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西洋医学とは異なる理論で処方される漢方薬。患者さんから漢方薬について聞かれて、困った経験のある薬剤師さんもいるのでは? このコラムでは、薬剤師・国際中医師である中垣亜希子先生に中医学を基本から解説していただきます。基礎を学んで、漢方に強くなりましょう!

第35回 人体を作る気・血・津液とは(3)気の種類

今まで繰り返しお話ししてきた「気」のひとつに、邪気に対義して用いられる「正気(せいき)」があります。正気は病邪に対する抵抗力で、ヒトの生命や健康を維持します。人体にとって必要な気・血・津液・精のうちどれが欠けても、正気は弱り抵抗力は落ちてしまいます。人体のあらゆる気は、ざっくり言えばすべて「正気」になりますが、色々な分類をして使い分けています。今回は、「気の種類」についてお話しします。

基本的な気の考え方は、アニミズム的な気

中医学ではすべてのものに気が宿っていると考えます。人体にもひとつひとつのパーツにまさにアニミズム的に気が宿っています。アニミズムとは、八百万の神々のように、山の神様、河の神様、トイレの神様、台所の神様……というように、すべてのものに霊魂、もしくは霊が宿るという考え方です。

人体の一番大きな気としては「鈴木さんの気」など人間全体の気があり、もう少し細かくみると、肝の気(肝気)、胆の気(胆気)、肺の気(肺気)、腎の気(腎気)、骨の気(骨気)…etc、一番小さな単位の気としては、細胞1個1個の気というように、大小どの単位で見ても気が宿っています。

1.臓腑の気

臓腑の気は、各臓腑が行う生理機能の活動源となるエネルギーのことで、先ほど例に挙げた、肝気・胆気・腎気などがこれに当たり、五臓六腑の各臓腑が持っています。例えば、脾がおこなう消化・吸収の機能は、脾気によって行われます。
また、臓腑全体の気としては、「五臓六腑の気」などと言い、臓腑全体の働きを表す言葉です。

2.経絡の気

経絡(けいらく:気血の通り道)の中を運行する気をまとめて「経気(けいき)」、「真気(しんき)」などと呼びます。経脈中を運ばれる営気・宗気・水穀の精気のほか、経脈自体の活動源となる気がこれに含まれます。

3.そのほかの特殊な気:「元気・宗気・営気・衛気(げんき・そうき・えいき・えき)」とは

1と2で示した臓腑・経絡・部位などアニミズム的に名づけられたこれらの気が、ごくごく基本となります。それらとは異なる特別な気が、これからお話しする4種類の気です。

「宗気・営気・衛気・元気」は、人体の生理活動を維持し活性化させる基礎物質としての「気」の種類です。便宜上ふりがなを付けましたが、もとが中国語の読みですから日本の音で厳密に正しいという読み方はありません。営気と衛気を区別するために、「営気」を「えいき」、「衛気」を「えき」と呼ぶことが多いようです。

人体を構成するこの4種類の気について、【つくられ方(何を原料として、どの臓器の作用によって生成されるか)】【分布・運行(主にいる場所・流れ方)】【主な働き・機能】についてお話しします!

元気(げんき)は、生命活動の原動力となる気

別名:原気・真気(経気の別名である真気とはまた違うものです)

【つくられ方】
腎中の精気(じんちゅうのせいき)から、気化作用によってつくられます。
腎中の精気(腎精)は、両親から受け継いだ「先天の精(せんてんのせい)」が元となり、それを「後天の精(こうてんのせい)」が培ったものです。

「後天の精」とは、飲食物を脾胃が消化・吸収することにより得たもの(水穀の精)を指します。
「先天の精」とは、両親から授かり、腎の中に貯蔵されるもの。この世に生まれ出てから、腎中の「先天の精」は「後天の精」を常に受けて補充されます。

古典医学書「景学全書」には、「最初に先天が不足していても、後天が養えば先天不足を補える。だから半分以上は後天である。このように脾胃の気は、人の生と相当な関係がある」という内容が書かれています。

【分布・運行】
元気は命門(めいもん・ここでいう命門は、右の腎=腎陽のこと※)で腎の精気よりつくられ、気の通り道である三焦(さんしょう)を通って全身に流れます。(『命門元気三焦系統理論』)

【主な働き・機能】
元気の生理機能は主に大まかに2つに分けて説明します。
・人の生長・発育・生殖(性機能)を促す
・臓腑・経絡など各組織・器官などを温めて、生理活動を維持・活性化させる。

