服薬のフォローアップが義務化!薬局や薬剤師に求められる役割とは

服薬のフォローアップが義務化!薬局や薬剤師に求められる役割とは

2019年12月に公布された改正薬剤師法並びに薬機法が2020年9月から施行され、これまで努力義務とされてきた薬剤交付後の服薬フォローアップの義務化が明記されました。
「義務化されたフォローアップの内容は?」、「なにを確認すればいい?」など多くの疑問と不安をお感じの薬剤師も多いことでしょう。

今回はそんな薬剤師のみなさんに、フォローアップについて、法改正により薬局と薬剤師に求められる役割についてなどを解説していきます。

1. 服薬のフォローアップとは

患者さまが薬剤を使用している期間中の継続的なフォローアップについては、以前から日本薬剤師会や厚生労働省が薬局の重要な業務としていましたが、今回の法改正により改めて「義務」として明文化されました。
参照元:公益社団法人 日本薬剤師会/「薬剤使用期間中の患者フォローアップの手引き」について

なぜ服薬フォローアップは義務化されたのか、フォローアップの概要とその理由を考えてみましょう。

1-1. 服薬のフォローアップの概要

薬剤師法第25条の2において、薬剤師は薬剤の適正な使用のため、調剤時に患者さままたは看護をする方に対して「必要な情報を提供し、および必要な薬学的知見に基づく指導」を行うことを義務付けています。

今回の法改正では、これに加えて薬剤の使用状況を「継続的かつ的確に把握」し、患者さまや介護をする方に薬学的知見に基づく指導を行うこと、という項目が追加されました。

一方、改正薬機法では、薬局開設者に対して薬剤師が継続的なフォローアップを実施するよう義務付けるとともに、遠隔での服薬指導を解禁し、いわゆるオンライン服薬指導を可能としました。

つまり、薬局と薬剤師の双方に、調剤した薬剤の交付時だけでなく、患者さまが薬剤を使用している期間中の服薬状況、体調の変化や生活の状況を把握し、電話やオンライン、電子メール等も活用しながら継続的に服薬指導を行っていくことが義務付けられたのです。

加えて、薬剤師にはフォローアップを行った日付やその内容を記録することが義務付けられ、薬局はこの記録を3年間保存しなければならないとしています。また、フォローアップするなかで得た患者さまの情報を、処方した医師等にフィードバックし連携を推進することが努力義務とされています。

1-2. 薬局でのフォローアップが義務化された理由

薬剤師必携の書とされる「調剤指針(日本薬剤師会刊)」のなかでは、以前から服薬期間中の患者さまに対するフォローアップは重要な業務とみなされています。

また、2015年に厚生労働省が公表した「患者のための薬局ビジョン」においても、継続フォローアップはかかりつけ薬局・薬剤師が持つ重要な機能と位置付けています。

服薬情報を一元化し継続してフォローできるよう、患者さまには常に同じ薬局、同じ薬剤師を「かかりつけ」として利用してもらうのが望ましいですが、医療機関の周囲にはいわゆる「門前薬局」が乱立しており、受診する医療機関が異なれば利用する薬局も異なるというのが現状です。

これでは患者さまの安心安全な薬物治療に繋がらず、また医療機関や介護施設、行政などが連携する地域包括ケアの枠組みの中でも機能できません。

政府は2025年までにすべての薬局を「かかりつけ薬局」にするとしており、薬剤師には「かかりつけ薬剤師」として、調剤など薬を対象とする業務から、患者さまに対する業務へと比重を移していくことが求められています。

今回の法改正は、門前薬局からかかりつけ薬局・薬剤師への移行を一段と加速するための措置と考えられます。

2. 服薬のフォローアップの流れ

法改正によって服薬のフォローアップは義務とされましたが、どのようにフォローアップすべきかについては明記されておらず、薬剤師の専門性にゆだねられています。

実際のフォローアップでは来局から来局までの期間を一つのサイクルと捉え、薬学的知見に基づいたPDCA(P=計画、D=実践、C=確認・分析、A=改善)サイクルをくり返していくことになります。

