”漢方”に強くなる! まるわかり中医学 更新日:2023.02.28公開日:2018.06.28 ”漢方”に強くなる! まるわかり中医学

西洋医学とは異なる理論で処方される漢方薬。患者さんから漢方薬について聞かれて、困った経験のある薬剤師さんもいるのでは? このコラムでは、薬剤師・国際中医師である中垣亜希子先生に中医学を基本から解説していただきます。基礎を学んで、漢方に強くなりましょう!

第34回 人体を作る気・血・津液とは(2)気の働き

前回より、いよいよリアルな人体についてのお話~気・血・津液(き・けつ・しんえき)について~が始まりました。前回は、気血津液の概念・イメージについてお話しました。今回は、「気の働き」についてお話しします。

人体の気の作られ方

人間はそもそも気が集まってできています。気は通常以下の3つを材料にして作られています。

  1. 1.父母からもらった先天の精気
  2. 2.飲食物(水穀)から得た水穀の精気、あるいは穀気とも
  3. 3.自然界の清気(酸素)

1.は腎、2.は脾・胃、3.は肺などの生理作用によって作られます。
細かい内容は今後順を追ってお話ししますので、なんとなく頭に入れておいてください。

気には5つの働きがある

気はおおまかに5つの働き(作用)があります。5つ合わせて気のイメージととらえてくださいね

(1)生理活動を促進する 【推動作用(すいどうさよう)】

「推動(すいどう)」とは、「推し動かす」こと。「推進する・促進する・前進させる」といった意味があります。
推し動かす対象は、「1.人体のすべての代謝」と「2.生長・発育」です。気の「推動作用」は、とても大きな概念です。

「1.人体のすべての代謝」を「推し動かす」とは、気が全身(臓腑・組織・器官など)の生理活動・代謝を促進し、血脈や経絡の流れを推進していることをいいます。人間は気が集まってできており、人間の生命現象は気が動くことによって維持・促進されます。

例えば、無形(陽)の気が、有形(陰)の血や津液の中に宿って推し流すことで、血は循環し、津液は必要な場所に行き届き、不必要な水分は排出されます。血や津液はそれ自体、単体では動くことはできませんが、気が動力となって隅々にまで流れることができるのです。

そのほか、デンプンが唾液中の酵素によって分解される、吸い込んだ酸素が肺で心臓から押し出された静脈血に渡されて動脈血になる……など、ありとあらゆる生理活動・代謝は、気の推動作用であると中医学では考えます。
この気の推動作用が弱まると、臓腑・経絡の生理活動が低下して、血や津液がうまく作られなかったり(血虚や津液不足)、流れが悪くなったりして血液循環障害や水の停滞(血瘀や湿邪など)を引き起こしてしまいます。

また、気は「2.人間の生長・発育」を推し動かします。人間の一生を五行にあてはめると、「生・長・壮・老・死」となりますが、「生まれて、成長して、体力盛んな年ごろになり、老いて、死ぬ」、この一連の人生の流れを動かしているのが気であるという考え方です。
この気の推動作用が弱ると、身体の生長・発育に影響したり、老化が速まったりしてしまいます。

(2)からだを温める 【温煦作用(おんくさよう)】

「温煦(おんく)」とは、「温める」といった意味です。
気は温性が強く、体を温めて体温を一定の高さに保つ働きがあります。また、臓器・組織を温めてそれらの活動を促進します。活動性は冷えると低下し、温まると向上するように、人間の体は冷えると正常に機能しません。内臓や組織の活動も悪くなり、血の循環や津液の代謝(水分代謝)も滞ります。現代人に増えている低体温症などは気の不足ととらえることもできます。(1)の推動作用に比べて、狭い概念です。

(3)邪気から体を守る【防御作用(ぼうぎょさよう)】

気の「防御作用」とは読んで字のごとく防御することですが、防御には「バリアーのように体表を保護して邪気の侵入を食い止める」「邪気と戦って追い出す」の2つの意味があります。

