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西洋医学とは異なる理論で処方される漢方薬。患者さんから漢方薬について聞かれて、困った経験のある薬剤師さんもいるのでは? このコラムでは、薬剤師・国際中医師である中垣亜希子先生に中医学を基本から解説していただきます。基礎を学んで、漢方に強くなりましょう!

第33回 人体を作る気・血・津液とは(1)はじめに

前回までは、五行学説の人体への応用について学びました。
今回より、いよいよリアルな人体についてのお話―気・血・津液(き・けつ・しんえき)について学んでゆきましょう!

そもそも気血津液ってなんのこと?

「お元気ですか?」に始まり、「気持ち」「気分」「気合」「気力」「空気」「天気」「気が短い」「気まずい」「気苦労」「気が弱い」などなど……。「気(き)」という言葉は、漢字文化をもつ日本人の間でも日常的によく使われる言葉です。「気」のイメージはまさに、これらの言葉からイメージされるもの、そのものになります。

古代中国の人は、「すべてのものは気からできている」と考えました。たとえば「天には天の気」が、「地には地の気」があるように、自然界にはいろいろな気があります。天気や夏の気は「陽気」に分類され、地気や冬の気は「陰気」に分類されます。さらに、第22回でお話しした、薬の効能を説明する四気五味の「四気(しき)」も薬物の気を分類する方法です。

中医学で学ぶ「気」は主に人体の気ですが、人体の気も世界(自然界・宇宙)の気の一部です。人体に関する「気」とは、「気力」という言葉からイメージされるように多分に精神的要素を含み、多くの人には目に見えず形もなく、でも確かにそこにある生命力(エネルギー)そのものを指します。

気には決まった形はなく、見ることはなかなか難しいですが、現象を通して「気」を感じることはできます。たとえば、活力にあふれ精神的にもエネルギッシュな人をみれば、元気だなぁと感じますし、「夏の気」は見えなくても自然界の変化をみれば、夏の気を感じることはできます。

「血(けつ)」とは、西洋医学の血液に相当するもの。ただ、中医学では、赤血球とか血小板とか細かく分けて考えません。実は、中医学用語をそのまま西洋医学用語に置き換えることは難しく、完全にイコールではありません。これは、血に限らず、すべての中医学用語に言えることで、中医学用語を無理矢理、西洋医学の用語に置き換える必要はありません。学ぶうちに少しずつ知識が蓄積されて、中医学用語の理解が深まってきます。血は脈中を循環し、全身に栄養を与えながら、精神を安定に保つ働きがあります。

「津液(しんえき)」とは、血液以外のすべての体液を指し、人体の正常な液体部分のことをいいます。涙、よだれ、胃液など、臓腑や組織器官にある体液や正常な分泌液を含みます。

陰陽でいうと、「気」は無形、つまり形が無いので「陽」に属します。「血と津液」は液体なので有形、つまり形があるので「陰」に属します。それゆえ、「気」を「陽気」と呼んだり、「血・津液・精(せい・今後お話しします)」をまとめて「陰液(いんえき)」と呼んだりします。

形のあるもの(有形=陰)のなかに、形のないもの(無形=陽)が宿っているのが、人間の生命現象です。

「陽(無形)」である気は、「陰(有形)」である血や津液の中に存在します。「陰(有形)」である血や津液は単独では動くことができませんが、その中に「陽(無形)」である気が動力として動くことで機能することができます。

気・血・津液は人体の生命活動にとって必要不可欠なものです。気血津液は、「眼で見る」「手を動かす」「歩く」などの肉体をつかった運動活動を支える根本物質であり、気と血は「思考」や「感情」などの精神活動を支える根本物質であるといえます。

臓腑・経絡などのあらゆる組織器官は、生命活動に必要なエネルギーを気・血・津液からもらっています。一方で、気・血・津液は、臓腑・経絡などの組織器官がきちんと働くことでつくりだされます。それゆえ、生理においても病理においても、気・血・津液と臓腑・経絡などの組織器官の間には深い因果関係があると言えます。

