弁護士・山口真由が実践する仕事術「壁にぶつかったら自分をほめる」

賢者の金言
薬剤師の転職や職場で活躍するノウハウを、今注目のスペシャリストが語ります。働き方、学び方、そして、生き方がわかる――悩める薬剤師に専門家が送る珠玉の金言集。

構成/岩川悟(slipstream) 取材・文/辻本圭介 撮影/玉井美世子

専門的な知識を活かして、毎日多忙に働く薬剤師のなかには、「働き方を見直したい」「キャリアアップをはかりたい」と考えている人もいるでしょう。また、職場でさまざまなストレスや、人間関係のトラブルを抱えている人もいるかもしれません。そんな薬剤師の「働き方」の悩みに、かつて財務省や弁護士事務所など複数の職場に勤務し、現在も複数のキャリアを持って活躍する山口真由さんが答えてくれました。

忙しい、時間がない薬剤師の悩みとは 仕事で壁にぶつかったら意識的に自分をほめる

薬剤師の仕事は多忙なうえ、新たな医薬知識を学ぶ時間も必要です。そんなワークスタイルのなかで壁にぶつかってしまったときは、どのように対処すればよいでしょうか?

これは勉強するときのコツにも通じますが(Vol.7参照)、とにかく日頃から自分をほめ続けることを心掛けてほしいですね。 たとえば、仕事を終えて帰宅するときには、「わたし、よくやってるよ!」と必ず自分をほめてあげたほうがいい。じつは、仕事をしっかりしている人ほど、「あれができなかった…」「またミスしてしまった…」と悩みがちです。 でも、そんな人はたいてい、よくできている人なんですよね。わたしの母は医師をしていますが、部下に自己評価をさせると、あまりできていない人ほど自分でA評価をつけてくると言っていました(笑)。

できる人ほど悩みがちなんですね。

その傾向はどんな職種でもあると思います。よくできる人は、自分に対する評価が厳しいのです。だから、「自分はできていない」と感じている人は、よくできている可能性が高いと考え直して、自分を意識的にほめることが必要です。つい「減点思考」になりがちですが、そもそもそれだけ減点できるってすごいことですよね?だからこそ、自分ができている部分を探していくのが大切です。

山口さんも、「わたしはできていない」と自分に厳しいタイプだったのですか?

わたしは、もともとかなりネガティブな性格で…(苦笑)。その性格でいると良いことはあまりなくて、つい「これもダメだった、あれもダメだった」と落ち込んでしまうんですよね。20代のころは、「わたしはいつになっても成長しないし、本当にダメだ」と仕事の帰り道でいつも泣いていたほどです。そういう精神状態だと、心が落ち込んでまた新たなミスをしてしまい、どんどん負のサイクルにはまり込んでしまいます。

だからこそ、1日の終わりに意識的に自分をほめるようにして、気持ちを切り替えるわけですね。

そうですね。意識して「自己肯定感を高めなければいけない」と自分に言い聞かせています。まず最初に「よくできた」と自分を肯定してから、その後に「あえて改善点をあげるならこれかな」と振り返り、自分の根本の部分を責めないように心掛けています。たとえうまくいかなかったときでも、原因は「環境8割、自分2割」のイメージを持って、自分だけを無用に責めないようにしています。

誰もほめてくれる人がいないと、ミスや失敗が続いたときはどうしてもネガティブになってしまいますからね。

あえて厳しい言い方をすれば、そのように自分を責めるのは、自分に対する甘えでもある面もあると思います。「わたしはダメだ…」と延々と繰り返すことで、そのゾーンにとどまっていたい気持ちがあるのです。でも、本当にハードルを乗り越えたければ、その先へ進まなければなりません。だからこそ、失敗を受け止めながらも、自分をほめてあげることが必要なのです。誰もほめてくれないからこそ、自分でほめなければなりません。

転職の決断をできないときは… 異なる業界の人の意見を聞いて「俯瞰」する

薬剤師の転職やキャリアアップについてお聞きします。山口さんは財務省をはじめこれまでの職場を辞めることをどのように決断されたのですか?