1つ目は、邪気から攻め入られないよう、バリアーのように体を守る働きです。
例えば、「衛気(えき)」という種類の気は、体表をバリアーのように保護し、気候や気圧の変化・細菌やウィルスなどの外界からの邪気(外邪)から人体全体を守り、外邪の侵入を防いでくれています。内臓でも同様に、胃には胃の防衛の気があることで、胃が邪気に侵されないように守られています。

2つ目は、病邪と戦って追い出す働きです。
「邪気が集まるところは、そこの正気が必ず虚している(邪之所湊、其気必虚)」という有名な言葉が、中医学の古典医学書『黄帝内経・素問』にあります。
そもそも、気が充実していれば、邪気がつけいる隙はないのですが、気が弱っているとその隙をついて邪気が侵します。気の防衛作用が弱まると、身体の抵抗力も同じように弱って病気にかかりやすくなるのです。ただ、少し気が弱っているだけなら気は邪気と戦って邪気を追い出してくれます。

(4)体液や内臓をあるべき場所に保持する 【固摂作用(こせつさよう)】

気の固摂作用とは、体にとって必要なものを、あるべき場所にしっかり保持することをいいます。固摂の対象となるものは主に2種類あり、1つは体液、もう1つは内臓です。

まず、1つ目の体液ですが、人間の体には、血液・汗・大便・小便・唾液・精液・帯下(おりもの)……など、さまざまな体液があります。例えば、血液は血管の中にちゃんといて、血管の外へ漏れ出ないようにしなければなりません。それぞれの液体が本来の居場所から外れて、必要以上に体外へ流出してしまうと、人は病気になります。液体を保持してあるべき場所に留め、分泌量をコントロールして無駄な流出を防いでいるのも気の固摂作用です。

もう1つの内臓ですが、内臓もあるべき場所は決まっています。ふつうなら重力に負けてすべて下に垂れ下がりそうですが、内臓の位置が決まっていて変わらないのは気の固摂作用である、と中医学では考えます。気の固摂作用が弱まって、内臓があるべき位置から外れてしまうと、例えば、胃が垂れ下がり過ぎてしまう(胃下垂)、子宮が下がり過ぎてしまう(子宮下垂)、あるいは遊走腎などの症状が現れます。また、胎児も固摂の対象のひとつです。

(5)気が運動することによって変化を起こす 【気化作用(きかさよう)】

中医学での「気化」とは「気が働きかけて変化する」こと。
先ほどの推動でもお話ししました代謝すべてが、気化作用によるものです。
例えば、ご飯などのデンプンに唾液中の酵素が働きかけてブドウ糖に変化することも気化作用ですし、津液が代謝によって汗や尿に変化することも気化作用です。のちのち、お話ししますが、血の一部分が必要に応じて精に作り変えられるのも気化作用です。

気化作用の一部分が推動作用で、「推し動かしている視点」が推動作用、「変わる前と変わった後の違いに視点を当てている」のが気化作用です。気化作用は非常に大きな概念です。

正常な気の流れ方=「昇降出入(しょうこうしゅつにゅう)」

気は人体を構成する「物質」であると同時に、「活動性や運動性をもったエネルギー」でもあります。

人体のさまざまな生理活動は、気の活動が中心となっておこなわれています。この正常な気の活動形式(流れ方)のことを「気機(きき)」と呼びます。そして、気は昇降出入、つまり「昇ったり降りたり、出たり入ったり」しています。
昇・降とは「上⇔下の運動」を、出・入とは「表(体表)⇔裏(内臓)の運動」を表します。

気は、「昇降」の運動で頭のてっぺんから足のつま先まで、「出入」の運動で皮膚(表)だけでなく内臓・骨(裏)まで、全身の組織・器官・細胞までくまなく行きわたらなければなりません。人間の気は絶えず昇ったり降りたり、出たり入ったりを続けることで、「上下」「内外」のバランスをとっています。

昇降出入のバランスの崩れ=気機失調(ききしっちょう)

気の昇降出入運動のバランスがとれていることを「気機調暢(ききちょうちょう)」といいます。(「調暢」とはスムーズに流れること)

