薬剤師会

医療DBの医薬品評価、“世界初医薬品”で活用‐安全性監視から有用性検証へ

薬+読 編集部からのコメント

市販後医薬品評価に注目が集まっています。
実臨床データ(RWD)を活用したもので、安全性監視の手段として複数の医療機関のレセプトや電子カルテなどの情報を蓄積させたデータベース研究の検討がレギュラトリーサイエンス学会学術大会で話題に上りました。
また、薬剤の使いやすさや飲みやすさといった付加価値の面で、治験データを補完する実臨床エビデンスを構築していく方向性も議論されています。

実臨床のリアルワールドデータ(RWD)を活用した市販後医薬品評価に注目が集まっている。来年4月に予定している医薬品の製造販売後調査および試験の基準に関する省令(GPSP省令)で医療情報データベース(MID-NET)の活用が可能になる中、安全性監視の手段として複数の医療機関のレセプトや電子カルテなどの情報を蓄積させたデータベース研究を検討する動きに加え、薬剤の使いやすさや飲みやすさといった付加価値の面で、治験データを補完する実臨床エビデンスを構築していく方向性も議論されている。9日に都内で開催された「レギュラトリーサイエンス学会学術大会」では、外資製薬企業における事例が紹介され、患者や医療者の視点に立ち、企業として医療データベース研究を推進していく必要性が強調された。


MSDグローバル研究開発本部の宮崎真氏は、世界で初めて上市された新規作用機序、新規適応症の“世界初医薬品”が、医薬品リスク管理計画(RMP)に公開されている全医薬品の約2割を占めると紹介し、「他の医薬品のRMPに記載されている安全性検討事項と比較すると、(治験でのエビデンス量が少ないため)重要な潜在的リスクや重要な不足情報が多い」との実態を指摘した。世界初医薬品の副作用報告は、一般的に販売開始時期に集中している傾向にあり、市販直後の安全性監視が重要になる中、MSDでは市販直後調査での医療データベースの活用可能性を検証した。

 

世界初医薬品のある薬剤で、RMPの安全性検討事項に設定していた高齢者の忍容性を検討する際に、処方実態を探る目的で調剤薬局の診療報酬データベースを活用したところ、高齢者の副作用自発報告が増加するという結果に関して、深い考察が得られたという。宮崎氏は、「販売後の一定期間は医薬品を使用する患者集団が変わりやすいが、医療データベースでその処方実態の変化を捉えることで、市販直後調査に付加的な価値をもたらすことができる」と述べ、市販直後調査における医療データベースの有用性を挙げた。

 

GPSP省令下における使用成績調査についても、現行の比較対照群を置かない製造販売後調査に対し、「医療に貢献していないとの厳しい意見をいただいている」と述べ、医療データベースの活用で医療機関の期待に沿った安全性情報を提供できる可能性に言及した。ただ、「国内に存在するデータソースが少なく、専門家も限られることから、研究環境は整備されているとはいえない」と現状の限界点も指摘した。

 

安全性監視にとどまらず、治験では評価しきれない領域を含め、薬剤の有用性を検証していくのも重要課題だ。日本イーライリリー研究開発本部の佐藤昌代氏は、「実臨床エビデンスは、限られた条件下で実施されて得た治験エビデンスを補完する」と述べ、治験での有効性・安全性のエビデンスに加え、実臨床での長期的な使用を意識した情報集積を検討するべきと主張した。「有効性や安全性、品質といった承認取得に必要な本質的な価値だけではなく、薬剤の使いやすさや飲みやすさ、安心感といった付加的な価値につながる情報も大事」とし、患者視点に立って集積したRWDから実臨床エビデンスを創造していく方向性を示した。

 

その一環として日本イーライリリーでは、患者が治療満足度や薬剤の使用感を自ら評価するツール「患者日誌」を推進し、医療者が評価しきれない情報を収集。実臨床での適正使用推進と意思決定のサポートに反映させているという。佐藤氏は、「医薬品のライフサイクルで薬剤の価値を創造していく“value story”づくりでRWDが活用され、価値最大化につながる」と規制対応ではなく、企業・患者の立場からRWDを取り入れていく意義を強調した。

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出典:薬事日報

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