2-1. 初回来局時

服薬のフォローアップが義務化!薬局や薬剤師に求められる役割とは

初回来局時には患者さまへの聞き取りによる正確な情報収集と、処方せんの記載内容やお薬手帳の薬歴などを薬学的知見にもとづいて分析・評価し、患者さまごとに異なる配慮すべきポイントを明らかにします。そのうえで次回来局までのフォローアップを計画します。

2-2. 薬剤交付から次回来局まで

薬剤交付から次回来局までの期間はフォローアップの実践と、実践するなかで得られた情報の分析、医師へのフィードバックなどを行います。また、フォローアップの詳細を記録し、必要に応じて内容の見直しを行います。

2-3. 次回来局時

初回来局時に計画したフォローアップについて結果の評価と分析を行い、抽出された問題点の改善を検討したうえで、次回来局時までのフォローアップを計画します。その後は一連のサイクルをくり返し行うことでフォローアップの完成度を高めていきます。

3. 服薬のフォローアップを実践する流れ

服薬のフォローアップは薬剤師がその専門性を活かして実践されるものですが、患者さまの同意と協力なしに進めることは困難です。初回交付時にはその後のフォローアップについて丁寧に説明し、理解を得てから進めましょう。

3-1. フォローアップの検討

初回来局時には交付する薬剤の特性や併用薬など薬学的要素だけでなく、患者さまの年齢やBMIなどの身体的特性も把握しておく必要があります。

加えて原疾患や既往歴、食生活や健康食品などの摂取状況、喫煙の有無など多角的に収集した情報を総合的に判断し、患者さまごとの特性に応じたフォローアップを検討しなければなりません。

高齢の患者さまでは、飲み忘れ防止や運動機能の低下による取扱いのサポートが必要な方もいらっしゃいます。

それ以外にも、高齢者の方で腎機能・肝機能などに低下がみられ副作用の発現に細心の注意を必要とする方など、長期的なアドヒアランスの維持が重要となる有効域が狭い薬剤を交付する場合にもフォローアップの検討が必要です。

ほかにも、高齢で一人暮らしをしている、多量飲酒の習慣がある、など生活環境や生活習慣が懸念されるケースもフォローアップの検討対象となります。

こうした患者さま本人と周囲の特性を総合的に判断しフォローアップを実施するのはもちろんですが、対象となる患者さまにはフォローアップの内容をしっかりと説明し、疑問や体調の変化があった場合は次回来局を待たず薬剤師に連絡するよう伝えることも忘れてはなりません。

3-2. 患者さまへはいつ確認するか

患者さまに確認するタイミングは使用している薬剤や患者さまの特性によって異なり、ひとつとして同じケースはありません。自身の疾患や使用している薬剤に対する患者さまの理解度や、有害事象が発現するリスクなども踏まえて個別に判断します。

患者さまごとの特性を考慮せずに、一定のタイミングで定型文を一斉配信するなどすべての患者さまに同じ対応をとることはかえってリスクを高め、患者さまとその家族や看護・介護スタッフの信頼を損ねることになりかねません。

電子メールやSNSによる確認はタイミングや発信方法が適切かどうか慎重に判断する必要があります。

3-3. 確認方法と確認すべき事項

来局や訪問以外の患者さまへの確認方法は、主に電話が使用されますが、最近では電子お薬手帳やLINEなどのSNS、専用のアプリなどスマートフォンを始めとする情報端末の活用も進んでいます。

