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西洋医学とは異なる理論で処方される漢方薬。患者さんから漢方薬について聞かれて、困った経験のある薬剤師さんもいるのでは? このコラムでは、薬剤師・国際中医師である中垣亜希子先生に中医学を基本から解説していただきます。基礎を学んで、漢方に強くなりましょう!

第13回 陰陽学説~陰陽のバランスを崩すと病気に(1)

はじめに、ちょっとひとこと

これから徐々に、中医学ならではの聞き慣れない専門的な言葉や熟語が入ってくるようになります。高度な印象に最初はビックリされるかもしれません。でも、大丈夫! 初めはみんなそうですし、私もそうでした。

ありがたいことに日本も漢字文化なので、漢字一文字に対するイメージがそのまま用語の意味になることがほとんどです。(漢字文化ではない欧米の方々も中医学を学びますが、想像しただけでも気が遠くなります)

ぼんやりした理解度だと不安になるかもしれませんが、何度も何度も繰り返すことで自分のなかで練られていき“本当に自分のものにする”のが中医学です。初めは「何となくわかる」程度でOKなのでご安心くださいね。

さて、ここからは「陰陽のバランスを崩した状態」について、身近な例を入れながら学んでいきましょう。陰陽で表される疾病パターンは、大きく分けると5つあります。陰陽のバランスがとれていれば“健康”ですが、陰陽の調和が崩れたときに“疾病”が生じます。

今回は、陰陽のバランスがとれている状態の「パターン①」を紹介しながら、体内における陰陽についてお話しします。

健康な状態=陰陽のバランスがとれた状態

下のイラスト①は、正常時(健康な状態)の人体の陰陽バランスを表しています。
健康な状態では、陰と陽は許容範囲内での微妙な振れ幅がありながらも、赤色の点線あたりでほどよいバランスを保っています。

この状態は後述する“正気(せいき)”が充実していて、抵抗力・免疫力が整っており、非常によい状態です。
若干無理をしても体調を崩しにくく、多少体調を崩したとしてもすぐに回復できます。
たとえば、気温が急に下がるとすぐに風邪をひいてしまう人と、なんともない人がいますよね。これはその人自身の持つ“正気”の充実度の違いです。

「正気存内、邪不可干(せいきぞんない、じゃふかかん)」。
これは、中国医学の古典『黄帝内経(こうていだいけい)』のとても有名な言葉で、「“正気”が体内に充満していれば、“邪気(じゃき)”が干渉(侵入・影響)することはできない」という意味です。

邪気とは「あらゆる到病素因(ちびょうそいん)※1の総称」のこと。正気は「人体の疾病への抵抗力」です。両者のせめぎ合いにより、病が発症するかどうかが決まる、と以前お話ししました

体内における“陰陽”とは

さて、ここでいう“陰陽”とは体内の何にあたるのかといいますと、実はそのときによって指し示す内容が変わります。……というと少し語弊があるかもしれませんが、中医学は文学や哲学などを大切にする中国文化の中で発展してきた医学であるため、共通する性質をもつものは陰や陽などのグループに整理し、まとめて考える傾向があります。

また、書物の同じページ内で同じ熟語が繰り返されることはあまり美しくないとするため、同じ内容をわざと少し違う言い回しに換えたりしています。
たとえば、「肝腎陰虚(かんじんいんきょ)」「肝腎虧虚(かんじんききょ)」「肝腎不足(かんじんぶそく)」といった具合です。

初めて中医学を学ぶ人が混乱するのは、こうした文化の違いによるものです。文化の違いにぶつかっても、それが文化の違いだと気づかず、理解の妨げになることがよくあるようですので、頭の片隅に置いておいてくださいね。

話を元に戻しましょう。
“陰陽”という言葉が示す意味は、「身体にとって必要なもの(正気)」なのか、あるいは「身体にとって害があるもの(病邪)」なのかによって異なります。
また、害があるものの場合は“陰陽”という表現ではなく、“寒熱(かんねつ)”という言葉に言い換えることが多いようです。

【ポイント】
身体にとって必要なものは“陰陽”と呼ぶが、身体にとって不利益なものは“寒熱”と呼び変えられる。

まず、人体にとって必要なものである場合、つまり、赤線より下部分の“陰陽”は、人体の基礎物質である気・血津液” (き・けつ・しんえき)にあたります。

「血」は血液のこと、「津液」は体液やリンパ液など身体の清らかな潤いのことで、「血」と「津液」はともに、「気」のエネルギーが原動力となって体内を循環していると考えます。

「気」の作用は5つありますが(これらの作用については、今後お話しします)、そのうちの1つが温める作用であることから、「気」は「陽気(ようき)」とも呼ばれます。

「気」が陽に属すのに対し、「血」と「津液」は陰に属すため、「血」と「津液」をあわせて「陰液(いんえき)」と呼びます。

そして、「陽気=気」「陰液=血・津液」をあわせて、「正気」といいます。赤線のボーダーラインまでは、どちらも「正気」の一部であり身体に必要なものであるため、「陰」や「陽」と表現されます。

赤線以下の、人体にとって必要な“陽”は「身体を温めるエネルギー」、人体にとって必要な“陰”は「陽によりオーバーヒートしないよう、身体に潤いを与える冷却水」と考えてください。“陰”は水のイメージ、“陽”は火のイメージととらえると理解しやすくなるでしょう。

今回は「健康な状態とは、陰陽のバランスがとれた状態」であることをお話しました。では、陰と陽がイラストの赤線を超えて増えたり減ったりするとどうなるのか?
次回から学んでいきましょう。

※1
中医学の表現で、病気を引き起こす原因のこと。病因(びょういん)とも。

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、国際中医薬膳師、管理薬剤師。
薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。
東京薬科大学薬学部卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学、イスクラ中医薬研修塾、国立北京中医薬大学日本校にて中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS 猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/

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