薬歴の役割とは?SOAP方式の書き方から注意点までを紹介!
薬剤師の基本的な業務の一つに、薬歴管理があります。薬歴は、患者さんへの処方内容を記録した履歴としての役割だけにとどまらず、安全・適正な薬物療法の提供、そして調剤報酬請求の根拠としての役割を担う重要な記録です。
薬歴を記載する際は、記載漏れをなくし、必要な情報をすべて記載すること、そして第三者が見てもわかりやすく記録することがとても大切です。
今回は、薬歴の持つ役割や実際の記載方法、薬歴を記載する際の注意点について解説します。
薬歴の記載にあたって、重要視される「SOAP(ソープ)方式」についても詳しく解説しますので参考にしてみてください。
目次
1. 薬剤服用歴(薬歴)とは
「薬剤服用歴」、通称「薬歴」とは、薬剤師が医薬品を処方する際に、処方した薬の種類・分量・用法・処方日数などを記録したものです。薬歴には、これらの情報の他に、患者の個人情報、 アレルギーの有無、副作用の記録、体質や飲酒・喫煙習慣の有無などの情報も記載するとともに、処方時に行った服薬指導の内容や患者さんからの服薬方法や剤形等に関する要望等についても記載します。
従来の薬歴は、紙媒体で管理されることが一般的でしたが、IT化が進む現在では、「電子薬歴」 を導入し、データベースで薬歴を管理するところが増えてきました。電子薬歴は、患者さんの薬歴をより安全に、そして効率よく一元管理できるものとして注目されています。
1-1. 薬歴の目的や重要性
薬歴を記録する目的や、薬歴の重要性について改めて確認しましょう。
薬歴の一番の目的は、患者さんの一人ひとりの薬物療法に関わる情報を継続的かつ一元的に管理することで、薬物療法による事故や重大な副作用を未然に防ぎ、患者さんに対して安全かつ適正な薬物療法が提供できるようにすることです。
しかし薬歴が担う役割はそれだけではありません。薬歴は、薬剤師にとっても、患者さんの抱える健康上の問題やこれまでの処方の履歴、薬剤併用に関する情報を得るために不可欠であるだけでなく、保険調剤において、調剤報酬請求の根拠にもなる重要な記録なのです。
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2. 電子薬歴のメリット・デメリット
冒頭でも述べたように、最近では薬剤師業界もIT化の流れにのり、紙媒体の薬歴からデータベースの電子薬歴へとシフトする薬局が増えています。そんな電子薬歴のメリットとデメリットについてみていきましょう。
電子薬歴を導入することによるメリットは以下のとおりになります。
- 薬歴を紛失するリスクが少なく、迅速に検索できる
- 薬局のグループ間で情報共有がしやすい
- 添付文書へのリンクや相互作用のチェックがしやすい
- アラート機能等を活用すれば、前回の処方からの変更点を確認しやすい
- 付箋機能等を使って、前回の服薬指導から引き継ぎ事項を瞬時に把握できる
- 記録業務に係る時間を短縮できる
- 病棟や訪問診療中でも遠隔操作が可能
- 長期間にわたる大量の薬歴を蓄積することができる
- 省スペース化が可能
実際に記録管理業務を行う薬剤師にとっても、業務に係る負担が軽減でき、より安全・確実な薬歴管理が可能になります。
その一方で、電子薬歴の導入による、次のようなデメリットも存在します。
- 電子薬歴のシステム導入・維持に費用がかかる
- 電子薬歴取り扱いの知識・スキルが必要
- 個人情報の安全管理のための研修・費用が必要
PC作業に抵抗のない薬剤師にとっては、負担減になる電子薬歴ですが、操作が得意でない薬剤師にとっては、電子薬歴の導入が逆に負担になることもあります。また、データベースで保管する以上、情報セキュリティに関しては常に注意する必要があります。
3. 薬歴の記載事項
薬歴には、「薬剤服用歴管理指導料」の算定要件で定められているア~サの内容を記載します。
- ア. 患者の基礎情報(氏名、生年月日、性別、被保険者証の記号番号、住所、必要 に応じて緊急連絡先)
- イ. 処方及び調剤内容(処方した保険医療機関名、処方医氏名、処方日、処方内 容、調剤日、処方内容に関する照会の内容等)
- ウ. 患者の体質(アレルギー歴、副作用歴等を含む)、薬学的管理に必要な患者の 生活像及び後発医薬品の使用に関する患者の意向
- エ. 疾患に関する情報(既往歴、合併症及び他科受診において加療中の疾患に関す るものを含む。
- オ. 併用薬(要指導医薬品、一般用医薬品、医薬部外品及び健康食品を含む。)等 の状況及び服用薬と相互作用が認められる飲食物の摂取状況