体調の変化などを確認するには電話を、飲み忘れの防止などアドヒアランスの維持にはSNSを使用するなど、状況に応じた使い分けも可能となってきました。

ただし、患者さまへの確認で最も重要なことは意思の疎通を図ることであり、薬剤師からの一方通行にならないよう気をつけなければなりません。

特にSNSや電子メールなどを使用する場合「送信したまま」にならないよう注意する必要があります。

どのような確認方法においても患者さまとのコミュニケーションに双方向性を持たせることが最も重要です。

確認事項は必要に応じて薬剤師が考えるべきものですが、日本薬剤師会の「薬剤使用期間中の患者フォローアップの手引き」では基本的な考え方として以下の項目をあげています。

  • 薬剤等の使用状況(残薬の状況を含む)
  • 使用中の薬剤の効果
  • 患者基本情報の変化
  • 併用薬や食品・嗜好品との相互作用による影響
  • 生活機能への影響
  • 生活の特性の変化
  • 使用中の薬剤に対する意識(先入観、不安感) 等

特に意識して確認しなければならないのは、来局から次の来局までの期間に起こる患者さまの状態や状況の変化です。確認すべき点は的確に、かつわかりやすく明快であることを心がけ、「調子はいかがですか?」など曖昧な質問に終始しないことが重要です。

3-4.分析・評価と今後の対応

ヒアリング行い患者さまから得た情報を慎重に分析し、総合的に評価しなければなりません。

一つの情報だけを取り上げてみたとき、特に留意すべき点が見当たらなかったとしても、周囲の環境の変化やそのほかの情報と組み合わせることで有害事象の予兆を把握できたり、薬学的な介入の必要性が浮かび上がっってきたりすることがあります。

もしも薬学的な介入が必要であると判断した場合には、患者さまに対する情報提供やお薬手帳を活用した薬学的管理指導を行います。

その際、指導などを行った薬剤師の氏名を患者さまにお伝えすることも忘れずにしましょう。

副作用など有害事象が疑われるときや、投薬の継続に支障がある場合には速やかに処方医に連絡し、情報提供を行います。

処方提案や残薬の調整なども含め、日ごろから医師など医療機関とコミュニケーションを図り、連携して対応できるよう心がけましょう。

なによりも情報の分析・評価から得られた結果を次のフォローアップに活かすことが重要です。

3-5. 記録

今回の法改正により、フォローアップの内容を調剤録に記録することが義務づけられました。

なお、調剤録については薬剤師法施行規則第16条に定める記入事項、患者さまの保険情報、処方せんの内容、請求項目と点数および患者負担額が網羅されて入れば、薬歴でも代用可となっています。

薬歴についてはSOAP形式で記載されることが多いと思いますが、必ずしもSOAPにこだわる必要はありません。

医師や他の薬剤師が参照する場合も考慮し、要点を簡潔にまとめることを優先して記録にとどめることが大切です。

4. 薬品ごとのフォローアップの考え方

処方薬のほかに薬局で取扱う医薬品には、処方薬以外の医療用医薬品、薬局製造販売医薬品、要指導医薬品、一般用医薬品があり、これらの医薬品を販売する際にも処方薬と同様、販売後のフォローアップを検討する必要があります。

4-1. 処方箋医薬品以外の医療用医薬品

薬局で取扱う医療用医薬品は処方せんに基づいて調剤されることを原則としており、一般的に処方箋医薬品以外の医療用医薬品を販売することは極めて稀です。

しかし近年、処方箋医薬品以外の医療用医薬品を取扱う、いわゆる「零売薬局」が増えており、2020年には日本零売薬局協会が発足、調剤と兼業で処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売に参入する薬局もあります。

処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売後フォローアップについては処方箋医薬品と同様、慎重に実践されるべきであり、特に「体調の変化や有害事象の発現」「医療機関の受診状況の確認および受診勧奨」については継続的なフォローアップが欠かせません。

零売薬局について詳しくは下記記事をご覧ください。

4-2. 薬局製造販売医薬品・要指導医薬品・一般用医薬品

要指導医薬品と第1類一般用医薬品については販売記録の作成と保管が義務付けられていますが、継続的な確認や受診勧奨が必要となるケースもあり、販売後のフォローアップは欠かせないものと考えられます。

