専門薬剤師とは?具体的な役割や魅力について紹介

専門薬剤師とは?
薬剤師は、基本的にすべての処方せんの調剤を正確かつ安全に行い、患者さんに供給し、薬学的管理をする医薬品のジェネラリストです。

薬剤師のもともとの役割は、「医薬品の適切な使用を確保し、安全性を守る」ことでしたが、薬剤師法や医療法の改正によって医薬分業が進み、そのあり方は少しずつ変化してきました。

現在は、従来の調剤や服薬指導に加えて、薬剤情報提供やカウンセリング、他職種連携などが求められるようになっています。たとえば、病院や地域包括ケアシステムの医療チームにおいて、薬剤師には医師、看護師などとコミュニケーションをとりながら、薬のプロとして患者さまの薬物療法に主体的に加わることが求められます。また、医療が高度化し領域別に細分化されたことで、薬物療法についても専門的なアプローチが必要となってきました。

そうした中、高度な知識・技術と臨床経験を備えた、薬剤師のエキスパートとして注目を集めているのが、「専門薬剤師」です。

現在、さまざまな学会が作る多くの専門薬剤師制度がありますが、そこにはどのような違いがあるのでしょうか。本記事では、専門薬剤師の役割や種類、魅力などについて解説します。

1.専門薬剤師とは?

調剤や薬学的管理に関して十分な知識・能力を持ち、患者さんや他の医療職種と円滑にコミュニケーションできるジェネラリストであることが、専門薬剤師の基本です。

その上で、専門薬剤師には、病棟や地域包括システムの医療チームの中で医師、看護師といった多職種と連携し、質の高い薬物療法を実践することが求められます。また、薬学領域における指導・監督的な役割も果たします。

それらを踏まえるなら、専門薬剤師は、薬物療法の面で医療チームを支え、医師の負担軽減にも貢献できる存在と言えるでしょう。

1-1.認定薬剤師との違い

認定・専門薬剤師の認定制度は認定学会によって異なりますが、基本的には「専門薬剤師」にステップアップするために、必ず取得するべき資格が「認定薬剤師」です。

主な認定薬剤師には、日本薬剤師研修センターが認定する「研修認定薬剤師」や、日本病院薬剤師会が認定する「日病薬病院薬学認定薬剤師」、「研修認定薬剤師」を取得した上で認定試験に合格して取得する各領域の「認定薬剤師」(小児薬物療法認定薬剤師、緩和薬物療法認定薬剤師、在宅療養支援認定薬剤師など)があります。

そして、各領域の認定薬剤師が実務経験を重ね、学会や論文発表、症例報告、専門領域における薬物療法の研修などを経たのちに取得できるのが、領域別の専門薬剤師です。

近年は、学会以外の職能団体などが認定する認定薬剤師資格も多く見られますが、それらを取得しても、専門薬剤師へのステップアップが目指せるわけではありません。

なお、日本学術会議薬学委員会 専門薬剤師分科会では、薬剤師のキャリアパスとして「専門薬剤師に至るためのラダー」を提示していますので、詳しく知りたい方は下記サイトをご確認ください。

参照元:日本学術会議 薬学委員会 専門薬剤師分科会/専門薬剤師の必要性と今後の発展-医療の質の向上を支えるために-

2.専門薬剤師の具体的な役割

専門薬剤師の責務は、高度な知識と技能を医療チームで活用し、安全で有効な薬物療法を提供するとともに、医師の負担を分散することです。

以下では、具体的な役割について説明しましょう。

ハイリスク医薬品の適正使用と管理 専門領域に関わる医薬品の中で、間違った薬物療法によって患者さんに多大なリスクがあるハイリスク医薬品について、適正かつ安全に処方されているかを管理する役割があります。
専門領域の医薬品の副作用や相互作用の管理 専門領域の医薬品を投与されている患者さんに、副作用や相互作用の可能性が見られた場合、医師に代わって臨床検査・薬物血中濃度測定のオーダーを行い、必要があれば処方提案につなげる役割があります。
処方提案や処方設計 患者さんに副作用が発現した場合や、症状が重篤になる可能性がある場合、あるいは治療が難しい状況のときに医師と情報を交換し、処方の変更や提案を行う役割があります。
医薬品の情報収集と活用 医薬品開発は目覚ましく、新しい作用機序の薬剤の開発が進んでいます。また、医薬品が関係する医療事故なども増えています。そのため、常に新しい情報を収集・評価し、必要なときに活用できるようにアンテナを張っておくことも、専門薬剤師としての役割の一つです。

