処方せん

急性腎障害、薬局が発症予防を‐3剤併用時の疑義照会呼びかけ

薬+読 編集部からのコメント

滋賀医科大学では、急性腎障害(AKI)の発生を防止するキャンペーン“STOP! AKI”を開始。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、利尿薬、ACE阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の3剤併用でAKIのリスクが高まるとし、「とくに高齢や腎機能が悪い患者で3剤併用を見つけたら注意が必要」と、同大学医師は語っています。

一歩踏み込んだ薬剤師の役割で

荒木氏(右)と寺田氏
荒木氏(右)と寺田氏

 

滋賀医科大学病院糖尿病内分泌・腎臓内科と薬剤部は7月から、滋賀県の慢性腎臓病医療連携推進事業の一環として、急性腎障害(AKI)の発症を防止するキャンペーンを開始した。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、利尿薬、ACE阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の3剤併用によってAKIの発症リスクが高まると警告。薬局薬剤師に対して、3剤併用を目にした時には必要に応じて疑義照会するよう呼びかけている。複数医療機関の処方を一元的に管理するかかりつけ薬局だからこそ、3剤併用をチェックできると期待する。腎機能に応じた投与量の調整だけでなく、さらに一歩踏み込んだ役割を薬局薬剤師に求めている。


 

滋賀県、滋賀県医師会、滋賀県病院薬剤師会、滋賀県薬剤師会、滋賀腎・透析研究会の後援を取得。滋賀県の事業資金をもとに啓発ポスターとパンフレットを作成した。ポスターには「STOP!AKI」と大きく記載。薬局の調剤室内などに貼ってもらって注意喚起する。パンフレットでは3剤併用のリスクと疑義照会のポイントを解説。それぞれ講演会で配布したり、滋賀県薬の会報に添付して各薬局に届けたりし、薬局薬剤師の行動を促している。

 

啓発ポスター
啓発ポスター

 

血液は腎臓の糸球体でろ過される。ACE阻害薬やARBは、輸出細動脈を拡張させて糸球体から流れ出る血液の量を増やし、利尿薬は血しょう量を減少させる。これら2剤に加え、輸入細動脈を収縮させて糸球体に流れ込む血液の量を低下させるNSAIDsが処方されると、3剤の“トリプルパンチ”によって腎臓への血流が大幅に低下。AKIの発症リスクが高まる。

 

典型例は、血圧が高く、心疾患を抱えているためにACE阻害薬またはARB、利尿薬を服用している患者が膝や腰などの痛みを訴え、NSAIDsが処方されるケース。多くの場合AKI発症に至らないが、年齢が高く、慢性腎不全(CKD)の患者ではリスクが高まるため注意が必要だ。特に併用後30日以内の発生率が高い。

 

AKIを発症しても回復することが多いものの、腎機能は悪化しやすくなる。発症を防ぐことが重要だ。根拠に乏しい過剰な医療の見直しを呼びかける米国発祥のキャンペーン「チュージング・ワイズリー」でも、米国腎臓学会は「全てのCKD、心不全、高血圧患者へのNSAIDsは避けるべき」と提言している。

 

3剤併用のリスクと疑義照会のポイントを解説したパンフレット
3剤併用のリスクと疑義照会のポイントを解説したパンフレット

 

同院糖尿病内分泌・腎臓内科准教授の荒木信一氏は「薬によってAKIが引き起こされた症例を実際に経験している。ACE阻害薬やARB、利尿薬を内科医が処方し、整形外科医がNSAIDsを処方する場合、その情報はかかりつけ薬局に集まる。複数医療機関の処方の組み合わせをチェックし、必要に応じて疑義照会してほしい」と強調。

 

患者には「尿量減少や尿の異常、浮腫、倦怠感、疲労感、食欲不振などの症状があれば医師や薬剤師に伝えるよう説明してもらいたい」と話す。

 

同院教授・薬剤部長の寺田智祐氏は「疑義照会時には理由を説明した上で、必要に応じて『NSAIDsをアセトアミノフェンに変更できませんか』『常用ではなく頓服に変更できませんか』などと整形外科医に提案してほしい。特に高齢や腎機能が悪い患者で3剤併用を見つけたら注意するようセンスを磨いてもらいたい」と語る。

 

滋賀県には、この領域で医師と薬剤師が連携してきた土壌がある。両者連携のもと2012年から広域で「CKDシール」の活用を開始した。腎機能が低下した患者のお薬手帳の表紙にシールを貼付することで、腎機能に応じた投与量や薬剤選択を薬局薬剤師がチェックするよう促すもの。約6年が経過し薬局薬剤師の意識が高まってきたことから、「次に何か新しいことができないかと考え、今回の取り組みに踏み切った」(寺田氏)という。

 

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出典:薬事日報

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