販売管理にはお薬手帳の活用が求められ、第2類、第3類の一般用医薬品販売時においてもお薬手帳に記載し、その後のフォローアップに役立てることが望まれます。

薬局製造販売医薬品についても同様です。

5. LINEによる服薬のフォローアップ

服薬フォローアップの義務化に合わせてオンラインでの服薬指導、フォローアップが認められました。

今後、さまざまなアプリやシステムの導入が増えると予想されますが、電子お薬手帳とスマホアプリの連携によるフォローアップはすでに運用が開始されています。

なかでも注目されているのがLINEを利用したフォローアップで、すでに多くの薬局で「おくすり連絡帳」としてサービスが提供されています。

薬局の公式アカウントから、質問に回答するだけで、システムがフォローを必要とする可能性のある患者さまを抽出してアラート表示する、という仕組みです。

処方薬ごとの具体的な状況確認の質問はあらかじめシステム上に設定されており、薬局が個別に用意する必要はありません。

フォローアップ期間中の情報は自動で薬歴に反映・保存されるのでとても効率的です。

使い慣れたアプリでのコミュニケーションに違和感を覚えることなく気軽に利用できるのがメリットです。

しかし非対面での確認の場合、患者さまの回答が常に正確であるとは限りません。

薬識の程度や隠された生活習慣を聞き出す、といったことは対面でなければ難しい場合も多く、フォローアップしなければならない患者さまが対象からもれてしまう可能性が懸念されます。

LINEを含め、AIやコンピューティング技術による対人サービスは業務効率を飛躍的に高めてくれる反面、人間同士のコミュニケーションが排除されてしまう恐れがあります。

LINEなど情報技術の活用は必要に応じて柔軟に行い、時には電話をかけてみるなど、テクノロジーには全面的に依存しないことが大切です。

6. 今後の薬局・薬剤師に求められる役割

そもそも医薬分業とは、医療のプロである医師が疾患に応じた処方を行い、薬剤のプロである薬剤師が処方を吟味して調剤を行うことで、有効性と安全性を両立させるためのシステムです。

医療機関外の調剤薬局が処方せんを受け取る医薬分業率は令和3年2月度で76.9%となっており、一見すると医薬分業は成立しているかのように見えます。

参照元:公益社団法人 日本薬剤師会/処方箋受取率の推計 「全保険(社保+国保+後期高齢者)」

しかしその実態は、医療機関の周囲に乱立して調剤だけに専心するいわゆる「門前薬局」が多くを占めており、医薬分業の核心である服薬情報の一元化は実現していません。

今回、服薬のフォローアップが義務化された背景には、薬剤師が患者さまと向き合うことで医薬分業をあるべき姿に是正すべき、という声が多くあることを認識しておく必要があります。

地域包括ケアが推進される中で、薬局・薬剤師は一人ひとりの患者さま情報を一元化して的確に把握し、医療機関や介護施設、行政とも連携しながら「かかりつけ」を目指さなければなりません。

今後の薬局・薬剤師はモノからヒトへ、薬から患者さまへと、その軸足を移すことが求められているのです。

7. まとめ

法改正によって服薬のフォローアップは薬局・薬剤師の義務となりました。

薬局には、これまで門前薬局といわれてきた調剤中心の業務から脱却し、患者さま本位のかかりつけ薬局となることが必然とされるなかで、薬剤師によるフォローアップにも患者さまごとの細やかな対応が求められています。

今回の法改正を機に薬剤師の業務は大きく方向転換することになりますが、スマートフォンや情報端末など最新のテクノロジーも上手に活用しながら、患者さまにさらに喜んでいただけるフォローアップ活動を目指していきましょう。

この記事の著者

ライター

朝倉 哲也

資格の知見を活かして、サプリメントや健康食品に関する記事など、書籍や雑誌で執筆を行っている。

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