- カ. 服薬状況(残薬の状況を含む。)
- キ. 患者の服薬中の体調の変化(副作用が疑われる症状など)及び患者又はその家 族等からの相談事項の要点
- ク. 服薬指導の要点
- ケ. 手帳活用の有無(手帳を活用しなかった場合 はその理由と患者への指導の有無)
- コ. 今後の継続的な薬学的管理及び指導の留意点
- サ. 指導した保険薬剤師の氏名
4. 薬歴の書き方に決まりはない
実際の薬歴の書き方に関しては、薬局独自のリールが定められている場合もありますが、そうでない場合は、「SOAP方式」と呼ばれる記載方法が基本です。
ここでは、SOAP方式について詳しくみていきましょう。
4-1. 基本はSOAP方式
薬歴は、基本的にSOAP方式に沿って記載します。SOAP方式では、患者さんが抱える問題ごとに、分けて記録します。
S (Subject) : 患者さんの主観的な情報
O (Object) : 客観的情報
A (Assessment) : 薬剤師としての分析や見解
P (Plan) : 問題に対する今後の計画
実際の患者さんへの服薬指導の会話シミュレーションからの記載例を見てみましょう。
<花粉症に対して抗ヒスタミン薬が処方された患者さんの例:前回のビラノア(14日分)が今回デザレックス(14日分)に変更されている>
【薬剤師】
前回のビラノアから今回はデザレックスに変更になっていますが、具合はいかがですか?
【患者さん】
はい。ビラノアは空腹時に飲むようにと医師から指示があったのですが、飲むタイミングを逃してしまうことがあったことと、服用後に胃の不快感があったことを医師に伝えたところ、薬剤が変更になりました。
【薬剤師】
ビラノアは空腹時に飲むことで効果が得られるお薬ですが、服用タイミングが難しかったのですね。そして胃の不快感を抱かれたということで、今回はデザレックスに変更になったのですね。
こちらのデザレックスは、食後30分以内に飲むタイプの薬です。作用は同じ抗アレルギー剤ですが、飲むタイミングが変わるので注意してくださいね。
【患者さん】
わかりました。このお薬は食後に飲むようにします。
【薬剤師】
デザレックスを食後に服用してみて、それでも胃の不快感があるようでしたら、いつでもご相談くださいね。お大事になさってください。
<SOAP形式での薬歴記入例>
S(Subject):患者さんの主観的な情報
1.ビラノアは空腹時に飲む薬であるが、服用タイミングを逃すことがあった
2.ビラノアの服用後に胃の不快感があった
O(Object):客観的情報
1.ビラノアは空腹時服用のため、コンプライアンスがよくなかった
2.ビラノアの空腹時服用によって、胃の不快感が出現した
3.今回の処方から食後服用のデザレックスに変更になった
※各種検査結果等を患者さんから聞き取った場合は、合わせて記入します。
A(Assessment):薬剤師としての分析や見解
1.患者さんの生活リズムによって、空腹時の服用がむずかしい場合がある
2.空腹時にビラノアを服用したことにより、胃に負荷がかかった可能性がある
3.食後服用のデザレックスに変更になり、再度服薬指導を行った
P(Plan):問題に対する今後の計画
1.服用タイミングが空腹時から食後に変わったことで、コンプライアンスが向上するか経過をみる
2.食後の服用になったことで、胃への負担が軽減できたか、副作用の出現を注視する
3.薬剤変更による抗アレルギー反応の効果を注視する
5. 薬歴を書く際に気を付けたいポイント
薬歴は誰が見てもわかりやすく、必要な情報を漏れなく記入している必要があります。薬歴を書くときに特に気を付けたいポイントをみていきましょう。
5-1. 十分なヒアリングを患者さんにする
服薬指導は薬剤師から患者さんに直接会話ができる唯一の機会です。ただ機械的に服薬方法を説明するだけでなく、患者さんへのヒアリングを徹底することで、有益な情報が得られることがあります。
医師の処方箋を見ただけでは、処方意図が測りかねる場合であっても、患者さんから既往症を聞き出すことによって、処方の意図が明確になることもあります。
ただし、患者さんへのヒアリングはいつもスムーズにいくとは限りません。「なにか気になるところはありますか?」と尋ねても、曖昧な回答しか返ってこないことはよくあることです。
