「自分のプライドを、自分でつくり出す」澤円に学ぶ、縛られない生き方

賢者の金言
薬剤師の転職や職場で活躍するノウハウを、今注目のスペシャリストが語ります。働き方、学び方、そして、生き方がわかる――悩める薬剤師に専門家が送る珠玉の金言集。

構成/岩川悟(slipstream) 写真/榎本壯三

現在、薬局の数はコンビニより多い6万店に上り、急拡大してきました。しかし、今後は再編が促され質が問われる時代になっていくことが予測さます。“転職先はいくらでもある時代”はそう長くは続かないかもしれません。時代に取り残されないために、これからの薬剤師に必要なものとは――。話題のビジネスパーソン澤円さんが語ります。

薬剤師が転職を考えるターニングポイントとは 「自分の人生は自分で決める」

みなさんは、これまで自分の人生のターニングポイントにおいて、どのような決断をしてきましたか?

入試や就職、転職や結婚などいろいろなターニングポイントがありますが、そのときに両親や親友、先生や先輩たちに相談して決めた人もいることでしょう。信頼できる人に相談すると、自分では気づかなかった視点から課題を見つけられるので、自分の考えや視点の「抜け漏れ」を知ることができます。できる限りたくさんの人からアドバイスを吸収しながら、自分で考えをまとめて最終的に自分で判断する。僕はこれこそ、人生そのものだと思います。

そのとき大切になるのは、やはり「自分の頭で考える」ということ。

たくさんの情報を得るのはいいのですが、他人の考えばかりを重視してしまって、自分の頭で考えなくなるのはちょっとちがう。相手がどんなに年上でも、経験が豊かでも、知識が豊富でも、社会的地位が高くても、その人はみなさんの人生を生きることはありません。

また、みなさんもその人の人生を生きることはありません。憧れたり、参考にしたりするのはいいですが、他人の人生を追いかけることに意味はないのです。この世に生まれて生を与えられた以上、とにかく自分で判断することがもっとも大切なこと。失敗したり後悔したりすることも起こりますが、そんなことも含めて自分の足で前へ進むしかないのです。

自分の人生を他人に決めさせてはいけない。

自分の頭で考えて判断することに、年齢は関係ありません。どんなに若くても、逆にどんなに年を取っていても、常に自分の頭で考えて決めること。それこそが、人生です。

もっと言えば、いまみなさんはものすごく大きな可能性を持って生きているのです。僕はもうすぐ50歳になり、ある程度は自分の可能性を選択するフェーズに差しかかっています。残りの人生の長さを考えると、やるべきことややりたいことを取捨選択する必要性に迫られるでしょう。でも、 いま20代や30代だったなら、選択肢はまだまだたくさん残されています。だからこそ、「こうすべきだ」と言われることに振り回されずに、あなただけにしか見えない選択肢に気づかなければなりません。そして、40代、50代の人は、僕と同じように「やるべきこと」をある程度決めて、広い視野を維持しながらより磨きをかけていきましょう。さもなければ、あてにならない情報やアドバイスにいつまでも振り回されることになりかねませんから。

僕は、成功したことがない人たちが、過去の考え方や価値観を若者に押しつけることこそ、もっともやってはいけないことだと思っています。

若い世代の人たちも、信じる前にそれを疑おう!

もちろん、「あなた、成功してないですよね」などと面と向かって言う必要はありません。無用な対立をしても時間の無駄。その人たちが無自覚に生み出している同調圧力に対して、自分自身が変わっていく勇気が必要なだけです。

”自分らしく生きる”を選ぶために―― 「僕が考えるカッコいい生き方とはなにか?」

それは、こんな生き方です。

自分のプライドを、自分でつくり出す生き方――。

だからこそ、僕たちは「外のものさし」(自分がマーケットのなかでどんな場所にいるのか。自分はどんな価値を社会に与えることができるのかを測るための)を持つ必要があるのです。「外のものさし」をしっかり持っていれば、外の世界で通用しない肩書なんて必要ありません。「外のものさし」に晒されるということは、アウェーで価値が問われるということです。

僕は、自社内で複数の肩書きを持っています。すると、異なる組織の人間とかかわることになり、自分を評価して頼りにしてくれる人もまったくちがいます。また、社外では琉球大学の客員教授や複数のスタートアップ企業の顧問、NPOのメンターなどさまざまな顔を持っています。つい最近も、ある企業のグローバル戦略アドバイザーに就任しました。

もちろん、そんな場所では所属企業の名刺は使わないし、使う必要もありません。自分単体のバリューで勝負するし、また役に立とうとします。すると自然に、「肩書抜きで、自分はどうすれば役に立つことができるのか」という考え方、つまり「外のものさし」を持つことができる。いわば、自分の得意分野や貢献できるものを客観視できるようになるのです。

そして、そこで得た豊かな経験を組織に還元できるような人間は、その組織でもおおいに力を発揮できることになります。複業することが、自分にとっても組織にとっても良い循環になっていくというわけです。

「そんなの、うちの会社では還元できないよ……」

そう感じたら、それは転職のチャンスかもしれない。適性が合わないところで働いているなによりの証拠だと思います。

古いルールに縛られず、転職を決断 「いま乗っている列車から降りる勇気を持つ」

プライドを自分で醸成しながら、「自分には変わらない価値がある」ということに立脚点を持つことができると、どこででも生きていける状態になります。

僕は最近、そのことが象徴的に記された1冊の本を読みました。それは、元米国務長官コリン・パウエルの自伝『It Worked for Me:In Life and Leadership』(邦題『リーダーを目指人の心得』飛鳥新社)で、そのなかにとても印象的な表現があったのです。とても素晴らしい内容なので、少し引用させてもらいます。