どんな職場でも辞める決断をするのは大変ですが、まず自分が置かれた状態を「俯瞰」することがなにより重要です。辞められない理由は多くの場合、人間関係が原因です。自分自身に「辞める権利」があることは、誰もがわかっているはず。それでもなかなか辞められないのは、職場の人間関係に絡め取られてしまっているからです。

人材が不足していることもあり、引き止められたときはどうすればいいのでしょうか?

本来はいつでも辞められるはずなのに、ある業界や組織にいると、そこだけの道理が通ってしまうことはよくあることです。「すぐには辞めないでほしい」「残る人のことも考えてほしい」などと言われると、なかなか自分の決意を貫けないもの。また、「あなたに期待しているんだよ」と、情に訴えかけられるのもきついですよね。

わたしが財務省を辞めるときは、なるべく利害関係がない友人に相談しました。すると、自分が置かれている状況を客観的に「俯瞰」できて、揺らぎかけていた当初の意志を貫くことができたのです。だからこそ、ほかの業界や組織にいる友人たちと交流することはとても大切だととらえています。

覚えておいてほしいのは、たとえお世話になったとしても、その人達を「説得しない限り辞められない」なんていうことはありません。誠意を持って意思を伝えることは大切ですが、最終的には「相手が納得しなくてもやめられる」と考えておくことです。まわりがなんと言ってきても、『今後の人生のためにも、わたしは新しい経験を積みたいと考えています』と、自分の考えを常に繰り返すことが大事です。

説得しようとする相手と話し合ってしまうから、自分の考えや意思がどんどんブレてくるのですね。

言われたことに対して「正しく」答えようとすると、自分の意見の甘い部分を突かれたり、言動があいまいになったりします。そして、「なぜうちでできないの?」などと言われて動揺してしまうのです。そんなやり取りを続けていると、やがて自分でも「どうして辞めるんだっけ?」となってしまう。だからこそ、自分の考えを変えずに言い続けることが大切なのです。

仕事を辞めることに不安を感じたら… 転職してもやってきたことはゼロにはならない

働きはじめてまだ数年なのに転職していいのだろうか、転職しても環境が良くなるかわからない…と、二の足を踏んでしまう人も多いようです。

残ることが良い選択肢になる場合もあるかもしれませんが、個人的な感覚では、今後はそうとも限らないだろうとも感じています。なぜなら、これまでは同じ場所で継続して働いていることが肯定的に評価されましたが、今後は自分の勤務先がいつまでも存在するとはまったく言えないからです。「辞めたい」と考える人は、「なにかを変えたい」人のはず。
ならば、その気持ちに従って行動してみるのが良いのではないでしょうか。安易に組織から離れることはすすめませんが、一度「辞めたいな」と思ってから3カ月経っても辞めたいのであれば、真剣に考えていいのではないでしょうか。

山口さんも、これまで「辞めたい」「新しい世界が見たい」という自分の気持ちに従って転職をしてきたわけですね。

「辞めたい」と思いながら続けるのは苦痛ですからね。極端な言い方をすれば、辞めて失敗しても、「失敗した。次はどうするかな」と前向きに考えればいいのです。わたしもまわりからいろいろ言われるときもありますが、自分の決断に後悔はしていません。覚悟さえあれば、転職はポジティブな経験になると信じています。

転職にあたっては、将来の生活が不安になることもありますよね。これまで複数のキャリアチェンジをされてきた山口さんは、そんな時々の不安をどのように乗り越えてきたのですか?

