。

3.1. ハイリスクな部門での薬剤業務

薬剤師の新たな活躍の場として、手術室や集中治療室(ICU)、救急救命等の急性期の患者を扱うハイリスクな部門での調剤業務が想定されています。

参照:厚生労働省 病院薬剤師を活用したタスク・シフティング推進事業実施要綱(案)

現在、多くの病院では手術中に必要な薬剤の選択や投与量・投与速度などの算出は、全て医師が行っています。しかしながら、医療技術の進歩と新薬の登場によって、薬剤管理も複雑化しており、医師への負担が懸念されています。

今後は薬剤師が積極的に関わることで、医師の負担軽減が期待されています。また、麻薬や鎮静薬など、取り扱いに制限のある薬剤の残薬計算と記録・保管、残薬の回収と廃棄、投与器具の回収などの業務も、薬剤師が関与することで、安全面の強化と業務の効率化が図れます。

3.2. 薬剤投与および管理

医師から薬剤師へのタスクシフティングが可能と考えられている業務には、「事前に作成・合意されたプロトコール(規定)」に基づく薬剤投与や薬剤変更(含量規格や剤形等)、処方医の事前の指示に基づいた分割調剤(同一薬剤の継続投与)などがあります。

また、入院時の患者面談情報(他院持参薬に関する情報や、副作用・残薬の有無)のカルテへの記入や術前服薬内容チェック、それらに基づく仮オーダー入力などの管理業務が可能になり、患者へのより迅速な処方ができるようになります。

3.3. 薬の説明や服薬指導

薬物治療を受ける患者さんに対しての情報提供は、これまでは医師が主体となって行ってきましたが、タスクシフティングによって薬剤師が患者さんへの説明を積極的に行えるようになります。

また、患者自身が行う自己血糖測定やインスリン自己注射など、侵襲(しんしゅう)を伴う実技についても、薬剤師が直接指導できるようになるので、患者の理解度を確認しながら、きめ細やかな実技指導が提供できます。

3.4. 処方に関する提案

患者さんの服薬状況をモニターしながら、その効果や副作用の発現状況を評価し、必要に応じて処方医への情報提供や、処方内容の見直しを提案することが求められます。

昨今では多剤併用による薬剤治療も多く、処方内容が複雑化してきている傾向にあるため、薬剤師の専門的知見に基づいた薬剤選択や、多剤併用薬に対する処方提案の重要性が今後ますます高まってきます。

4. タスクシフティングをする際に気をつけること

「医師の働き方改革」を推進するうえで、他業種コメディカルへのタスクシフティングは欠かせないものです。患者さんに対しても、薬剤師が直接関わる機会が増えることで、入院から退院まで、治療の全過程をフォローアップできるようになります。

しかしその分、薬剤師が担う業務量が増えるため、薬剤師もまた自身の働き方を工夫しなければなりません。タスクシフティングをする際に持つべき視点と、注意点について考えてみましょう。

4.1. 薬剤師の負担増加

薬剤に関する専門知識・技能を有する薬剤師には、大幅なタスクシフティングが期待されています。これまで病院薬剤師が担う役割の大部分は、薬局内での調剤・処方・服薬指導業務でしたが、タスクシフティング後は積極的な患者対応や、医師への処方提案など、対人でのやり取りが大幅に増えることが予想されます。

また、薬剤に関する患者情報のカルテへの記入や、医療情報提供書の作成支援などのデスクワークも増え、薬剤師への負担が増えてしまうことが考えられます。

4.2. 薬剤師の業務を軽減するには

医師の働き方改革と同様に、薬剤師もまたより良い環境で仕事ができるように工夫する必要があります。

タスクシフティングの本格的な運用を前に、厚生労働省は薬剤師の負担を軽減すべく、調剤業務のありかたについての新しい考え方を発信しています。調剤業務に関しては、既存の薬剤師法によって薬剤師以外のものが調剤してはならないことを規定しています。

しかし今後は、以下にあげる業務については、最終責任者である薬剤師の監督下または薬局等における適切な管理体制下において、薬剤師の資格を持たないスタッフが業務を行えるようにすることで、業務を効率化する取り組みが進められています。

  • あらかじめPPTシートなどでパッケージ済みの医薬品を処方箋の内容に応じて取り揃えること
  • 納品された医薬品を調剤室内の棚に納めること
  • 調剤済みの薬剤を院内の配薬カートや患者のお薬カレンダーに入れること
  • 患者のお薬カレンダーの閲覧
  • 医薬品の在庫切れ対応として取り寄せた医薬品を、薬剤師による服薬指導後に患者へ郵送する行為 など

参照:厚生労働省 調剤業務のあり方について

また、院内薬局の中だけでなく、病棟薬剤師や他のコメディカルとの連携をこれまで以上に高め、医療者全体が一丸となって働き方改革に取り組む姿勢が大切です。それぞれの専門知識とスキルを持ち寄って、院内業務をシェアできる仕組みづくりを検討しましょう。

5. 今後、薬剤師の役割も更に重要に

2024年4月には、すべての勤務医に対して新たな時間外労働上限が適用され、医療分野の働き方改革が本格化する見込みです。それに先駆け、現場にタスクシフティングを運用していくためには、薬物に関する専門知識を有する薬剤師の活躍が欠かせません。

薬剤師が患者のモニタリングや急性期医療に関わっていくことは、医療の正確性と安全性の担保にもつながり、医療を受ける患者さんにとっても大きなメリットになります。

また、新薬が次々と登場する中で、患者さん一人ひとりにとって最適な薬剤選択を提案できる薬剤師の役割は、今後さらに重要になってきます。最新の専門知識を身に着け、薬剤の専門家としての力を大いに活かしていきましょう。

この記事の著者

医学博士、医学研究者

榎本 蒼子

最終学歴は京都府立医科大学大学院医学研究科博士課程卒業。2011~2015年 京都府立医科大学にて助教を勤め、医学研究および医学教育に従事。

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