そんな時は、「このお薬を飲んだ後、ふらついたり、めまいがしたりすることはないですか?」など、“はいorいいえ”で答えられるクローズドクエスチョンにすることで、薬剤師が知りたい情報を得ることができる場合が多々あります。患者さんの状態を観察しながら、より多くの情報を得られるように工夫しましょう。
5-2. 誰が見てもわかりやすいように書く
薬歴は、第三者が見てもすぐに必要な情報が得られるようにわかりやすく書くことが大切です。抽象的な表現や主観的な記録は避け、処方日数や残薬数など、数値化できるものは数字で記録するなどして、情報の齟齬がないように工夫しましょう。
経過観察に関する事項は、時系列を追って、経過がわかりやすいように記載しておくと、後で見返したときに役立ちます。
5-3. 要点をまとめて、箇条書きで簡潔に書く
薬歴は処方のたびに次々と蓄積されていくものです。過去の履歴をさかのぼりたいとき、あるいは各方面からの照会に答えるとき、迅速に情報を閲覧できるよう、記載方法にも工夫しましょう。各項目の要点は簡潔にまとめて、箇条書きで書くようにすると読みやすくなります。
5-4. 必要な情報だけを記載する
患者さんへのヒアリングで得た情報などをそのまま記載してしまうと、多くの情報のなかに重要な点が埋もれてしまい、結果的にわかりにくい内容になってしまいます。
薬剤師が薬学管理するうえで有益な情報だけに厳選し、記載することも大切です。常に情報の取捨選択を意識しながら記載するように心がけましょう。
6. 場合別!薬歴の書き方のコツ
同じ薬歴を書く作業でも、初めて薬歴を作成する場合と、2回目以降の薬歴の追記を行う場合では、書く内容が変わってきます。それぞれのケースでの薬歴の書き方のコツをおさえておきましょう。
6-1. 初めて薬歴を使用する患者さんの場合
初めて薬局を訪れた患者さんの場合は、患者さんのお名前や住所、保険証の番号などの基本的な個人情報から収集しなくてはなりません。初回は受付時にアンケートや質問紙による問診をとることが多いと思いますが、患者さんから頂いた回答をただ単に写しとるのではなく、薬剤師が内容をひとつずつ確認し、必要な情報を抽出して薬歴に記載することが重要です。
また、患者さんとのカウンセリングのなかで得た情報が多い場合は、いったんメモをとってから、改めて薬歴に記載するなどの工夫をするとよいでしょう。
6-2. 2回以降の薬歴を使用する患者さんの場合
2回目以降に来局した患者さんの場合は、まず前回までの薬歴にしっかり目を通してから、服薬指導を行いましょう。
薬歴に記載する際も、前回までの問題点が解決できているか、今回新たに見つかった問題点はないか、といった時系列を意識した視点で記載することが重要です。次回の来局も見据えて、短期的計画、長期的計画も意識して記載しましょう。
7. 薬歴を保存する際の注意点は?
薬歴を保存する際は、厚生労働省が定めるルールに基づき、適正に保存しなくてはなりません。特に注意するべき点をチェックしておきましょう。
そもそも、薬歴は、一人の患者さんについてのすべての記録が、必要に応じてすぐに参照できるように保管・管理する必要があります。そしてその保管期間は、最終の記入日から起算して3年間とされています。
さらに、電子薬歴の場合は、その保管方法が、厚生労働省が定める「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第5版(平成29年5月)」に則ったものでなくてはなりません。ここで主に求められるのは、下記のようになります。
- 真正性、見読性、保存性(が確保されていること
- 運用管理規定を定めること
- 患者のプライバシー保護に留意すること
※真正性:資格のある薬剤師が正しい情報を記載すること。記録した薬剤師の氏名を記載すること
見読性:診療や監査などによる必要性が生じた際に正しく情報を参照できる体制を整えること
保存性:蓄積したデータを正しく保管すること
参照元:厚生労働省/医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第5版(平成29年5月)
8. まとめ
患者さん一人ひとりの薬物療法に関する情報を記録する薬歴。自分以外の薬剤師がみても、必要な情報を迅速に入手できるような、わかりやすく、正確な薬歴を記載するには、薬剤師としての手腕が問われるところです。
薬歴を書くルールを押さえたうえで、わかりやすい薬歴のポイント意識し、患者さんや同僚に役立つ薬歴を作成しましょう。
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