”漢方”に強くなる! まるわかり中医学 公開日:2018.09.27更新日:2023.02.28 ”漢方”に強くなる! まるわかり中医学

西洋医学とは異なる理論で処方される漢方薬。患者さんから漢方薬について聞かれて、困った経験のある薬剤師さんもいるのでは? このコラムでは、薬剤師・国際中医師である中垣亜希子先生に中医学を基本から解説していただきます。基礎を学んで、漢方に強くなりましょう!

第37回 人体をつくる気・血・津液とは(5)血(けつ)の働き

前回は、「血の生成」についてお話しました。今回は、「血の働き」についてお話しします。

目次

 

血の働き

血の働きには「西洋医学と共通の概念」と「中医学独特の概念」が存在します。

1 西洋医学と共通の概念

全身を栄養して潤す(営養作用・滋潤作用:えいようさよう・じじゅんさよう)
血は全身をくまなく循環し、全身の臓腑や組織・器官を栄養して潤し続け、生理活動を維持しています。「見る」「歩く」「握る」などの知覚や運動は、血から栄養をうけてはじめて正常に機能します。そのほか、顔の血色の良さ、筋肉のたくましさ、肌や髪の毛の艶などはすべて血に依存しています。


慢性的に血の生成が不足したり、慢性的に血を消耗したりすると、「血虚(けっきょ)」の症状が全身~局部に起きます。頭がクラクラする、目がかすむ、顔色が悪い、あるいは、髪や肌が乾燥する、爪が割れやすい、身体がしびれる、筋肉が痙攣する、経血量が減る……などの症状があらわれます。

また、血は栄養分だけでなく、濁気(だくき・身体にとって要らないもの、老廃物の意味。必要なものを搾り取った残りカスのようなもの)の運送もしています。
呼吸、消化、気血津液の代謝の過程で、要るもの・清らかなものを「清(せい)」、要らないもの・残りカス・汚いものを「濁(だく)」と表現したりします。
例えば、肺から吐き出される濁気は、全身の濁気が血を介して肺に運ばれたものであり、尿として体外に排出されるものは血を通して腎に運ばれたものです。

2 中医学独特の概念

気とともに精神活動を支える(寧静作用:ねいせいさよう)
血は気とともに、「神(しん)=精神・意識の状態」を支えます。血が充分にあって、滞りなく循環していることで、意識が明瞭に保たれ精神は安定します。その人の精神・意識の状態は、その人の「血の在り方」がそのまま反映されます。そのため、血が不足したり、血が熱を帯びたりなど、血の状態に異常があると、精神・意識にも異常があらわれます。例えば、「血の不足(血虚)」があると、ボーっとしやすく、もの忘れ、不安感、心配性、不眠などの症状が現れます。「血が熱を帯びる(血熱/けつねつ)」があると、ソワソワ落ち着きない、イライラして怒りっぽい、気が短い、せっかち、不眠などの症状があらわれます。

また、悩みごとが多いと、血が消耗されて「血の不足(血虚)」をまねいたり、ストレスや不満が多いと、「気が滞ること(気滞)によって血の滞り(血滞)」を引き起こしたりします。
また、気は陽に属すため上昇しやすい性質があります。その一方で、陰に属す血が、上昇しやすい陽気を抑えるように働きます。

体質は精神状態・性格にも影響を及ぼし、反対に、精神状態・考え方のクセは体質にも影響を及ぼします。それゆえ、中医学では、メンタルとフィジカルを分けません。

血の運行

3 血の運行:気の推動作用と固摂作用が支える

血の正常な運行は、気の推動作用と固摂作用がバランスよく働くことによります。血は単独では動けず、血が運行できるのは、血に宿っている気が血を推し動かす(推動作用)からであり、血が脈管内を流れて脈管外に溢れ出ないのは、気が血をあるべき場所に保持(固摂作用)しているからです。(→第33回 人体を作る気・血・津液とは(1)はじめに
この2つの作用が協力し合うことで、血は正常に脈管内を流れます。

4 血の循環:肝・心・脾・肺の生理活動が支える

また、正常な血の循環は、以下の心・肺・肝・脾の生理活動が支えています。

  • 心の推動作用(すいどうさよう)
  • 肺の宣発作用(せんぱつさよう)
  • 肝の疏泄作用(そせつさよう)と蔵血作用(ぞうけつさよう)
  • 脾の統血作用(とうけつさよう)

今後、詳しくお話しする予定ですので、ここでは簡単にそれぞれについてお話しします。

【心の推動作用(すいどうさよう)】
心には心血(しんけつ:心にある血)を循環させるポンプ作用があり、この働きによって全身くまなく血が行き渡ります。

【肺の宣発作用(せんぱつさよう)】
全身を循環している血はすべて肺に集まり、肺気の作用を受けた後にまた全身に散布されます。血は気の昇降運動により全身に運行していますが、全身の気機(昇降出入)を管理・調節しているのは、肺の呼吸です。

【肝の疏泄作用(そせつさよう)】
肝は全身の気の流れを調整します。スムーズに気が巡ることで、血も滞りなく巡らせ、心の循環させる作用をサポートしています。

【肝の蔵血作用(ぞうけつさよう)】
肝には蔵血(ぞうけつ)といって、血を肝に貯蔵し、必要としている部位に必要なだけの血を分配する機能があります。この蔵血機能が働かないと、体内に充分な血を貯めておけません。肝は人体の動静変化に応じて血の貯蔵を調節し、血流量をコントロールしています。

