映画・ドラマ

映画・ドラマ

「たまには仕事に関連する映画を見てみようかな」と感じたことはありませんか? 医療や病気に関する映画・ドラマ作品は数多くありますが、いざとなるとどんな作品を見ればいいのか、迷ってしまう人もいるのでは。このコラムでは北品川藤クリニック院長・石原藤樹先生と看護師ライターの坂口千絵さんが、「医療者」としての目線で映画・ドラマをご紹介します。

vol.33「第三の男」(1949年・イギリス)

終戦直後、米英仏ソ4か国の分割管理下にあったウィーン。親友のハリー・ライムに呼ばれてやってきたアメリカの西部小説作家は、当人の訃報を知らされる。ところが、埋葬にまで立ちあった親友が実は生きていることを知り、粗悪なペニシリンの密売という犯罪に巻き込まれていく。白と黒の光と影がリズミカルに躍動する映像美、アントン・カラスがツィターひとつで即興的に演奏した音楽はドラマと一体になり、感情に訴えかける。映画史に残るフィルム・ノワールの傑作。

―終戦直後のウィーンを活写したモノクロ映画の名作―

 

今日ご紹介するのは、終戦直後のウィーンを舞台に、混乱した時代ならではの犯罪と恋愛模様を描いた名作『第三の男』です。文豪グレアム・グリーンがオリジナルの台本(後に小説化)を書き、イギリスの名匠キャロル・リードがメガホンを取ったこの作品は、若き日のオーソン・ウェルズの印象的な登場や、映画史に残るラストシーンでも話題になりました。

 

アメリカの大衆小説作家のホリー・マーティン(ジョセフ・コットン)は、昔からの友人であるハリー・ライム(オーソン・ウェルズ)を訪ねて、敗戦で4カ国統治下のウィーンに入ります。しかし、そのハリーは自動車事故で死亡したと告げられます。ハリーの葬儀で、彼の恋人のアンナ(アリダ・ヴァリ)やハリーの事故の現場に立ち会ったという得体の知れない男と出会いますが、事故には不審な点が多く、イギリス軍の捜査当局も興味を示しているようです。ホリーはハリーが殺されたのではないかと疑い、独自に調査を始めますが、そこには戦争が重く影を落とす悲劇が待っていました。

 

これは1940年代を代表するモノクロ・スタンダード映画の1本で、光と影が織りなすモノクロならではの映像美が素晴らしく、ハリー・ライムの闇からの登場や、観覧車の場面、下水道の追跡劇、墓地の並木道のラストまで、一度観たら忘れられない多くの名シーンが連続します。似たような場面を、おそらく他のドラマや映画などで見たことがあるという方は多いと思いますが、実は全てオリジナルはこの作品なのです。また、セット撮影や絵の背景も多いのですが、外の場面の多くは実際に当時のウィーンで撮影されていて、終戦から間もない風景が写し取られているという点でも貴重です。

 

内容的には、当時流行していたハードボイルドタッチのメロドラマなので、いま観ると古めかしい感じは否めないのですが、ハリー・ライムの複雑な性格描写や甘い感傷を拒絶したようなラストには、時代を超えた斬新さが光っています。

 

作品で取り上げられている犯罪は、当時感染症の特効薬であったペニシリンを、軍から盗み出して水で薄めた粗悪品として売りさばくというもので、これは実際の事件を元にしているようです。青カビから発見されたペニシリンが、注射薬として実用化されたのは1942年のことで、戦争中ということもあり、その使用はもっぱら兵士の治療に対してのものでした。一般に流通することの少なかったペニシリンを粗悪品にして売りさばくということが、あの時代において、いかに悪質な犯罪であったのかは、いま想像することはなかなか難しいかもしれません。

 

この映画のオーソン・ウェルズは脇役ですが、もう既に『市民ケーン』などで有名な監督でもあり、撮影を勝手に休むなど、現場では問題も多かったようです。観覧車の場面で「戦争は多くの発明を生んだが、スイスの平和は鳩時計しか生まなかった」という趣旨の有名な台詞を喋っていますが、これはウェルズのアドリブであったという逸話も残っています。そう思って観ると、ちょっと流れに沿わない台詞に感じますが、逆に重みが増します。

 

私自身はこの映画を、昔、有楽町にあった日劇の地下の映画館で、中学生のころに最初に観ています。もちろんリバイバルの公開ですが、当時はビデオもまだなく、有名な旧作の再公開が、結構頻繁に行われていたのです。ハリー・ライムの登場シーンやラストの印象は今でも覚えていますが、ストーリー自体は中学生には理解し難かったと思います。その魅力を理解できたのは、大人になってビデオで見返してからのことでした。

 

映画が文化として最も輝いていた時代の傑作で、今の映画にはない多くの魅力を含んでいます。長さも1時間40分くらいと手頃ですし、少しゆっくりできる週末などに鑑賞するにはぴったりだと思います。秋の夜長に、その贅沢で豊穣なモノクロの世界に、静かに浸ってみるのはいかがでしょうか。

 

 

石原 藤樹(いしはら ふじき)

1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科大学院卒業。医学博士。信州大学医学部老年内科助手を経て、心療内科、小児科を研修後、1998年より六号通り診療所所長。2015年より北品川藤クリニック院長。診療の傍ら、医療系ブログ「石原藤樹のブログ」をほぼ毎日更新。医療相談にも幅広く対応している。大学時代は映画と演劇漬け。

北品川藤クリニック:http://www.fuji-cl.jp/

ブログ:http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/

石原 藤樹(いしはら ふじき)

1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科大学院卒業。医学博士。信州大学医学部老年内科助手を経て、心療内科、小児科を研修後、1998年より六号通り診療所所長。2015年より北品川藤クリニック院長。診療の傍ら、医療系ブログ「石原藤樹のブログ」をほぼ毎日更新。医療相談にも幅広く対応している。大学時代は映画と演劇漬け。

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