介護老人保健施設(老健)で働く薬剤師の役割とは?業務内容から働くメリットまで解説

介護老人保健施設(老健)で働く薬剤師の役割とは?業務内容から働くメリットまで解説

介護老人保健施設(老健)は、入院が必要ではないものの居宅での生活には不安がある、また在宅が維持できるようにリハビリテーションを受けたいという、介護が必要な高齢者を支える介護保険施設の一つです。

老健には、医師、看護師などの医療スタッフと、リハビリテーションや日常生活をサポートするスタッフが、一人の利用者を支えています。

薬の専門家としての役割を果たすことが求められる老健の薬剤師について、その業務内容や働くメリットなどについて解説します。

1.介護老人保健施設(老健)とは

介護老人保健施設(老健)とは、介護が必要な高齢者が、その方の能力に応じて自立した在宅生活を安心して送ることができるように支援をおこなう介護保健施設です。

老健は、65歳以上の高齢者で要介護認定1〜5を受けた方が、介護保険で利用できます。ただし、40〜64歳の方でも、特定疾病で要介護認定を受けている方は利用することができます。

老健は、病状が安定しており入院するほどではない方が入所し、リハビリテーションなどを受けて機能回復後に在宅復帰をめざす施設であるとともに、在宅の高齢者が訪問看護や訪問リハビリテーション、通所リハビリテーション、ショートステイを利用して、今の生活を維持できるための在宅療養支援をおこなう施設でもあります。

つまり、老健は「在宅復帰」と「在宅療養支援」の両輪を担う地域拠点の施設です。

利用者に対する支援は、医師が常勤しているため、その医学的管理の元に看護や介護、リハビリテーションがおこなわれます。

入所者に対しては、食事や入浴などの日常生活の援助もおこない、その方の能力に見合った日常生活に戻るためのサポートをします。

特にリハビリテーションを提供して、心身の機能の維持や回復を目指すための施設であるという位置づけとなっています。

参照元:厚生労働省/介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準
厚生労働省/介護老人保健施設(参考資料)
厚生労働省/介護老人保健施設

1-1.人員や施設・設備基準

利用者に対して、さまざまなサポートをおこなうために、人員や施設・設備基準が、厚生労働省の法令で規定されています。それぞれの基準をご紹介します。

  • 人員の基準
    老健では、一人の利用者さまに対して、多職種のスタッフが専門性を発揮しながら横断的にサポートをおこないます。そのため各職種は横並びで利用者さまを取り囲む体制づくりとなっています。

    人員の配置基準は以下の表をご覧ください。

    医師 常勤1人以上、入所者100人に対して1人以上
    薬剤師 実情に応じた適当数 (入所者300人に対して1人を標準とする)
    看護・介護職員 入所者3人に対して1人以上、うち看護は2/7程度
    支援相談員 1人以上、入所者100人に対して1人以上
    理学療法士、作業療法士又は言語聴覚士 入所者100人に対して1人以上
    栄養士 入所定員100以上の場合、1人以上
    介護支援専門員 1人以上(入所者100人に対して1人を標準とする)
    調理員、事務員その他の従業者 実情に応じた適当数

    参照元:厚生労働省/介護老人保健施設(参考資料)
    全国老人保健施設協会/期待される老健の役割

  • 施設・設備基準
    原則として、療養室、診察室、機能訓練室、談話室、食堂、浴室、レクリエーション・ルーム、洗面所、便所、サービス・ステーション、調理室、洗濯室又は洗濯場、汚物処理室の設置が義務付けられています。

    療養室 1室当たり定員4人以下、入所者1人当たり8㎡以上
    機能訓練室 1㎡×入所定員数以上
    食堂 2㎡×入所定員数以上
    廊下幅 1.8m以上(中廊下は2.7m以上)
    浴室 身体の不自由な者が入浴するのに適したもの

    参照元:厚生労働省/介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準

  • ※上記内容は公開日(2023年8月)時点の情報となります。
    情報や法令などは更新されていることもあるため、最新の情報をお確かめください。

2.介護老人保健施設(老健)ではなぜ薬剤師が必要に?現状は?

