【薬剤師必見】ポリファーマシーとは?原因や対策、注意点などを解説
医療サービスが多様化し、複数の医療的介入を必要とする高齢者さまが増加している近年、多剤併用・多剤服用による「ポリファーマシー」の問題に遭遇する場面が増えてきました。
今回は、薬剤師が知っておくべき「ポリファーマシーの定義」そして、ポリファーマシーが発生する主な原因や予防するための対策、注意点などを中心に解説します。
目次
1. ポリファーマシーとは
「ポリファーマシー」とは英語で“複数”を表す「poly」と、“調剤”を表す「pharmacy」を合わせた言葉で、複数の過剰な薬剤が処方されていることによって、患者さまに不利益が生じる可能性のある状況のことです。
ここでいう“患者さまの不利益”とは、飲み合わせによる副作用の発生リスクの増加や飲み間違い・飲み忘れの発生、服薬アドヒアランスの低下など、患者さまの健康維持に関わるさまざまな問題を指します。
特に高齢者さまになると、医療サービスを受ける機会が増え、多くの薬剤を併用するケースが増えるため、ポリファーマシーが起こりやすいといわれています。
2. ポリファーマシーが生じる原因
ポリファーマシーが生じてしまう原因はさまざまですが、よく遭遇するパターンは主に2つです。
1つ目は、身体にさまざまな不具合や症状が現れるたびに、新規の医療機関で診断・お薬の処方を受けることにより、服用するお薬が足し算的に増えていくというパターンです。
そして2つ目のパターンは、「処方カスケード」によるパターンです。ポリファーマシーを発生させやすい2つのパターンについて詳しく見ていきましょう。
2-1. 新規医療機関の受診
特にかかりつけの医療機関を持たない方の場合、何か身体に不具合や症状が出るたびに、新たな医療機関や診療科を受診し、その都度お薬の処方を受けるうちにポリファーマシーに陥ってしまうというケースです。
例えば、目のトラブルで眼科を受診し、そして同時期に足腰のトラブルで整形外科を受診、さらに風邪ぎみだったため内科を受診するなどのケースが該当します。
ただしこの時、患者さま自身が現在服用中の薬剤に関する情報を正しく各医療機関に伝えることができれば、新しい医療機関の医師が患者さまの服薬状況を把握し、処方の重複を避けるなどしてポリファーマシーの発生をある程度回避することができます。
しかし、服薬状況の伝達不足などにより、同じようなお薬や処方されてしまったり、併用できない組み合わせで処方されてしまったりした結果、ポリファーマシーが発生することがあるのです。
2-2. 処方カスケード
「処方カスケード」とは、薬物有害事象(薬剤服用後に起こる不具合)を別の薬剤で対処し続けることをいいます。
例えば、“薬剤A”を服用することによって起こった薬物有害事象を、新たな病状だと誤認し、その症状を抑えるために、新たな“薬剤B”を処方してしまうといったケースです。
薬剤Aによる有害事象は、薬剤Aを休薬することで改善するにも関わらず、新たに別の薬剤を追加し、さらに状態が悪化していくような状況を処方カスケードと呼びます。
ちなみに、「カスケード(Cascade)」とは、小さな滝が階段状に連続している様子を表す英語で、“薬剤Aによる症状を薬剤Bで対処し、薬剤Bによる症状を薬剤Cで対処する…”というように、連鎖的に薬剤が増えていくことをイメージして用いられています。
処方カスケードは、同一医療機関、同一医師のもとで発生することもあれば、複数の医療機関、複数の医師の処方によって発生することもあります。
3. ポリファーマシーの問題点
ポリファーマシーの一番の問題点は、患者さま本人の健康にとって好ましくない状況を作り出すことですが、その他にも過剰な処方によって国民医療費が増大するといった社会的な問題点も含んでいます。
ポリファーマシーを取り巻く問題についてみていきましょう。
3-1. 有害な事象の発生
ポリファーマシーで最も危惧されるのが、患者さまの健康に有害な事象が発生することです。どんな薬剤であっても、有害事象が発生する可能性があります。
一度にたくさんの薬剤を服用していると、飲み合わせによっては重大な有害事象が発生するリスクも高くなるばかりでなく、想定しづらい有害事象が発生する恐れもあります。また、多剤併用では、薬の飲み間違いや飲み忘れなどのミスも起こりやすく、結果的に患者さまの健康に悪影響を及ぼすことに繋がってしまうのです。
3-2. 医療費の増大
本来薬剤の処方は、治療に必要な量・日数分を処方するべきですが、多剤併用によるポリファーマシーが発生しているケースでは、薬剤の種類が多い分当然医療費も多くかかっており、国民医療費が増大するという社会的な問題もはらんでいます。
