専門医療機関連携薬局とは?概要から認定要件まで幅広く解説
2019年11月に「医薬品医療機器等法(薬機法) 」が改正され、2021年8月から新しく「専門医療機関連携薬局」と「地域連携薬局」の認定制度が始まります。薬局ごとの役割や特徴を明確にすることで、利用される方が自分に合った薬局を選択できるようになることを目指しています。
ここでは「専門医療機関連携薬局」の概要や認定要件、これからの薬剤師に求められるもの等を解説します。
目次
1.専門医療機関連携薬局とは
新しく「専門医療機関連携薬局」と「地域連携薬局」の2つが、都道府県によって認定されることになりました。「専門医療機関連携薬局」には、どのような役割があるのでしょうか。その概要や制度開始の背景、また、もう一つの「地域連携薬局」とは何なのか、確認していきましょう。
1-1.専門医療機関連携薬局の概要
「専門医療機関連携薬局」とは、専門的な薬学管理が必要とされる患者さまに対して、専門医療機関等の関係機関と連携し、より高度な薬物管理・調剤の対応ができる薬局のことです。一定の認定要件を満たすことで都道府県から認定されます。
近年は、高齢化や新薬等の開発が進むことにより、多剤投与による副作用が懸念されています。また、在宅医療への需要が高まり、多くの患者さまが自宅で複雑な薬物治療をしながら生活しています。
住み慣れた地域で患者さまが安⼼して医薬品を使うことができるよう、薬剤師と薬局のあり方が見直されました。これは、『患者さまのための薬局ビジョン (2015年10月策定)』の「高度薬学管理機能」に対応するものです。
また、これまでの高度薬学管理機能に加え、地域の他の薬局に対しても、医薬品の提供や医薬品に関連した専門性の高い情報発信、必要な研修など、薬局間で連携が求められます。
それにより、患者さまの専門的な薬学管理が地域の中で広く対応できるよう、支える役割も期待されています。認定要件には、専門医療機関を含む関係機関との情報共有やその実績、学会認定等の専門性の高い薬剤師の配置が求められています。
1-2. 薬機法改正による認定制度の開始
高齢化や新薬の開発に伴い、地域包括ケアシステムを担う⼀員として、薬剤師や薬局の専門性が期待され、改めて、薬剤師や薬局のあり方が見直されることになりました。
2019年11月27日に改正された「医薬品医療機器等法(薬機法)」でも、国民のニーズに応える優れた医薬品、医療機器等が、より安全・迅速・効率的に提供されること、住み慣れた地域で患者さまが安心して医薬品を使える環境を整えることが重視されました。そこで新しい機能別薬局として、2021年8月1日より「専門医療機関連携薬局」と「地域連携薬局」という2つの認定制度が始まることになりました。
1-3. 地域連携薬局とは
地域連携薬局とは、⼊退院時に医療機関等と情報共有を行い、在宅医療等を進めていく上で、地域の薬局とも連携しながら⼀元的・継続的に患者さまをサポートしていく薬局です。
詳しくは、こちらをご覧ください。
2.専門医療機関連携薬局の認定要件
都道府県の認定を受けることで、専門医療機関連携薬局と名乗ることができます。ここでは、認定されるために必要な要件として、2020年10月に公表された改正省令案の一部をご紹介します。
2-1. 傷病区分
- 新法第6条の3第1項の厚生労働省令で定める傷病の区分は、がんとすること。
認定にあたり必要な基準は、現在は「がん」の区分に対応したものを設けています。今後、傷病の区分を追加した場合には、それに対応する基準を定める予定となっています。
参照元:厚生労働省/「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年法律第63号)の概要」
2-2. 構造設備
- 利用者が座って服薬指導等を受ける個室等の設備の設置
- 高齢者、障害者等の円滑な利用に適した構造
利用される方のプライバシーに配慮した相談しやすい構造設備が必要になります。高齢の方や障害のある方も相談しやすいよう、手すりやスロープなどが設置された、バリアフリーの環境整備が重要です。
加えて、専門医療機関連携薬局の場合、 がんの治療を受けている利用者さまが来局されるため、より安心して相談ができる環境を確保する必要があります。
また、設備だけでなく、情報提供や服薬指導等を行う薬剤師の対応や声の大きさも意識する必要があり、利用される方が安心できる環境を確保していかなくてはいけません。
参照元:厚生労働省/「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年法律第63号)の概要」
2-3. 情報共有の体制
- 専門的な医療の提供等を行う医療機関との会議への定期的な参加
- 専門的な医療の提供等を行う医療機関に勤務する薬剤師その他の医療関係者に対し、①(※)の傷病の区分に該当する利用者の薬剤等の使用情報について随時報告・連絡できる体制の整備
- 専門的な医療の提供等を行う医療機関に勤務する薬剤師その他の医療関係者に対し、①(※)の傷病の区分に該当する利用者の薬剤等の使用情報について報告・連絡を行った実績(一定程度の実績)
- 地域の他の薬局に対し、①(※)の傷病の区分に該当する利用者の薬剤等の使用情報について報告・連絡できる体制の整備
※①新法第6条の3第1項の厚生労働省令で定める傷病の区分は、がんとすること。
医療機関との密な連携を行いつつ、より高度な薬学管理や専門性が求められ、特殊な調剤にも対応する必要があります。薬局に勤務する薬剤師とがん治療に関わる医療機関に勤務している薬剤師や医療関係者が、随時、連絡・報告ができる体制づくりが必須といえます。
また、定期的にカンファレンス等へ参加し、患者さまの治療方針を共有しておくことも重要です。情報共有は、地域における他の薬局等とも行われる必要があります。
体制づくりに加えて、下記が認定要件となります。
- 期間:申請の前月までの過去1年間