老健では薬剤師の配置人数が規定されていますが、なぜ必要なのでしょうか。また現状について見ていきましょう。

2-1.老健における薬剤師の必要性

老健の人員配置の基準では、薬剤師は「実情に合わせた適当数」の配置が指定されています。

老健の性格上、利用者さまは何らかの病気をお持ちの方が多く、入所の際にはかかりつけ医から処方された薬を持参される方がほとんどです。

入所中の薬の調剤、服薬指導はもちろん、医師との薬物療法に関する情報共有や他の職種への情報提供など、多くの場面で薬の専門家が必要とされているのです。

特に最近では、高齢者に対して慎重な投与が必要とされる薬剤についての指針がまとめられています。

多剤や重複投与、慎重投与が必要な薬のチェックは、高齢者に安全な薬物療法をおこなう上で、薬剤師の関与が必要です。

また、退所される際には、かかりつけ医へのフィードバックも必要です。

このように在宅復帰、在宅療養支援の地域拠点である老健では、薬剤師の存在価値が大きくなっているのです。

2-2.老健における薬剤師の現状

では、現在の老健における薬剤師の勤務状況について見ていきましょう。

厚生労働省による令和2年10月1日付の介護サービス施設・事業所調査によると、老健に勤務する薬剤師数は1,250人、そのうち常勤が457人、非常勤が793人と6割以上を占め、多くは医療法人や社会福祉法人が開設する老健でした。

この配置人数は、1施設当たり0.4人、入所者100人当たりで換算すると0.5人と報告されています。

薬剤師配置基準は、前述の通り、入所者300人当たり1人を標準とされており、入所者100人当たりの換算では約0.3人と考えると、この調査結果の入所者100人当たり0.5人というのは基準を満たしていると考えて良いでしょう。

参照元:厚生労働省/介護老人保健施設(参考資料)
厚生労働省/令和元年介護サービス施設・事業所調査の概況
e-Stat/介護サービス施設・事業所調査
厚生労働省/介護老人保健施設の報酬・基準について
公益社団法人 全国老人保健施設協会/介護老人保健施設における薬物治療の考え方に関する調査研究事業報告書

3.介護老人保健施設(老健)で働く薬剤師の業務内容とは

老健で働く薬剤師の業務は、基本的に入所者やショートステイを利用する方の薬の管理ということになります。

では、どのような業務があるでしょうか。細かくみていきましょう。

  • 入所時の持参薬調査
    かかりつけ医から処方された薬は、利用者さまそれぞれの形態で管理されていることが多いため、お薬手帳との照合は重要な業務の一つです。

    投薬されたままの薬袋を使用している方、服薬カレンダーを使用している方、小さいチャック付きビニールなどに1回分ずつ入れている方など、それぞれに対応して照合しなければなりません。

    また、服用方法やアドヒアランスの確認、多剤や重複薬のチェック、ジェネリック薬や施設で採用していない薬の場合の変更や患者さまへの同意など、持参薬に関わる業務は、入所中やショートステイ中の薬の管理をする上で、非常に重要な最初の業務です。

  • 入所中の薬の変更に関する医師との連携
    入所中に他職種から得た情報を元に、利用者さまの状況に合わせた薬の変更や追加、減量などの処方薬の見直しは、薬剤師としての専門性を活かした業務であり、医師や他職種との連携の中で必要です。
  • 調剤業務
    最もシンプルな薬剤師業務です。

    一包化や剤型変更など、患者さまのアドヒアランス向上のために、最適な調剤をおこないます。

    アドヒアランスの悪い利用者さまに対して、改善案なども検討します。

  • 退所時にかかりつけ医やかかりつけ薬局への情報提供
    退所時には、入所中に処方薬に変更があれば、その経緯についての情報提供が必ず必要です。

    また、日常生活に戻られる利用者さまが、良好なアドヒアランスを継続するための調剤方法などがあれば、かかりつけ薬局へ伝えることも大切な業務です。

  • 採用薬の管理
    常勤の医師と連携の上、施設での採用薬の選定などにも関わることがあります。

    また、施設内で薬剤が正しく管理されているか、使用期限の管理や保管中の温度管理、発注業務など、在庫管理についても、滞りなく利用者へお薬の提供をするための重要な業務となります。

  • 施設内の感染対策
    利用者さまは高齢のため、感染症対策は非常に重要です。新型コロナウイルスの医療施設でのクラスター対策は代表的な例です。

    施設における感染対策の旗を振るのは薬剤師の役割です。

    消毒薬や消毒方法などについての情報提供やスタッフへの教育などもおこないます。

参照元:公益社団法人 全国老人保健施設協会/老健施設における薬剤師の取り組みについて 第1回
公益社団法人 全国老人保健施設協会/老健施設における薬剤師の取り組みについて 第2回
公益社団法人 全国老人保健施設協会/介護老人保健施設における薬物治療の考え方に関する調査研究事業報告書

