聞きたい!薬局実務裏ワザ 聞きたい!薬局実務裏ワザ

第80回 道下 太英子先生

薬局にも個の医療を提供する時代がやってきた!?
遺伝子検査を通し、患者さん一人ひとりに適した最良の薬物療法、運動療法、食事療法を提供できる薬局を目指す「ハーティ薬局」。
今回は、ハーティ薬局を経営する女性薬剤師、道下太英子社長に薬局と遺伝子検査のコラボレーションによる患者さんへの新しい服薬指導の在り方についてうかがいました。
原稿/高垣育(薬剤師・ライター)

Q
遺伝子を調べることにはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
個人に合った安全で効率的な治療ができるが、情報管理に注意が必要
個人に合った安全で効率的な治療ができるが、情報管理に注意が必要
NAT2遺伝子を調べてほしい―結核診療に携わる医師からの分析依頼

 

現在、弊社で「おくすり遺伝子検査キット」として取り扱っている商品は「MRHFR遺伝子」「CYP2C19遺伝子」「NAT2遺伝子」の3種類のキットです。薬局での取り扱いはまだしておらず、医療機関からの依頼を受けて検査を実施してします。
実際にどのように活用されているのか、NAT2遺伝子キットの事例をご紹介しましょう。

 

NAT2は、N-アセチル化転移酵素2(N-acetyltransferases 2)の略称で、抗リウマチ薬のサラゾスルファピリジン、抗結核薬イソニアジド、抗てんかん薬のクロナゼパム、不整脈治療薬のプロカインアミド、睡眠薬のニトラゼパム、降圧剤のヒドララジン、抗菌剤のスルファメトキサゾールなどの薬剤の代謝に関わっています。
依頼があったのは、当時広島赤十字原爆病院の院長をされていた土肥先生からでした。「結核治療で使うイソニアジドの薬物代謝酵素のNA2遺伝子検査を調べてほしい」と言われ、結核患者の発症数に驚いた記憶があります。

 

ご存知の通り、イソニアジドの代謝にはNAT2が関与しているのですが、NAT2には遺伝子多型があり、どの型を持っているかによって副作用の発現に大きな個体差があります。弊社では、イソニアジドが早く代謝され血中濃度がすぐ低くなってしまうRAタイプ、イソニアジドの血中濃度が比較的高濃度のまま維持されているSAのタイプ、RAとSAの中間のIAタイプ、いずれのタイプに分類されるのかを調べ、RAの場合は薬を変えるなど医療機関にフィードバックし、治療に役立てて頂いています。特に小児科から依頼があると、非常にやりがいを感じます。

 

現在取り扱っているおくすり遺伝子検査キットは先ほども述べた通り3種類。広く遺伝子を調べて、一気に結果をまとめて出すようなことをすることは技術的にはできるのですが、そういったサービスを現在は提供していません。その理由は3つあります。1つは、受け皿がないことや、現場が混乱すると考えるためです。2つ目、薬は、年齢や性別、併用薬や腎障害などの様々な要因を考慮し、処方されているからです。
そして、3つ目は、まずは、副作用が重篤で、日本人における発生頻度が高いものにしぼりこむ必要があると考えているためです。
このように、遺伝子検査にはオーダーメイドのその人のためだけの医療を提供できるというメリットがある一方で、デメリットもあります。

 

遺伝子検査の3つの壁

 

先ほど述べたデメリットと少し通じるかもしれませんが、遺伝子検査を薬局に導入することの壁は大きく3つあります。
1つ目は、価格の壁です。検査キットは高価です。
一生のうち、一度検査を受けたらそれで終わりとはいえ、「DNA SLIM ダイエット遺伝子検査キット」は7290円、「DNA EXERCISE遺伝子分析キット」は7560円です。遺伝子検査というよく分からないものに、そこまでのお金を払う人はそう多くはありません。

では、どのようにして遺伝子検査に興味を持って頂き、健康に役立てていただくかというと、薬局店頭の薬剤師の接客を通してです。これが2つ目の壁です。すなわち、薬局のマンパワー不足という壁です。
来局される患者さんお一人ずつに、オーダーメイドの医療を提供しようと思ったら、本当なら1人ひとりに遺伝子検査のことを説明して、検査を受けて頂き、その結果に基づいて食事療法や運動療法をアドバイスしたほうが良いのですが、外来業務で忙しい現状があるため、運用は工夫する必要があります。

3つ目は、遺伝子の種類によっては本人の意識や努力によってリスクを変えることができないという壁です。
現在、私たちが提供しているキットは食事、運動、アルコールなどその人の努力で変えることができるものばかりです。例えば、アルコールキットを使うと、その方が飲酒により食道がんになりやすいかどうかリスクを知り、断酒することでがんのリスクを大幅に減らすことができます。

ところが、遺伝子検査の中には自分の意識変容では変えられないタイプの結果が出ることもあり、気軽に情報を開示すれば就職差別などにつながる恐れがあります。
このように、遺伝子検査を推進することにはデメリットもメリットもあります。ですから、双方をよく理解し、また、情報の取り扱いにも細やかな心配りをしたうえで、立ちはだかる壁を超えて、遺伝子検査を普及するための取り組みをしていく必要があると考えます。

 

>>薬剤師の仕事別平均年収などを見てみる

道下太英子先生プロフィール
イービーエス株式会社代表取締役社長。薬剤師。
「調剤薬局事業」と「遺伝子分析事業」が効果的に結びつくことで、一人ひとりの患者さんが安心して、自分自身の体質に基づいた薬を服用することができるテーラーメイド医療の確立を目指す。また、自分の体質を正確に把握することで、健康で快適な生活を一日でも長く続けるためのサービスの提供に尽力している。

<PR>満足度NO.1 薬剤師の転職サイト