そもそも「変わる」ということは、不安なことです。ましてや大切な仕事を変えるわけなので、「大丈夫だろうか?」「生活が安定しないのでは…」と不安になるのはあたりまえです。ただ、わたしが伝えたいのは、「やってきたことがゼロになるわけではない」ということ。薬剤師であれば、たとえば医療知識を学ぶ姿勢やコミュニケーション能力など、基本的な部分ができていればどこにいっても大丈夫。そんな風に楽観的に考えることも大事ですね。

専門性の高い薬剤師だからこそ、「学ぶ姿勢」やコミュニケーション能力のような、どこでも通用する汎用的なスキルが重要だということですね。

そのとおりです。薬剤師は国家資格であり、市場に守られている面もあるので活躍できる場所はたくさんあるはず。資格を活かせば、週3日、週2日で複数の場所で勤務したり、子どもがいるなら週3日だけ働いたりすることもできそうですよね。医師だって、いまは複数の場所で働く人はたくさんいます。その意味でも、今後はたしかな医療知識とコミュニケーション能力が差を生んでいくのと考えています。

AIの時代における薬剤師の存在価値 薬剤師に今後求められるのは…

最後に、これから医療業界で生き抜いていくために、薬剤師はどんな力を身につけるべきか教えてください。

やはり「コミュニケーション能力」がとても大切になるでしょう。その能力だけは確実に必要とされるし、そこで評価もわかれると思います。たとえば、医療訴訟などを見ていると、多くの場合はコミュニケーションの行きちがいが原因だと感じます。病院に対する患者さんの不信感も、根っこにはコミュニケーション不足に問題があるのです。いまは医師をはじめ、人材が流動的である事情もあります。

そんな時代に、実際に患者の薬の悩みに応え説明責任を果たしていく「窓口」としても、薬剤師さんの役割はかなり大きくなっています。だからこそ、コミュニケーション能力が高い薬剤師さんは、どこにいっても求められるはずです。

近い将来で考えると、AIなどのテクノロジーが導入されることで、薬剤師の仕事の一部が代替されるとも言われています。

現在でもさまざまな試験が導入されていますよね。たとえば、患者とテレビ面談をして、薬を郵送する方法なども出てきています。でも、面談が残るということは、ただ薬の知識をAIが伝えるだけでなく、やはりお互いに顔を見ながら話すことや、「調子はどうですか?」というひとことが言える、そんなコミュニケーション面がより重要だということです。

インターネットなどの情報を通じて、患者もかなり薬の知識を持つようになっていますからね。

患者さんもしっかり調べてきて、「この薬でいいんですか?」と聞かれることも多いと聞きます。薬のプロとしては、「カチン」とくる場合もあるかもしれませんが(笑)、そんなときこそコミュニケーション能力が必要になる。
頭ごなしに否定するのではなく、「たしかにそうですが、こっちのほうが良いと思いますよ」などと応対することができれば、揉めることもありません。コミュニケーション能力とは、「人がなにを求めているのかがわかる力」です。AIに代替されない能力という面でも、コミュニケーション能力を持った薬剤師さんはますます求められていくとわたしは見ています。

「マイナビ薬剤師」編集部からのコメント

「マイナビ薬剤師」編集部からのコメント

「薬剤師は今後どうなる?」「薬剤師としての将来が不安」そんなネガティブな気持ち、ありますよね…。患者さんや医師、同僚とのコミュニケーションで壁にぶつかったときは、「今日はよくがんばった」と、山口さんのように自分をほめることからはじめてみませんか?
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Vol.7 山口真由の勉強法「7回読み」の方法とコツを聞いてみた

NY州弁護士・コメンテーター 山口真由さん

プロフィール 山口真由
(やまぐち・まゆ)

東京大学法学部を首席で卒業。大学3年次に司法試験、翌年には国家公務員Ⅰ種に合格。学業成績は在学中4年間を通じて「オール優」で4年次には総長賞も受ける。2006年4月に財務省に入省し、主税局に配属。08年に退職し、09年から15年まで大手法律事務所に勤務し企業法務に従事。15年から1年間ハーバード・ロースクールへの留学、修了し、ニューヨーク州弁護士資格も取得。現在は、テレビのコメンテーターや執筆でも活躍している。著書に『東大主席が教える超速「7回読み」勉強法』、『東大主席が教える「間違えない」思考法』(以上PHP研究所)、『リベラルという病』(新潮社)、『東大首席・ハーバード卒NY州弁護士と母が教える 合格習慣55:家庭でできる最難関突破の地頭づくり』(学研)など多数。

賢者の金言 インタビュー 一覧

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