”漢方”に強くなる! まるわかり中医学 公開日:2015.09.22更新日:2023.02.28 ”漢方”に強くなる! まるわかり中医学

西洋医学とは異なる理論で処方される漢方薬。患者さんから漢方薬について聞かれて、困った経験のある薬剤師さんもいるのでは? このコラムでは、薬剤師・国際中医師である中垣亜希子先生に中医学を基本から解説していただきます。基礎を学んで、漢方に強くなりましょう!

第5回 中医学3つの特徴(後編)

特徴2:『整体観(せいたいかん)』~心身全体と自然界の気候風土との調和~

西洋医学は病気そのものや、病気が起きている臓器などに対して点的な見方をします。一方、中医学では人体を構成する各部分はつながり、生理的にも病理的にも、すべてが相互に影響し合っていると考えます。また、心を含む身体全体のバランスを診て整えることに重きをおきます。

さらに、人体と住環境、季節や気候といった自然界の変化は、相互に関連しあって統一体をなしていると考えます。
中医学では、(1)人体の中(内環境)、(2)人体と自然界(外環境)、この両方を良い方向に調和させることを基本としており、これを「整体観」といいます。「整体」とは、「全体性・統一性」を意味します。

中医学には「心身一如(しんしんいちにょ)」という有名な言葉があります。これは「心と身体はひとつ」という意味で、私の大好きな言葉です。「病気」は「気を病む」と書くように、心の不調は身体におよびますし、身体の不調は精神におよびます。
中医学を学び始めた頃、恩師である中医師の先生に「本当の医療は薬で治すのではなく、言葉で治すこと」と教わりました。まさに、「医は仁術」ですよね。

季節・体・心は相互に関連しあっています。

特徴3:『弁証論治(べんしょうろんち)』~中医学はオーダーメイド医療である~

中医学では、「弁証論治」という理論的方法を用い、患者さん一人ひとりの「証(しょう)」を見極めて治療します。

弁証(べんしょう)とは

患者さんの症状や体調など、全身のさまざまな情報を、必要な弁証法を用いて分析し、「証」を定めます。「証」とは、「体質・病の本質」を指し、症状が表れた根本原因のことをいいます。弁証法は図のようにいくつかの方法があり、その時々に合わせて必要な弁証法を組み合わせて、弁証します。

例えば、
・爪がもろい
・髪が乾燥してパサつく
・眠りが浅く、よく夢を見る
・乾燥肌
・ドライアイ
・手足のしびれ
・足がつる
・眼の下の痙攣
・唇や舌が白っぽい
・立ちくらみ
・月経出血量が少ない
・月経周期が遅れる
などの症状を分析すると、「肝血虚証(かんけっきょしょう)」となります。

中医学でいう「肝(かん)」は「血(けつ)」を貯蔵し、筋・爪・目と深い関係にあり、自律神経系の調節・精神情緒系の安定をつかさどっています。
肝に貯蔵されるべき血液が減少すると、身体全体に血液が行き届かず細胞に栄養が与えられないため、全身の乾燥感や月経のトラブル、筋肉の痙攣、肝と関わりのある腱の伸び(足のつり)、爪や目のトラブルが同時に起きてきます。特に女性は、毎月の月経で大量の血を失うため、血虚証になりやすい傾向にあります。

・論治(ろんち)とは

「論治」とは、弁証によって決定した「証」に基づいて治療法を論じ、治療するという意味です。

上の例では、「補益肝血(ほえきかんけつ):肝に貯蔵される血液を補う」が治療法になり、「四物湯(しもつとう)」などの漢方薬が処方されます。一つひとつの症状に対して治療せずとも、すべての根本原因である証を治せば、表面の症状はすべて治っていきます。

西洋医学では症状に対して薬を処方するため、症状を訴えれば訴えるほど薬が増える傾向にあります。しかし中医学では「気・血・津液(き・けつ・しんえき)」や「五臓六腑(ごぞうろっぷ)」のバランスを整え、足りないものを補い、余ったものを捨てる方法で薬を選ぶので、1つの薬で同時にさまざまな症状が治ることがよくあります。

次回は、弁証論治のうち、患者さんから全身の情報収集を行う「四診(ししん)」について詳しくお話します。

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、医学気功整体師、国際中医薬膳師、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。
薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。
恵泉女学園、東京薬科大学薬学部を卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学にて中国研修、国立北京中医薬大学日本校などで中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/

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