「放り出される前にみずから列車を降りる」

いま乗っている列車から降りる勇気を持とう。たまたまいまの列車に乗っているかもしれないけれど、もう自分はそろそろこの列車を降りるタイミングだと思ったら、いつまでもしがみつくのではなく、降りる勇気を持とうということです。

「私は退くべきだと考えた。そうすれば、一等車に空席がひとつ生まれ、私の後ろで 列に並んでいる誰かがそこに座れるはずだからだ」

彼はこれまで、「自分の乗車券は無期限・無制限」だと信じている人をたくさん見てきたと言います。

「四つ星将軍なのに、やめさせないでくれとぐちぐち頼みに来た人もいる――自分はずっといまの職にとどまる権利があるというかのように」

しかし、彼は自分が長年乗ってきた列車を降りて、走り去っていく列車を眺めるのもいいではないかと書いています。

「飲み物でも持って日陰に座り、ほかのトラックや列車でも眺めてみよう。自分が乗ってきた列車が走り去るのを見送ったら、新しい列車に乗って新しい旅を始めればいい」

まったくちがう列車に乗り換えれば、まったくちがう方向性へいくことができる。新しい旅をはじめるのはそういうことだと彼は言っているのです。引用が長くなりましたが、これは先に書いた「プライドを肩書に合わせるな」ということと同じことだと思います。

「ルール」「慣例」「過去の価値観」「同調圧力」「肩書」といったものは、ひそかに、静かに自分のプライドのそばに忍び寄ってきます。そうしたものに従っていればなんとなく順風満帆な気になるかもしれません。でも、僕たちはそれらを「本当に従うべきルールなのだろうか?」「本当に価値があるものだろうか?」と疑わなければなりません。

僕たち自身が、ルールや慣例の奴隷に成り下がっていないだろうか?日々、自分の価値を問いかける生き方をしていれば、ルールや慣例の価値をすぐに判断して気づけるようになります。

ある大企業の社長は、5年に1回、自分のなかで「自分自身をまっさらにクビにする」ようにしていると言います。「なにもかもがなくなったとき、自分にはなにが残っているのだろうか」と、考えるようにしているのだそうです。そんな危機感を持ちながら仕事をしているからこそ、彼はキャリアを積み重ねることができているのでしょう。

彼は僕よりも年下ですが、キャリアという観点で言えば、僕なんかをはるかに抜いています。でも、僕はそのことがまったく気になりません。なぜなら、たまたま役割がちがうだけ、それこそ乗っている列車がちがうだけだからです。プライドと肩書が別のところにあるから、そんな自信が持てるのだろうと思っています。

「なぜあいつが出世するんだ」
「わたしのほうが先のはずなのに」

そんなことを思いながら、社内の競争に明け暮れる人もたくさんいます。特に年功序列が根づいている日本企業では、その傾向はより強まるでしょう。なぜそんなことになるのか、理由は明らかです。

やめないと思われているから。

ある程度キャリアを積んできた人間はやめるわけがないという前提で、キャリアパスがデザインされているからです。日本以外の国では優秀な人間はすぐにやめていきます。なぜなら、他社が真剣にほしがるからです。

そこで、各企業は社員がやめることを前提に、やめさせないためにはどうすればいいかと考えます。その結果、高い報酬を提示し、代わりにゴールを高く設定する。売上が上がるともとが取れるので、とても合理的な考え方です。

しかし、日本では「今日も明日も、明後日も同じように働くだろう」という前提で設計されています。それゆえに、個人の時間感覚までがずれてくる。

「明日でいいや」
「1週間後でいいや」

自分でも気づかないうちに、そのように考えてしまう人間になっているのです。もちろん、「じゃ、やめるよ」と言おうにも、自分に自信が持てなければなかなか言い出しづらいものです。

でも、僕はみなさんに気づいてほしい。

なぜ自分に自信が持てないのか?それは、「いつのまにかルールや慣例や、過去の価値観に侵されているからではないのか?」と。「会社やこの社会を支配している同調圧力に負けているからではないのか?」と。

みなさんの時代はこれからはじまっていくのです。過去の人たちがつくり上げたくだらない価値観や圧力に負けてはいけない。戦うのが嫌なら、その場から立ち去ればいい。

いかにして、自分のなかにプライドの立脚点を置くかを考えよう。
乗ってきた列車を降りて、新しい旅をはじめよう。

「マイナビ薬剤師」編集部からのコメント

「マイナビ薬剤師」編集部からのコメント

今、ビジネス界で話題の澤円さん。印象的なそのヘアスタイルは“自己投資”だと著書で語っています。転職や職場で成功するためには、古いルールや過去の価値観にとらわれず、“自分なりのものさし”が必要なのですね!
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圓窓代表 澤 円さん

プロフィール 澤 円
(さわ・まどか)

圓窓代表。立教大学経済学部卒業。生命保険会社のIT子会社を経て、97年にマイクロソフト(現日本マイクロソフト)に入社。情報共有系コンサルタント、プリセールスSE、競合対策専門営業チームマネージャー、クラウドプラットフォーム営業本部本部長などを歴任し、2011年、マイクロソフトテクノロジーセンター・センター長に就任。18年より業務執行役員。06年には十数万人もの世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみビル・ゲイツが授与する「Chairman’s Award」を受賞。現在では、年間250回以上のプレゼンをこなすスペシャリストとしても知られる。
Twitter:Madoka Sawa/澤 円(@madoka510)
『あたりまえを疑え。
―自己実現できる働き方のヒント―』
澤円(さわ・まどか)著
(セブン&アイ出版)

本コラムは同書を元に再構成しています。

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