令和元年度の日本全体の調剤医療費を見ると、7.7兆円に達しており、前年度から3.6%増加しています。ちょうど10年前の平成21年度の調剤医療費は約5.8兆円ですから、この10年間で1.3倍以上に膨れ上がっているのです。
同じ時期の処方箋1枚あたりの調剤医療費も、平成21年度は8,034円であったのが、令和元年度は9,191円と14.4%も増加していることから、一人の患者さまへより多くの薬剤が処方されているという構図が伺えます。もちろん、実際にポリファーマシーが発生した場合は、それに対処するための医療費がさらにかかることになります。
参照元:厚生労働省/医科・調剤医療費の動向調査:集計結果
参照元:厚生労働省/令和元年度 調剤医療費(電算処理分)の動向
参照元:厚生労働省/最近の調剤医療費(電算処理分)の動向の概要 ~平成21年度版~
4. ポリファーマシー解決に向けた対策
ポリファーマシーを回避し、有害事象を未然に防ぐためには、まず薬を処方する医師をはじめとする医療者が十分に情報共有をし、不必要な処方がないかを確認するなどの対策が必要です。
さまざまな医療サービスが普及し、外来で治療を受ける人が増えている今、ポリファーマシーの予防においては、薬局薬剤師の役割がとても重要になっています。ポリファーマシー解決に向けた対策について詳しく見ていきましょう。
4-1. 高齢者さまへ向けた対策
高齢者さまは複数の疾患を抱えていることが多く、常に多剤併用しているという方も少なくありません。また、高齢者さまの場合は、生理機能や代謝機能の衰えの影響で、若い人とは薬物動態も異なるため、薬物による有害事象も起きやすく、特別な配慮が必要です。
そのような高齢者さまに向けた対策の一環として、厚生労働省からは「高齢者の医薬品適正使用の指針」が、日本老年医学会からは「高齢者の安全な薬物療法 ガイドライン2015」が発行されています。これらの指針は、高齢者さまに処方されることの多い医薬品の中から、リスクの高い医薬品のリストや、その根拠、代替薬のリストなどを掲載しており、高齢者さまへの安全な薬物療法の指針の一つとして役立っています。
高齢者さまは、自分自身の服薬状況について適切に管理することが難しいため、家族や看護師、ヘルパーなど、高齢者さまを取り巻く周囲の人が服薬状況を把握し、適切なサポートをすることも大切です。
参照元:厚生労働省/高齢者の医薬品適正使用の指針
参照元:一般社団法人日本老年医学会/高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015
4-2. 減薬に向けた対策
高齢者さまに限らず、幅広い世代でも減薬に向けた対策が進められています。2016年の診療報酬改定では、医療機関が処方箋を発行する際、医薬品を適切に減薬した場合は、「薬剤総合評価調整管理料」などが加算されるようになりました。
これを受けて、医療機関によっては、処方カスケードをいち早く発見し、予防するための専門薬剤師や専門チームを院内に配置し、ポリファーマシーを予防する機関もでてきました。
2018年からは、調剤薬局などでも、薬剤師が処方医に対し減薬の提案をし、その結果処方される内服薬を減薬した場合、「服用薬剤調整支援料」が加算されるようになりました。
さらに、医薬品の適正使用に繋がる報酬としては、薬剤師から処方医への疑義照会により処方変更がなされた場合に算定できる「(在宅)重複投薬・相互作用等防止加算」も算定できるようになりました。
ポリファーマシー防止に向けた対策は、医療報酬面でもきちんと評価されるようになっているのです。この、減薬に関わる医療報酬の算定方法や詳細については、こちらで詳しく解説しています。
4-3. 残薬管理へ向けた対策
高齢者さまの場合、服用する薬剤が増える傾向がある反面、認知力が低下することもあり、「薬の飲み忘れ」から服用アドヒランスが低下し、「残薬」が発生することが少なくありません。
このような残薬の問題に対しては、薬剤師をはじめ、家族やケアマネージャー、看護師、医療機関など、患者さまを取り巻く関係者の協力を得てサポートすることが必要になってきます。
また、複数の診療科などでさまざまな処方薬が出ている患者さまの場合は、薬局側で各処方医に疑義照会を行い、一回分の薬剤を一包化するなどして、飲み忘れやの見間違いを防止するなどの取り組みも始まっています。