4.介護老人保健施設(老健)で働く薬剤師のメリットとは

老健では薬剤師の必要性が高まっており、多岐にわたる業務があります。

では、薬剤師にとって、老健で働くということにはどのようなメリットがあるか、さまざまな場面からみていきましょう。

4-1.シフトの融通が利きやすい

勤務のシフトの融通が利きやすいのは、大きなメリットです。

入所時やショートステイ時の持参薬に関する業務は、基本的に入所やショートステイのスケジュールに合わせた業務です。

また、調剤や投薬に関する業務は、基本的には定時処方となります。

そのため、勤務体制や他の薬剤師との兼ね合いもありますが、常勤薬剤師や非常勤薬剤師の間で、シフトを融通させることが可能と考えても良いでしょう。

4-2.出勤頻度が少ない

勤務する施設や業務内容にもよりますが、毎日出勤する必要のない施設もあります。

入所スケジュールや定時処方などに合わせた出勤が可能でしょう。

4-3.病院よりも投薬人数が少ない

投薬人数が少ないということは、基本的な業務量が少なく、落ち着いて取り組む仕事を希望されている方にとっては大きなメリットと言えます。

施設により入所者やショートステイを利用されている人数は限られています。調剤薬局などのように、日によって外来患者さまの調剤や服薬指導の数が違うことは、ほとんどありません。

4-4.残業がほとんどない

老健では残業がほとんどないと考えて良いでしょう。

入所時の持参薬や定時処方など、スケジュールに合わせた業務であり、その他の在庫管理などを含めて1日の業務時間内に終わる施設がほとんどです。

勤務後にプライベートを充実させたいという方にはうれしいポイントです。

4-5.スキルアップができる

老健には、薬剤師としてのスキルアップのチャンスがたくさんあります。

地域包括の拠点施設としての老健では、他職種との連携が必須です。

他職種とのコミュニケーション能力はどのような職場でも必要なスキルですが、老健ではコミュニケーション能力のスキルアップにつなげることができます。

また、老健では各職種のプロフェッショナルな方々と、一人の利用者さまをサポートします。

看護や介護、リハビリテーション、栄養士など、それぞれのプロの仕事に触れるチャンスはなかなかありません。

利用者さまを囲む小さいコミュニティで得られる知識や情報は、利用者さまや今後調剤薬局などに転職した際にも、役立つことでしょう。

5.介護老人保健施設(老健)で働くのはこんな人が向いている

ここまでは老健で働くメリットをみてきました。では、老健の薬剤師はどのような人に向いているのでしょうか。

5-1.人の世話が好きな人

人の世話をするのが好きな方は、老健での薬剤師に向いています。

老健の入所者やショートステイを利用する方は、病状が重い方はほとんどいません。

心身のリハビリテーションを受けて在宅に戻りたい、少しでも住み慣れた居宅で自立して生活したいという目的をもっている方々です。

そうした利用者さまを、薬の面からサポートしたいという方には、老健の薬剤師をおすすめします。

5-2.人を笑顔にするのが好きな人

老健の薬剤師は、入所者やショートステイの利用者との距離が近く、接する機会の多い仕事です。

入所期間は3〜6ヵ月と長くはありませんが、顔見知りになり、リハビリテーションを通じて少しでも機能が回復したり、体調が改善したりした方に声をかけることで、笑顔になってくれることでしょう。

5-3.さまざまな人と関わるのが好きな人

老健では一人の利用者さまに対して、さまざまな専門職の方がサポートするため、多くの人と関わることが好きな方に向いています。

医師はもちろん、看護師、介護士、理学療法士や言語療法士などのリハビリテーションの職員、管理栄養士、地域包括のケアマネージャーなど、数多くの職種の方と関わることができます。

スタッフ一丸となって利用者さまを支える喜びややりがいを感じる方におすすめです。

6.まとめ

高齢者が住み慣れた居宅で、病院と地域で切れ目のない医療を受ける時代が進んでいます。

介護が必要な高齢者の方も、一時的に老健に入所してリハビリテーションを受けることで在宅復帰が実現でき、在宅の高齢者も老健の専門スタッフに支えてもらうことで、在宅での生活を続けていくことができます。

そのような住み慣れた地域で介護の必要な高齢者を支えるのが介護老人保健施設「老健」です。

老健における薬剤師の役割は、かかりつけ医や退院時の薬物療法を切れ目なく継続することです。

また、高齢者に多い多剤・重複投与による副作用のチェック、慎重投与すべき薬の管理などは、薬剤師の専門知識と職能が最も要求される場面でもあります。

老健は、病院と在宅を結ぶ中間的位置づけにあります。

介護が必要な高齢者の、自立した在宅生活への復帰や在宅療養をサポートするための施設であることから、将来的にそのニーズはさらに高くなることが見込まれます。

老健の薬剤師は、医師・看護師などと共に介護の必要な高齢者を支える一人として、さらなる活躍が期待されます。

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この記事の著者

薬剤師・ライター

小谷 敦子

病院・調剤薬局薬剤師を経て、医療用医薬品専門の広告代理店・制作会社に所属し、販促資材やMR教育資材、患者向け冊子などの執筆に従事。
専門医インタビューによる疾患や治療の解説などを、クリニックHP上に掲載するなどの執筆活動も行っている。

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