それに対して、昇降出入のバランスが崩れることを「気機失調」といいます。気機失調には、以下のようなタイプがあります。

気機不暢(ききふちょう) なんらかの原因で気の昇降出入が障害された状態
気滞(きたい) 局部の気が滞って障害された状態
昇降の
トラブル
気逆(きぎゃく) 気の上昇が激しく、下降が不足する状態
気陥(きかん) 気の上昇が不足して、下降が激しい状態
出入の
トラブル
気脱(きだつ) 気を体内に留めておけず抜け出てしまう状態
気結(きけつ) 気が体表に発散できず、体内で凝り固まってしまう状態
程度の重いものは「気閉(きへい)」という。

次回は、体をつくる気・血・津液とは(3)気の分類についてお話しします。お楽しみに~!

読んでなるほど 中医学豆知識
梅雨から夏は、身体の中も湿気対策を! 脾胃は身体の中心軸!

梅雨から夏にかけて、特に梅雨は、一年の中で最も湿気の多い時期。個人のキャパシティを超えた湿気は、「気」ではなくて「邪」=「湿邪(しつじゃ)」となってしまいます。この湿邪に人体が侵されると、体が重たくだるくなり、眠くなります。

湿邪が頭にいくと「頭重(頭痛ではなく重たい感じ)・めまい」、手足にいくと「手足の重くてだるい感じ」、胃腸に湿邪がいくと「胃もたれ・吐き気・口の中の粘つき」、そのほか、各部位のむくみ、などの症状があらわれます。

もともと、日本は一年通して湿度が高く、レストランでは氷入りの水が出され、生魚や生野菜などの冷たい食を好んで食べる習慣があります。さらには過剰なストレスなど、多くの日本人は脾胃(消化器系)を無意識のうちに痛めつけ、知らず知らずのうちに負担をかけてしまっています。
加えて、梅雨になると湿邪がますます脾胃の働きを妨げます。「冷えは万病の元」という言葉がありますが、決しておおげさなことではないのでしょう。

次回お話しする「ヨクイニン」は、脾胃の働きを助け、水分代謝を助けて湿邪を追い出すのに最適な食材・中薬です。脾胃が弱い・湿邪がたまりやすいという自覚のある方は、この梅雨から夏の湿気の多い時期にいつもに増して意識して食べるとよいでしょう。

とは言いながらも、養生は、「した方がいいことをする」よりも、「してはいけないことを徹底的にしないこと」が大切です。手っ取り早く改善に向かいます。まず、口に入れて冷たいと少しでも感じるものは避けましょう。中医学を学んだ人は、常温ですら場合によっては避けます。常温の水を口に含んで「冷たい」と感じるなら、それは「自分にとっては冷たい」からです。

私は、自分の深部体温よりもちょっと温かめ、だいたいお風呂の温度くらいを目安にして飲食しています。常温の果物も、電子レンジで数十秒ぬるく温めていただきます。(まずくならない程度に!)なんとなく冷たい飲食をしがちでしたら、自分の身体の声に耳を傾けてみてください。温かいものをとると、お腹がホッとするかもしれませんよ。

>>病気の母の付き添いと治療費のため転職した薬剤師の話を読む

参考文献:

  • 小金井信宏『中医学ってなんだろう①人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年
  • 戴毅(監修)、淺野周(翻訳)、印会河(主編)、張伯訥(副主編)『全訳 中医基礎理論』たにぐち書店 2000年
  • 関口善太『やさしい中医学入門』東洋学術出版社 1993年
  • 王新華(編著)、川合重孝(訳)『基礎中医学』たにぐち書店 1990年
  • 平馬直樹、兵頭明、路京華、劉公望『中医学の基礎』東洋学術出版社 1995年
  • 王財源『わかりやすい臨床中医臓腑学』医歯薬出版株式会社 1999年
  • 凌一揆(主編)、顔正華(副主編)『高等医薬院校教材 中薬学』上海科学技術出版社 2014年
  • 神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社 2004年

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、医学気功整体師、国際中医薬膳師、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。
薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。
恵泉女学園、東京薬科大学薬学部を卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学にて中国研修、国立北京中医薬大学日本校などで中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/

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