映画・ドラマ

映画・ドラマ

「たまには仕事に関連する映画を見てみようかな」と感じたことはありませんか? 医療や病気に関する映画・ドラマ作品は数多くありますが、いざとなるとどんな作品を見ればいいのか、迷ってしまう人もいるのでは。このコラムでは北品川藤クリニック院長・石原藤樹先生と看護師ライターの坂口千絵さんが、「医療者」としての目線で映画・ドラマをご紹介します。

vol.29「8月の家族たち」(2013年・アメリカ)

父親が失踪したと知らされ、オクラホマの実家へ集まった三姉妹。真面目すぎて暴走しがちな長女バーバラ。ひとり地元に残り、秘密の恋をしている次女アイビー。自由奔放な三女カレン。家族や婚約者を連れて集まった彼らを迎えるのは、闘病中だが気が強く、率直で毒舌家の母バイオレットと、その妹家族。生活も思惑もバラバラな“家族たち”は、言わなくてもいい本音をぶつけあい、ありえない隠しごとの数々が明るみに――。 それぞれの秘密と告白、愛と裏切り。家族はひとつになれるのか?

―豪華キャストで描く家族の崩壊劇―

 

今日ご紹介するのは、豪華キャストで家族の葛藤を描いた2013年製作のアメリカ映画「8月の家族たち」です。原作はトレイシー・レッツによる同題の舞台劇で、映画化にあたって原作者自ら脚色に当たっています。2016年にはケラリーノ・サンドロヴィッチの演出で、日本版の舞台も上演されています。

 

アメリカ中西部の平原の中に、いかにもアメリカらしい邸宅があって、高名な詩人のベバリー(サム・シェパード)が色々と問題を抱えた妻のバイオレット(メリル・ストリープ)と2人きりで暮らしています。夫婦には3人の娘がいるのですが、それぞれの理由で今はその家にはいません。

 

そのベバリーが突然ネイティブアメリカンのお手伝いさんを雇うというところから物語は始まります。その直後にベバリーは失踪してしまい、長女のバーバラ(ジュリア・ロバーツ)と次女のアイビー(ジュリアンヌ・ニコルソン)、三女のカレン(ジュリエット・ルイス)というバイオレットの3人の娘と、その親族が一堂に会することになります。

 

離れていた家族は、それぞれの秘密や悩みを胸に秘めながら、表面的には久しぶりの再会に喜び合います。ところが、バイオレットはもともとエキセントリックな性格であるうえに、口腔がんの痛みのために鎮痛剤や向精神薬の薬物依存症にもなっていて、躁状態から集まった家族を挑発して罵倒し、その秘密を次々と暴露してしまうのです。家族そろっての食事の場は、一転して地獄のような罵り合いに変わり、そこから家族それぞれの愛憎の暴走が始まります。

 

この映画の魅力は何と言っても豪華な実力派のキャストの演技合戦です。メリル・ストリープとジュリア・ロバーツは初共演で、どちらも本作品で受賞は逃しましたがアカデミー賞にもノミネートされました。似通ったところのある母と娘の愛憎を、それぞれの持ち味を十分に活かして熱演を繰り広げています。長女の夫がユアン・マクレガー、頭の少し弱い青年にベネディクト・カンバーバッチと、ヒーローを演じる人気者が、弱い男を演じているのもまた面白いのです。次女のアイビーはドラマの要となる役で、ここには主にテレビドラマで活躍している、ジュリアンヌ・ニコルソンという女優さんがキャスティングされ、大女優に負けない、味のある芝居を見せています。

 

この映画のもうひとつの魅力は練り上げられた脚本にあります。本国ではコメディーととらえられていて、家族の罵倒合戦に笑える作品であるようなのですが、日本ではなかなかそうした見方は難しいと思います。ただ、次々と家族の秘密が明らかになり、それを取り繕おうとしてまたトラブルが…という展開には原作の舞台劇の妙味があり、特に意外性に富んだ後半は完成度が高く目が離せません。また、原作にはないラストの余韻は、風景を直接描くことのできる映画の強みが活きていると思います。

 

主人公のひとりであるバイオレットは口腔がんで放射線治療を受け、その後遺症の痛みのために、鎮痛剤や向精神薬の薬物依存になっているという設定です。大量の処方薬を隠し持ち、家族にはないと嘘を言って、こっそり飲むことを繰り返しているのです。アメリカではこうした鎮痛薬や向精神薬の薬物依存が、大きな問題となっていることは、文献などでは知っていましたが、フィクションとは言え、生々しいその現実を突きつけられるような思いがしました。劇中では長女が医療機関に怒鳴り込み、薬の瓶を医師に投げつけて、「お前のせいだ」と罵る場面もあり、医師のひとりとして、とてもつらい思いがありました。

 

日本でもこうした薬物依存は大きな問題となりつつあります。処方の現場で「これはおかしい」と思うことが、薬剤師さんにはしばしばあるのではないかと思います。この映画を見て、薬局からの疑義照会の際には、より慎重に対応しようと、あらためて思いました。

 

原作が舞台劇なので、複雑なニュアンスの台詞が多く、その点では少し鑑賞のハードルが高いのですが、大女優2人の丁々発止のやり取りはすばらしく、内容もひねりがあって面白い作品だと思います。薬物依存の問題についてもしっかり描かれていますし、時間のある週末などに、じっくりと味わってみるのはいかがでしょうか。鑑賞後には家族や身近な人に、いつもより少し本音で話せるようになっているかもしれません。

 

 

石原 藤樹(いしはら ふじき)

1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科大学院卒業。医学博士。信州大学医学部老年内科助手を経て、心療内科、小児科を研修後、1998年より六号通り診療所所長。2015年より北品川藤クリニック院長。診療の傍ら、医療系ブログ「石原藤樹のブログ」をほぼ毎日更新。医療相談にも幅広く対応している。大学時代は映画と演劇漬け。

北品川藤クリニック:http://www.fuji-cl.jp/

ブログ:http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/

石原 藤樹(いしはら ふじき)

1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科大学院卒業。医学博士。信州大学医学部老年内科助手を経て、心療内科、小児科を研修後、1998年より六号通り診療所所長。2015年より北品川藤クリニック院長。診療の傍ら、医療系ブログ「石原藤樹のブログ」をほぼ毎日更新。医療相談にも幅広く対応している。大学時代は映画と演劇漬け。

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