創薬・臨床試験

製薬大手、様子見から投資へ‐再生医療の臨床応用が進む

薬+読 編集部からのコメント

再生医療が研究から、製品化の段階まで視野に入ってきました。
様子見を続けてきた製薬大手もベンチャーを買収する・業務提携や投資をするなどして参入しています。
2014年の再生医療安全性確保法の施行後、臨床研究で安全性が担保され、有効性が推定された場合「条件付き期限付き早期承認」という開発戦略を取ることができるようになり、通常基礎研究が進んでも海外に流出することが多かったシーズが、逆に再生医療等製品開発では日本に集まるようになってきました。

2014年の再生医療安全性確保法の施行が契機となり、再生医療の産業化が視界に入ってきた。患者自身の細胞を用いた自家由来細胞のみならず、他人の細胞を用いた他家由来細胞の再生医療製品も上市され、日本医療研究開発機構(AMED)が「再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業」が採択した研究課題だけでも、治験・承認申請段階で7品目、研究段階では17品目と日本発シーズが臨床応用・実用化ステージに進みつつある。様子見だった製薬企業もベンチャーを買収したり、アカデミアとの共同研究を発表し、投資に積極的だ。今後は、品質管理体制や保険償還のあり方、人材の育成、社会的理解の促進が課題になりそうだ。

 

再生医療新法が契機に‐3500件が国内で進行中

 

国内で再生医療等製品として販売されているのが、ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC)の培養皮膚「ジェイス」と培養軟骨「ジャック」、テルモと大阪大学が開発した骨格筋芽細胞の重症心不全に用いる「ハートシート」、JCRファーマが開発した重症移植片対宿主病に用いる他家骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)「テムセル」の4品目だ。再生医療は、安全性リスクが高い順に第1種、第2種、第3種に分類されており、再生医療を行う医療機関は、再生医療安全性確保法に基づき、特別な委員会に提供計画の届け出を行い、十分な議論を経て意見を得ることが義務づけられているが、厚生労働省に提出された再生医療等提供計画では、3500件近くに上るという。

 

法改正により、臨床研究で安全性が担保され、有効性が推定されれば、「条件付き期限付き早期承認」という開発戦略を取ることができるようになったのも追い風になった。医薬品開発では、海外にシーズが流出する傾向があるが、再生医療等製品開発は、逆に海外発シーズが日本に集まろうとしている。

 

治験段階にある主な製品では、先端医療振興財団の軟骨損傷を対象とした「培養軟骨」、オリンパスRMSの軟骨欠損を対象とした「再生軟骨」、札幌医科大学とニプロによる脳梗塞に用いる「骨髄由来MSC」、タカラバイオの固形癌を対象とした「TCR受容体遺伝子改変Tリンパ球」、タカラバイオと自治医科大学の悪性リンパ腫を対象とした「CAR遺伝子導入Tリンパ球」、セルシードと東京女子医大の術後食道狭窄小児先天性食道閉鎖を対象とした「自家食道上皮細胞シート」、メガカリオンが開発する血小板減少症を対象とした「iPS細胞由来血小板」がある。

 

研究段階では、理化学研究所とヘリオスが進めるウェット型加齢黄斑変性を対象としたiPS細胞由来網膜色素上皮細胞をはじめとして、特に眼科領域での開発品目が集中している傾向だ。大学と企業が連携し、規制当局との相談を活用しながら、早期承認を目指している。

 

武田と富士フイルムが協業‐アステラスは米企業買収

 

製薬企業の再生医療に対する取り組みも以前に比べれば積極化している。武田薬品と富士フイルムは、再生医療等製品の共同事業化で連携した。武田は富士フイルム米子会社「セルラー・ダイナミクス・インターナショナル」が開発中のiPS細胞由来心筋細胞を用いた再生医療製品について、全世界での共同事業化に関する優先交渉権を取得した。

 

両社は複数のiPS細胞由来心筋細胞で薬効と安全性評価、実用化に向けたプロセス開発などで共同研究を進める。

 

共同研究では、富士フイルムが保有する世界トップのiPS細胞関連技術や写真フイルムで培った高度なエンジニアリング技術と、武田が持つ京都大学iPS細胞研究所(CiRA)との共同研究(T-CiRA)で培われたiPS細胞に関する専門技術、医薬品開発での経験を組み合わせ、iPS細胞由来心筋細胞を用いた再生医療製品の創出と事業化を目指す。