気血津液の原料となる『水穀の精微(すいこくのせいび)』とは

“水穀”の“水”とは液体としての飲食物のこと、”穀“とは固体としての飲食物のことを指し、あわせて「水穀=飲食物」を意味します。”精微“とは栄養素に相当するものです。この「水穀の精微」は、気・血・津液の“生成原料”となります。

気・血・津液の生成・代謝は主に「五臓六腑(ごぞうろっぷ)」でおこなわれます。気・血・津液が人体をつくり、生命活動を維持し活性化させる基礎的な物質であることを考えると、気・血・津液の生成・代謝に関わる臓腑の生理機能は非常に大切なことがわかります。五臓六腑のこまかな話は今後、蔵象学説などでお話ししてゆきますね。

次回は、からだをつくる気・血・津液とは(2)気の働きについてお話しします。お楽しみに!

読んでなるほど 中医学豆知識
知らず知らずに使っていた?!中医学の専門用語その1「元気」

朝鮮人参

「お元気ですか?」
私たち日本人は、相手を気遣ってこの言葉をよく投げかけます。この「元気」って一体なんのことなのか、私は考えたことがなかったのですが、中医学を学び始めたとき、衝撃をうけました。

「元気(げんき)」とは、「腎中の精気(じんちゅうのせいき)」から作られ、「生命を支える基本的なエネルギー」のことをいいます(元気はもともと哲学用語らしい)。
元気は大きな概念であり、「全身を満たす気・全体の気」のことをいいます。(『命門元気三焦系統理論』)

「気」を補う生薬の中でも最も有名なのは、誰もが知っている「人参(にんじん)」です。もちろん、キャロットではなくて、朝鮮人参・高麗人参・御種人参などのいくつかの別名をもつ、あの人参。ちなみに、生薬の人参はウコギ科の多年草、野菜のキャロットはセリ科ですので、ニンジンはニンジンでも全く別の種なのがわかります。

朝鮮人参の効能は、「大補元気(だいほげんき)」といい、「全身の気を、大きく強力に補う」という作用があります。私自身、インド旅行で体調を崩したときに人参が含まれる生脈散を飲んで回復したことがあります。使い方さえ間違わなければ(すべての漢方薬がそうですが)、朝鮮人参は養生薬として毎日摂取できますし、ピンチの時の救急薬としても大活躍します。

朝鮮人参は温性に偏り、意外と体質や状態を選びます。たとえば、冬でも半袖半ズボンでほっぺたを真っ赤にして遊んでいる子供が、朝鮮人参を飲んだら、熱くなりすぎて鼻血がブッとでるイメージです(あくまでもイメージですが)。

それに対して、比較的誰にでも使いやすいのは、お仲間の「党参(とうじん)」です。朝鮮人参のように大補元気はしませんが、穏やかに気を補い、寒熱偏らずに安全につかえます。朝鮮人参に比べて安価で、庶民の味方といえるでしょう。

ちなみに、朝鮮人参は、お茶や大根との食べ合わせで効果が減弱します。

また、朝鮮人参が補気するのに対し、大根や莱菔子(らいふくし:大根の種)は強く降気するので、せっかくの補気作用が減弱してしまいます。このように、効果を減弱させてしまう薬食(中薬や食物)の組み合わせを「相悪(そうお)」といいます。お食事の際は食べ合わせにご注意くださいね。

参考文献:

  • 小金井信宏『中医学ってなんだろう①人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年
  • 戴毅(監修)、淺野周(翻訳)、印会河(主編)、張伯訥(副主編)『全訳 中医基礎理論』たにぐち書店 2000年
  • 関口善太『やさしい中医学入門』東洋学術出版社 1993年
  • 王新華(編著)、川合重孝(訳)『基礎中医学』たにぐち書店 1990年
  • 平馬直樹、兵頭明、路京華、劉公望『中医学の基礎』東洋学術出版社 1995年
  • 王財源『わかりやすい臨床中医臓腑学』医歯薬出版株式会社 1999年

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、国際中医薬膳師、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。

薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。 東京薬科大学薬学部卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学、国立北京中医薬大学日本校にて中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS 猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/

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