元気は生命の原動力であり、最も基本的なエネルギーとされています。元気が旺盛なら、食欲・性欲などの根本的な欲求をもたらし、五臓六腑の働きも活発で、病気になりにくいと言えます。
先天あるいは後天の不足、慢性病による消耗などで、元気がうまく生成されなかったり、元気が消耗されたりすると、元気が減ってしまい、病気になりやすくなります。

宗気(そうき)は、心拍運動や呼吸運動を促進する気

【つくられ方】
宗気=自然界の清気水穀の精気

宗気は肺が自然界から呼吸で吸い込んだ「清気」と、脾胃が飲食物を消化・吸収することによってつくった「水穀の精気」とが結びついてつくられます。

【分布・運行】
胸の中。

宗気はつくられた後、胸中に集まって胸部にある臓器(心・肺)の働きに関与します。つまり、宗気は心と肺の両方にまたがる気のことをいいます。西洋医学でも心肺機能というように、中医学においても、心と肺は生理・病理ともにリンクしています。

【主な働き・機能】
宗気は5つの気の作用のうち、「推動作用」を特に強く示し、胸中から肺や心脈に注ぎ込んでそれらの機能を推動します。

宗気の生理機能は主に2つあります。
・肺の呼吸活動を補助する。「呼吸・発声・声色」の強弱は、宗気の強弱と関係します。
・心脈に作用して、気血を循環させる。
宗気によって心拍運動が促進され、体のすみずみまで気血が行き届いて各部位が正常に運動できます。手足の温度、脈拍の強さやリズムのほか、見る・聴く・言う・動くなどの様々な身体機能は宗気に支えられているため、「動気(どうき)」とも呼ばれます。

営気(えいき)は、血と一緒に脈中を流れている、栄養分に富んだ気

営気は栄養が豊富なので「栄気(えいき)」とも呼ばれます。

【つくられ方】
営気は、脾胃が飲食物から消化・吸収して得る水穀の精微の中のエッセンス部分(純度が高く、比較的豊かな栄養分を持つ気)からつくられます。

【分布・運行】
営気は血脈中に入って血の構成成分として脈中を循環することによって、全身を栄養しています。営気と血は一緒に脈中を流れていて、両者は密接な関係にあり、区別はできても分けられないため、「営血(えいけつ)」とも呼ばれます。

【主な働き】
営気の生理機能は主に2つあります。
・血を作り出す
営気は血の構成成分。営気がなければ、血はつくられません。
・栄養する
血液中の栄養分として、体中すみずみまで届けられます。臓腑や経絡などが生理活動するためには営血が必要です。

衛気(えき)は、防衛・体温・発汗を調節する気

【つくられ方】
脾胃が飲食物を消化・吸収して得た水穀の精微の中で、特に活発な性質を持つ気から作られます。

【分布・運行】
衛気は活動性が高く、激しく運動し、非常に速く流れる性質を持ちます。それゆえ、衛気は脈管に拘束されずに脈外を巡っており、外は皮膚、内は臓腑にいたるまで全身にくまなく分布しています。(衛気の運行には諸説あり。 )

【働き】
衛気は、5つの気の作用のうち、防御作用と温煦(おんく)作用を特に強く示し、体表における作用と、体内における作用があります。
衛気の生理機能は主に3つあります。

・体表を保護し、外邪の侵入を防ぐ。
・毛穴や汗腺の開閉をコントロールする。
汗の排出や体温を調節し、皮毛(ひもう:皮膚および体毛)を潤す。
・臓腑や筋肉・皮毛(皮膚および体毛)などを温め、その活動を活発にする。

営気と衛気はともに、水穀の精微からつくられます。
営気は、【水穀の精微からつくられる陰性の気(栄養分に富んだ部分)】である「水穀の精気(すいこくのせいき)」から生成され、
衛気は、【水穀の精微からつくられる陽性の気(動きがすばやい部分。)】である「水穀の悍気(すいこくのかんき)」から生成されるため、それぞれ巡行箇所にも陰陽の違いがあらわれます。

営気と衛気を比較すると、営気は血脈内を流れ、内を守るので陰に属すため「営陰(えいいん)」と呼ばれ、衛気は脈外を流れ外で防衛するので、営気と比較して陽に属すため「衛陽(えよう)」とも呼ばれます。

次回は、からだをつくる気・血・津液とは(4)血(けつ)についてお話しします。お楽しみに!

読んでなるほど 中医学豆知識
ハトムギはイボ取りのプロ!