【脾の統血作用(とうけつさよう)】
脾の統血作用とは、脾気の血に対する固摂作用によるもの。脾の統血作用により、血が脈中を運行するように導かれ、血が脈外に溢れ出るのを防いでいます。

このように、正常な血の運行には、心のポンプ作用だけでなく、肺・肝・脾などの生理機能が調和してはじめて成り立っています。

血の不調~血虚・血瘀・血熱・血寒など~

血の不調には、血虚(けっきょ)・血瘀(けつお)・血熱(けつねつ)・血寒(けつかん)などがあります。

  • (1) 血の絶対量が不足する「血虚(けっきょ)」
  • (2) 血の巡りが悪くなる「血瘀(けつお)」
  • (3) 血が熱を帯びる「血熱(けつねつ)」
  • (4) 冷えにより血行が悪くなる「血寒(けつかん)」

血と気は相互に関係しており、血の不調は気の不調を伴うことが多いです。
次回は、気・血・津液のうちの3つ目、「津液(しんえき)」についてお話しします!お楽しみに~!

読んでなるほど 中医学豆知識
夏から秋への移り変わりに 薬膳からみる「梨」

中医学では現在の体調は一つ前の季節の養生によってつくられる、と考えます。つまり、今、養生して夏の疲れをしっかりケアしておけば、それは秋の健康につながり、秋の養生は冬の健康につながってゆきます。
夏から秋に移り変わる9月頃は、1年の中で最も身体が消耗して疲れている時期といえるでしょう。

夏に起こるさまざまな消耗
夏の暑さは汗を大量にかかせて、「津液」と「気」を消耗させます。さらに、「暑邪(しょじゃ:暑さの邪気)」や「湿邪(しつじゃ:湿気の邪気)で食欲がなくなり、飲食物の量や質が落ちるため、気・血・津液などをきちんと生み出せません。また、うまく消化・吸収できなかった飲食物も湿邪として、体内に停滞します。身体に湿邪がこもると、身体が重くなり、むくみ、吐き気、胃もたれなどを引き起こします。

また、熱帯夜による睡眠不足や、屋内・屋外の温度差は、自律神経を乱します。また、エアコンによって身体が冷え、循環が悪くなり、内臓の機能も低下します。

このように、夏は発汗による気や津液の消耗、暑邪・湿邪・寒邪などの影響で脾胃(消化器系)を中心とした内臓機能の低下が現れやすいのです。

秋は1年で最も乾く「燥邪(そうじゃ)」の季節
これから迎える秋は、「燥邪(そうじゃ)」という乾燥の邪気が1年で最も盛んになり、「肺」がダメージを受けやすい季節です。中医学の「肺」は、空気に触れる部分のことを指すので、鼻・のど・気管支・肺などの呼吸器系のほか、皮膚も含まれます。

秋の乾燥はさらに、夏の暑さの残る「温燥(おんそう)」の時期と、冬の寒さに向かう「涼燥(りょうそう)」の時期に分けられ、それぞれに合った食養生・漢方薬があります。

夏から秋への移り変わり期間は「温燥」の時期なので、身体にこもった熱をさましながら、空気の乾燥と夏の発汗で失った潤いを補うことがポイントとなります。また、夏の間に弱らせた脾胃(消化器系)の働きを回復させることも大切です。

「梨」はこもった熱を冷まし、潤いを補う
この時期の旬の果物のひとつに梨があります。梨は、潤いを補って乾燥を癒し、こもった熱を冷ます作用があることから、「涼燥」の今の時期にとても適した食材です。
『中医飲食営養学(上海科学技術出版社)』には、梨の効能は以下のように記載されています。

・梨 《名医別録》
【別名】 快果
【性味・帰経】 甘・微酸、涼。 肺・胃経。
【効能】 生津、潤燥、清熱、化痰。
【使用注意】 脾虚便溏、および、寒嗽しているものは食べないこと。(慢性的な胃腸虚弱による下痢があるもの、および、冷えて咳がでるもの、サラサラした水っぽい鼻水や痰がよくでるものは、食べないこと)(※かっこ内は中垣の意訳ですので参考までに)

涼性で清熱作用があることから、胃腸が弱っている人、冷え性の人は、控えめにすると無難でしょう。
また、脾胃が弱っている人は、生冷飲食・肥甘厚味・刺激物(唐辛子などの刺激のつよい香辛料・コーヒー・アルコールなど)を避けて、火を通して温かい状態で食べましょう。

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参考文献:

  • 小金井信宏『中医学ってなんだろう(1)人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年
  • 戴毅(監修)、淺野周(翻訳)、印会河(主編)、張伯訥(副主編)『全訳 中医基礎理論』たにぐち書店 2000年
  • 関口善太『やさしい中医学入門』東洋学術出版社 1993年
  • 王新華(編著)、川合重孝(訳)『基礎中医学』たにぐち書店 1990年
  • 平馬直樹、兵頭明、路京華、劉公望『中医学の基礎』東洋学術出版社 1995年
  • 翁維健(主編)『中医飲食営養学』上海科学技術出版社 2014年
  • 平馬直樹(監修)、浅川要(監修)、辰巳洋(監修)『オールカラー版 基本としくみがよくわかる東洋医学の教科書』ナツメ社 2014年

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、医学気功整体師、国際中医薬膳師、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。
薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。
恵泉女学園、東京薬科大学薬学部を卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学にて中国研修、国立北京中医薬大学日本校などで中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/

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