 

大阪大学発ベンチャー「クオリプス」は、今年中に重症心不全患者を対象とした他家iPS細胞由来の心筋シートの臨床研究を開始し、虚血性心筋症の適応で約4年後の薬価収載、実用化を目指す。第一三共がクオリプスに出資し、両社で共同開発を実施する予定となっている。

 

アステラス製薬は、米再生医療ベンチャー「ユニバーサルセルズ」を買収した。ユニバーサルセルズは、免疫拒絶反応を抑えた多能性幹細胞を作製する独自技術「ユニバーサルドナー細胞(UDC)技術」を有するバイオ企業。アステラスとは共同研究パートナーの関係にあった。

 

UDC技術は、細胞への遺伝子導入ツールの一つである遺伝子組み換えアデノ随伴ウイルスを用いた遺伝子編集技術に基づき、ヒト白血球型抗原(HLA)を改変することで、免疫拒絶反応を抑えた多能性幹細胞を作製する技術。他家細胞移植でありながら個々の患者のHLAと適合させることなく、普遍的に投与できる細胞医療を創製できるとしている。

 

他家iPS細胞由来、世界初の商用生産施設も

 

大日本住友製薬は3月、大阪府吹田市の総合研究所内に再生・細胞医薬製造プラントを竣工した。他家iPS細胞由来の再生・細胞医薬品専用の商業用製造施設としては世界で初。新設プラントでは、大日本住友が産学連携で事業化を進めている加齢黄斑変性を対象とした網膜色素上皮細胞、パーキンソン病を対象としたドパミン神経前駆細胞、網膜色素変性を対象とした立体神経網膜、脊髄損傷を対象とした神経系前駆細胞に関し、治験薬製造と初期の商用生産を行う。

 

大塚製薬と大塚製薬工場は、iPS細胞から血小板をつくる技術を臨床応用し、事業化を目指す京都を拠点としたバイオベンチャー「メガカリオン」への第三者割当増資として、10億円の出資を行う。

 

三菱ケミカルホールディングスの生命科学インスティテュートは、急性心筋梗塞を対象としたMuse細胞製品「CL2020」の国内探索的臨床試験を開始する。東北大学から生まれた日本発のMuse細胞を用いた治験は世界で初。岐阜大学医学部附属病院などで急性心筋梗塞6例を対象に実施し、「CL2020」を単回投与、1年半程度の期間で試験を実施する予定。試験結果から試験後の開発計画を決める方向だが、再生医療で設けられた条件付き期限付き早期承認制度も有効に活用し、21年度の承認を見込む。

 

自由診療の「第3種」、品質管理が喫緊の課題

 

日本再生医療学会が実用化支援する再生医療等製品も42件に上る。そのうち、iPS細胞やES細胞、他家細胞由来の再生医療が該当する「第1種」がほぼ半数を占めている。42件のうち、治験準備ステージまで到達しているのが7件、最も多いのが「臨床研究準備を終え、臨床研究を開始」で、14件と全体の3分の1に上り、再生医療の臨床研究が増加しているようだ。

 

その一方で、再生医療の産業化に向けては、被験者安全性保護など倫理的な要件を遵守し、質の担保が大きな課題だ。昨年6月には、11の病院で他人から臍帯血などの移植を無届けで実施していることが、厚生労働省の立ち入り検査で判明し、再生医療安全性確保法違反による提供停止が命じられた。再生医療学会は、治療を検討中の患者に対して、事前に適法性と安全性・有効性の確認で注意喚起する声明を発表した。

 

再生医療等提供計画として提出されている約3600件のうち、約3450件は癌免疫療法やアンチエイジングといった美容目的など自由診療となる「第3種」の再生医療。再生医療学会ではAMED支援のもと、臨床研究から製品市販後調査までの一連のデータを集積し、有効性・安全性評価に役立てる「再生医療等データ登録システム」の構築が始まっているが、将来的には第3種の再生医療に関するデータベースも検討する。また、普及に向けては社会的理解が不可欠であり、3月から患者相談窓口を設け、一般者からの問い合わせへの対応も始めた。

 

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出典:薬事日報

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