この時、処方医への疑義照会によって残薬調整を行った場合は、「(在宅)重複投薬・相互作用等防止加算」のうち、「残薬調整に関わるもの 30点」として評価されるようになっています。
4-4. おくすり手帳を活用した対策
患者さまが複数の調剤薬局での処方を受けているケースでは、「おくすり手帳」を活用して、服用している薬についての情報を薬剤師と共有することが有効です。おくすり手帳には、これまでの服薬履歴や現在服用している薬について記載されているので、薬剤師がチェックすることで、薬の重複や相互作用について確認をすることができます。
ただし、あくまでもおくすり手帳に全ての薬歴がきちんと記録されていることが前提条件なので、自己管理が難しい患者さまの場合は、おくすり手帳だけでは見落としが発生する可能性があり、注意が必要です。
5. ポリファーマシー対策での注意点
ポリファーマシーの問題が広く認識されるようになった今、薬剤師として果たす役割が大きくなっています。薬剤師がポリファーマシー対策を実施する際に、持っておくべき視点や注意すべきことを見ていきましょう。
5-1. アンダーユースの状態になっていないか
ポリファーマシーへの対策は、あくまでも多剤を併用することで何かしらの不利益が生じている場合もしくは生じる可能性がある場合に取り組むべきものです。たとえ複数の薬剤を併用していても、それが医療上適正な使用であり、安全性が確認できるものであれば問題はありません。
一律の薬剤数や種類数のみに着目し、減薬することを目的にするのではなく、安全性の確保などから見た処方内容の見直しを行い、その一つの方法として減薬することが大切です。
しかし減薬にこだわるあまり、必要な薬剤まで削減してしまい、いわゆるアンダーユースの状態に陥っていないか十分に検討する必要があります。
5-2. 医療機関・患者さまの理解が得られているか
ポリファーマシー対策を進めるにあたっては、処方医や医療機関との十分な情報共有と理解が不可欠です。ポリファーマシーがはらむ問題について、処方医だけでなく、看護師などの医療職全体からしっかりと理解を得て、協力者を増やしておくことが重要です。
また、患者さま自身からの理解も得られなくてはなりません。薬剤師が一方的に減薬を提案したり、内容変更を提案したりすることによって、患者さま自身の不安や混乱を招くことがあってはなりません。
患者さまに対しても、ポリファーマシーの問題点や対策の必要性をわかりやすく説明・指導し、理解を得るようにしましょう。
5-3. 対策のための体制・制度があるか
ポリファーマシー対策を実施しようと思っても、患者さまが常に複数の医療機関医かかり、複数の調剤薬局からお薬を出していてもらっているという状況では、十分な情報共有が難しく、ひとりの薬剤師の力ではどうしても限界があります。
患者さまには、1つの医療機関で治療を一元管理する「かかりつけ医制度」や、保険調剤を一元管理する「かかりつけ薬局・薬剤師制度」があることを説明し、それぞれのかかりつけを持つよう説明しましょう。
また、薬局としても、かかりつけ薬局としての体制を整え、いつでも患者さまの身近な相談窓口として機能するよう備えておく必要があります。
6. 在宅医療でのポリファーマシー解決
健康上の理由や「移動手段がない」、「近所に医療機関がない」などの理由で、高齢者さまを中心に、在宅で医療を受ける方が増えています。在宅医療では、担当する薬剤師が患者さまの自宅へ赴き、服薬状況や生活の中での保管状況を確認し、指導するため、飲み忘れやの見間違いの発見がしやすくなります。
在宅医療では、薬剤師だけが管理・指導に関与するだけではなく、国が推進する「地域包括ケアシステム」の枠組みを利用して、患者さまを支える家族、医師、ケアマネージャー、看護師などの他職種が一つのチームとして、患者さまが適正に薬剤を使用できるようサポートしていくことが、ポリファーマシー解決につ繋がります。
患者さまの自宅では、「服薬カレンダー」や「服薬時計」などのツールを活用して、残薬の発生を防止するのも良い方法です。
7. まとめ
多剤併用によって起こるポリファーマシーは、患者さまの健康を害するだけでなく、国民医療費の高騰という社会的な問題もはらんでいます。薬剤師を中心とした医療分野の他職種が、ポリファーマシーの認識を高め、ポリファーマシーを防止するための対策を講じることが大切です。
ポリファーマシー対策を実施する際は、安全性の確保の観点から処方内容を見直し、患者の理解、周囲の理解と協力を得たうえで実施しましょう。
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