参照元:日本学術会議 薬学委員会 専門薬剤師分科会/専門薬剤師の必要性と今後の発展-医療の質の向上を支えるために-

3.専門薬剤師の種類

専門薬剤師にはどのような種類があるかを紹介します。なお、次の中で日本医療薬学会のがん専門薬剤師は、医療法上広告が可能となっています。

認定団体 認定資格名
日本病院薬剤師会 ・感染制御専門薬剤師
・精神科専門薬剤師
・妊婦・授乳婦専門薬剤師
・HIV感染症専門薬剤師
日本医療薬学会 ・医療薬学専門薬剤師
・地域薬学ケア専門薬剤師
・がん専門薬剤師
・薬物療法専門薬剤師
その他の学会、職能団体 ・外来がん治療専門薬剤師(日本臨床腫瘍薬学会) ・医薬品情報専門薬剤師(日本医薬品情報学会)
・腎臓病薬物療法学会専門薬剤師(日本腎臓病薬物療法学会)
・栄養サポート(NST)専門薬剤師(日本静脈経腸栄養学会)
・認定女性ヘルスケア専門薬剤師(日本女性医学学会)

各専門薬剤師について、詳しくはこちらをご覧ください。
薬剤師の資格ナビ 専門薬剤師

4.専門薬剤師になることの魅力

医薬分業が進む中、病院でも地域の保険薬局でも、ますます専門薬剤師の需要が高まることが期待できます。では、専門薬剤師にはどのような魅力があるでしょうか。ここでは、専門薬剤師になることのメリットを考えてみましょう。

4-1.専門分野での需要が高い

医療の高度化・細分化が進んだ結果、医療職には高い専門性が求められるようになっています。専門薬剤師は、専門分野の医薬品に関するプロであることはもちろん、専門分野の病態などの臨床的な知識も豊富です。そのため、薬物療法において専門医のサポートができる人材として、高い需要があります。

4-2.医療チームの一員として働くことができる

医師や看護師、介護支援担当者といった多職種が関わる医療チームの中で、ジェネラリストとして、あるいは専門領域の薬剤治療のスペシャリストとして、専門分野の薬物療法に関する助言や情報提供などを行うことができます。

4-3.他の薬剤師と比較して高収入が見込める

専門薬剤師として働くにあたっては、他の薬剤師よりも高収入が見込めるケースがあります。職能に対して、給与に加算がある医療機関や薬局もあるでしょう。

4-4.幅広い知識が身につく

専門薬剤師になるには、専門分野の研修の受講や論文、学会発表、症例報告など、多くの条件を満たさなければなりません。また、異なる専門分野の薬剤師や医療チームの他職種との交流・情報交換の機会も多いため、幅広い知識が身につくでしょう。

4-5.キャリアアップが見込める

専門薬剤師として実務経験を積み、論文や学会発表、先端的薬物療法の研究、指導などをこなすことで、薬剤師のトップキャリアとも言うべき高度専門薬剤師になることができます。

5.専門薬剤師になるためには

専門薬剤師になるための典型的なロードマップとして、日本病院薬剤師会における各専門薬剤師の認定の仕組みを紹介します。

ステップ① 「日本薬剤師研修センター研修認定薬剤師」または「日本病院薬剤師会生涯研修履修認定薬剤師」を取得します。
ともに一定期間内に規定の研修単位を取得し、申請することで認定が受けられ、認定試験はありません。
ステップ② 自分の興味や必要とされている分野で、専門領域別の認定薬剤師を取得します。
取得にあたっては、各専門領域での実務経験や実績が必要です。具体的には、一定期間研修施設で業務を行い、実技研修や講習を履修。患者さんに対する薬物管理指導の必要な症例数を満たし、認定試験に合格すると取得できます。
このステップは、より実際の医療現場において活躍できる知識と技能を取得するためのものです。
ステップ③ 各専門領域の認定薬剤師として実務実績を積み、学会発表や論文作成を行い、臨床における問題解決能力や対応力を吟味された上で、専門薬剤師に認定されます。