- 実績:薬局の薬剤師から、がん治療に関わる医療機関に勤務する薬剤師などに対して、処方箋を応需しているがん患者数のうち半数以上のがん患者さまについて情報の報告及び連絡を行っていること
参照元:厚生労働省/「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年法律第63号)の概要」
2-4. 調剤や指導の業務体制
- 開店時間外の相談応需体制の整備
- 休日及び夜間の調剤応需体制の整備
- 地域の他の薬局への①(※)の傷病の区分に係る医薬品提供体制の整備
- 麻薬の調剤応需体制の整備
- 医療安全対策の実施
- 継続して1年以上勤務している常勤薬剤師の一定数以上の配置
- ①(※)の傷病の区分に係る専門性を有する常勤薬剤師の配置
- 薬事に関する実務に従事する全ての薬剤師に対する①(※)の傷病の区分に係る専門的な研修の計画的な実施
- 地域の他の薬局に対する①の傷病の区分に関する研修の定期的な実施
- 地域の他の医療提供施設に対する①の傷病の区分に係る医薬品の適正使用に関する情報の提供実績
※①新法第6条の3第1項の厚生労働省令で定める傷病の区分は、がんとすること。
薬局の営業時間外でも、他の薬局に対して抗がん剤等のがん治療に必要な医薬品を供給できる役割が求められています。
また、がん治療に関して、日頃から会議の参加などを通じて他の医療機関と連携体制を構築するとともに、患者さまに対して、薬剤師が継続して関わることができる体制や、薬剤師の専門性を高める研修などを実施する必要があります。
研修内容としては、専門的な薬学的知見に基づく指導や、患者さまが安心して医療を継続できるコミュニケーションなどの内容も含むことが求められています。
参照元:厚生労働省/「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年法律第63号)の概要」
2-4. 認定申請手続
専門医療機関連携薬局の認定の申請にあたっては、認定申請書をはじめ、認定の基準に適合していることが分かる書類を揃えて、都道府県知事に提出します。なお、申請および更新には、それぞれ手数料11,000円がかかります。申請時に必要な資料、および、更新時に必要な資料は以下のとおりです。
申請時に必要な資料
認定申請書、認定基準に適合していることが分かる各種添付書類(認定基準適合表等)、添付書類確認表およびチェックリスト、必要に応じ医師の診断書(申請者が精神の機能障害等により業務を適切に行えないおそれがある場合等)
認定更新申請時に必要な資料
専門医療機関連携薬局等の認定証、認定基準に適合していることが分かる各種添付書類(認定基準適合表等)、添付書類確認表およびチェックリスト、必要に応じ医師の診断書(申請者が精神の機能障害等により業務を適切に行えないおそれがある場合等)
3.「高度薬学管理機能」との関係
新しく認定される「専門医療機関連携薬局」と、「かかりつけ薬剤師・薬局」にプラスされている「高度薬学管理機能」は、似ているようで異なります。それぞれの役割を整理して確認してみましょう。
3-1.高度薬学管理機能
「高度薬学管理機能」には、専門機関と連携し、抗がん剤の副作用への対応や抗HIV薬の選択などを支援する役割があります。学会等が提供する専門薬剤師の認定等を受けた、高度な知識・技術と臨床経験を有する薬剤師の配置が要件であり、新たな治療薬に関する勉強会・研修会を共同で開催することもあります。
3-2.専門医療機関連携薬局
「専門医療機関連携薬局」は、前述したとおり、がん等の専門的な薬学管理が必要な患者さまに対して、関係機関と連携し、より高度な薬物管理・調剤の対応ができる薬局のことです。患者さまをより専門的にサポートするだけでなく、地域にある他の薬局や医療機関に対して医薬品の提供や、専門性の高い情報発信、研修などの実施も求められています。
高度な薬学的管理を求められている点では共通していますが、今回の改正で、薬局の定義「調剤を行う場所」に加えて、「薬剤及び医薬品の適正な使用に必要な情報の提供及び薬学的知見に基づく指導の業務を行う場所」が追加されました。
「高度薬学管理機能」は、専門性の高まりが重視されていました。「専門医療機関連携薬局」では、他の薬局に対して、がん等の治療に関わる医薬品の提供や専門的な情報発信等を行い、専門的な薬学管理が地域全体で可能になる仕組みづくりが期待されています。
4.これからの薬剤師は多方面との連携が必須
超高齢社会の到来や新薬等の開発が進む中、多剤投与による副作用が懸念されています。また、医療の発展に伴い、多くの方が複雑な治療を外来通院で受けながら、在宅で生活をしています。
薬物療法において特に副作⽤に注意が必要ながん等の患者さまも外来治療をされている方が多くなりました。近年、薬剤師や薬局のあり方は、繰り返し見直され、一元的に把握できるかかりつけ機能や地域包括ケアシステムを担う⼀員としても、その専門性が求められるようになりました。
今回、「専門医療機関連携薬局」「地域連携薬局」という新たな認定で重視されている一つの項目は「連携」です。連携、報告、その実績が求められています。
幅広い連携が求められている今、薬剤師としてのキャリアの活かし方は広がりをみせています。自分の専門性の活かし方、どのような領域で働いていきたいのか、じっくりと考えてみましょう。
5.まとめ
「専門医療機関連携薬局」は、がん等の専門的な薬学管理が必要な方に対して、関係機関と連携し、より高度な薬物管理・調剤の対応ができる薬局です。その分野において専門性の高い薬剤師を配置することが認定要件にも含まれています。
「専門医療機関連携薬局」という新しい制度もしっかり理解することで、これからの薬剤師としてのキャリアの幅を広げるチャンスに繋げてみてはいかがでしょうか。
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