ハトムギは、アミノ酸・ビタミン・ミネラルなどの栄養素を豊富に含むため、「穀物の王様」なんていう別名もあります。中薬学(生薬学を、中医学では中薬学という)では、「薏苡仁(ヨクイニン)」と呼ばれ、「イネ科ハトムギの種皮をむいた成熟種子」、つまり、茶色い殻をむいた中身の白い部分のことを指します。

「はと麦茶」など、お茶として飲まれるときは、主に茶色い殻の部分を焙じて香ばしくして使われているようです。
しかし、薬効があるのは、あくまでも中身の白い部分なんです。最近はドラッグストアなどでもヨクイニンの錠剤などを見かけるようになりました。
漢方薬局ではヨクイニンの生薬そのもの、ヨクイニンの粉末(生薬を粉砕して粉末状にしたもの)、ヨクイニンの錠剤・エキス顆粒などいろいろな種類があります。ヨクイニンは薬としても食としても両方にまたがる狭間的な存在で、薬膳の食材としても、漢方処方の構成員としても重宝されます。

メーカーによって、効能書きは少しずつ異なりますが、製品には、「いぼ、皮膚の荒れ」、「排膿、利尿、鎮痛作用がある。関節の浮腫、さめはだ、身体の疼痛(リュウマチ、神経痛)、いぼ」などの効能が書かれています。

中薬学的な効能としては、『中医臨床のための中薬学 医歯薬出版株式会社』には、以下のように書かれています。()内は、ご参考までに、私が中医学の専門用語を分かりやすく翻訳したものです。
性味:甘、淡/微寒 (すこし身体を冷やす作用があります)
帰経:脾・胃・肺 (脾胃は消化器系・肺は呼吸器系と皮膚などのこと)
効能:利水滲湿(水分代謝をよくして余分な水分の停滞を追い出す、
身体の水分を正しい場所に配分する)
健脾 (消化器系の働きを助ける)
除痹 (湿邪を取り除くことで身体の痛みやしびれを改善する)
清熱排膿 (熱を冷まし、膿を出す)

薬局の患者さんでヨクイニンをずっと食べている70代の女性は、透き通るような透明感のある肌をしていらして、継続は力だなぁとつくづく感じました。イボは、ヨクイニンをしつこく飽きずに摂取してとれることが多いです。皮膚科専門の女医さんも漢方薬局によく求めにいらっしゃいます。

また、白米ですら胃がもたれるほど脾胃が弱い人は、ハトムギを少し入れて炊くと、もたれにくくなることが多いようです。脾胃が弱く慢性的に下痢しがちなときによく用いる参苓白朮散(じんれいびゃくじゅつさん)という処方にもヨクイニンは配合されています。

ヨクイニンの白い実を、煎じて煎じたエキスを飲むだけでもよいのですが、それではもったいないので、白い実ごと食べてしまうのが個人的にはおすすめです。一晩水につけたヨクイニンを白米に混ぜて炊いてもいいですし、雑穀入りミネストローネのようにスープに入れるのもおすすめです。
老若男女問わず食べられますが、子宮収縮作用があることから、妊婦さんは控えた方が無難でしょう。

私は、しっかり洗ったヨクイニンを少し硬めに茹で、製氷皿に入れてブロック状に凍らせて保存したり、チャック付きのビニール袋に入れて保存したりしています。すぐに使えて便利!ですよ。

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参考文献:

  • 小金井信宏『中医学ってなんだろう①人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年
  • 戴毅(監修)、淺野周(翻訳)、印会河(主編)、張伯訥(副主編)『全訳 中医基礎理論』たにぐち書店 2000年
  • 関口善太『やさしい中医学入門』東洋学術出版社 1993年
  • 王新華(編著)、川合重孝(訳)『基礎中医学』たにぐち書店 1990年
  • 平馬直樹、兵頭明、路京華、劉公望『中医学の基礎』東洋学術出版社 1995年
  • 王財源『わかりやすい臨床中医臓腑学』医歯薬出版株式会社 1999年
  • 凌一揆(主編)、顔正華(副主編)『高等医薬院校教材 中薬学』上海科学技術出版社 2014年
  • 神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社 2004年
  • 中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社 1994年
  • 雛大同(編著)『臨床家のための中医腫瘍学』 東洋学術出版社 2016年
  • 劉正才/尤煥文(著)、山内浩(監訳)、上村澄夫/国府正英(訳)『中医免疫学入門』 東洋学術出版社 1993年

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、国際中医薬膳師、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。

薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。 東京薬科大学薬学部卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学、国立北京中医薬大学日本校にて中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS 猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/

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