参照元:一般社団法人日本薬剤師会/クロースアップ 認定・専門薬剤師-活躍する薬のエキスパート-

6.専門薬剤師の今後の展望

専門薬剤師は、将来的にどのような立場になっていくのでしょうか。薬剤師のあり方の変化をもとに、今後の展望を解説します。

6-1.薬剤師教育の改革

2006年、薬剤師教育は6年制になり、4年制の時代と比べて臨床薬学や病態に関する治療学などのカリキュラムが増えました。また、それにともなって病院や薬局での実務実習も義務化されました。これは、医療現場において、医療チームの一員としての役割を果たせるようになるための改革と言えます。

6-2.医薬分業による変化

医薬分業が進み、病院における薬剤師の仕事の場は、外来から病棟へと移っていきました。病棟業務では医療チームの一員として、薬物療法に関する知識や技能を求められる機会も増え、薬剤師としての質が問われるようになっています。

一方、保険薬局での仕事内容も、処方せんを応需して薬を渡す「対物業務」から、患者さまへの服薬指導や重複投与・相互作用のチェック、在宅訪問での薬学的管理などを行う「対人業務」へと変化しています。地域包括ケアシステムの構築が進められる中、地域における医療チームの一員として、他職種への薬物療法に関する助言や情報提供も求められるようになりました。

このように、病院においては、専門的な薬物療法の知識・技能を必要とされる場面が増えています。一方、地域の薬局では、それぞれの地域に合った専門性が必要とされています。

6-3.専門薬剤師の質の確保

1995年にはじまった、日本臨床薬理学会による認定薬剤師制度は、日本病院薬剤師会や日本医療薬学会による認定・専門薬剤師制度へとつながり、整備されてきました。一方、薬剤師の働く場が多様化したことで、多くの学会や職能団体による認定・専門薬剤師資格も増え、薬剤師の質の向上が図られています。

薬剤師がチーム医療の中で専門性を発揮し、患者さんへの薬物療法に貢献するためには、今後も資格制度を活用した専門性の高い薬剤師の育成・確保が必要でしょう。

6-4.専門薬剤師への期待

急速な高齢化が進む日本では、2025年に団塊の世代が75歳以上になります。それにともなって、介護を必要とする高齢者は約320万に達すると言われ、薬局薬剤師の在宅業務の増加が見込まれます。

そのため医療薬学会は、2020年に地域薬学ケア専門薬剤師制度を新設し、地域において専門性を発揮できる薬局薬剤師の育成に乗り出しました。この事例からもわかるとおり、今後はあらゆる医療の場面で、高い専門性を身につけた薬剤師の需要が高まると予想されます。

薬剤師のスキルを磨き専門薬剤師を目指している方や、専門薬剤師としてさらに実力を発揮できる環境を探している方は、転職エージェントを活用して、自分に合った職場を見つけてみてはいかがでしょうか。

マイナビ薬剤師では、高い知識・スキルを持った専門薬剤師が活躍できる求人を多数ご用意しています。ぜひご相談ください。

7.まとめ

医薬分業が進み、薬剤師は病院でも薬局でも、医療チームの一員としての高度な知識・技能を求められるようになりました。薬剤師の仕事は、患者さんの病態を理解し、安全で最適な薬物療法を提供することですが、医療が高度化・複雑化する現在は、さまざまな領域に特化した専門薬剤師が必要とされています。

急速な高齢化が進み、患者さんのニーズも多様になる中、専門薬剤師の需要は今後も増加すると予測されています。薬剤師としてのスキルアップ・キャリアアップを目指したい方は、興味のある専門領域を見つけて、専門薬剤師取得にチャレンジしてみましょう。

この記事の著者

薬剤師・ライター

小谷 敦子

病院・調剤薬局薬剤師を経て、医療用医薬品専門の広告代理店・制作会社に所属し、販促資材やMR教育資材、患者向け冊子などの執筆に従事。
専門医インタビューによる疾患や治療の解説などを、クリニックHP上に掲載するなどの執筆活動も行っている。

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