映画・ドラマ

公開日:2017.08.29更新日:2017.08.21 映画・ドラマ

「たまには仕事に関連する映画を見てみようかな」と感じたことはありませんか? 医療や病気に関する映画・ドラマ作品は数多くありますが、いざとなるとどんな作品を見ればいいのか、迷ってしまう人もいるのでは。このコラムでは北品川藤クリニック院長・石原藤樹先生と看護師ライターの坂口千絵さんが、「医療者」としての目線で映画・ドラマをご紹介します。

vol.18「きっと、星のせいじゃない。」(2014年・アメリカ)

17歳のヘイゼルは、末期のガン患者。今は薬のおかげで深刻な状態を免れているが、どこへ行くにも酸素ボンべが必要で学校にも通えず、友人もできず、毎日同じ本ばかり読んでいる。両親を心配させないために出席した大嫌いなガン患者の集会で骨肉腫を克服したオーガスタス(ガス)と知り合う。18歳のガスはクールなヘイゼルに一目で恋に落ち、ユーモアのセンスが似ていた2人は間もなく惹かれあう。ある日、ガスからヘーゼルへ最高のサプライズが贈られる。なんと彼女が敬愛する作家と会えることになったのだ。2人は作家に会おうとオランダへ旅行に出るが……。

―小児がんの少女のかけがえのない恋の物語―

 

今日ご紹介するのは、17歳の小児がんの少女の恋の顛末を描いた、感動的な青春映画「きっと、星のせいじゃない。」です。ベストセラー小説を原作とした脚本は非常に練り上げられていて、単なる難病ものには終わっていません。基本的には青少年向けの映画ですが、全ての年齢層の方の鑑賞に堪える作品だと思います。

 

主人公は、13歳の時に進行した甲状腺がんと診断されたヘイゼルという少女。がんは切除され、放射線治療も行われましたが、肺に再発し肺水腫を起こします。抗がん剤の新薬が著効して、いったんは小康状態になりますが、いつ薬の効果がなくなるかはわかりません。呼吸機能が低下していて、携帯用の酸素ボンベも不可欠です。彼女はそれでも必死に毎日を生きていますが、集中治療室で死にかけた時に、母親がもらした「もう母親であることをやめたい」というひと言が心の傷になり、本当の意味で両親にも心を開くことができないままでいます。

 

そんなある日、いやいや参加していたがん患者の自助グループの会合で、骨肉腫で右足を切断したオーガスタス(ガス)という少年に出会います。ポジティブなガスにヘイゼルはすぐに心を惹かれますが、自分の命がどこまであるかわからないという引け目から、なかなかもう一歩を踏み出すことができません。

 

物語は、ヘイゼルが愛読していた小説を、ガスも読んだことで転機を迎えます。やはり小児がんの少女を描いた未完の小説で、作者とのやりとりから、2人が物語の続きを聞きに作者がいるオランダまで旅をする、というロマンチックな展開を迎えます。2人が向かうオランダには何が待っているのでしょうか。

 

作品は主人公の少女の語りから始まり、彼女自身のナレーションで、彼女の思い出が物語のように提示されます。そして、そこで語られる物語の中にも、入れ子のようにがんの少女を主人公にした小説が登場します。こうした語り口が非常に巧みなので、観客は素直に主人公に感情移入して、一緒に喜び、そして悲しむことができるのです。
主人公とその恋人を演じた若い俳優の、等身大のフレッシュな演技が好ましく、主人公の母親にローラ・ダーン、小説家にウィレム・デフォーという演技派のベテランを配して、物語に奥行きを持たせている点もさすがだと思います。

 

作品中のがん治療の描写などは、かなりリアルにできています。主人公が罹患する進行した甲状腺がんの場合、甲状腺は全摘され、その後で放射性ヨウ素のアブレーションといって、大量の放射性ヨウ素剤による治療が行われるのが通常です。
それで再発がなければ良いのですが、仮に再発すると確実な手立てはないのが実際のところ。映画では肺に多発性のがんが再発し、それに対して分子標的薬が使用されて著効した、という経過のようです。分子標的薬による治療は、病状を抑える効果はあっても、それがいつまでも続くという保証はありません。そのことが主人公にもわかっているので、自分の人生について、哲学的に考えざるを得ないのです。

 

医療サービスについてもリアルに描かれています。両親の子供に対する愛情のあり方や、医療費負担の問題などは、日本の実情とは少し異なる面もあるように思いますが、本質的な部分では大きな違いはないように感じました。登場人物が亡くなる直前にもやつれている様子がまるでなかったり、主人公が24時間鼻からの酸素吸入をしているのに、そのチューブの跡が皮膚についていなかったりと、違和感のある描写はあるのですが、これは青少年向けの映画なので生々しさは避けたのかもしれません。

 

きれいごとは青春映画にはつきものですが、人間が愛し合うことの純粋な素晴らしさが描かれているので、そうした枝葉末節はどうでも良いことのように思えます。特に登場人物のある秘密が明かされる瞬間の、胸を突くような切なさと、愛の営みの崇高なまでの美しさは、「愛」というものの価値を作り手が本当に信じているからこそ、描けた世界だと思います。

 

がんの中でも小児がんは深刻なもので、たとえ医者でも、体験したことがない者が「患者さんやそのご家族の心がわかる」などと軽率なことはとても言えません。しかし、人間にとって想像力というのは大きな武器ですので、思いをはせて心に近づくことはできます。この映画は、そこに至る大きなきっかけを与えてくれるような気がします。
あなたが大切に思う人と一緒に、そばにいなければその人を思い浮かべながら、この素敵な主人公たちと束の間一緒に生きてみてはいかがでしょうか?

 

石原 藤樹(いしはら ふじき)

1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科大学院卒業。医学博士。信州大学医学部老年内科助手を経て、心療内科、小児科を研修後、1998年より六号通り診療所所長。2015年より北品川藤クリニック院長。診療の傍ら、医療系ブログ「石原藤樹のブログ」をほぼ毎日更新。医療相談にも幅広く対応している。大学時代は映画と演劇漬け。

北品川藤クリニック:http://www.fuji-cl.jp/

ブログ:http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/

石原 藤樹(いしはら ふじき)

1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科大学院卒業。医学博士。信州大学医学部老年内科助手を経て、心療内科、小児科を研修後、1998年より六号通り診療所所長。2015年より北品川藤クリニック院長。診療の傍ら、医療系ブログ「石原藤樹のブログ」をほぼ毎日更新。医療相談にも幅広く対応している。大学時代は映画と演劇漬け。

北品川藤クリニック:http://www.fuji-cl.jp/

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